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66_A friendly wager 「友好的な賭け相手」
「ほら、見て」とダミアンはポーズをとった。「このハイヒール、ちゃんと履きこなせるって言っただろ!」
「ええ、そうね」とアンナはつまらなそうな声で言った。「つまずいたりせずに2分間、歩き回れると。おめでと。良かったね。毎日、それを履いて職場に行けるようになったら、またあたしに言いに来て」
「そういう言い方、やめろよ!」とダミアンは応じた。「賭けは賭け。このハイヒールを履いて、尻もちつかずに10歩も歩けない。そう言ったのはキミなんだよ。だが、ボクはできた。さあ、賭けの清算をしようか」
「はいはい、お見事!」と彼女は降参の格好をした。「あなたの勝ち。おへそのリングの時もあなたの勝ち。お化粧もあなたの勝ち。でも、力づくで擦りこまなくていいのよ」
「擦りこんだりなんかしてないよ。でも、賭けは賭け。君は言ったよね。ボクが飼ったら、休暇に行く場所をボクに決めさせるって。いいかい、NBAのオールスター試合だよ! やったー、とうとう行けるぞ!」
「それとも……倍賭けをやってみない? もちろん、休暇で行く場所はあなたが決める。それに加えて、休暇の間、丸1週間、あなたがしたいことを何でもするわ。あなたが好きな場所で賭けのことを持ち出して、あたしに何かさせてもいい。どんな格好でも、あなたが望む格好をするわ。制限なしで」
「で、ボクが負けたら?」
「まるで負けるかもしれないみたいな言い方ね? いままで一度も負けていないじゃない?」
「でも、どんな賭けなのか知らなきゃ」
「まあ、あなたが負けたら……まあ、そんなことはありえないと思うけど……ともかく、あなたが負けたら、真逆のことになるというのは? 休暇の場所はあたしが選ぶ。あなたはあたしが望んでいることを何でもする、と」
「イヤだ」ダミアンはきっぱりと言った。「勝ったんだから、今、約束を果たしてもらうよ」
「もう、何を怖気づいてるの? オトコでしょ? たいした取引じゃないじゃない? それに、あなたは負けてないのよ!」
「もう、ボクのアヌスに何か突っ込んだりとか、絶対にさせないからね。あれ、気持ち悪すぎるんだよ。それに……」
「あら、でも、あなたがあたしに同じことをやりたがるのは、問題ないって言うわけ? ひどい、あなたって、性差別主義者なのは知ってたけど、でも、これって……」
「ん、もう、分かったよ」とダミアンはアンナの言葉をさえぎった。「何でもいいよ。何でも言うがいいさ。ボクは負けないから。それで? 何をしてほしい?」
「あたしとお出かけすること」
「ええ? でも、いつも一緒に出かけてるよ」
「ドレスを着てね。着飾ってというか。2週間前のときのように。ミニの黒いドレスを着て、ヒールを履いて、お化粧も、他のこともいろいろ施して。そして、ふたりであたしのお気に入りのクラブに行くの。もし、あなたがパスしたら、つまり、あなたが女の子じゃないと気づいた人が誰もいなかったら、あなたの勝ち。もし、バレたらあたしの勝ち。単純でしょ?」
「確かに」とダミアンは頭の中でいろいろ考えながら言った。「それで、そのクラブってどこ?」
「コック・ピット。あのクラブには、職場の女の子たちと一緒に2週間に1回は行ってるの」
「ちょっと待って。あそこは男性ストリップのクラブだよね?」
アンナは頷いた。
「ダメだよ。だったら、やらない。絶対に。君と一緒に出掛けるのはいいよ。ただお店に行って見て回るだけとかだったらいいんだよ。でも、ボクがあの手のことに興味がないのは知ってるじゃないか?」
「何言ってるのよ、ダミアン。あなたって、本当に憶病虫なのね! ああいうお店、知ってるでしょ? 男の人が何人か、ビキニを履いてステージの上でダンスしてるだけじゃないの。たいした賭けじゃないわよ。それに、普通のストリップ・クラブなら、あたし、あなたと行ったことがあるじゃない? あなたもああいうのはセクシーだと思うでしょ?だったら、一緒に男性ストリップのクラブに行くのとそれと、どこが違うって言うの?」
ダミアンは途方に暮れた。それと言うのも、原則的には、このふたつの間に違いはないと思ったからだ。「いいよ。やるよ。でも、ボクが勝ったら……勝つに決まってるけど、もし、ボクが勝ったら、すごく、すごく、ヤラシイことをすることになるからね。この賭けをしたことを絶対に悔やむことになるんだからね?」
「ええ……」と彼女は笑みを浮かべて言った。「多分、そうなることになるかも」