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65_A predictable result 「予想できた結果」
四つん這いのままアレックスは振り向いた。「たった3分くらいでいいから。うまくいくわ。約束する」
マークはアレックスの萎えた一物を握ったまま、肩をすくめた。「どうしようもねえよ。ルールは知ってるだろ?」
アレックスはため息をついて、うなだれた。「分かってる」
「たぶん、次はうまくいくよ」とマークは立ち上がり、ズボンのチャックを降ろし始めた。「お前、勝たなくちゃいけないからな」
アレックスには、それが的外れなのは分かっていた。彼は、もう何ヶ月も勃起していないし、体の化学的変化に伴って、決して勃起できない体になっているのも分かっていた。もう、引き返すことができる地点を過ぎてしまっているのだ。
「あんたは、これをする必要ないわ」とアレックスは昔からの友人に顔を向けた。「誰にも分からないもの」
「あいつなら知ってるよ」とマークは答えた。ズボンの中から出したペニスを握り、何回か、しごいた。それは何秒もしないうちに、勢いよく勃起した。「優しくするから」
「まるで、そこが重要だって感じの言い方ね」
「あきらめることは考えたことねえのか? お前は可愛い女になったんだ。もう、男のふりするのをやめるだけで、今よりずっといい生き方ができるぞ?」
「いや、できない」
「誰もお前に文句は言わねえよ。それに……こんなことを続ける必要もなくなる。自由に自分の人生を歩いていけるんだぜ?」
「今のままでいいの。次はうまくいくわ。次は勃起できる。本当に。だから、これを早く済ましてしまいましょう。順番が来るのを待ってる男たちが、いっぱいいるから」
「でも……」
「ちゃんと自分の仕事に戻って、あたしにヤリなさいよ、マーク。これについては、これ以上、話したくないわ。これで話は終わり。今はあたしたちにできることはないんだから。あんたは男でしょ。あたしはエロ女。それがどういうことを意味するか、あんたもあたしも知っている。だから、あんたは、ここに来た目的を果たせばいいだけ」
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65_A plea for help 「助けてほしい」
「わーお、シャネル。びっくりしたよ。前よりずっと綺麗になったな」
「やめてよ、トミー」とボクは彼の言葉をさえぎった。「それにシャネルと呼ぶのもやめて。それがボクの名前じゃないのは知ってるでしょ?」
「どうかなあ」とトミーは予想した通りの返事をした。「大きなことだったんだよ。お前がカミングアウトしたんだから。それを受け入れるのはキツかったんだぜ。正直言うとな。だが俺は受け入れたし、みんなも受け入れた。なのに、お前はいまさらそんなことを言っている」
「それは全部、嘘なんだよ、トミー!」ボクは半分泣き声になっていた。パニックになっていた。「ちゃんと聞いてる? ジーナのせいだと思う。ジーナがやったと思ってる……」
「催眠術をか? そう言いたいんだろ? それとも魔法とか?」
「わ、分からないけど……でも……」
トミーは声には出さなかったけれど、笑っていた。「お前マジ? 俺、ジョークを言ったつもりだったんだけど。催眠術なんかねえよ。魔法もな。俺も何かは知らねえが。バカな冗談か何かかもな。ともかく、そんなのマジでありえねえよ。お前、本当の自分になると、オンナの体になると、こんなとんでもねえ取引をやったんだろ。なのに今になって、お前。……おい、お前、何やってんだよ?」
ボクはすでにトップを脱いでいた。上半身を露出して、体の変化の大きさを見せていた。彼がさらに何か言う前に、ボクはジーンズも脱いで、足首まで降ろしていた。さらにパンティも降ろしかけていた。そうボクのパンティ。「これ、見てよ! ほ、ほとんど、なくなっているんだ。ジーナはボクのタマまで取ってしまったんだよ、トミー! それにボ、ボクのちんぽ。これって……ああ、これって……」
トミーは両手を前に突き出して、後ずさりした。別れ話を言われてヒステリーを起こした女性を前にしたような感じだった。ボクは、兄からも同じような扱いを受けたことがある。「助けてほしいのよ。分かる? ボクのことを信じてくれる人が欲しいの。ジーナがどうやってこれをしたか知らないけど、ボクが自分のことをコントロールできていたのは、あの独身男の会が最後で、その後は……」
「それって2年前じゃねえか、シャネル。……いや、すまん、チャーリーだったな。で、2年もの間、その呪いだか何だかにかかり続けているって言ってるのか? そんなの狂ってるだろ。分かってるのか、お前?」
「わ、分かってるよ……でも本当なんだ。ボクは全部覚えてる。本当に。抵抗しようとしたけど、できなかった。自分でいようとしたんだ。でも、その間もジーナはずっとボクを先に、先にと追い立てていて。ボク自身、分からない……もう何が本当か分からないよ。ただ、助けが欲しいだけなんだよ。どうなってるのか知りたいんだ。ボクを助けてくれる?」
「俺にできることなら何でもするぜ」
ビックリした。ボクは満面の笑顔になった。「ほ、本当?」とボクは両腕を広げて彼に抱きついた。ぎこちなかったけど、心を込めて抱き着いたつもりだった。その時の安心感は言葉では言い表せない。とうとうボクのことを信じてくれる人が現れたのだから。「ああ、ありがとう! 本当にありがとう!」
「俺たちがお前を医者に連れて行くよ。何が起きてるか調べることにするから。原因が何であれ、お前をちゃんと元通りに直してやるからな」
ボクは彼から離れた。「い、医者って?」
トミーは笑っていた。「いつもの医者だよ、シャネル」とトミーはボクの両肩をがっちりと抑えた。体をよじって逃れようとしたけど無理だった。「お医者さんがお前をちゃんとしてくれるぜ。そうすれば、今日のことなど思い出すこともなくなるだろうな」
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56_A nice thought 「良い考え」
スマホを掲げ、あたしの姿が映ってる鏡に向かってシャッターを押す。鏡の中、複数回の手術と長年にわたるホルモン処置と数えきれないほど長いエクササイズの結果であるあたし自身が、あたしを見つめ返している。ベストに見える写真を得ようとシャッターを押しながら、あたしは思わず笑顔になっていた。ベストの写真を得るのに時間はかからなかった。微笑んでしまう。3回ほど押しただけで、ベストの写真が撮れた。
スマホのボタンを何度か押し、この完璧写真をメッセージに添付した。そのメッセージは「この娘があなたの帰るのを待ってるわよ」
珍しいメッセージではない。特に夫婦の間では珍しくはない。彼女が出張に出て、とても恋しくて淋しかったし、彼女も同じ気持ちなのを知っている。こういう写真は、ケア・パッケージのようなもの。家に帰れば何があるかを忘れないようにするためのもの。他のカップルも似たようなことを互いにしているものだと思っている。
でも、お腹のあたり、ぞわぞわする不安感から逃れられない。こういう写真を送る時をずっと待ち望んでいた。自分の体、自分の本当の姿に自信を持てる時が来ることを、こういうあたしを、あたしと同じくらい求めている人が現れる時が来ることを、ずっと待ち望んでいた。
でも、ぼんやりとだけど、家族や昔の友達が新しいあたしのことをどう思うだろうと思うことがある。これだけ変わってしまったので、みんな、あたしのことが分からないだろうと思う。みんなは、あたしがこの種の美しさを秘めていたとは決して思っていなかっただろう。みんなが知ってるのは昔のあたし。いつまでも童貞だとからかわれ、女の子には決して近づけない、ウジウジした内向的な男。それがみんなの知ってるあたし。
いまだにみんなあたしを笑うのだろうか? その疑問がどうしても浮かんでくる。みんな、あたしを変態だと言うのだろうか? 科学の実験台になったのだとか? この体に変化する間に耳にした何百もの様々な毒を含んだ呼び方。あたしをそう呼ぶ人はいるだろう。それは確実だ。そんなわけであたしは故郷には帰らなかった。でも、誰かがあたしを受け入れてくれるかもしれないと期待してるし、祈ってる。そんな人がいたら素敵だと思う。
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2017-12-03 A writer and an editor
Hi, Mr. Brooks. I'm sorry for my appearance. I just want to take a bath before you arrive. My hair is still wet and I should not be bare-footed. If you feel uncomfortable, please let me know. I'll quickly change my wear.
Well, Mr. Brooks, this is the place we prepared for you. Do you like this? In this room, through this whole weekend, you will have to complete the new book you have been working on, and I will see to it until you finish it. Of course, I will take care of all of your necessities, from stationary to clothes and foods. Everything you will need for the completion of your work. After all, it is the editor's duty to make writers complete their works. If you want something, please feel free to let me know.
By the way, do you mind if I ask just one question about the novel you are working on? I'm just wondering about the development of the story in the chapter 5. In this chapter, the main character of the story John, a talented businessman, and his secretary Cherry finally make love in a hotel. I find this part is the climax of your story, because we readers have been teased about the relationship between them for such a long time. But...the description of their love making was... sorry if you feel bad...less impressive than I had expected. It's just embracing, kissing and caressing and ...when I turned the next page, looking forward to more intensive and exciting scenes, I only found their conversation in the next morning! I may say we readers want more details about their lovemaking, don't you think so?
You are wondering what I am talking about, and why I had taken a bath before you arrived here, aren't you? Well...I have one simple proposal...That is...Why don't we try acting a lovemaking couple before you continue your writing? Just in order to improve the description in chapter 5, you know. If we actually experience the scene as John and Cherry, I think we can see more clearly how they behave and how they feel in their lovemaking, and it will surely contribute to your story. So, would you please be John the main character until tomorrow morning? I will be Cherry, of course. And after that, you will focus on writing, OK?
Of course, it's my pleasure to help you refine your story. Maybe I will be given my own pleasure in this, as well. After all, it's the editor's duty to make writers complete their works, isn't it, Mr. Brooks?
2017-12-03 「作家と編集者」
こんにちは、ブルックス先生。こんな格好でごめんなさい。先生がいらっしゃる前にお風呂に入っておきたくて。髪はまだ濡れてるし、裸足もいけないのだろうけど。もし、この格好がご不快でしたら、おっしゃってくださいね。すぐに着替えますから。
ええ、ここが先生にご用意したお部屋です。お気に召しました? このお部屋で、この週末をかけて、いまご執筆中の新作を完成していただきます。書き上げられるまで、私がしっかりと見届けさせていただきますからね。もちろん、文具から衣類、お食事に至るまですべて、ご入用のものは私がお世話いたします。新作の完成に必要なものは何でも。何と言っても、作家先生に作品を完成していただくことが編集者の仕事ですから。何か欲しいものがありましたら、気兼ねなくおっしゃってください。
ところで、いま取り掛かっていらっしゃる小説についてひとつだけ質問があるのですが、伺ってもよろしいでしょうか? 第5章での話の展開についてなのです。この章で、主人公である有能なビジネスマンのジョンと秘書のシェリーが、ホテルでようやく結ばれますよね? ここは、先生のお話しのクライマックスだと思うんです。だって、読者はふたりの恋愛についてずっと焦らされ続けてきたのですもの。でも、ここの愛の場面が……お気を害してしまったらごめんなさい……でも、ここが思ったよりつまらなくって。ただ、抱擁して、キスをして、愛撫して……それでもっと激しくワクワクするようなシーンが来ると期待して次のページをめくったら、ふたりは翌朝、おしゃべりをしてるだけ。読者はもっと詳しい描写を求めているんじゃないかと思うんです。こんなこと言ってごめんなさい。
なんでこんなこと言ってるんだ、それに、なんで先に風呂に入ってるんだとお思いでしょうね。それについてですが……ひとつ、単純なご提案があるんです……つまり、その……ご執筆をつづける前に、あたしと先生で愛し合うカップルを演じてみるのはどうかと。第5章の描写をより良くするためだけですよ。実際にジョンとシェリーとしてシーンを経験してみたら、愛し合うふたりがどういうふうに振る舞うか、どういう気持ちになるか、もっとはっきり分かると思うんです。そうすれば、先生の小説のお役に立つのは確実ですもの。だから、明日の朝まで先生には主人公のジョンになっていただけますか? 私はもちろんシェリーになります。そして、その後はご執筆に集中していただくと。いかがでしょうか?
もちろん、私としては先生のお話をより良いものにする手助けができることは、喜びですわ。もしかすると私自身も喜びをいただけると思うし。何と言っても、作家先生に作品を完成していただくことが編集者の仕事ですから。そうでしょう、ブルックス先生?