ちょうど私とビルがオーガズムに達したとき、ヘレンが部屋に戻ってきた。
「そこにいる色狂いのお二人さん、満足したなら、もうすぐ朝食ができるから、起きて来たら?」
「どこに行ってたの?」 私はビルの首に両手でしがみついたまま、訊いた。
「お店に行ってたのよ。ビルのような素敵な男性は、男らしい朝食を食べなければいけないの。ステフィや私が食べるような、鳥のえさみたいな食べ物じゃなくってね」 ヘレンは、そう言いながら、手でビルの頬を撫でた。
「ヘレン? できれば、あまり重くないのがいいわ。明日の朝は、マークが朝食を作ってくれる日でしょう? あまり重いのを二日連続で食べるなんてできないもの」
「大丈夫、あなたと私は、普通の朝食だから。でもビルには男サイズの朝食よ。さあ、そのエッチなお尻を上げて、シャワーを浴びてらっしゃい。ビルもよ」
バスルームには私が先に入り、アヌスを洗浄する間、ビルを待たせた。洗浄の後、ビルを中に入れて、二人で一緒にシャワーを浴びた。
シャワーの間、何度もキスを繰り返したし、お互いの秘密の場所を洗いあったけれど、私も彼も、ほとんど勃起できなかった。シャワーの後、ビルは寝室に戻って着替えをし、私はバスルームに留まって、お化粧をし、着替えをした。
ヘレンは、ビルに、彼女が言う男性サイズの食事を作るかたわら、私たちには新鮮なフルーツ類を用意していた。
朝食を食べ始めると、ビルが言った。
「二人ともいつもマークと顔をあわせてるようなので言うんだけど、ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「何でも言ってみて、気にせずに」
「できれば、マークには、僕たちがしたことを言わないで欲しいんだ。マークに、僕のことを変に思って欲しくないだけなんだけどね」
私は、こういう言葉を言って欲しくなかった。多分、ビルは、私たちとしたことについてちょっと不思議な感覚を持っているのだろう。それは分かる。ビルは何かゲイがすることをしてしまったと感じているのは確か。興奮の真っ最中にしたことは、熱が醒めると、別の角度から見えたりするものだから。
私はビルの気持ちを落ち着かせようと思った。
「ビル? あなたがしてくれたことは、全部、マークも前にしてくれたことと同じなのよ。私たちが撮影したビデオを見ているでしょう。それにはマークも出ていたことも知ってるはず。信じて欲しいわ。マークは、単にビデオのためにああいうことをしていたわけじゃないのよ。マークと私は何度もしているの。私がしたいと思ってるほどは頻繁じゃないけど、それでも、何度もしているのは変わらないわ。だから、マークがあなたのことを違った風に見るなんて、私には思えない」
「多分、その通りだとは思うよ。でも、それでも、マークが知ってると思うと、何だか、居心地が悪いんだ」
「私にできることと言ったら、マークに話さないことだけね。それが精一杯。マークには嘘はつかないわ。嘘はつけないし、つくつもりもないの。マークが訊いてきたら、多分、本当のことを言うと思う。マークなら分かってくれるわ。でも、仮に私が話さなかったとしても、当然、マークたちは私たちが一緒に寝たと考えるはずよ。どっちにしても同じだと思うの。ともかく、私には、話さないとこくらいしかできないわ」
ビルは私の説明が不満そうだった。でも、他に選択肢がないのも分かったようだった。
その後、みんな黙ったまま食事をすることになった。この会話でみんなの気持ちが重苦しくなってしまったからだった。食事の後、私は、食器を洗うのを手伝いながら、ヘレンに話した。
「私、ビルをオフィスに送った後、家に戻るわ。今夜、ヘレンも家に来る?」
ヘレンは笑い出した。
「この5ヶ月、私が週末にあなたのところに行かなかったことって、ある? もちろん、行くわよ。もっと言うと、あなたがビルをオフィスに送っていくのを見たら、やきもちを焼いて、今夜、あなたをぶん殴っちゃうかもしれないわよ」
私は荷物をまとめ、ビルと一緒にヘレンの家を出た。オフィスに着き、ビルの車の隣に車を寄せた。ビルは私にキスをしようとした。私も本当はキスを受けたかったけれど、そして、ほとんど唇を近づけそうになったけれど、そんな自分を制止した。
ビルが困ったような顔をしたので、説明した。
「ビル? 私、あなたのこと好きよ。大好き。でも、もし、あなたが今の、あるがままの私と一緒にいて居心地が悪いと思うなら、私、あなたと一緒にはいられないわ。あなたが、私と一緒にいるところを誰かに見られないかと気にして、私もこそこそあなたと会う。そんなのはイヤなの。私は、自分の人生にとても満足しているし、どこも間違ったことはしていないと思っているの。だから、私にキスしようなんてしないで。電話をかけてくるのもやめて」
ビルは、このとき、不機嫌になったようだった。車から出て、ドアをバタンと音を立てて閉めた。
家へ向かう車の中、私は泣きたい気持ちでいっぱいだった。本当にビルのことが好きだし、また会いたいと思っていた。私を愛してくれるやり方が好きだったし、できれば、もう一度、彼と愛し合いたいと思っていた。でも、私と付き合うことに後ろめたさを感じている人と一緒にいることはできない。
家に戻った後、誰もが、私に何かが起きたと分かったようだった。ありがたいことに、ヘレンは何も言わなかったし、誰も、昨夜の出来事について訊いたりしなかった。それから2週間ほど、ビルは何度か電話をかけてきたけれど、私は電話に出るのを断り続けた。
行為中に、マークはカメラを持ち出したけれど、その最初の2回ほど、私は身を縮こまらせたい気持ちになった。撮影されたとして、その編集にはビルが当たるだろう。最初、そういう私の姿をビルに見られたくないと思っていた。でも、2本目のビデオを撮った後は、むしろ、ビルに見せ付けてやりたいと思うようになった。そして、その後は、むしろ進んでカメラの前で淫らに燃えるようになった。
どうしてビルに腹を立てていたのか? それはビルが自分自身の性的嗜好を受け入れることができなかったからではなかった。 ビルのせいで、私が変人であるような気持ちにさせられたからだった。その時まで、誰も私をそういう、何か私が間違った存在であるような気持ちにさせた人はいなかった。ビルの反応を見て初めて、私はあるがままの私でいることを拒否されたのだった。
つづく