 65_Small changes 「小さな変化」 ジャスミンが言った。「あら…、セイド。また会えて嬉しいわ。お久しぶりね」 「あ……うーん……やあ」セイドは、彼女のはだけた胸を見つめまいと必死で、思わず言葉もしどろもどろになっていた。ジャスミンは、エプロンひとつの格好だった。当然、その完璧な曲線美を誇る体はほとんど隠されていなかった。セイドは落ち着かない様子で手で髪の毛を掻いた。「ぼ、ボクたち、会ったことがないと思うんだけど。ボクはセイドという者だけど」 「あなたのことは知ってるわよ。子供の頃からずっと知ってるけど」 セイドはぎこちない笑みを浮かべた。「キミとどこかで会ったかもしれないし、それを覚えていなくちゃいけないんだけど……」と、言ったとき、セイドの義理の姉のダイアナがキッチンに入ってきた。セイドはダイアナに訊いた。「グレッグはどこ?」 ダイアナは笑い出した。「まあ、これって完璧。ほんと完璧。ねえ、あなたもそう思わない?」 セミヌードの美女は頷いた。「そう思うなら、彼に説明したら?」 「言葉で説明するより、実際に見せた方が良いと思うわ。違う、ジャスミン?」 エプロンの彼女が気乗りがしない表情を浮かべながらためらっているのを見て、ダイアナが言った。「こうなるのは知ってたでしょ? やりなさい」 ジャスミンはため息をついた。「子供の頃から知ってると言ったとき……」彼女はスカートをめくりながら言った。「別に誇張してたわけじゃないわ。お兄さんだから言うわけじゃなけど……」 セイドが、場違いと思える脚の間の余分な存在に気が付くのにかなり時間がかかった。彼が、その小さなモノと、ジャスミンの言葉と、ジャスミンの否定しようがない馴染みがある表情との3つの間を関係づけるのに、さらにもっと長い時間がかかった。 「ぐ、グレッグ?……ああ、何てことだ、グレッグなのか? 本当に? こ、こんなことって。ありえないよ、こんなことって………」 「説明するわ」とジャスミンはセイドの肩に手を触れようとした。だが、セイドは汚いモノに接したかのように跳ねのいた。 「一体何なんだ?」セイドは半分絶叫になっていた。「何で、なんでこんな格好になってるんだよ……まるで分らないよ……」 ジャスミンは妻の方を見た。「あたしにはできない。……あたしには無理」 「いいわ」とダイアナが言った。「いいわ、だったら、あたしがするから」 何の前触れもなく、ダイアナは後ろのジャスミンに手を伸ばし、情緒不安定になっている彼女を平手打ちし、結果として彼女を黙らせた。「ジャスミンはあなたのお兄さんだっただろうけど、今は、あたしのメス奴隷。繰り返し浮気をするのにうんざりしていたのよ。だから、それをやめさせた。話は以上」 「で、でも……それは……」 「彼女をあたしの可愛い従順な主婦に変えてあげたの。彼女はストリッパーもやってるわ。どうにかして、代わりの収入が必要だから。でも、それは話しがそれることよね」 「で……でも、どうして?」とセイドは言い、ジャスミンを見た。「なぜ、こんなことを?」 「あたしを愛しているから。以前の自分自身のことを悔やんでいるから。それに、何より、心の奥では、ずっと前からジャスミンはこういう可愛いエロ娘になりたがっていたから。さあ、もうこれはこのくらいにして、みんなで美味しいディナーでも食べましょう?ジャスミンはずっと朝から頑張ってきたのよ。そんなお食事が台無しになったらイヤだわ」
 65_Seduction 「誘惑」 フランクは門の横に立ち、1分近く、見つめていた。ヘイデンがプールで泳ぐ姿を見ていたのだった。フランクは目をそらしたかった。でも、彼は自分の息子の親友であるヘイデンの裸体に目を奪われていたのだった。彼はやっとの思いで、勇気を絞り出して咳ばらいをした。そうして、その若者の注意を惹きつけた。 ヘイデンはまったく恥ずかしそうなそぶりを見せなかった。「あ、ケネディさん。このプールで泳いでもいいですよね? ちょっと暑くて。腰のあたりまでプールに入れたかったの」 「こ、腰のあたり?」 フランクは呆然とした様子で子k\賭場を繰り返した。「ああ、いいよ」 「でも、もうプールはいいわ」とヘイデンは言い、プールから上がり始めた。フランクは、彼のほっそりとして女性的な体をしっかり見た後、目をそらせた。ちょっと間が開いた後、ヘイデンが言った。「フランクさん? あたしといるとき恥ずかしそうにすることないのよ」 「私は別に恥ずかしそうにしてはいないよ。ただ、キミは……何と言うか……」 「裸だから? 別に見たかったら見てもいいの。というか、あなたに見てほしいの」 「そういうことを言ってはいけない……」 「あたしのこと欲しくないみたいな振る舞いはヤメテ。あなたがあたしを欲しがってるのは分かってるの。あたしを見る目つきで分かる。ハロウィーンの時、チアリーダーのコスチュームを着たあたしを、あなたが涎れを流しそうにしてたのを覚えているわ。それに、あたしがシャワーを浴びてるとき『間違って』入ってきた時のことも。他にも……」 フランクは振りむいた。「やめなさい、ヘイデン。こんなことは良くない。キミは私の年齢の半分にもなっていないじゃないか。それに男の子だし、私の息子の親友だ」 「あたし、もう18歳よ」ヘイデンはそう指摘して、前に進んだ。フランクにとって居心地が悪くなる近さまで近寄った。「それに、フランクさんは、あたしのような男の子のことが好きなように見えるし。それとも、あなたのズボンの中のモノは嘘をついてるの? ジョーイがあなたの性生活についてどう思うかなんて、気にしてないでしょ? それはあなたもあたしも知ってるわ。ジョーイは自分のことで精いっぱいだから。それに加えて、そもそも、ジョーイにはバレっこないから」 「何か服を着なさい」 フランクは必死の思いでこの裸の若者の目から視線を外すまいと努めていた。視線が下の方へ行ってしまうのだけは避けたかった。 「また、あの時のチアリーダーのコスチュームを着てもいいわよ?」 とヘイデンはフランクから少しだけ体を離した。「してほしかったら、ちょっとあなたのために踊ってあげてもいいわ」 何が起きたか分からない間に、フランクは最大限に固くなった自分の勃起をヘイデンが握ってるのに気づいた。「それとも、今ここであたしを犯してもいいのよ? やりたいんでしょ? 違う?」 「き、キミはもう帰りなさい」 フランクの声には力が入っていなかった。 「そんなこと思っていないくせに」 ヘイデンは囁き続けた。「本当は、あたしにここにいてほしい。そうじゃない?」 フランクは頷いた。「じゃあ、ちゃんと言葉に出して言って」 「キミにはここいてほしい」 「で、あなたは何をしたいの?」 「キミを犯したい」 フランクは、そう答え、ヘイデンの両肩をつかみ、彼の体を反転させた。そして、後ろ向きになったヘイデンの丸い腰をがっちりとつかんだ。「ああ、キミを犯したい」 「じゃあ、犯したら? おしゃべりはいいから、あなたがやりたいことをやって!」
 65_Say it 「言いなさい」 「どうしてボクにこんなことをするの? こんなことをさせて、いいことあるの? ボクがもじもじするのを見たいだけなんでしょ? キミの勝ちだよ。もじもじしてるよ。だからお願い、ジョアナ。お願いしているんだよ。もうやめて、お願い。もうボクを……」 「あんたは要求できる立場にないの。それとも何なの? 自分がしたことを忘れたの? あたしに送り付けたあのビデオはどうなの? あんたには何もできないのよ。どんなに抵抗したって、どんなにこそこそ逃れようとしたって、無駄。これはあたしのショーだから。さあ、黙って、行儀良い女の子になりなさい!」 「ジョアナ、ぼ、ボクは女の子じゃないよ!」 「あたしには女の子に見えるけど? しかも、とても可愛い子だわ」 「でも、それはキミが何時間もかけてボクにお化粧したからじゃ……」 「あんたがシシーだからよ。だからこそ、そんな格好になってるんじゃないの? あんたは償うにしても過剰なのよ。さて、さっきも言ったけど、行儀良くしてね。そうしたら、気軽にできるようにしてあげてもいいと思ってるから」 「少なくとも下着だけは履かせてほしいんだけど。丸見えになってる感じがイヤなの」 「まあ、重要な点かもね。でも、いいこと? よく聞きなさい。何かしてほしかったら、ちゃんとそれなりのお願いをすること。そうしたら何か着させてあげてもいいかも」 「ほんと? お願いしてほしかったの? いいよ、お願いです、ジョアンナ。何か下着を履かせてください」 「ダメ、ダメ、ダメ。そういうじゃないの。パンティを履いてよいか、あたしにお伺いを立ててほしいのよね。可愛い、可愛いパンティを履いてもいいですかって」 「ああ、マジで言ってるの? お願いです、何か、可愛いパンティを履いてもよいですか?」 「あんた、ソング・パンティが好きでしょ? ソングが履きたいんでしょ? レース柄の。そうでしょ?」 「レース柄のソング・パンティを履いてもよいでしょうか?」 「どうして?」 「椅子に座るたびに、みんなに、大切なところが見えてしまってるから。まして、風が吹いたりしたら……」 「そうじゃないでしょ? あんたは、自分が女の子だから可愛いパンティを履きたいの。そうじゃない? ちゃんと言って。あたしは女の子なの、だからパンティを履くのが好きなの。可愛い女の子だからお似合いのを履きたいの、って」 「いいよ。ボクは可愛い女の子、だからパンティを履きたいの。これで満足? ちゃんと言ったよ。だから、お願いだから……」 「本気で言ってるように言ってよ」 「ボクは可愛い女の子です、だからパンティが履きたいの。履いたときの感じが好きなの。可愛いのを履くとセクシーに見えるから大好きなの。パンティが好きなの。これでいい? こういうのを聞きたかったんだよね?」 「いいわ。パンティを履いてもいいわよ。あそこのトイレに行って、そこで履いてきなさい。これが終わったら、一緒にお店に行って、可愛いのをもっと買いましょうね。そんなにあんたがパンティを好きなんだからしょうがないわ。じゃあ、さっさと行きなさい!」
 65_Responsibility 「責任」 「ああっ。何て言っていいか分からないわ、ティファニー。あたしにここで何をしてほしいと思ってるの? 分からない」 「エリン、あんたは、何もする必要ないわよ。ただ、あんたがしたことを、あんたに見せたいと思っただけ」 「あたしがしたこと? あたし、何も……」 「お前、そこのビッチ! エリンにお前の残ってるモノを見せてあげな」 「な、何を?」 「ビッチ! あたし、言いよどんだ? そのパンティを脱げって言ってるの。脚を広げて、お前の元秘書に悪いことをした男はどうなるか、見せてやるのよ」 「あ、そこまでは……え? えぇ?! す、すっごく……」 「ちっちゃい、って言いたいのよね。分かってるわ。それに分かる? あれでも勃起してるの。最近は勃起とは言えないだろうけど、あれでも固くなってるつもりなのよ。ふにゃふにゃのときなんか、パンティを履いてたら、アレがついてるのかどうかも分からないはずよ」 「か、彼をどうするつもりなの?」 「正直、どうするかまだ自分も決めてない。あたしが考えたのはここまでだから。あんたは、これをちゃんと見なきゃだめよ。あんたは、こいつと同じ責任があるとまでは思ってないわ。でも、あんたたちふたりがこの結果に関係しているのよ。あんたはね、彼がこんな姿になってしまったことに、少なくとも部分的には、責任があると思いながら、一生過ごしていかなくちゃいけないのよ」 「これ、あたしがしたことじゃないわ……」 「あんたは、結婚している男と寝たの。あんたは、その償いをしなきゃいけないのは分かっていたはずなのに、こいつと寝た。あたしとしては、それだけでもあんたは有罪。でも、良い方に考えることね。あんたは少なくともヤリマン女になる選択肢はあったけれど、彼の場合は選択肢はゼロだったわけだから」
 65_Pussy cats 「プッシー・キャッツ」 「笑わないでよ。ボクは、前と同じく、れっきとした男なんだから」 ほとんど無駄と知りつつボクは言った。 その主張は、彼女をさらに大笑いさせることにしかならなかった。彼女の悪意なんて分かりたくもないといくら思っても、確かに理解できてしまう。なんだかんだ言っても、ボクはこうして脚を広げて座ってるんだから。ペニスは勃起しても5センチにもならないし、胸はというと、明らかに彼女のよりもずっと大きい。これで男だと言っても、一言で言って、お笑い種だ。 彼女は言った。「ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも、ただ……何と言うか……分かるでしょ?」 確かによく分かる。本当によく分かる。ボクはずっと前からまっとうな男じゃなかった。あのバーに勤めてからはずっとそうだった。「プッシー・キャッツ」は、典型的な正統派のバーではない。そこまでは確かだ。一種、テーマ・バー( 参考)と言えて、非常に特殊な興味を持つ人々を客にするバーだった。想像できると思うけど、店のウェイトレスは全員トランスジェンダーの女性化した男性。ひとり残らずみんなとても綺麗だった。体にピッチリのタイトなショートパンツの前に見える盛り上がりがなかったら、彼女たちの生まれつきの性別が男性だなんて誰にも分からない。 ボクと彼女は、浮かれてその店に入った。大笑いできるジョークのつもりで入ったのだった。でも、そのバーに入った途端、ボクはとりこになってしまった。店にいる美しい女性たちから目を離せなくなってしまった。その初めての訪問の後も、ボクは何度も通い続け、最後には、店のオーナーである女性がボクに、テーブルの後片づけをする仕事をしてみてはと言ってきたのだった。ボクはその申し出を受け入れた。わずかな給料ではあったけれども、少なくともタダで彼女たちを見ていられるということも仕事を受けた理由だった。そして、ボクはせっせと働き続け、とうとう、カウンターの後ろで飲み物を作る仕事を任されるまで登りつめたのだった。 事態が転じ始めたのは、その頃だったと思う。もっと前から始まっていたのかもしれないけれど、ボクは気づかなかった。オーナーがボクの服装を変えるように言ってきて初めて、ボクは気づいたと思う。気がついたら、いつの間にかボクは、大事なところがかろうじて隠れる程度に小さい、スパンデックスのショーツだけの格好でいるようになっていた。そして、それから2週間もしないうちに、オーナーの求めで、(外見を完璧にするために)脚の体毛を剃り、お化粧をし、ウィッグをかぶるようになった。 もちろん、ボクの彼女はこの変化に気づいた。どうして気づかないわけがあるだろう。でも、彼女はボクと別れなかった。ボクがどんどん女性的な外見に変化していってるにも関わらず、彼女はボクと別れなかった。それに、ボクも彼女に、ボクが女性化してるなんて想像の産物だよと言い続けていた。だけど、ボクが胸を大きくし始めたら、変化を否定することはできなくなった。ボクはあのバーの女の子たちと同じになっている。それを否定することはできなくなった。 仕事を辞めるつもりだった。2週間後に辞めると通知する気持ち満々で、その日、仕事に入った。でもボクは通知をしなかった。どういういきさつだったか忘れたけど、オーナーに、客席係の仕事をするように説得されてしまった。ボクが、まさに、客席係を担当するのに必要な特質を備えていると、その特質は天性のものだと、オーナーは言っていた。そして、その言葉におだてられて、ボクはその申し出を受け入れたのだった。ああ、ボクは、どうして、そんなに盲目的だったのだろう。 予測できたことだけれど、その仕事に就く時間が長ければ長いほど、ボクはより女性的になっていった。後になってだけれども、職場でとても普通に繰り返し語られる言葉を耳にするようになった。それは、「プッシー・キャッツに来る人間には二種類の人間しかいない。ウェイトレスとセックスしたがっている人間か、セックスされるウェイトレスになりたがっている人間かのいずれかだ」という言葉だ。明らかに、ボクは後者の仲間になってしまった。
 65_Plea 「懇願」 あなたがどうしてイヤだと思ってるのか分からない。こんなに長い間、あなたがいろんなことをするのを見てきたから、あたしには本当のことが分かっている。あなたがどういう人か分かっている。たとえ、自分では認めたくないにしても、あなたにも自分のことが分かっているはず。 ここまでに至るひとつひとつのステップで、あなたはあたしに歯向かってきた。あたしがあなたの言うことを信じたと思っていたの? あなたがインターネットの履歴は、ただの実験だったと、好奇心からだったと言ったとき、本当にあたしがあなたを信じたと思ったの? そんなはずはないはず。だって、あの嘘は見え透いていたもの。決めつけないでくれ、これは本当の自分じゃないと分かってくれと懇願してたけど、その時のあなたの表情からちゃんと分かっていたわ。あたしには分かっていたし、あなたを手伝ってあげたいと思ったの。 だから、あなたは、時々、抵抗を繰り返してたけれど、あたしは、そのたびに、あなたが欲してた言い訳を用意してあげた。ハロウィーンが、あなたが完全に自由に夢を展開させることができた初めての時だった。あのミニスカを履いて、あのお化粧をして、あのハイヒールを履いたあなた。あれは魔法を見てる思いだったわ。それに、あなたがあたしが見ていないと思った時に見せてた、あのあなたの表情。あの表情は本当に素敵だった。あたしは間違っていないと、微塵も疑念なく思えるために必要としていた証拠はあれで十分だった。 細かすぎることを言ってると言えればいいんだけど、あなたの場合、実際は、そんな細かいところに注意する必要もなかった。ほんのかすかな、つまらない言い訳を用意してあげれば、あなたを調子に乗らせるのに十分だった。あなたが女性としての別人格ですごす時間が増えれば増えるほど、あたしは、単なるフェチの結果と言えることは何もなかったと悟るようになった。これこそがあなたの本当の姿。あなたが本当になりたいのはこの姿と。 でもあなたはとても恐れていた。あなたが友達に言い訳を言うのを何回も聞いた。本当の理由を言わずに、なぜ変わったのかを説明しようとしてるところを何回も聞いた。お友達は誰も信じてなかった。あたしにはそれが分かっていたけど、あなたはその言い訳にしがみついていた。まるで、この言い訳にしがみついていないと溺れてしまうと言わんばかりに。 時々、あなたに叫びたくなる。あなたが心の奥で望んでいることを実現しても、誰もあなたを以前より軽く見たりしないんだと。あたしはそんなことをしないのだけは、確か。ひょっとすると、あなたが女性化した未来では、あたしはあなたの世界にはいられないかもしれない。何より、あなたが男の人たちを見るときの目つきを見てるから。自分が愛した人が、もしかすると、以前のようには自分のことについて感じてくれなくなるかもしれない。それを思うと悲しくなる。あなたが思う以上に、その悲しみは大きいと思う。でも、あたしはあなたに幸せになってほしいの。本当に、そうなってほしいと死ぬほど思っているの。 だからお願い。あたしのために、あなた自身のために、それにあなたを愛するすべての人たちのために、誤魔化すのをやめて。あなたがどんな人になりたいか、みんな知っている。あなたは、そういう自分がなりたいと思っている人になって、お願い。
 65_Pet 「ペット」 「その様子からすると、新しい家に行く準備ができてるようね」とプリシラはサディスティックに笑った。「興奮してる?」 ケビンは、両手が自由になっていることはありがたかったが、あえてボール・ギャグ( 参考)を自分から外そうとはしなかった。以前に、勝手に外すという間違いをしてしまい、ひどい目に会ったので、その経験を繰り返す気はなかった。その代わり、彼は、言葉にならない、くぐもったうめき声をあげるだけだった。できれば、義母の心の琴線に触れ、同情を得られるかもしれないと期待していた。 「あら? もう猿ぐつわを外してもいいのよ。調教師たちは帰っていったもの。あの人たちの仕事は完了したからね。あたしは、お前が新しい所有者にもらわれていく前に、最後のおしゃべりをしたいと思ってここに来たんだから」 ケビンはためらった。これは罠かも? 勝手に外したら、それを口実にして、またお仕置きされるかも? 「猿ぐつわを外しなって言ってるの!」 突然、それまでのお遊びの感じから厳しい口調に変わった。ケビンはその変化に気づき、即座に命令に従った。 彼は顎の調子を直した後、勇気を振り絞って、質問した。「ど、どうしてボクにこんなことを?」しばらくしゃべっていなかったので、声がかすれていた。 「込み入った話だわ」と彼女は彼の檻を指でなぞりながら言った。「でも、カナメだけ言えば、やれたからやった、ということ。あんたの父親はあたしを道具のように扱った。それも同じ理由だったわ。あたしは彼の所有物にすぎなかった」 「ぱ、パパはあなたを愛していたよ……」 「あの人は、あたしを所有していることを愛していたの。他の男たちがあたしを見る様子を見るのが好きだったの。周りの人が羨むところが好きだったの。あたしはモノだったわ。ただのモノ。ただのトロフィー。そして、あの人は死んだあと、あたしに1銭も残さなかった。あたしは遺産を残す価値がなかったんでしょ、あの人にとっては。でも、お前は? お前はその価値があったということよね?」 「ぼ、ボクはそんな価値はなかった……言ってくれれば……欲しいものは何でも譲ったのに。言ってくれれば……」 「分かってるわよ」とプリシラは言った。「全部、欲しいわね。お前は、来週、死亡したことになる。そして、あたしが全部いただくわ。カネも家も車も。最初からあたしのものだったもの、すべて」 「で、でも、ボクは……」 「でもね、それが欲しくて、これをやったわけじゃない」とプリシラは檻に閉じ込められた女性化した若者に手を振って見せた。「こういうことをやりたかったからやったのよ。お前が壊れていくのを見たかったから。可愛い男の子がみるみる怯えてぷるぷる震えるペットに崩壊していくところを見るのって、おカネじゃ買えない価値があったわ。ケビン、あたしはあんたが大嫌いなの。前からずっと大嫌いだった。あんたの父親が19歳になったら、こんなヤツだったんだろうってあたしに思わせるから。この世の中、あんたたちみたいなのは必要としてないのよ。あんたは、そして世の中も、あんたがペットとして生きる方がいいのよ」 ケビンは言い返そうとした。だが、バンが家の前に来るのを見て、口ごもった。「ボールギャグをつけなさい。お前が死ぬまで続けることになる人生。その初日が今日。だから、飼い主に良い印象を与えた方が良いんじゃない?」
 65_Performance issues 「立つか否か」 「あらまあ、あなた、幸せそうじゃない? ずっと塞ぎ込んでいた状態からすると、とても嬉しい変化よ」とヘザーが言った。 「女王様、喜んでいただけて嬉しいです」とハンターが答えた。 「何言ってるの? お世辞言ったのは、歓迎してないと思われたくないためよ。でも、何かのお祝い? そんなに上機嫌なのは、何かしら? 職場で昇進でもするの?」 仕事のことについて言及することは、一発で、ハンターの上機嫌を打ち砕きそうになった。ヘザーに人生を牛耳られて以来、彼の職場での地位は自由落下状態が続いていた。ヘザーとの関係が始まるまで、彼はトップの地位まであと数歩の段階まで来ていた。本物の出世頭だった。だが、それ以来、彼は自分でしぶしぶ認めた回数を上回る回数で降格を味わっていた。現在のところ、彼は受付係とほぼ変わらない地位に落ちている。 「今日はビッグ・デイなんです」 毒の含んだ思いが頭に浮かぶものの、彼は押し殺して答えた。 「あら? 何の日? あなたの誕生日? あたしたちの結婚記念日じゃないのは確かよね?」 「鍵を外す日です」 ヘザーはこの日の意味を知っている。それを十分知りつつハンターはあえて言った。彼は半年以上、禁欲状態に近い状態を強いられていた。ペニス拘束具を外されるのは、月に一度だけだった。恥じることなく言えることは、正気でいられているのは、毎月、許される性的解放の日のおかげだった。 「あら、もう? ほんと? 前回は昨日だったような気がするわ。でも、あの時、すごく恥ずかしいことが起きたけど。本当に、拘束を外してほしいの? あの繰り返しを見るの、すごく嫌なんだけど」 ハンターは恥ずかしくなって、視線を床に落とした。前回、彼は拘束具を解かれたものの、勃起というか、勃起に似た状態にすらなることができなかったのだった。彼のペニスは以前よりはるかに縮小していたのであるが、いくら激しくしごいても、頑固としてふにゃふにゃの状態を続けたのだった。あの時の記憶がいつもよみがえる。 「今度は違うよ。約束する」と彼はつぶやいた。 「そんなに言うなら……」とヘザーは言った。「でも、もし、そのバカなモノを使えないなら、そもそも、なんでわざわざ拘束を外すのか理解できないわ。バカじゃない?」 「ちゃんと立つよ。本当に」 とハンターは声を荒げた。 「ほんとに大丈夫なの?」とヘザーに聞かれ、ハンターは頷いた。彼自身が感じているより、ずっと自信を持った感じで頷いていた。「それは良かった。それじゃあ、これはどう? 新しい取引をしない?」 「と、取引? どんな?」 「もしあなたがちゃんとできたら、これから1週間、あなたを完全に自由にさせてあげるわ。でも、できなかったら、これからもう3ヶ月、拘束を続けるという取引。どう?」 ハンターはしばらく沈黙していた。ようやく口を開き、「じゃあ、約束しよう」と言った。 ヘザーは興奮して、大げさに拍手をして見せた。「ああ、これからすっごく楽しくなりそう」と彼女は言った。
 65_Not too late 「遅すぎることはない」 それは誰にでも難しいことだと思う。みんなの顔にそれが浮かんでいる。外見は、いかに支援的に見えていても、本当のところは理解していない。妻も、子供も、友人たちも含めて、誰も、どうして私がこれをしたかを理解していない。それに、私自身、適切には説明できない。たとえ説明できたとしても、それは何の役にも立たないのではないかと疑っている。 妻は、これまでずっと私を助けてくれてきたけれども、分かっていない。私を見るときの妻の表情、愛情と言えるものを一切欠いた表情を見るまでもなく、私たちの結婚は長続きしないと分かる。 先日、妻が友人に、そもそも、どうして私が彼女と結婚したのかを尋ねているのを立ち聞きした。彼女には、私が誰かということが、私が誰を愛するかに影響することはないことを理解していない。私は、本当に妻を愛しているのである。私は、自分が妻も愛し返せるタイプの人間になれたらいいのに、と心から願っている。 子供たちは、ありがたいことに、非常に進歩的になりたいと思っている。私をサポートしたいと思っている。これはすべて良いことなのだと思いたがっている。でも、私は、子供たちが、もはや、私のことを父親とすら思っていない事実を無視できない。子供たちにとっては、私のことをまったく異なった人間として見る方が容易いのだろうと思う。確かに、子供たちは私のことを愛してくれてはいるが、自分の親とは見ていない。もはや、私のことを何と呼んでよいのかすら分からないのだ。 なぜこんなに長く待ったのかと、訊かれた。しかも、古くからの友人たちに、何回か。私の年齢では、女性化は簡単ではない。そもそも簡単ではないけれど、これは、年齢が増すごとに、いっそう難しさも増す。でも、私は男性であるというアイデンティティの元で人生を築き上げてきた。いかに手術を重ねようとも、いかに多くのドレスを着ようとも、人の中には私のことを男性以外の存在としては見ようとしない人がいるだろうと思った。それゆえ、結果的には、私は先延ばしし続けてきたのだった。 とても恐れていたとも言える。恐れる理由も十分にあった。友人たちを失いたくなかった。妻を失いたくなかった。それに、今までと違うふうに扱われたくなかったのも確かだ。だけど、まさに、その通りのことが起きている。今までの人生から漂流し外れつつあるのを感じている。以前の人生からの距離がゆっくりと広がっているのを認識できる。これまでの人生が一気に崩壊するまで、あと、いったいどのくらい持ち堪えることができるだろうと思うことが多い。 それで、なぜ私はこれをしたのか? なぜ女性化する道を選んだのか? なぜ女性になりたいと思っているのか? まあ、答えは簡単だ。他に選択肢がなかったから。事実上、選択肢がなかったと言える。どんな形であれ幸福を求めるとしたら、自分自身に正直にならなければならない。自分がなるべき人間にならなければならない。だから、そう、私は後悔していない。1秒たりとも後悔したことがない。このような姿になることが正直な自分でなかったら、もっと他の夢であったならと思うことはある。人に理解してもらえたらと思うこともある。でも、それが手持ちの札にないのなら、こうする他に方法はない。 そんなわけで私は女性化した。そして、もし、やり直しの機会が与えられたとしても、私は何度でも同じ決断をするだろうと思う。
 65_Mot 「記憶すべき言葉」 新年を迎える時期は、希望や夢や決意を語る時期。 私たちは、より良き人間になり、目的を達成し、ずっと前からなりたいと思ってきた種類の人間になると想像する。 今年は、その希望を行動に移そう。決意を曲げないようにしよう。自分はこうあるべきと思う人間になろう。 Happy New Year!
 65_Liberation 「解放」 私はたくさん間違ったことをした。それは否定できない。在職は非常に短く終わってしまったが、その間、信じられないほどの数の間違いをした。ほとんどすべての状況で間違った取り扱いをした。そして、最終的には、その代償を自分で払うことになった。 当時の私は、自分は正しいことをしているのだ、自分はある種、他人とは違うことをしているのだと自信に溢れていた。多分、いまだにそう思っている自分がいる。でも、私がどう考えようが、それは関係ない。今はもはや、私はそんな人間ではなくなっているから。すべて、悪い思い出にすぎなくなっているから。 誰でも、警官になりたての頃は、周りから、お前は他人とは違う大仕事を成し遂げるだろうと言われるものだ。そして、それが本当になるときも、確かにある。でも、仕事の大半の場合、私たちは単に状況に機械的に反応しているにすぎない。すでに被害は生じてしまった後で、私たちは現場に行き、その事件の結果を提供するだけである。だから、犯罪を予防するチャンス、良い結果を得るために何か悪事を阻止するチャンスが得られると、私たちは、どうしてもそのチャンスに飛びついてしまう。 年配の警官が潜行捜査に入ることは決してない。彼らには分別がある。家族もあるし、生活もある。でも、若い景観の場合はどう? 新米警官の場合は? そんな私たちは、年配の警官に比べて分別に欠けているものなのだ。そうでしょう? 私たちはみんな、誰か救い出すべき人を探す、白馬に乗った正義の騎士の気持ちだったのだ。 少なくとも私はそうだった。理性的には、リスクがあることは知っていた。でも、私は、自分の能力をあまりに過信していたので、そんなリスクは現実にならないと高をくくっていた。そして、私は、あまりに、思い違いをしていたのだった。 彼らが私の正体を見破ったのは、私が彼らの組織に潜入してすぐだったと言える。そもそも、潜入があまりに簡単だった時に、何かおかしいと気づくべきだった。でも、私はうぶだったし、愚かでもあった。結局、私は彼らが望む場所へと誘導されてしまったのだった。 それが実際にどう進められたか、ほとんど覚えていない。与えらえた薬物のため、記憶の大半が奪われてしまった。大きな流れは分かっているけど、自分の名前といった細かなことは記憶から消えてしまった。今、自分が持っている唯一のアイデンティティといったら、彼らに与えられたアイデンティティだけ。 私は彼らに抵抗したのだと言えたらいいのにと思う。でも、事実は単純で、実際に抵抗したかどうかすら分からないということ。女性化のプロセス全体がモヤモヤして記憶がはっきりしない。手術やホルモンや「レッスン」については知っているけど、記憶にはモヤがかかっている。いつか、私はすべて忘れてしまうことになるのだろう。今でも、記憶が水平線の下へと落ちかかっている気がする。間もなく、全部、消えてしまうのだろう。 でも、それはそれでよいのだろうと思う。少なくとも、そうなってほしいと思っている。自分が間違いを犯したことを知らずに、自分が失ったものを忘れて生きる。それはとても解放された気持ちになれるように思える。恐ろしいけど、解放的だろうと。
 65_Happiness 「幸せ」 幸せとは、自由に自分自身になれること。
 65_Foolish 「愚行」 彼を尾行すべきじゃなかった。彼がマンションを出るのを見たときから、すでに、これは良い結果になり得ないと分かっていた。でも、とてもたくさん兆候があったから。彼はあたしに隠れて浮気していると思ったから。彼はマンションの駐車場から車を出し、あたしも車で後をつけた。何時間も運転してたように感じた。でも、明らかにそれは間違い。町から外にすら出ていない。彼がガソリンスタンドに入ったとき、あたしは、自分はパラノイアになったんだと自分を納得させようとした。数えきれないほどの彼の不貞の兆候。あれは、すべて、あたしの想像の産物なんだと。 彼は大きなバッグを持って、スタンドのトイレに入った。あたしは外にいて、ほぼ30分も彼は中で何をしてるんだろうと待っていた。まるで透視してトイレの中を見ようとしているみたいに、トイレのドアをじっと見つめていた。それは結果的に良かったと言える。それほど注意していなかったら、たぶん、見失っていたと思う。彼の姿を見失っていたと思う。 危うく認識できないところだった。彼のあの姿からすると、彼を男性とすら思わなかっただろう。完璧なお化粧、スカート、それにタイトな胸元の開いたトップ。小さいけれど、見間違えようのない乳房の盛り上がりが胸元から覗いている。彼のその姿は、どう見ても若い女性にしか見えなかった。そして、彼の姿を見た瞬間、あたしの中ですべてがカチッと音を立てて整合するのを感じた。その時、すべてが分かったのだった。 頭を左右に振った。あまりに理屈があいすぎる。彼と出会った時から、彼がちょっと人と違うのは知っていた。かすかな点だけど、確実に違う。それに、彼があたしとのセックスを拒んだ時も、どうだった? 確かに、彼は「結婚するまで待とう」みたいなことを言ったけど、あの時からすでに、彼は何か隠しごとをしてるとあたしは思っていたと思う。 さらに尾行を続けると、彼は郊外の住宅地域に入り、とある大きな白い家の前に車をつけた。彼が車から降り、玄関ドアをノックするのを見ながら、あたしの頭の中では、いくつものシナリオが駆け回っていた。中から大きな男性が笑顔で迎えに出てきて、あたしの女性化した彼氏を中に入れた。その様子が友人同士の単なる挨拶ではないのを知って、怒りがわいてきた。ふたりのボディ・ランゲージから、はるかにエロティックな関係があるのははっきりと見て取れる。 それから、ほぼ1時間、あたしは外で待っていた。でも、もう我慢できなくなり、車を出て、家の方へと忍び寄った。その時、間違いようのない声が聞こえてきたのだ。セックスの声。庭の方から聞こえてくる。あたしはその声のする方へと向かった。庭で何が起きてるか、決して見たくなんかないと思いつつも、なぜか行かなくてはならない気持ちになっていた。行かないという選択肢は、最初からなかった。 フェンス越しに庭の中を覗き、あたしは見た。ずっと恐れていたことの証拠を見た。彼は横寝になっていて、脚を大きく広げている。その後ろから大きな黒いペニスが彼のお尻に何度も何度も突いている。それに加えて、彼の体が驚くほど女性化しているのも見た。明らかに、彼はずっと前からホルモンを摂取していたのに違いない。 痛いほど目を背けたかったけれど、どうしても目を離せなかった。そして、その時、彼があたしに気づいたのだった。ふたりの目が合った。彼は謝るような表情を一切見せずに、あたしを見つめ続けていた。あたかも、邪魔するなら邪魔してみなさいよと言わんばかりの表情だった。あたしはふたりの邪魔はしなかった。向きを変え、その場を離れた。どうしてあたしはこんなにバカだったんだろうと思いながら。
 65_Fallen 「失墜」 「あれだけスクワットした甲斐があったわね。あんたの脚の間にぶら下がってるみっともないモノがなかったら、あんたのこと、生まれつきの女じゃないのなんて言えないと思うわ」とメラニーが言った。 「死ね、バカ!」とジャックは答えた。 「まだ、そんなに怒ってるのね。ずいぶん経ってるのに。でも、驚いたりしないわ。あんたは、いつ負けたかも知らなかったんだから」 「いつか、この状態から抜け出る方法を考えてやる。その時は、きっちり仕返ししてやるからな。絶対にボクは……」 メラニーは素早く彼の丸いお尻に平手打ちをし、彼を黙らせた。「あんたが歯向かう時が、ゾクゾクするわ。簡単に諦められちゃってたら、つまらなかったもの。でも、もちろん、あんたが諦めていても、やったけれどね。あんたはいちいち抵抗してきた。でも、そうでなかったら、こんなに楽しめなかったかもしれないわ」 「お前をクビにするチャンスがあったときに、ちゃんとクビにしておくんだった」とジャックはお尻に着いた手跡をさすりたい衝動を堪えつつ言った。「そうすべきだった…」 再び平手打ちが飛んだ。今度は先のより強い平手打ちだった。「でも、あんたはそうしなかったのよ。放置してた。あたしを止めなかった。そして今はと言うと、自分の姿を見てみることね。あらまあ、あの権力者がここまで失墜するとは」 ジャックは反論できなかった。何を言ったらよいか分からなかったからだ。メラニーが言ったことはすべて正しかった。彼にはメラニーを解雇するチャンスがあったのだが、そうはしなかったのである。むしろ彼女を援護し続けた。かつては、ジャックも人の良い男だったのである。だが、その人の良さが彼自身への逆風となって襲い掛かったのだった。 メラニーは業務上の大失敗をジャックのせいにした。ジャックはメラニーを守ろうと隠ぺいを行ったため、資料には彼の指紋がいたるところに残ったのだった。その後、彼は自分は無実だと主張したが、それは、むしろ、告発者の信用を貶めようとする必死の抵抗として受け取られた。そして、メラニーは昇進し、彼は降格される結果となった。そのたった一つの出来事の後、他のすべてが流れ落ちるように連鎖した。そして彼は女体化という高潮を止めるには完全に無力になったのである。この仕事についているためには、それを受け入れざるを得なかったのだった。ジャックは、メラニーの企みに乗るほか、ほとんど道はなかった。 ジャックは後ろに顔を向け、メラニーがすでにストラップオンを装着しているのを見た。メラニーはにやりと笑った。「近々、あんたをあたしのフルタイムの淫乱女にしてあげるつもりなの。まあ、表面的にはあたしの秘書ということで。キュートなミニスカートを履いたあんたの姿をみんなに見せてあげましょうね。可愛いミニスカ、あんた、大好きでしょ? このおちんちんと同じくらい大好きよね? さあ、どうなりたいか言ってみなさい。女の子の声で言ってほしいわ」 ジャックはため息をついた。「あ、あたしを、あなた専用の淫乱娘にしてください。おちんちんを入れてください」 「ええ、いいわよ。欲しいわよね」
 65_Drive 「駆り立てるもの」 誰もが、あたしは自分がしてることを、自分という人間を恥じるべきだと思っている。あたしは恥じたりはしない。誰もが、あたしは新しい道を探し、他のことをして人生を歩むほうが良いと思っている。あたしはそうはしたくない。誰もが、あたしは自分のした決断を悔やみ、自己嫌悪する方が良いと思っている。あたしはそんなことはしない。あたしは、まさに願った立ち位置にいる。それが現実。あたしは、まさに、なりたいと思った人間になっている。そして、あたしの人生には後悔という言葉は存在しない。 最初は、そういうふうに始まったわけではないことは認める。今の状態に向かう歩みは、一歩進むたびにためらったし、ちょっと前進するにも、心の中、し烈な戦いを繰り返した。でも、どの岐路においても、あたしは、前進するという同じ決断をしてきた。というのも、この道の最終地点はとても魅力的だったから。「絶対的な安全」というのを考えてみてほしい。今の時代、絶対的な安全なんて、ほぼ完全にありえなくなっている。でも、今のあたしは、その絶対的な安全を手にしている。だから、決して後戻りはしないつもり。これを手に入れるために「男らしさ」を犠牲にしたけれど、それは関係ない。よい取引だったと思ってるし、さっきも言ったように、あたしは後悔していない。 始まりは同僚との何気ない会話からだったと思う。当時、あたしは初歩レベルのデータ・アナリストで、とても素早く出世するなど考えられなかった。そんな時、同僚が、顎を動かして、ある若く可愛いアシスタントにあたしの注意を向けさせた。「あの娘、俺たちより稼いでるって信じられるか? つまり、彼女、時々、ジェイムズソンのオフィスでひざまずいて……」 それには目を見開かされた。あたしの人生を変えた真理だった。あの瞬間、あたしは、自分が会社のためにできることは大部分、意味がないことだと悟った。何時間か残業したとして、あるいは、毎月、何個かノルマ以外のプロジェクトと完成させたとして、何の関係もない。誰も気づいてくれない。だけど、あのアシスタントの女の子は違う。それなりの人の注意を惹き、それをテコにして有利に進めている。そっちの方がはるかに良い道としか思えなかった。 直ちにネットに接続して女性ホルモンを購入したなどと言うつもりはない。あたしは、そんなに簡単に自分の男性性をあきらめたりはしなかった。男性性を手放す境地に至るまで、ほぼ1年、今となっては無意味と思う苦悶を続けた。苦悶しつつも無視することもできなかった。すべて、理屈が通ると思ったし、考えれば考えるほど、利点が増えていった。もし、自分がなりたいと思う人間になれたら、自分を取り囲む世界が収まる場所に収まるだろうと。確かに、あまり気乗りがしないこともしなくてはいけないだろうけど、人生とはそういうものだ。あたしは思い切ってやってみることにした。 1年後、あたしは完全に変身を遂げていた。あたしが有していた物事のうち、自分のそれまでの人生を捨てるのを止めるものが何かあっただろうか? 仕事? 友達? 家族? 大きな計画の元では、それらは該当しなかった。今でも、欲しいものを手に入れている限り、それらは関係していない。 あの運命の会話があってから、今はほぼ3年になる。あたしは、大半の勤務時間を床にひざまずいて過ごす可愛い女の子になっている。いや、間違い。床にひざまずくのも多いけど、仰向けになっていることも多いし、デスクに覆いかぶさっていることも多い。この会社に採用された時に期待された職務をいつやったか、すでに思い出せない。でも、あたしは気にしない。採用時の会社によるあたしの評価点数を知ってるし、今の評価点数も知ってるから。あたしは誰とでもヤル淫乱? 売春婦? 社内慰安婦? どう呼んでくれても構わない。
 65_Double life 「二重生活」 「うーむ、私の可愛い淫乱ちゃんがソノ気になってるようだね」 「その言い方やめて」とカレンがベッドから見上げた。「そういう言い方されるの嫌なの、知ってるでしょう?」 「ケビン、これはただ……」とダレンが言いかけた。 「それに、一緒にいるときは、ケビンと呼ばないで。カレンなの。ケビン関係はオフィスだけにして。そう呼ばれると気分がそがれるわ」 ダレンはため息をついて、顔をそむけた。しばらく沈黙が続いた後、彼は言った。「もう、これは続けられないと思ってる」 「え?」 とカレンは起き上がった。「どういう意味?」 ダレンはベッドの端に腰を下ろした。「言った通りだよ。できない。こういうのは、もう。二重生活。嘘の生活。私は……もうやめたいんだ。いいかい? すまないが、でも……」 「あたしを捨てるの? これまでいろんなことを一緒にしてきたのに? 何度も一緒に旅行してきたのに? なのに、なのにあたしを捨てるの? ……まるで……まるで、ごみを捨てるみたいに。あのアバズレのブレンダでしょ? そうじゃない? あなたは彼女が好きよね? だって彼女……」 「ブレンダはアバズレじゃない。私の妻だ」 「でも、あなたは彼女を愛していないんでしょ?」 とカレンはダレンの横に移動した。両手を彼の肩にかけ、もたれかかった。「もう、あたしのこと愛していないの? そんな言い方に聞こえたけど」 ダレンは彼を振り払った。「妻には別れてくれと言ったんだ。私は君と一緒になりたかった。本当に、そうだったんだ。そして今も。だけど君は、本気になれないでいる。私に対してもそうだし、本気でカレンになれないでいるのは確かだ」 「複雑なのは分かってるでしょう? サマンサもいるし子供たちもいるから、どうしても……できないの……彼女や子供たちに対して、そんなことできないの……」 ダレンは頭を振った。「だから別れなくちゃいけないんだよ」そう言って、彼は立ち上がった。少しだけ振り返り、その後、ドアの方へと進んだ。別れ際、彼は言った。「じゃあ、職場で、また。ケビン」
 65_Crisis aversion 「危機の回避」 「キミはボクを無視しているような気がするよ。何と言うか、深刻な問題があるように思うんだ」 「問題なんかないわよ。前にも言ったでしょ? あなたのお尻がちょっとばかり大きくなっても、あたしは気にしないって。そのお尻、可愛いと思うもの」 「メリッサ、単にお尻が大きくなっただけじゃないよ。よく見て。本当に、よく見てよ。ヒップも前よりずっと大きくなっているんだから!」 「アレをするとき、そこに掴めて気に入ってるわ……」 「それはその時だけでしょ! 本当に、どうしてキミの場合はすべてがセックスに関係づけられてしまうの? ボクの体に何か深刻なことが起きてるのに、キミはまるで普通のことのように振る舞っている。ここの部分も、こっちも、変になってるし、あそこも……」 「で、あたしがあなたの新しい体つきが気に入ってるかって? ええ、変化については知ってるわ。でも、だからって、あたしに何かできる? それに、あなたが語りたがらない、下の方のちっちゃな問題についても? それも気づいてるわよ。今はどのくらい? 5センチ? 大きくなっても、やっと7センチ?」 「ぼ、ボクは……」 「ほーら、口答えできないのよね。ふんっ! あの病的にちっちゃいモノについてちょっと言及すると、途端に口答えできなくなっちゃうんだから」 「職場で噂になってるんだよ。いつまで隠してられるか分からないよ。もう、スーツは全部、合わなくなってるし……」 「心配してるのは、そのことなの? マジで言ってるの?」 「ほ、他にもあるけど………」 「それを気にしてるなら、そう言ってよ。これなんか、どう? あたしのパンツスーツを貸してあげるわ。それが女性用だなんて、たいていの人は気づかないわよ。それに、これならあなたに似合うと思うわ」 「で、でも……」 「あ、それにパンティもね。あなたはパンティを履かなきゃダメ。トランクスなんてありえないわ」 「そ、そうなのかなあ……」 「ほら、ほら。さあ、これで問題は解決したわよね? ちゃんと体のサイズにあった服ができたし、職場の人たちも噂話をやめるんじゃない? 簡単な解決策だったわよ」 「メリッサ、これを着ても居心地よくなるか分からないよ」 「大丈夫よ。さあ、もうこれはお終い。あなたに何か可愛い服を用意してあげなくちゃ」
 65_Creeping doubts 「忍び寄る疑念」 「もっとハメを外しなさいよ」とヒースが抱き着いてきて、マイクの胸に手を当てた。「今夜は、あんたのバチェラー・パーティじゃない。ワイルドに大騒ぎすべきよ」 マイクは笑顔になって、興奮したような甲高い声を出した。でも、それは本心ではない。周囲を見回し、友人たちを見る。全員とは言わないまでも、ほとんどが素裸だった。そんな中にいても、何かとんでもなく間違っているという感覚に突然襲われるのだった。 ケビンが顔を寄せてきて、マイクの乳首をぺろりと舐めた。その瞬間、マイクは、長年の親友であり、大学時代、男子寮の仲間だった彼を押しのけたい気持ちに駆られた。その衝動はなんとか抑えたけれど、それでも、何か間違っているという感覚だけは、消えなかった。 ストリッパーがひとり、音楽に合わせて腰をくねらせながら近寄ってきた。波打つ腹筋と、わずかな布切れにすぎないGストリングをはち切れんばかりにさせている股間の盛り上がりが目立つ逞しい肉体の男だった。マイクは興奮してくるのを否定できなかったが、どうして自分が興奮しているのか、よく分からなかった。彼のような人間が、特に逞しい体のストリッパーを見て楽しむことは、完全に普通のこととなっている。それに、マイクは将来の妻のことを愛してはいるが、彼のような男性が、妻では満たせない欲求を持つことがあるということは、社会的に充分に理解されている。実際、彼女はマイクに羽目をはずす許可すら与えていた。 では、なぜ、マイクはこんなに居心地が悪い気持ちになっているのだろう? なぜ彼は彼を取り巻く全世界が正反対になっているかのように感じているのだろう? そして、なかんずく、なぜ彼は、ストリッパーの前にひざまずき、彼のGストリングを引きちぎるようにして脱がしている自分を、こんなに恥じているのだろう? マイクがそのストリッパーの亀頭を愛しそうに唇で包むと、彼の友人たちが一斉に喝采を上げた。この行為は、これまで数えきれないほど何度もしてきた行為だった。 だが、その時、高速貨物列車のように、彼の頭の中にある観念が突進してきた。これはまったく間違っている。自分は、こんなところでペニスを咥えていてはならない。友人たちも乳房があるのは間違っている。自分自身も含めて。 彼は現実を悟るギリギリのところにいたのだろう。だが、その時、現実が主張しだしたのと同じくらい突然に、その現実は、新しい人生の圧力に屈して後退したのだった。ほんの数秒の間に、彼の思考は、疑念から恐怖へと変わり、そしてすぐに、この世界ではすべてが問題ないのだという絶対的な確信へと戻ったのだった。 それはほとんど魔法のようなものだった。
 65_Breaking the news 「青天の霹靂」 「ちっ!」と思わず口をついて出た。急に透明人間になれたらいいのにと願った。いまボクはガールフレンドの父親の目を見つめている。彼は急にドアを開けたのだ。そして、ボクも驚いていたが、彼も同じくらい驚いた顔をしていた。 「マーク? マークなのか?」 と彼はつぶやいた。 こんな格好でいたのだ。大事なところをすべて露わにした格好だった。いきなりだったので、隠す余裕がなかった。「え、ええ……」とボクもつぶやいた。 「でも、君は……君は……いったい何が起きてるんだ?」 ボクはうなだれた。「どう説明していいか分かりません」 そうは言ったけれど、過小な言葉なのは明らかだった。どう言ったら、彼のような人に理解してもらえるだろう? 最後に彼がボクに会ったときは、ボクは普通の男だった。それから1年も経っていないのに、いきなり、ほぼ完ぺきに近い女の子の姿で、全裸に近い形でいるボクを見たのだから、これを理解してくれというのが間違いだ。彼が唖然とした顔をしてるのも当然だった。 「ま、まずは、どうして私の家で裸でいるのかから話すのはどうだろう?」 彼はようやく多少、落ち着きを取り戻した後、提案してくれた。 「ぼ、ボクは……エミリを待っていたんです。彼女は、あなたが出張で家を空けていると言っていたので」 「そうか。だが、それは何なんだ? その、君に乳房があるという事実のことだが? それは、いったいどういうことだ、マーク? 君は……もしかすると……」 「込み入った話なんですが、いいですか?……ボクは別に……うまく話せない……ちょっと聞いてください。ボクもエミリも、こういう形であなたに知られるのは望んでいませんでした」 「知られるって、何を?」 「え、エミリは……彼女は……レズビアンなんです。エミリと知り合った時から、すでに彼女はそうでした」 「だが、君たちはずっと付き合ってきたじゃないか……」 「中学の時から。ええ、最初は、みんなを払いのけるためだけでした。もしエミリにボーイフレンドがいたら、誰も何も疑わないだろうって。それにエミリはボクの親友だったし。ボクはイヤだとは言えませんでした。でも、その時からボクは彼女のことが好きになってしまったんです。そうならなきゃよかったのにと、本当に願いました。でも、彼女のことが好きになってしまったんです、エバンズさん。本当に。そして、彼女にもボクのことを好きになってもらうためには、この方法しかなかったんです」 「そ、それじゃあ、君は……君はエミリのためにこうなったと? 私の娘のために?」 ボクは頷いた。「初めて彼女と付き合ったのは、ハロウィーンの時でした。ボクがトゥームレイダー( 参考)のコスプレをしたのを覚えていますよね? ええ、ボクはあの役をボクが思ったより上手くやったと思います。それというのも、あの姿になったボクにエミリは夢中になって、いつもベタベタとボクの体に触っていたから」 「キミが話しているのは私の娘のことなのだよね?」 「ええ、そうです。ごめんなさい。でも、あのコスプレで、ボクたちはアイデアを得て、それからずっと、ボクたちはいつも一緒にいるようになり始めたんです。でもいつもボクは女の子の服を着て彼女といました。そして、ふたりとも高校を卒業して、このキャンパスに引っ越してきた時から……ボクは次のレベルへと進んだのです。その結果が今のボクなんです」 「ど、どうしてエミリは私に話さなかったのだろう。私は気にしたりしなかったのに。どうして……娘が男の子を好きになろうが、女の子を好きになろうが……あるいは、その中間の人を好きになろうが、私は気にしなかったのに」 「なら、そのことをエミリにお話ししてあげてください」 ボクはそう言って、床に落ちている下着を拾い上げた。「でも、あの、その前に、ボクは行かなくちゃ。ええ、ここにいてはいけないと思うので」
 65_Bitter defeat 「敗北の苦渋」 パニックになり体をよじった。拘束具から逃れようと身をよじるが、悪あがきだった。拘束具は単純ゆえに確固としていて、いかに試みようとも、逃げることは不可能だった。だが、気落ちしてる理由はそこではない。こういう拘禁からは逃げたことがあるし、その数は数えきれない。これまでは、毎回、逃げ延びてきた。だが、今回は以前とは違った。 「どうやら分かってきたようだな。違うか?」 と今や聞き慣れた声がした。最強の敵、ブルーム博士だ。これまで仕事を続けてきたが、ブルームのことはいつも引っかかっていた。彼の非道な計画はことごとく潰してきたものの、彼はこれまで逮捕をまぬかれてきている。 顔を上げ、ブルームの傷がついた顔を見上げた。返事はしたが、言葉はくぐもった音にしかならなかった。 ブルーム博士は高笑いした。そのガラガラ声はいつもの通り、私の背筋に冷たいものを走らせた。 「何度も何度もお前を殺そうとしてきたんだよ、スティール君。試みては失敗してきた」彼はそう言って私に近づいてきた。指で素肌の胸から腹のあたりを撫でられ、その冷たい愛撫に私は身をよじらせた。いきなり彼は私の胸を乱暴に握った。痛みが走る。私は思わず泣きそうな声を上げた。だが、その声すら猿ぐつわのためくぐもった声にしかならなかった。冷たい視線で彼を睨み付けた。だが、涙が溢れだし、頬を伝い流れたために、睨み付けた効果はほとんど意味を持たなかった。 彼は顔を近づけ、舌を出し、私の頬から涙を舐めとった。啜るように短く息を吸った後、彼は悪魔のような笑みを浮かべ、頭を後ろに傾け、頭上を見上げた。「ずっと前からお前の涙を味わうことを夢に見てきたのだよ。実に、実に長かった」 私は再び拘束から逃れようと身をよじった。それには意味がないこと、どう足掻いても逃れられないことは知っていたが、無意識的な反射の反応であり仕方なかった。そして、その私の反応が、彼からさらに狂気じみた笑みを引き出す。 「お前は、まだ、この中にいるのだな」と彼は私の耳元に囁きかけた。「私には分かるぞ。だが、そこには長くはいられまい。お前の肉体は変えられた。すぐに心も後を追って変わることになるのだよ。もう2週間もすれば、お前は喜んで私のベッドに這い上がってくるようになる。お前は喜んで秘密を全部私に話すようになる。そして、お前の仲間たちが私の手で全員死ぬことになる。それを思って、どんな感じかな?」 私は、思い切り頭を横に振り、彼の鼻に打撃を加えた。驚き引き下がった彼の顔から、思い通りに血が噴き出す。いつもいる警護員のひとりが飛び出してきたが、ブルームは彼を抑えた。 「こんな小さな傷を負わせたからと言って何になると思ってる?」 彼は血を滴らせながら、かすれ声で言った。「私はお前のアイデンティティを完全に奪う! お前を四つん這いにして、犬として振る舞うようにさせる! 私の奴隷にする! そして、誰もが、抵抗の代償を目にすることになるだろう。私が敵に対して何をするか、誰もが見ることになる!」 口答えをすることができなかった。もっとも、口答えをするにしても、何も言うことがなかった。この男に支配されているのだ。彼が勝利を収めたのだ。彼はいま言ったことを確実に実行するだろうし、それ以上のことをもっとするのだろう。
 65_Between friends 「ここだけのこと」 「わーお、ライリー。すごいよ。かつらとお化粧ちょっとだけで、こんなに変わるなんて信じられないよ」 「ありがとう。そうかもね。でも、忘れないでよ。これはキミとボクだけの話にしてね。オーケー? 他の人に、こんなことがあったなんて知られたくないから」 「ああ、もちろん。分かってるよ。でも、マジで言うけど、お前、すごいセクシー美人になると思うよ。本当に、こういうこと今までしたことなかったのか?」 「ハハハ、面白い。ジェイク、ボクは女装好きじゃないよ」 「そういうことを言ってるんじゃないんだ。つまり、あの賭けをした時、俺はちょっとお前に恥ずかしい思いをさせようとしただけだったんだ。笑えることをやろうって感じで。でも、これって……」 「キミはゲイだってこと? 分かったよ」 「おい、頼むよ。ライリー、自分の姿を見てみろよ。天性のモノって言えるほど」 「やめてよ。そんなこと言いながらボクにはクールでいろなんて、ありえないよ。ただウイッグをかぶって、姉さんのパンティを履いただけなのに、突然、ボクにヤリたいって言うわけ? そんなバカなこと、やめてって」 「別にヤリたいだなんて言ってないけど……」 「言わなくても分かるわ。まさか、君のアソコ、どうなっているか、ボクが気づいていないとでも思ってるの?」 「コイツ、好きか?」 「な、何のこと?」 「コイツが好きかって訊いたんだ」 「そんなわけないでしょ。もちろん、興味ないわよ。ボクは別に……」 「誰にもバレないよ。そうだろ? お前自身が言ったよな」 「バレるも何も、何も起きないから。ジェイク、ちょ、ちょっと待って。何してるの? マジで、服を脱ぐの……ああ……すごく大きい」 「触りたかったら、触っていいんだぜ。俺とお前の間だけの話にするから。そう、いいよ」 「ほ、本当に誰にも言わない?」 「ああ、絶対に」 「な、何というか……ボクが言いたいのは……これはゲイとは違うよね? ボクがこういう格好してる以上、ゲイじゃないよね」 「呼び方なんてどうでもいいよ」
 65_Belonging 「帰属」 帰属の感覚は不思議なもの。特に、外の世界とどこか合わないといつも感じてきた人間にとっては、本当に不思議。多分、私は変わっていて、その変わったところが、他のみんなには、はっきりしているのでしょう。私は背が小さく、痩せていて、可愛らしい。まさにその点で、私はひどく間違った存在と見られている。子供の頃は、いつも私は女の子と間違えられた。でも、大きくなると、まさに私のことを間違えた同じ人々たちが、私のことを嫌悪と憐みが混じった、あってはいけないモノを見るような目で見るようになった。 自分でもその気持ちは分かる。どんなに頑張っても、私は、人々が男の子のために作った小さな箱に収まることができなかった。それに、正直に言えば、そうしたいと本気で思ったこともない。少なくとも、心の中ではそうだった。確かに、そういう箱に収まれたら楽だろうとは思った。そう思わない人っている? そして、私は、他の男の子たちと同じになるように努力した。本当に努力した。ロボットのおもちゃで遊んだし、スポーツが大好きなフリをしたし、女の子がいれば追い掛け回すものと思い込んでるように振る舞った。だけど、そうしている間も、私は家で遊びたいと願っていたし、応援席から大きくて強い男たちを応援したいと思っていた。女の子たちと同じになりたいと思っていた。男の子たちに追いかけられたいと。綺麗なドレスを着たりパンティを履いたりしたいと。みんなは私に女の子じゃないと言うけど、そういう女の子になりたいと心から願っていた。 周りと違う人には、オーラがある。望むと望まざるとにかかわらず、誰でもそのオーラを感じることができる。個人的には、その感覚は、他者の感覚に深く根差しているのだろうと思う。周りに同調しない私たちにとっては、自分が、他者の抱く完璧な世界の姿とどれだけ離れているかを強く意識せずにはいられない。男と女。この二分法は、あまりにも、白か黒かを求めすぎるように思われる。でも実際は、そんなにはっきりと二分されるものではない。そうじゃない? みんな本当は、白か黒かなんて現実的じゃないと事実として認識している。人はみな、中間の灰色の部分に当てはまるケースが無数にあると知っている。知っていながら、いや知っているからこそ、みんな、その中間帯を嫌悪している。みんな、単純に二分される世界を望んでいて、現実の世界が、自分たちが望む世界よりはるかに複雑であることを憎んでいる。それゆえ、人は、「違う」と認識したものを拒絶する。「違う」ものは、均衡のとれたキレイな世界という幻想を覆すがゆえに、人は私たちを恐れる。そのような幻想の世界では、私たちのような人間にとっては、帰属意識など得られるのがまれ。どこかに帰属できると思うこと自体が幻想になる。 これまでの人生、たくさん良い人たちがいたと言えたらいいと思う。でも、私にはそんなことは言えない。これまでの道のり、これまでの経験からすると、私の存在を何らかの点で矮小化しなかった人は、本当にわずかしかいなかった。人によっては、私の存在自体があからさまな敵意となった。何度、罵倒されたか分からない。リンチされたこともあるし、道を歩いてるとき、突然、言葉で暴力を振るわれたこともあった。でも、時に、それは他と比べると扱いやすい。難しいのは、私のことを勇気ある人と呼び、美しい言葉を並べながら、その陰に隠れる人たち。あるいは、私にある種のフェチを感じる人たちや、私のことを何らかの障害に感染した人のように見る人たちの方だ。私は、そんな人たちの憐みはいらない。フェチの対象になりたいとも思わない。それに、単に自分の人生を生きていくのに、どうして勇気を持たなくてはいけないのか、と思う。 でも、好き嫌いにかかわらず、私はこの世界に生きている。それに、私は、人間の本性の短所を知りつつも、生きていくためには、それを利用せずにはいられない。だから私はダンサーをしている。人にシーメールとか、シスター・ボーイとか、トラップとか、シシーと呼ばれても、平気を装って、やり過ごしている。そんな演技を続けているのは、結局のところ、居場所が欲しいから。たとえ、そうすることによって、自分をフェチの対象のモノにしてることになろうとも。人から愛されたいと思っているだけ。フェチ対象のモノとされる方が、それ以外の道より、マシと言えるから。
 65_An expert opinion 「専門家の見解」 「身体的には、あなたは完全に健康ですな」とマシューズ医師は言った。「コレステロールも血圧も……」 「先生?」とアレンは口をはさんだ。「あたしを見てください! これで完全に健康に見えるんですか?」 「どういう意味でおっしゃってるのか。女性に変わろうとしている人として、あなたは驚くほど健康ですが……」 「あたしは女性に変わろうとなんかしてません! ホルモンも摂ってないし。そもそも……」 「あなたは、ご自分がトランスジェンダーではないと言ってるのですか?」 「ありがとう! まさにその通りのことを言ってるんですよ。自分に何が起きたか、さっぱり分からないんですよ。この姿、自分の望む姿とはあまりにかけ離れている」 「失礼ですが、少し話が飛躍しすぎてるような気がします。医学的に言って、あり得ることかもしれません。ホルモンのアンバランスとかが原因かと。でも、ご自身を見てくださいよ。明らかに胸にインプラントしている。これは病理学的な原因によるものではありえません。それにお化粧。そしてネイルも塗ってらっしゃるし髪の毛も伸ばしてる。あなたは、明らかにご自身を女性と見せるように努力なさってます」 「そ、それは、他にしようがないからなんです! 妻のせいなんです。これをやったのは妻なんです。そうだとあたしには分かる。手術は胸の隆起を減らすためだったのに、かえって大きくされてしまった。本当に、まるであたしが……なんというか……もう、何が本当かすら分からなくなってるんです」 「ああ、なるほど…… それは珍しいことではありません」 「女性が自分の夫を女性化することが? そんなのって、あまり……」 「珍しくないのは、トランスジェンダーの人が後悔することです。大きな変化ですし、とてもビックリすることもあるでしょう。でも、これはいずれ消えていくものなのですよ。私が保証します。後になって、今の状態は道に転がっていた小石のようなものだったと思うことになりますよ」 「で、でも……あたしは……あたしは、ただ……普通の状態に戻りたいだけなのに」 「普通になりますよ。知らないうちに、いずれ、男性だったことをすっかり忘れるようになります」
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