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65_Unashamed 「後悔ナシ」
後悔するのは簡単だろう。所詮、俺は怪物ではない。俺はふたりの人生を完全に変えてしまったことは分かってる。破滅させたと言ってもいいだろう。俺がいなかったら、ふたりはどんな人生を歩んでいただろうと思う。ふたりはどんなことを成し遂げたことだろうと思う。運命がふたりにどんなことを用意していたか、俺がふたりをそれから脱線させてしまった事実から俺は逃れることができない。だが、俺は後悔していない。むしろ誇りに思っている。ちなみに、誇りに思ってるのは、結果についてではない。そうではなく、ここに至るまでの過程についてだ。旅路と言うか。良いときも悪い時もあったが、今となって思うと、すべて価値があったことだと思っている。
ふたりは小学校時代からの知り合いだ。俺が知ってる子供時代のふたりと、今の、俺が作り上げたスレイブのふたりを結びるけるのは実に難しい。ふたりとも、今は俺に対して実に献身的で、嬉しそうに俺のことを称賛してやまない。だが、ふたりとも、最初から従順だったと言える。初めて、彼にパンティを履くように命じたときとか、彼女に裸で男子のロッカールームに行くように命じたときとか、その頃からずっと、ふたりとも俺の言いなりだった。
多分、誘導が必要な人もいるだろうし、俺が特別なのかもしれない。正直、俺には分からない。だが、ふたりとも俺の言うことに従わないなど、一度も思ったことがないのは本当だ。崖から飛び降りろと命じたら、ふたりとも本当に飛び降りただろう。別に誇張してるわけではない。適切な言葉使いをすれば、ふたりを完全に100%コントロールできる。必要なのは時間をかけること。それと毅然として良心を持たないこと。それだけだ。
それでも、このふたりが俺に出会わなかったら、良かったのかというと、そうでもないんじゃないかと思う。俺自身も、このふたりを手に入れてよかったのではないかと思う。操作し、コントロールできる誰か他の人間を見つけられただろうか? 多分、見つけただろうとは思う。その場合、このふたりは俺が用意する曲に合わせて踊ることはなく、自分自身の夢を追って生きていただろうとは思う。
確かに、俺がいなければ、彼はこの変身を享受することはなかっただろう。彼に出会ったとき、彼は普通の男の子が持つ興味を持った、ごく普通の男の子だった。スポーツとか車とかアクション映画の人物とか。だが今はどうだろう? すっかり成長して、今は俺の奴隷だ。今の状態からもっと過激な状態へと変えるのは、本当に簡単だ。ちょっと甘いこと、キツイこと、優しいことを織り交ぜて与えればいい。彼自身がそれを望んでいるからではない。俺がそれを望んでいると彼が思うからだ。俺が彼にどうなってほしいか望む。彼はそんな、俺が望む存在になりたいと必死に頑張るのだ。ちょっと気ままにコメントを言えば、彼はそれに合わせた存在に変わろうと必死になって努力する。
そして彼女。ああ、女神だったのに、ずいぶん変わってしまったものだ。とは言え、彼女の変身は彼のように身体的なモノとは言えない。そうではなく、ほぼ純粋に精神的なものだったと言える。成長した彼女は、いつも完璧だった。可愛い王女様。人気があって可愛い女性。大きくなると、その人気はますます増大するばかりだった。彼女は自分が特別だと分かっている。どうして分からないはずがあろうか、みんながあんな風に彼女に接していたのだから。
正直言って、彼女については不必要に弄んでしまったと思う。高校3年の時、俺は彼女を男勝りのレズビアンもどきに変えてしまった。可愛いドレスもスカートもゴミ箱に捨てさせた。チアリーダーに所属していた彼女だったが、それも辞めさせたし、付き合っていた彼氏とも別れさせた。化粧も辞めさせ、体毛の処理も辞めさせ、髪の毛も切らせた。その時の彼女の多くの「お友達」の反応に俺は狂喜した。俺がフォローしきれないほど素早く、彼女のお付きの女友達も男友達も、彼女の元から離れていったのである。実に見事な離れようだった。だが、俺だけは彼女のそばにとどまった。俺は彼女のたった一人の友達になった。
高校卒業に際し、俺は彼女を普通の状態に戻るのを許した。俺の指示の範囲内で。元に戻っても彼女はすべてを覚えていた。仲間たちが離れていったことを忘れてはいなかった。俺だけが、彼女の元を離れなかったと覚えていたのである。その記憶は彼女の献身を促進することにしかならなかった。彼女は俺を愛するようになった。彼が俺を愛するようになったのと同じくらいに。
ふたりに苦痛を与えたことは知っている。ふたりが秘かに涙を流すところも見ていた。だが、その苦痛も、より大きな喜びのための準備だったと俺は思ってる。苦痛が大きければ大きいほど、後の喜びは増大するのだ。ふたりとも人間として弱く、俺は強いのだ。ふたりは、俺を喜ばすために人生を生きる。それがこのふたりにはふさわしいのだ。それがこの世の中の自然な秩序にすぎないのだ。
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65_The price of admission 「許可を得るための代償」
マークは、できるだけ平然としてるように努めながら、ペットボトルから水を一口飲んだ。その結果はというと、にんまり顔と苦笑いが入り混じった変な表情に。自分が素っ裸でいること、しかも、フラタニティのブラザーたちの前で裸で立っている状況では、平然としてること自体、簡単ではなかった。体毛はすっかり剃られ、眉毛も剃られ、化粧も施され、はっきりと女性的な外見になっている。
「みんな? これがうまくいくわけがないよね。分かるだろ? つまり、どう見てもボクは……」
「まさに彼女そっくりだよ」とフラタニティの寮長であるケネスが言った。「これで、後は偽乳房をつければ、誰にも分からくなるよ。俺たちの撮影方法を使ったら、絶対、誰にも分からない」
「でも、ボクはまだ居心地悪いんだけど……分かるよね……」とマークはつぶやいた。彼はこれまで何度も苦情を言い続けてきた。だが、フラタニティの会員たちにせっつかれ女体化を進められてるうちに、彼の苦情にはいつしか誰も耳を傾けなくなってしまった。「それに彼女はボクのお姉さんなんだよ。ボクにはどう見ても……」
「目的はセックスだ」とケネスが口をはさんだ。「単純なことだよ。もし仲間に加わりたいなら、やるこった。どうするかお前が決めて良いんだぜ」
「でも……」
「それに、お前の姉貴みたいなアバズレはそれなりの仕打ちをしてやんなきゃダメなんだよ。お前の姉貴はこれまで4回も断り続けてきた。だが、何のためにだ? 酔っぱらって、俺たちの2、3人とセックスしたことを後悔してるからか? まあ、お前の姉貴も、自分がもっとやってほしいのっておねだりしてる動画を見せられたら、態度を変えるんじゃねえのか? そうだろ?」
「でも、それって姉さんじゃないし」
「そんなの、他人にとっては、同じなんだよ。お前の姉貴がおねだりしてると理解するのさ。これで、お前の姉貴が訴訟を取り下げたら、充分以上の成果ってもんだ。それで本当に訴訟を取り下げたら、あの連中も大学に戻ってこれるだろ。俺たちも停学を解除されるし」
「分かってるよ、でも……」
「それに、そうなったらお前も正規のブラザーになれるんだ。クソみてえな請願もお終いだ。ウィン・ウィンの関係だろ、マーク。それとも何か? お前、2時間ちょっとマリアのふりをすることもできないって言うのか?」
「い、いや……てか、ボクは……役に立てられたらいいとは思ってるよ」
「そうだよな。これで決着だ。じゃあ、男たちの準備ができるまで、あと数分、そこらでぶらぶらしててくれ」
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65_The nature of power 「権力の本質」
ああ、このふたりを見てほしい。実に浅はかそうな女。気持ちよければ何でもいい。豊胸だけど、男たちが喜びそうな、実に美味しそうな巨乳。ふたりを見るたび、私は誇らしい気持ちが大きく膨らむのを感じる。ふたりをこのように変えたのは私なのだ。私がゼロから、このふたりを作り上げたのだ。その達成感は、しっかりと感じている。
もちろん、ふたりは前からこんなであったわけではない。かつて、このふたりは実際の夫婦だった。もっと言えば、私の隣に住んでいた夫婦だ。それまで平穏に暮らしていた私だったが、突然、このふたりは私の隣に怪物のような大邸宅を建てた。あの時から、私はこのふたりに憎悪を感じ始めた。バリー・ロッソとキム・ロッソ夫妻。経済界のスーパースター。多大な権力を持ち、傲慢で我欲が強い。このふたりは、私がこの世の中で間違っていると思うことすべてを備えた人間だった。そして、ふたりのことを知れば知るほど、私が最初に持った印象が正しいことを確信するばかりだった。
バリーとキムを比べたら、間違いなく、キムの方が邪悪と言える。フェミニストを自認する彼女は、男性が行うあらゆる行動を宣戦布告のようにとらえた。何の気なしに、彼女のためにドアを開けてあげてごらんなさい? 男尊女卑の男性優位体制について20分は講義を受ける羽目になるから。彼女の攻撃は、むしろ女性たちに激しく向けられた。特に、彼女の狭量な世界観にあわない女性たちに厳しかった。そういう女性を彼女はいつも、「おつむの軽いカラダだけの女」とか「エロきちがいの淫乱女」とか言っていた。そういう女たちこそが問題の一部なのだと彼女は主張した。癪に障る女。
バリーの方がましとは言え、キムとの差はほんの少しにすぎない。そもそも、ふたりが結婚していること自体、不思議だった。それというのも、バリーは権力を持った男たちによくいる、男尊女卑主義の威張り腐った男性を具現したような人間だったから。まさに、キムが嫌っていると言っているタイプの人間。にもかかわらず、キムは彼と結婚した。見知らぬ女が彼らの家に「立ち寄る」のを何度見かけたことか数えきれない。バリーは、そんな浮気の常習犯であり、暴力的なごり押しが得意な男であり、嫌悪の対象になりやすいタイプの男だった。
ふたりが隣に来て1年になろうとした頃、私はとうとう堪忍袋の緒が切れた。私はふたりの夫婦関係を破たんさせてやろうと考えた。間違いなく、浮気のことを持ち出せば、それを達成できただろう。法的な見地からふたりを追い詰めることも考えた。何かやましいことを掘り当てられるだろうと確信していた。あの手の人間たちは、いくつか法律を捻じ曲げるようなことをしなければ、あのような地位にはたどり着けないもの。ああいう類の人間がいなければ、この世の中はずっと良くなる。そう確信していた私は、ふたりの存在について、はるかにもっと暴力的な解決案がないものかと考え続けた。
だけど、最終的には、私の答えは、私の親友から得られた。彼女は化学的な手段を通して人間の行動に影響を与える手段を研究して業績を積んできた人。隣に住む最悪の隣人について、多分、百回近いと思うけど、私が愚痴を言うのを聞いた後、彼女は解決法を提案してくれた。「ふたりを変えちゃったら? そんなに難しいことじゃないわよ」と。
どういうことか分からないと言ったら、彼女は打ち明けてくれた。彼女の研究では、被検者を扱いやすくするために、いくつか化学物質を使っていると。やろうと思えば、被検者から自由意思を完全に奪うこともできると。もちろん適切な処方量を守った上での話しだけど。私は疑いつつも、その話に完全に乗ることにした。
彼女は私に液状化したよく分からない化学物質をくれた。それを私は仕込んでクッキーを焼いて、気のいい隣人のふりをして、それをルッソ家に持って行った。ふたりがあのクッキーを食べたと確信が持てるほど待った後、私は計画を実行に移した。
最初は慎重にことを進めた。友人のくれた物質が効く制限を確かめつつ、ゆっくりとことを進めた。すぐに、制限はまったくないと分かった。望むことを何でもできる。そして、何でもやった。
まずは、ふたりが所有している財産をすべて売却させた。総額はかなりの額になった。その後、そのおカネを使って、ふたりを、それぞれが決して敬意を持たないタイプの人間に変身させた。同時に、ふたりに新しい人格を注入した。新しい名前も与えた。良い呼び方を知らないので、言うけれど、要するにふたりを「頭の軽いカラダだけの女」に変えた。おっぱいだけはデカい。頭の中は空っぽ。自分の意思はゼロで、他の人が認めてくれるなら自分はいいんだ、って他人に完全に依存しているバカ人格。ふたりは以前の人格からできるだけかけ離れた人格になった。
この仕事を完了した今、次に何をしようかと考えている。あのふたりが、まだこの体の中にいるのは知っている。自分たちがなってしまった姿におののきながら、この状態から逃れたいと叫んでいる。ふたりの目に浮かぶ表情から読み取れる。ふたりを解放してあげるべきだろう。解放して、好きに自分の人生を歩んでいきな、って言うべきなんだろう。ストリッパーになってもいいし、売春婦になってもいいし。秘書とか、ヘアドレッサーとか。このふたりがどうなろうとも気にする必要はなかったのかもしれない。もう、このふたりにやりたいことはやったのだから。
でも、権力については、変なことがあって、それは権力が薬物に似ているということ。中毒性があるし、他の何より重要なことになってしまうということ。私はふたりの人間に対して完全なコントロールを握ったし、そのコントロールを手放す気はない。いや、もっとコントロールしたいと思っている。
確かに、今、私は、ふたりを懲らしめているのは、ふたりの犯した罪の償いをさせているのだと自分に言い聞かせている。でもそれは嘘。私は権力が好きなだけ。権力が大好き。その権力を手放したくない。絶対に。