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66_Nerves 「神経質」
「ダナ? ほんとにこの格好で適切と思う?」とケイシーは訊いた。「何と言うか、ちょっとカジュアルすぎるんじゃない?」
「ええ? それでいいんじゃない? いいわよ。とても可愛いわ」
「少なくとも電話から顔を上げて、こっちを見てから言ってよ。真剣なんだから。あの人たちにもう2年近く会ってないの。みんなに良い印象を持ってほしいのよ」
ダナはため息をついて、電話から顔を上げた。「あなたってすごく神経質なんだから。さっきも言ったように、それでいいんじゃない?」
「いいんじゃないって」とケイシーは繰り返した。「スーツを着るべきだと思わない? ネクタイは? そのレストランがハイクラスのレストランだったら、どうするの?」
「ゲイリーがハイクラスのところに行くなんてありえないでしょ? 彼に店の選択を任せたんだから、絶対、大学時代の時と同じで、ビア樽から飲み放題のパーティのはずよ。誓ってもいいわ。ゲイリーにはあたしも会ったことがあるし」
「やっぱり、着替える。少し遅れるかもしれないけど、でも……」
ダナはケイシーの手首を握った。「やめてよ。その格好は素晴らしいわよ。あたしの知ってるゲイリーとかあなたの古い友人たちなら、あなたたちは多分、安いステーキハウスに行って、その後、ストリッパーたちに気前よくおカネを使ってくると思う。荘厳なディナーじゃなくて、独身男の会でしょ? その格好でいいのよ」
「そう言うなら。そもそも、みんな、あたしのことが分かるかすら不安なの。髪型も変わったし、体重もずいぶん落としたから……」
「あなたの親友なんでしょ? あなたは、大学時代、男子寮であの人たちとつるんでずっと暮らしてきた。起きてる間は1分も開けずに一緒に暮らしてたんでしょ? あなたがビール腹でなくなったからって、何なのよ。あなたのお友達、絶対、新しいあなたを大好きになるわ。あたしが約束する」
「多分ね……」
「でも、ひとつだけ言わせて。そのサンダルを履いて出かけるつもりじゃないでしょうね?」
ケイシーは妻を鋭い目つきで睨み付けた。「あたし、そんなダサい人間じゃないわよ。今夜のために買っておいた素敵なハイヒールがあるんだから。今夜はずっと立ちっぱなしになるように思ったから。どんな感じか分かるでしょ?」
ダナは笑い出した。「あなたの靴好きったら、もう。放っておいたら、1日2足は靴を買っちゃう人だもの」
ケイシーは肩をすくめた。「何といえばいいのか。あたしは靴が好きなの。ともかく、ハンドバッグを取ってくれる? 間に合うためには、もう、出発しなくちゃ」
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66_Mr_polular 「人気者」
「ぼ、ボク、こんなの着れないよ。本当に」
「バカ言わないで、ジェシー。着れるに決まってるじゃない。とても綺麗よ。それに、その色……とっても可愛い」
「お願いだよ、マリア。お願いしてるんだよ。こんな服、着せないでほしいんだよ。もっと言わせてもらえれば、行きたくないんだよ。誰もボクが欠席しても、気にしないよ。10回目の同窓会でしょ? たいしたことじゃないよ」
「バカね。みんな、あなたが来ると思ってるわ。あなたの昔の溜り場に行けると、あたし、あなたがワクワクしてるものとばかり思っていたわ。昔の仲間に会って、栄光の日々を思い出せるのよ。トロフィー・ケースにいまだにあなたの写真を飾ってると聞いたわ。当然じゃない! あなたは学校の歴史中、州のトップに勝った、たったひとりの英雄なんだから」
「で、でも……つまり……どうしても出席しなくちゃいけないなら、普段、仕事に着ていく格好でダメ?」
「何言ってんの? あんなみっともないスーツを着ていくって? ダメダメ。一生懸命、そのカラダを作るために頑張ったんでしょ? それを隠しちゃだめよ。それに、あたしも、あなたのことをみんなに見せびらかしたいし」
「でも……」
「マジで言ってるの。あたしが、あのジェシー・ジェームズと一緒になるなんて、誰が信じたと思う? あたしが、あの人気者のジェシーとよ! 当時は、ほんと、あたしは目立たなくて、透明人間みたいだった。それに対して、あなたは、どこに行っても人気者だった。故郷のヒーロー、プロム・パーティでは引っ張りだこ。どのチームに入っても、キャプテン確実」
「そんなのずっと前の話しだよ」
「そんなに前のことじゃないわ。それに、当時、あなたが誰と付き合ってたか、覚えてる? モーリー・キャンベルよ。あのアバズレ女! でも、当時は、みんな彼女を崇拝していた。知ってる? 彼女って3人くらい子供産んで、今は小型トラクターみたいな格好になってるんだって」
「それは知らなかったけど、でも……」
「んもう、本当にそのドレスのこと分かってないの? それって彼女がプロムの女王になったときに着てたドレスなのよ!」
「え、……ああ、何と……お願いだよ、マリア、どうしても……」
「イヤの返事はダメよ。あなたは出席するの、そしてあたしが着てと言った服を着るの。会場に行ったら、女子のロッカールームに行って、お口を使って、あなたがいつもやってることをやるの。そうすれば、みんなも分かるわ。みんな、自分たちが崇拝してた黄金ボーイだったあなたが、あたしの可愛いエロビッチになってると分かるから。どうしてあなたがそんなことをしてるかも、みんな、分かるから」
「ぼ、ボクが君を愛してるからと?」
「違うわよ。バカね。あなたがあたしを憎んでるのは知ってるわ。これを始める前はあたしを憎んでいなくても、今は確実にあたしを憎んでるでしょ? あなたが女子ロッカーでそんな口唇奉仕をするのは、他に道がないからよ。あたしが機嫌を損ねたらどうなるか、分かってるからやるわけ。これから20年くらい監獄で収監者たちのおもちゃとして暮らしていくのがイヤなら、あたしの言うことをすることね。さあ、文句を言うのは止めて、ハンドバッグを持って、出かけましょう。遅刻したくないわ」