家から病院までは1時間ほどだった。病院は、サバンナ市のメモリアル・ヘルス病院。受付を済まし、入ったけれど、受付の人の顔には少なからず狼狽の表情が浮かんでいたと思う。多分、同時に、双子2組の出産は慣れていないからだったろうとは思う。すべての書類を揃えた後、私たちは分娩準備室へ直行し、心の準備をした。
私たちは、何としてでも同じ分娩室で出産したかった。それについては、かなり普通じゃないことではあったけど、前もって医師と相談し、手配を済ませていた。そもそも、ディ・ディと私が同時に出産するとは私たちも知らなかったけれど、彼女も私も、出産時にはアンドリューも一緒にいてほしいとは思っていた。
よく、夫が待合室にひとり、煙草を吸い、みじめな様子で出産を待っていたりすることがあるけど、私はそういうことをさせるタイプではない。まあ、今は病院では喫煙は許さないし、そもそもアンドリューは喫煙しない。それに彼にはみじめな様子になってほしいとも思わない。出産の時には彼に一緒にいてもらいたい。ディアドラも同じ気持ち。
私もディ・ディも自然分娩を選んだ。三人そろって、講習会に出席した。本を読んだりビデオを見たりして学んだ。私たちはぜんぜん心配していなかった。それに担当のお医者さんも、私たちの妊娠の経過について、まったく問題ないと満足していた。
私たちの出産の経過も、他の母親たちとまったく同じだった。子宮の収縮の頻度が増えるのに合わせて、拡張が進んでいく。アンドリューは時計を見ていて、大切なアメフトの試合時間がどれだけ過ぎていってるか計算していた。
時間が進むにつれて、ちょっとだけ辛くなってきた。こういう時には少し辛い目に会うほうがよいと思う。苦しい時間があることにより、この出産という経験がより鮮明に現実味を帯びたものとして感じることができるから。あまり辛すぎると、あまりにも現実的すぎてしまうだろうけど。ディ・ディと私は同じ分娩室にいて、並置された二つのベッドにいた。
アンドリューの意見によると、私たちはできるだけ長く直立した姿勢でいるべきだとのこと。そうしていると重力によって出産の過程が楽になると言うのである。彼はそのことを何かのSFの本で読んだのだと思う。なので、本当のことなのだろうと思う。
そして、とうとう、子供たちが外に出始めた。アンドリューは私とディ・ディの間にいて、私たちの手を握っていた。最初に産んだのはディ・ディだった。女の子だ! そのすぐ後に私が生んだ。この子も女の子! そして、あまり時間を経ずして、ディ・ディがもう一人産んだ。女の子! そして、私も再び! この子も女の子!
赤ちゃんが出てくるたびに、お医者さんは、私たちの素肌の胸にその子を乗せてくれた。私たちがその子に話しかけたり、その子を優しく撫でたり、温めたりできるようにである。そうして赤ちゃんと対面させてくれた後、その小さな体を抱えて連れて行き、身体を洗い、乾かし、重さを量り、そして毛布に包んでくれた。アンドリューは椅子に座って待っていた。
どの赤ちゃんも、看護婦さんに身体を洗われながら、元気よく泣いていた。ディアドラも私もまだ疲れ切っていたので、私たちのかわりに看護婦さんが、私たちのそれぞれの最初の子をアンドリューのところに連れて行き、彼の左右の腕に抱かせた。
子供たちは看護婦さんに抱かれている間、ずっと泣き叫んでいた。でも、アンドリューの腕の中に収まると、ピタリと泣きやむのだった。看護婦さんは驚いていた。
私たちの愛する大きな男が小さな、小さな赤ちゃんを左右に抱いている。小さな子たちは、彼の愛のこもった腕に抱かれて完全に満足しているように見えた。この子たち母親に似たに違いない。やがて死ぬ時が来たら、私は彼の腕の中で死にたい。
アンドリューは赤ちゃんに何も話しかけなかった。ただ抱いて、赤ん坊の目を覗きこんでいるだけ。もっとも、私の理解では、新生児は出産後しばらくは目で物を追うことはできないはず。それはともかく、私たち赤ちゃんは、彼といてとても居心地がよさそうに見えた。
私たちの二人目の赤ちゃんたちが看護婦さんに身体を洗われている間、アンドリューが私とディ・ディのもとにそれぞれの子を連れてきた。ふたりとも、まるで同じ鞘に収まった豆のようにそっくりだった。どっちの赤ちゃんがどっちだか、私もはっきりしなかったのは確か。
でもアンドリュー自信を持った様子で、一方の赤ちゃんを私に渡しながら言った。
「この子はエディ」
そして、もう一方の赤ちゃんをディアドラに手渡しながら言った。
「この子はエマ」
彼にはちゃんと区別がつくらしい。私は彼を信じた。私と彼で、赤ん坊の名前はエディとエッダにすると合意していた。ディアドラとはエマとエレという名前に決めていた。エレという名前は、アンドリューが好きな、あるファッションモデルと関係がある名前だと思う。
続いて看護婦さんがふた組目の赤ちゃんをアンドリューに渡した。やっぱり、この子たちも彼に抱かれるとすぐにおとなしくなり、とても満足そうな様子になった。
看護婦さんは当惑した様子で頭を振っていた。赤ちゃん4人、全部そっくりの顔。それがふたりの、これまたそっくりな母親から生まれるなんて。あの看護婦さんにとって、私たちの出産はこの上なく珍しいものだったのだろう。
アンドリューが私たちの間にやってきた。最初、ディアドラの方に顔を近づけ、キスをした。それから私に顔を近づけ、キスをした。彼はそのキスに、伝えたいすべてを注ぎ込んだ。とても疲れていたけど、彼の伝えたいことは魂の奥でしっかりと感じることができた。でも、今はただ眠りたい。それだけ。