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Soulmate 「魂の友」 

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66_Soulmate 「魂の友」

「こんなこと、もう2度と起きないわよね、いい?」とアレックスは腰に手を当て、言った。「こんな2度とあり得ない」

ディーンはトランクスを履きながら言った。「どうして?」

「どうしてって……ありえないからよ。分かった? あたし自身は、こんなのしたい気持ちはないの。この手のゴタゴタ、扱いきれないわ。それに、このこと、誰にも言っちゃだめだからね。分かった? 分かってるだろうけど、もし、うちの親がこれを知ったら……」

「キミがトランスジェンダーだということ? それとも、キミがこっちに引っ越してからずっと女の子として暮らしていること?」

「父親に殺されちゃうわ。うちの父ならしかねないのは知ってるでしょ?」

ディーンは頷いた。「うん、分かる。でも、だからって、もう俺と会わないってことにはならないだろ? ふたりとも楽しんだと思うんだけど」

アレックスはため息をついた。「楽しんだ」という言葉は、言い足りない。単なるセックスではなかった。それ以上だったし、それは、ふたりとも実感していた。ディーンはアレックスを受け入れてくれた。完全に、しかも、なんらためらいなく、受け入れてくれたのだ。アレックスのような人に対して取る態度としては、これはとてもまれなことだ。そんなふたりがひとつになれないとしたら、それはあまりに残念すぎることだった。ふたりの間では、ちょっとだけじゃれあうことしかありえなかった。

「どういうこと?」とアレックスはディーンに問いただした。「あたしに、あなたの彼女になってほしいということ? 一晩、一緒に寝たら、ふたりはカップルになったとなるわけ?」

ディーンは肩をすくめた。「それのどこがダメ? 俺たち、互いに知らないわけじゃないだろ? 俺は君が好きだし、君も俺が好き。何か問題でもあるのか?」

「問題は、あなたが何も考えてないことよ。みんなに何て言うつもり? あなたの彼女には何て言うの? それに、何を言っても、誰かに本当のことがバレてしまうのは時間の問題。最後には、みんなにバレてしまうの。そして、あたしの両親にも、兄にもバレてしまう。地元のみんなにバレてしまう。でも、あたしは、そうなる心の準備はできていないわ。それはあなたも知ってるでしょう?」

「だから、どうしろって? 君のことを忘れろって? ふたりの間に何もなかったフリをしろって?」

「分からないわ、ディーン。こんなの、あたしには、初めてのことだし。何と言うか、あなたが地元でのあたしのことを知らなかったら……あたしたちが友達じゃなかったら……その方が……」

「俺はそんなの認めないよ」とディーンは言った。

「どういうこと? もう、こんなことはしないって言ったはずよ」

「でも、本当は、君も俺と付き合っていきたいと思っているだよね。俺には分かる。それに、いいか? 俺は、他の連中のことなんか気にしてなんかいないんだよ。俺が気になるのは君だけなんだ。俺は、これまでずっと、君のような女の子を探して生きてきたんだから」

「おちんちんがある女の子を? ふーん、あんたって、その手の人なの?」

「違うよ。ほんとに、違うったら。分かってないなあ。俺は、自分が耐えられるって程度の女の子ではダメなんだ。それよりずっと多くを求めているんだ。たとえば、ベッキー。彼女は良い子だよ。可愛いし、気も合う。でも、君は……君は俺の親友なんだ。君はセクシーだし、すごく綺麗だし。ああ、もっと気の利いた言葉を使えたらいいのに。うまく説明できたらいいのに。でも、俺は君を愛しているんだ。本当に。他の人の反応なんてバカげたことのせいで、君と一緒になるかどうかが決められるなんて、絶対、認めないつもりだよ」

「あなたが何を求めてるのか分からないわ。どんなことに首を突っ込んでるのか、自分でも分かっていないんじゃない?」

「そんなの気にしないね」とディーンはアレックスに近寄り、抱きしめた。「君がそばにいてくれるなら、どんなことでも、そんなに悪いことにはならないよ」


[2018/03/26] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

On the edge 「崖っぷち」 

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66_On the edge 「崖っぷち」

寝室の中、あたしは立ち上がった。心臓が激しく高鳴っていた。胸の中、不安が募り始め、今にもパニック発作になりそうに感じる。玉のような汗が額に噴きだしている。目を閉じ、一度、大きく深呼吸をした。

「あなたならできる。これはしなくてはいけないこと」と、囁き声で自分に言い聞かせた。

でも、あたしは動けなかった。恐怖で体が凍りついていた。ここまでやってきた自分。だけど、最後の一歩が踏み出せない。踏み出したいのに。本当に。だけど、脚が震え、心が命ずる命令に従うことができない。

一瞬、引き返そうかと思った。あたしの男性服がすべて揃っているクローゼットに戻ろうかと。確かに、ほぼ2年間、ホルモンを摂取し続けてきたことで、明らかに体の変化はある。だけど、それでも、いまウイッグを外したら、男性として生きていくという意思を表明できるかもしれない。みんなも、男性の姿を見るものだと思っているし、それを望んでいるのだから、あたしが男性の姿で出て行ったら、みんなも受け入れてくれるだろう。

そう思っていたら、急に胸の奥からとてつもない悲しみが噴火のように噴出してきた。体のすべてが焼き尽くされそうなほどの悲しみ。引き返すことなどできない。ゴールにこれほど近づいている今となれば、なおさら引き返せない。これからの人生を男性として生きる。それは恐ろしすぎる展望だった。自分には決して耐えきれないと分かっている。そうなってしまったら、自分は死んでしまうだろう。

何年か前、あたしは実際に死にそうになった。10代の時、あたしは、うまく言葉にはできないものの、自分は他とは異なるということを自覚した。確かに、ドレスを着たり、パンティを履いたり、他の可愛い衣類を身に着けることを想像すると、胸が高鳴りワクワクした気持ちになった。でも、自分が何者かというアイデンティティの感覚は、衣類などよりずっと重要なことだし、子供の頃お人形で遊びたいと思うことよりずっと重要なことだし、「女の子になりたい」と思うことより、ずっとずっと重要なことだった。

自分は何者か? それは真の説明をすることがなかなかできない。自分の体の生物的な性別と他人が自分を見る見方が、自分が自分自身について感じていることと一致しないのを知り、きちんと述べることができない、どこか間違っているという感覚がある以上、自分は何者かを説明することは難しい。単なる性的嗜好ではないし、あたしのような子を持って心配する非常に多くの親たちが子供に語るような、発達上のいち段階、フェイズでもない。実際、あたしが隠れて母のドレスを着てみたのを見つけた母は、あたしにそう言った。フェイズと母は言った。これはフェイズだと。

でも、フェイズというのは、やがて消え去るもの。だけど、自分は間違った肉体を持ってしまっているというあたしの確信は、消え去らなかった。それに、その確信はあたしに重くのしかかった。あたしは、あまりに場違いな感じを抱いた。ふたつの世界、ふたつのアイデンティティに挟まれ身動きが取れない状態。自分が望むことは分かっている。でも、それは否定されている。あたしはどうしてそんなことを望むのだろう、どうしてあたしはそんな姿になりたいと思うのだろうと、自分を恥じた。そして居場所が違うと言われてきた多くの人々と同じように、あたしも、自分の悩みを自分の手で終わらせようとした。

自殺。それはとても不思議なこと。一方では、自殺は信じられないほど恐ろしいこと。死んだ後、どうなるのかが分からない。無限に広がる暗黒の世界、何ら存在物がない世界のフェイズ。死後の世界。これは恐ろしい。でも、もう一方では、嘘をつきつつ自分の人生を、これ以上、さらにもう1分でも生き続ける。これは、あたしにとっては、もっと恐ろしいこと。

よく言われることに、ある人が自殺をしたいと思ったら、その人は、目的を達成したも同然という発言がある。自殺を試みることは、自分に注目してと叫んでるにすぎないのだと思っている人が多い。体験者だから言えるけれど、それは正しくない。あたしは自殺を試みた。そして失敗した。けれど、その後も自殺を試みた。失敗を繰り返すと、より醜い形で影響が出てくるものだと思う。

突然の閃きのことを言う人の話しをよく聞く。すべてのことが一瞬に分かったと思う「ユリイカ!」の瞬間。たいていの人はそんな話を無視するけれど、あたしも、同じくそれを無視していた。でも、自分は自殺する必要なんてないんだと分かったのは、最後に自殺しようとした後、胃腸洗浄を受けながら病院のベッドで横たわっていた時だった。自殺のほかにも道がある。大変そうなのは分かる。それに友人も家族も失うことになるのは確か。でも、落ち込みと自己卑下のジャングルから抜け出し、幸せへと至るためには、それしか道がないと言えた。

その翌日、あたしは、あるセラピストに会い、その人の導きで、あたしは、自分自身のアイデンティティを実現する道を歩み始めた。

いま、あたしは寝室にいる、あたしのゲストであり、あたしの唯一の友である人が、今か今かと待ちながら叫んでる声が聞こえる。それを聞き、このままクローゼットに引き下がることなどできないと思う。「男性用」の服を着るなどできない。これからも影の世界に隠れ続けるなど、やってはならない、と思う。

ドアノブを回し、ドアを開け、前に進んだ。素っ裸で。隠れることなどできない。これが本当のあたし。あたしのこれまでの現実の人生、何も隠すことなどない。気が狂ってるし、変態じみている。それは分かっている。でも、それはあたしにとって、どうしてもしなくてはならなかったこと。

「ねえ、聞いて!」 部屋の入口に立ち、あたしは言った。「みんなに話したいことがあるの……」



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