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裏切り 第3章 (5) 

「リサ? 私の言うことを注意深く聞いてね。私とあなたの間に、一切の間違いも誤解もあって欲しくないから、ちゃんと言っておきたいの…」

「…私は、もしペニスを入れて欲しくなったら、ペニスを入れてもらうわ。その点は、決して、か・わ・ら・な・い。私は私だし、私は自分がしたいことはするわ。その点も、決して、か・わ・ら・な・い。私の場合、人間関係はペニスで決められるわけじゃないの。それは単なる私の仕事の一部。たまには、ペニスを欲しくなることもあるわ。食べたり、眠ったり、呼吸をしたりするように。でも、私は自分の欲求はどこでも満足させることができる。あなたも私の欲求、私の欲望を満足させてくれる人…」

「…あなたの『持ち物』についてだけど、それがあろうと、将来なくなるかも知れなくても、それは関係ないの。あなたは、すでに、過去も未来も含めていかなるチンポにもできない形で私を満足させてくれる能力があると、間違いなく、証明してきているわ。逆に、私の方もあなたの欲望をかなり満足させることができると証明してきたと思う…」

「…だから、私が男とセックスをすることについてとやかくこだわるのはやめてほしいの。男たちはあなたにとっても、私たち二人にとっても、脅威にならないわ。私が男とすることについて、いつも、前もって話せるとは限らないかもしれない。仕事でデートしてたり、よだれが出そうな男と会ったりしたら、その男と寝るわ。私はそうして生活してるから…」

「…でも、約束するわ。そういうことがあったら、後でちゃんとあなたに話すから。でも、あなたに嫉妬してほしいとか、あなたを傷つけたくて話すわけじゃない。そうじゃなくって、私と同じくらいにあなたにも興奮してほしいし、エッチな気持ちになってほしいから、あなたに話すつもり」

彼女が言った言葉の中のあるフレーズが、突然、頭にこびりついた。「私が男とセックスをすることについてとやかくこだわるのはやめてほしい…」。ダイアナは「他の男」と言わなかった。つまり彼女はすでに僕を「男」と認識していないということだった。何もかも展開が急速すぎる……。突然、不安になって、僕は言い返した。

「でも、僕と一緒なら、もう君は仕事でデートしなくてもいいじゃないか」

「確かに今は仕事でデートする必要はないわ。でも、そういうことを言うのは、あなたの中の『男』の部分ね。私のことを『自分のオンナ』としてキープしておきたいおじ様は100人はいるの。その気になれば、いつでもその中の誰かの申し込みを受けることができるわ。そのおじ様たちの誰もが、今のあなたがいまだそうであるのと同じ、私がいついなくなってしまうかと不安に思っているのよ。あなたがそういう感情を克服できるよう私が手助けしてあげるわ。でも、今は、このことだけは信じて。私が欲しいのは、今の、このあなただということ」

ディナーは最高だった。もっとも僕はあまり食べなかったが。減量薬とか、体重計とか、炭水化物の量とか、ましてや胃のバイパス手術なんか忘れていい。本気で体重を落としたいと思ったら、きついコルセットを試してみるべきだ。普段食べる量の10分の一も食べていないのに、満腹感を感じた。

料理も良かったが、もちろん、食事相手も最高だった。食事中、僕の関心は、すべて、皿の上ではなく、僕の前に座る魅惑的なブルネットの女性に注がれていた。頭の中に浮かぶのは、あの目を見張るような彼女の身体だけ。その魅惑的なボディがさらに目を見張るようなコルセットに抱きすくめられている姿だけ。こんなにも官能的で、爛熟し、性的魅力をふりまく彼女が、僕だけを求めている。僕の方も、今は着心地が悪いスーツの下、同じように彼女にとっては、そして彼女にとってのみ、官能的で、爛熟し、性的魅力をふりまく姿に変えられている。彼女が僕に触れるたび、何か身ぶりをするたび、何か求めるような視線を向けるたび、そのことがはっきりと伝わってきた。

ディナーを終え、再びクロークに戻った。ダイアナは毛皮のコートを取り戻した。彼女の、それに腕を通し、それに居心地良く包まれた時のあの至福そのものといった顔の表情。あれこそ、本当の、「コダック・モーメント」(参考)と言えるだろう。

僕はダイアナに背中からコートをかけてあげ、内側についている2つのホックを留め、そしてベルトを締めてあげた。ダイアナは、満足そうに、コートに対する愛しさを満面にたたえた表情をしていたが、あのような表情は、本当に長い間、見たことがなかったように思う。

彼女は僕に腕を絡めた。

「準備はいいかい?」

「どんな言葉でも表わせないほど。今すぐあなたが欲しいわ!」

僕たちはレストランの前に立ち、ボーイが僕の車を用意してくるのを待っていた。ちょうど、その時だった。新車のコルベットZ06(参考)が僕たちの真ん前に止まった。ボーイがひとり即座に運転席側に走り、ドライバーを出迎えた。ドライバーは車から出て立ち上がったが、かなりの長身で、その人物に比べるとダイアナも僕もまるで小人のように見えるだろう。

そのドライバーが振り向き、顔を見せた。僕もダイアナも、すぐにその男が誰であるか間違いなく分かった。ジェフ・スペンサーだ。

一方、ボーイ長が助手席側に駆け寄り、ドアを開け、中に手を差し伸べた。彼に助けられひとりの女性が外に出てきた。もちろん、その女はスーザンだった。

4人とも黙ったまま見つめ合い、じっと立ち尽くした。ジェフはさっとダイアナに視線を向けた後、僕に視線を変えた。そして、その後、彼の前に立つスーザンの後頭部へと視線を向けた。ジェフの目には明らかに不安の色が浮かんでいた。僕にすら、それが読み取れた。

スーザンは僕に気づくと、じっと僕の目を睨み続け、その後、ダイアナへと視線を移した。スーザンは直ちにすべてを取り入れたようだ。ダイアナの顔、髪、化粧、爪、アクセサリー、そして高価なシルバー・フォックスのコート。スーザンがあごに力を入れてるのが見えた。歯ぎしりの音が聞こえてきそうなほど、あごをギリギリさせている。

スーザンの瞳孔が収縮し、点のようになるのが見えた。そこから強烈で純粋な憎悪が照射されるのを感じる。

もちろんダイアナがその憎悪に気づかぬわけがなかった。本能的に僕を引き寄せ、自分の領域を示そうとした。この姿勢、Tガールだけができる純粋に本能的な姿勢だった。

「あんた! さっさと行きなさいよ。あんたには、そこの筋肉バカがいるでしょう。この人は私のものだから!」

「そうでしょうよ!」 とスーザンは怒りまじりに吐き捨てた。

その時、僕のベンツが来て、コルベットの後ろにつけた。僕は無言のまま踵を翻し、不貞を働く配偶者に背を向け、ダイアナを助手席側へとエスコートした。

「ランス! ちょっと、ランス! 私が話してるときは、こっちを向きなさいよ! 失礼ね! そんなことも分からないの、バカ!」

話しを聞くのは、その言葉だけで十分だった。スーザンは僕を裏切り不貞を働き、そして今は罵声を浴びせている。礼儀を守れだと? ふざけるな!

僕はボーイにチップを渡し、運転席に乗り込み、ドアを閉め、そして車をだした。あのアバズレ女と低脳な筋肉バカのことは完全に無視した。ジェフの顔の表情からすると、ダイアナの正体についてスーザンに話すことはなさそうだと思った。どうしてジェフがダイアナのことについて説明できようか。自分の性癖のことをバラさずに説明できるはずがない。

ダイアナは助手席に震えて座っていた。恐れからなのか、怒りからなのかは分からない。ディビジョン地区を過ぎるまで、二人とも黙ったままだった。

「ひょっとすると…」 ダイアナが急に呟いた。「あの女は…」

「…僕の妻だ。すぐに離婚することになっている。…月曜に家を出て、火曜に書類をまとめた。今、僕は、この結婚をぶち壊すのに、何ら戸惑いを感じない」

「浮気相手は…ジェフ・スペンサーだったのね」 ダイアナは注意深く言った。

「そうだ」

「どのくらい?」

「分からない。少なくとも2カ月か? 多分、もっと前からだろう。前から疑っていはいたが、はっきり分かったのは10日前だった」

「私に会う前ね」

「そう、君に会う前」

「でも、あなたがあの女から離れたのは、私と一緒になってから」

「そう」

「私のせいで別れることにしたの?」

「いや、僕がそうしたのは彼女のせいだ。君は触媒だった」

「説明して?」



[2011/08/16] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)