
68_Focus 「集中して」
「あら、いつ来てくれるのかって思っていたところよ」
「こんなことは続けられない。私は、これを続けることはできないよ」
「いいえ、できるわ。あたしはそれを求めてる。あなたも本当は求めてる。重要なことは、それだけじゃない?」
「でも、私には妻がいるんだ。子供たちもいる。それに、ああ、キミは私の歳の半分にもなっていないんだ、コーリー」
「それに、あたしはあなたのお嬢さんの彼氏だったしね? おちんちんもあるし、あなたはゲイではないし、本当は男の子なんか好きなわけじゃないって、そう言うんでしょ? そういう言い訳はもう全部聞いてきたわ、トム。でも、そんな理由、この前は問題にならなかったでしょ? 今もそれは同じだわ。それに、あたしたちふたりとも、これからもそれは問題にならないって分かってるんじゃない?」
「すまないって気持ちにならないかな? ローラは、いまだに君が戻ってきて一緒になれると思ってる。娘はキミがこの街から出ていないことすら知らないんだ」
「彼女には、ふたりの関係は終わったって言ったわ。いま彼女が信じてるのは、ビジネスのことだけ」
「でも、娘はどうしてそうなったのか知らないんだよ。キミのことについて知らないんだ……」
「あたしのどんなことについて? あたしたちが別れる2年近くも前から、あなたがあたしとセックスし続けていたということ? それとも、あたしが以前のあたしとは姿がちょっと変わってしまったということ?」
「キミはちょっと変わったどころじゃない」
「そして、あなたはあたしの今の姿を好きでいてくれている。あなたは、あたしがローラのパンティを履いているのを見つけた瞬間から、あなたはあたしに夢中になった。それを認めて。そして、それを喜んで。受け入れて。人生は、あなた自身が望むことを自分で否定したりしなければ、もっと楽しくなるものよ」
「キミは、すべてについて答えを得ているんだね?」
「あたしは自分が欲しいものを知っているだけ。あなたも同じでしょ? それを手に入れない理由はないわ。さあ、あたしのところに来て、あたしにセックスする? それとも、いつまでもジクジクしているつもり?」
「それについても、キミは答えを知っているようだね」
「じゃあ、もう黙って、あたしを抱いて」

68_Finishing the deal 「約束の完了」
「見て? できるって言ったでしょ?」
「見事だわ。感動してるって認めるわよ、アレックス。ここまでになるなんて思っていなかった」
「じゃあ、清算する時が来たってことよね? まずは、ボクとキミのふたりでお食事に行くことを考えてたんだけど。それから、ボクの親が持ってる湖のほとりの別荘に行く。今は誰もあそこに行かないから。ボクたちふたりっきりでいるときに他の人に邪魔されるの嫌だし」
「いや、ちょっと、そんなに急かさないで。感動したとは言ったわ。でも、完了したとは言ってないわよ」
「どういうこと? キミ自身が言ったことだよ。ボクは指示されたことをミスなくこなしてきたよ。この夏ずっと、キミがボクに命令したことをすべてやって過ごしてきたんだよ。こんなバカっぽいレオタードを着てきたし、一生懸命に練習してきた。髪の毛も伸ばしたし、ダイエットまで始めてる。ゲインズコーチは、ボクがこんなに体重を減らしてしまってカンカンになると思う。でも、これは約束の一部だから、してきたんだよ。ボクがバレーを習ったら、キミはボクと寝てくれるって。それが約束だよね。なのに今になって、尻込みするわけ?」
「まず、あたし、あなたとデートするとは言ったけど、それを、あたしたちが一緒に寝ると思い込んだのはあなたの方よ。でも、それは構わないわ。してもいいわよ。あなたと一緒に寝てあげる」
「ありがとう。こんなこと言うの嫌だったんだ」
「もし、あなたが約束を最後まで成し遂げたら、ね」
「え? どういうこと? ボクは完了したよ。キミもそう言ったじゃないか!」
「あたしが言ったのは、あなたがあたしの指示を完璧にやってきたということだけ。完了したとは言ってないわ。バレーのことは、演技することを言ってたの、アレックス。演技するには観客の前で踊ることが必要だわ。それが、リサイタル」
「り、リサイタル? 何を言ってるの?」
「あなたをダンス・スタジオのリサイタルに登録しておいたわ。ステキじゃない? みんなに、あなたがこの2ヶ月間にどれだけ努力してきたか、見せてあげることができるのよ?」
「で、でも、ボクにはできないよ……みんなの前でなんて……いや、できない。できないよ、サンディ。この夏ずっと、ボクは必死になって、このことを親から隠してきたんだよ。パパはボクが病気になったと思ってるんだよ。こんなに体重が減ったから。それにママも、しょっちゅう、髪を切りなさいってうるさいんだよ。それに、キミがボクに履かせ続けているパンティのこと、姉に見つかってしまったんだよ。それも加えたら、どんなことになるか……」
「別に、あたし、あなたに何か強制したことないわよ。レオタードの下にトランクスを履いてもよかったのに。まあ、バカっぽく見えるでしょうけど」
「でも……」
「これは約束よ、アレックス。あなたはリサイタルに参加する。そうすれば、あなたは望んでることをできる。もし、参加しないなら……まあ、あたし、ステージに上がるのを怖がるような男の子とデートするなんて、あんまり考えられないわねぇ」
「何人くらい観に来るの? ボクを知ってる人も来るの?」
「大丈夫。ステージからは客席は暗すぎて見えないから。それに、誰もあなただって分からないと思うわ。みんなにとっては、あなたは、可愛いバレリーナがいるなあとしか見えないから」
「本当?」
「絶対よ。だから、参加してね」
「わ、分かった。でも、何かマズいことになったら……」
「そんなことないから! 大丈夫。素晴らしい結果になるはずよ。ねえ、リサイタルであなたが着る可愛いコスチュームを持ってきてるの。見てみて。それを着たら、あなた、すごく綺麗に見えると思うわ!」