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56_Caught 「囚われの身」
ホテルの一室、男が入ってきたのを見て、グラントは目を見開いた。椅子に縛り付けられているので、動かせるところと言ったら、目だけと言ってよい。だが、その強圧的な男に氷のように冷たい目で見つめられ、グラントはどうしても身を強張らさせずにはいられなかった。
「それで?」 ジュリオ・クルーズという名のその男がドスの効いた声で言った。「これが興味深い状況というわけか、えぇ? エージェント・スティール」
男が近づいてきたのを受け、グラントは思わず身を反らし逃れようとした。クルーズの指に膨らんだ乳首を擦られ、くぐもった悲鳴を漏らした。
「で? どんな計画だったんだ? 俺がお前に気づかないとでも思っていたのか? まあ、確かに以前とは変わったな。ずっと良くなったと思うぜ。だが、お前のその目の表情は前のまんまだ。俺には、その目を見れば、いつでもお前だと分かる」
クルーズはいったん下がり、椅子をつかんで、グラントが縛られているところの真ん前に引き寄せた。それに座り、両膝にもたれかかるようにして前のめりになってグラントを見つめ、言った。「お前が俺を憎んでいるのは知っている。お前をとがめたりはしねえよ。パートナーをなくしたんだ、大変な打撃だっただろう。想像できるぜ。だが、ああしなきゃならなかったんだよ。お前も分かってるだろ? 俺たちは戦争状態にあったんだ。お前がどう思おうともな」
「それで、何をしようとしてたんだ? 俺に接近して情報を集め、それから俺を殺すつもりだったのか? それとも、俺を逮捕するつもりだったのか?」 彼は手を振った。「どっちだろうが関係ねえ。俺はお前を殺したりはしねえよ、エージェント・スティール。いや、それはまだ早すぎる。お前のせいで死んだ奴らは、俺がかかわって死んだ奴らと同じくらいは、いっぱいいるんだ。それに、今のお前の姿を見てみれば、殺すなんて、もったいねえだろ。いや、いや、いや。お前にはもっとひとさまに役に立つ運命がお似合いだ。俺の兄貴の売春宿でな」
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56_Breaking point 「限界点」
誰にでも限界点がある。そこを超えたら後戻りができなくなる点を表す一線。その点に達したら、その一線を越えたら、あなたの反応が、いとも容易く過剰なレベルへと突入してしまうこと。あたしの場合が、それに当てはまる。
ともかく、あたしは怒っていた。いじめに怒っていた。子供時代のすべてを、いじめられてすごした。最初は、太っていることでいじめられ、その後は、レズビアンであることでいじめられた。「デブのレズ(
参考)」と呼ばれてさげすまれた回数は数えきれない。だから、あの男がその言葉を吐いたとき、あたしは自分を抑えられなかった。もう、うんざりだったあたしは、それ相応の行動をとった。
彼に襲い掛かって、殴って言うことを聞かせてもよかったけれど、それではあまりに安易すぎる。そんなにデカい男でも何でもなかったので、やろうと思えば簡単だった。でも、暴力事件を起こして、その後、避けられない法的トラブルに巻き込まれるほどあたしはバカではない。その代わり、彼に償いをさせる計画を練った。
あいつを誘拐した時、2時間くらいしたら解放するつもりだった。本気でそう思っていた。あの男を怖がらせる。それだけを望んでいた。その気持ち、わかってもらえると思う。だけど、パワーがあるというのは、とても、中毒性があることだ。あいつは懇願した。お願いですと泣いて懇願していた。あいつは、痛めつけることさえやめてくれたら、あたしが言う何でもやりますと誓った。そういうわけで、あたしはその取引に応じたのだった。
最初、何をしたらよいか分からなかった。捕らえたはいいけれど、どう使ってよいか分からないという状況、分かってもらえると思う。あいつは、本当は欲しくなかったペットのようなものだった。そんな時、ふと思いついたのだった。あたしは、あいつを好きなようにできるのだ。あいつをどんな人間であれ、あたしが好きな人間に変えることもできるのだと。2日ほど調査をして、あたしは彼を女性化する計画を立てたのだった。
後で分かったことだが、彼は、まるでそのために生まれてきたかのように、女性化にすっかりハマった。良心の呵責なしにこんなことを成し遂げられて、本当に驚きだった。食事を制限し、飢えた状態にとどめることにより、彼から男性的な筋肉を奪い取った。ホルモン治療により、女性的な体の曲線を与えた。そして1年後、未許可の整形病院に連れて行き、手術を受けさせ、仕上げを行った。
だが、こうやって女性化した性奴隷を手にしてしまうと、あたしは飽き始めたのだった。こいつは、あまりにも従順でつまらないのである。何かにつけてあたしを喜ばそうと必死に縋り付いてくる。あたしは、挑戦しがいのある新しい対象を切望するようになった。あたしは自分専用のハーレムを作り、それを広げていくのだ。そこに新たに加える対象が必要なのである。