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僕はハッピーだ。お気に入りのパンティを履いている時は特に。もうずいぶん前から、これをブリーフだとか下着だとか言うのをやめてしまった。これはパンティ。僕はパンティを履いている。
日を追うごとに、ますます明瞭に僕は自分自身のことを見られるようになってきている。この日誌が役に立っている。すごく変だし、説明しにくいのだけど、僕はこんな姿になってしまったことを憎みたいのだけど、どういうわけかそれができない。ジェニーが僕にしていることが何か分からないけど、そのせいかもしれない。あるいは、僕が何であれ、僕自身がこの姿を美しいと感じているせいかもしれない。
女性が僕を見ると、僕のようになれたらいいのにと思ってる。それを僕は知っている。男性が僕を見ると、僕とできたらいいのにと思っている。それも僕は知っている。でも、そのせいで気が変になりそうになる。僕自身について僕が知っていたと思っていたことがすべて、ものすごく遠い昔のことになってしまって、まるで別の人間のことのように思えてしまうということ。それを悟ると気が変になりそうになる。僕はもはや男ではない。でも、それで僕はどうなるというのだろう?
僕が何かおかしいと気づいてることをジェニーは知らない。あの日、ジェニーは泣いていて、僕は彼女を慰めた。確かに、僕は彼女を愛している。たとえ彼女が僕に何をしたにせよ、僕は愛している。彼女が傷つけば、僕も傷つく。それだけ単純なことなんだ。
探りを入れたい。もっと事実を知りたい。ものすごくそう思った。でも、できなかった。多分、僕自身、答えを知りたくないと思っていたからかも。あるいはそもそも問いを立てることすらできなかったからかも。もし、ジェニーが僕にこのようなことをできるとしたら、僕が問いを立てることも彼女には防げるはずだから。
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ハイヒールを履くのが好き。でも、僕がハイヒールが好きなのは、ジェニーが僕を仕向けてハイヒール好きにしたいと思ったからなのだろうか? ヒールを履いた方が背が高くなるから? 僕としては後者のように思いたい。でも、どうしても前者のように感じられてしまう。彼女ならしそうなことだから。ハイヒールは、女性っぽさのアイコンそのものだ。
僕はヒールを履いて歩くのがすごく上手になっていた。変なことだけど。何と言うか、ヒールを履いて歩く練習を何時間もしてきたから変だと言ってるんじゃなくて、そんなことを僕がするなんてあり得ないことだったから、変だと。
所作についても、どんどん女性化している。他の人があなたをどう見るかについて、ほんのちょっとした手首の曲げ方とか、腰の振り方とかで大きく変わるのを知ってビックリしてる。これまで、とてもキュートな可愛い服を着て、今のような容姿(自分でも僕がものすごく女性的な姿になっていることを知っているけど、この姿)になっても、僕のことを女の子の服を着た男だと思う人が、まだいた。でも、今は違う。もうああいう目では見られることがなくなった。これは良いことだと思う。だって、人に見られて自意識が過剰になると、バレるのではないかと恐くなってしまうことがあるから。
家から外に出るといつも、みんなが僕のことを見てるように思った。あの女装っ子と指をさして。そんなことがあるたびに、いつの日か全然気にしなくてすむ日が来ないかなあとあこがれた。そして、とうとう、他人の目を気にしなくてすむ日が来たんだ。ひょっとすると、これはジェニーが僕にしたことの中のたった一つの良いことなのかもしれない。
それにしても、ジェニーがどうやってこんなことをできてるのか、いまだに分からない。もしかすると、もうすでに完了してるのかも。単に僕は彼女の計画に沿って自分からこういう生活をしてるだけなのかも……
そんなこと信じがたいと思ったけど、話しにあわせることにした。
「それで? ご主人がこの女性たちと一緒になってることについてはどうお感じなのですか? この『プレーボーイ』の記事のような情報については? 国中が、あなたのご主人が定期的に浮気をしてると知っているのですけど!」
双子のひとりが怒った顔を見せた。よしよし。
「アンドリューは一度も浮気はしてないわ。アンドリューほど心に誠実さを持っている男性は他にいません。彼は私たちが頼んだことをしてるだけ。それ以上はないの」
私はもう少し突っ込むことにした。「でも、これはあなたたちの夫婦生活に影響を与えないのですか? どうお思いなのでしょう? ご主人が激しくふしだらになれるように、ご自分の愛の生活を諦めるなんて」
もうひとりの、落ち着いてる方が、また大笑いした。「あなた、わざと私たちに噛みついているでしょう? そのやり方はうまくいかないと思うわよ。私たち、自分の愛の生活を諦めてなんかいないの。ギャモンさん? あなたどのくらいの頻度でアレをなさってるの? 私たちはふたりとも、毎日、してるわ。時には日に2回も。アンドリューは、私たちが対処できる限りの愛を私たちにしてくれてるの。なおかつ、あなたがふざけて言った『激しくふしだらなこと』ができるだけの力は残している。IAMのためのアンドリューの仕事は、ひとっかけらも私たちの愛の生活に影響を与えていないのよ」
私はジャーナリストとしての毅然とした姿勢を維持するのが難しく感じ始めていた。多分、口をあんぐりと開けていたと思う。「毎日、されてるの? おふたりとも? どうしてそんなことがありえるの?」
ひとりが笑顔になった。たぶん、そのような顔になれる根拠が充分にあるのか?
「アンドリューは私たちのことを見ると我慢できなくなるの。いつも私たちに触っているわ。私たちがそうさせてるのじゃないのよ。ついでに言うと、私たちも彼に対して同じように感じているの。これまで会った女性は、みんな、アンドリュー・アドキンズをベッドに連れ込むチャンスを狙って牙を剥いた。でも私たち、その女性がそういうふうに感じても気にしない。私たち自身もそんなふうに感じるから」
「ええ、まあ、確かに彼は魅力的です。でも、彼がおふたりに対して抵抗しきれないと感じてる? ええ、どうしてかは分かります。でも、これって、何と言うか、正直に言って私が思ってきたこととは違ってるんです。おふたりは、私が想像した人とは全然違う」
ひとりが笑顔になった。「請け合ってもいいけど、アンドリューも、あなたが想像してる人とは全然違うわよ。彼はこの世で一番優しくて気配りができる男性。もし、あなたが、女性を使い回してはポイっと捨てるような傲慢で攻撃的な男を想像してここに来たとしたら、あなたは間違ったところを探してることになるわ。ええ、アンドリューは本当にセクシー。セックスが大好きな男。セックスは彼の趣味。でも私たちの趣味でもあるの。誰にでも趣味が必要でしょ?」
「それに彼は男だけど、このビジネスをしているのは私たち、私とドニーなの。知ってると思うけど、私たちふたりともデューク大学のビジネス経営で博士号を持っている。アンドリューは財政的な決定をしなければいけないときは、いつも私たちにそれを任せてるわ」
「でも、それを別にしても、それに、彼が美しいことを別にしても、彼はとても愛に溢れていて、親切だし、心が温かで優しい人でもあるのよ。それにとても家族思いの夫であり、父親でもあるし」
私は言った。「ああ、そうだった。お子さんは6人おられるんですよね?」