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Just a job 「ただの仕事」
「頼むよ、カレン。これはただの仕事だよ。キミが、この件について、どうしてそんなにアバズレっぽくなるのか分からないよ」
「アバズレっぽくなるって言ったら、あなたの方じゃない? そんな姿になって」
「マジで言ってるの? 大人になれよ。ボクは仕事が必要だった。そしたら彼らが雇ってくれた。そして今ボクはかなりおカネを稼いでいる。どうしてそんなに大問題なのか分からないよ」
「本気で? 何も見えてないの? んもう! あんたって、時々、ものすごく世間知らずになるわよね。ていうか、鏡を見て、それでも自分は本物の男だって気になれるか言ってみてよ。さあ、さっさと見てみなさいよ。待ってるから」
「そんなこと言って、頭が悪そうに見えるよ、カレン。本当に。ボクは仕事のためにこういう姿にならなくちゃいけないだけじゃないか」
「まさにそこが問題なのよ、トレント。それともあの人たち何て呼んでいたっけ? ジャスミン? バカみたい。あなた、女のような服装しなくちゃいけなくなっているのに、まるで他の普通の仕事と同じだと言わんばかりの態度をしてる」
「だって他の普通の仕事と同じだもん。演技をしてるようなものだよ」
「って言うか、今あなたが言った言葉だけでも、たくさん間違いが含まれてるわ。もし演技なら、あなたが毎晩男たちにお酒を給仕してるのに、あたしがちょっとエッチな気分になると、ムキになって拒否したりしないんじゃないの? もしただの演技なら、今のあなたのヒップがあたしのヒップより大きくなってるわけがないじゃないの。それに、トレント、あなたおっぱいが膨らんできてるわ。こんなことになっててもあたしは構わないとでも思ってるの? あたしに何もかも普通だとみなしてほしいと本気で思ってるの?」
「第一に、お触りは禁止されてるんだよ。お客さんは全員それを知ってるよ。第二に、キミがボクの体について辱めるようなことを言ってるのが信じられないよ。そういうこと言うのって、人としてどうなのかな? 胸のことは、ちょっと太ってきてるんだ。そのせいなんだよ。ボクにはどうしようもできないよ。ボクは……」
「ちょっと太って? あなた、体重減ってきてるわよ! その部分だけ太るなんてあり得ないわよ。っていうか……」
「ボクは変わった体形なんだよ。ずっと前からそうだったんだ。だから、そのこと毎日いちいち指摘しないでいてくれるとありがたいな」
「でも、トレント。どうしても気づいてほしいのよ……」
「ちょっといい? もう、この件についての言い合いはお終いにするよ。時々、キミとの関係から何か得るものがあるのかなって疑問に思ってるんだ。だって、キミはしょっちゅうボクをけなすんだもん。ボクの欠点を指摘してばっかり。それに、キミは、ベッドでも、ボクが提案する楽しいことを一緒にしてみようって気すらないでしょ? キミは、ボクとの関係を育てることについて、自分から進んでサボってるような感じだよ」
「ベッドでの楽しいこと? あのストラップオンのこと? それとも、あなたがやってみたいって言ってた3Pのこと? あたし、そういうこと……そういうタイプのライフスタイルはちょっと嫌だなって思ってるだけよ。あたしは、ただ、昔のようにあなたと付き合いたいだけ。お願い、トレント。あたしはただ……」
「もう事態は変わったの。受け入れられるかどうか考えてみて。もしダメなら、ダメでもいいの。その時はあたしたち別々の道を進みましょう。あたしは望んではいないけど。あなたも、そんなことを望んでいないといいけど。でも、ともかく今は、もう仕事に行かなくちゃいけないのよ。仕事から戻ったら、もう一度話し合いましょう。あなたがどうしたいか、あたしに聞かせて」
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Real life 「現実の生活」
間違っていると分かっている。ずっとずっと前から分かっていた。もっと言えば、最初から。でも、彼の腕に包まれるたび、彼に、本当の女のような気持ちにさせられるたび、そういった思いは、粉々になって風に散り、その代わりにはっきりとして混じり気のない切ない欲求がとって代わって心の中を占めてしまう。そして、そういう自分が憎らしい。
そんな切ない気持ちが一番はっきりするのが、彼の大きな男性自身に完全に満たされる時、そして絶頂に達してしまう時。彼はあたしの両脚をしっかりと抱え、あたしの体を持ち上げ、出し入れを繰り返し、やがて、あたしの喜びの叫び声に、彼自身の切羽詰まった絶頂の唸り声を加える。そして、あたしが、比喩的な意味でも文字通りの意味でも、彼という男性に、そしてあたしの欲望の対象物である彼のモノに満たされると、あたしの自己嫌悪感は一時的に後ろの席に引っ込み、欲望に前の席を譲ってしまう。
しかし、その情熱がやがて完全に消え去り、彼があたしの体を床に降ろすと、自己嫌悪感が一気にあたしに襲い掛かってくる。激しく動いた後で息を切らしながら、彼の樹液が早くも漏れ始めてるのを感じながら、あたしはすすり泣きを始める。
「こういうこと、もう続けられない」とあたしは呼吸を乱しながらつぶやく。「あなたも知ってるはず」
「どうして?」 と彼は何でもないことのように訊く。彼はすでになん百回もとは言えないものの、何十回もこの質問を繰り返してきた。そしてあたしはこの時も同じ返事をする。
「彼女が知ったらどうするの? みんなにバレたら? あたしはすでに変身を進めているの。彼女はすでにあたしの胸を見ているわ」
「彼女と別れるんだ」 これが彼の返事の典型。「キミは彼女を愛していない。僕には分かる。僕たちは一緒になる運命にあるんだよ」
「あ、あたしにはできない……」と恥ずかしさにうなだれた。どれが悪いのか分からない。彼女と別れたい、どんなことよりそれを望んでいる。でも、どうしてもそうすることができない。自分にはどっちが良くないことなのか分からなかった。「彼女と別れられないのはあなたも分かってるのに。あたしには彼女との生活があるの。だから……」
「そんなこと隠す必要はないんだよ」と彼はあたしに手を差し伸べた。「彼女と別れれば、僕たちは大っぴらに一緒でいられるんだよ。こそこそ隠れて付き合うこともなくなる。キミも無理して男の言葉使いをしなくてよくなる。恥じ入ることもなくなる。僕はキミを愛しているんだ」
「あ、あたしもよ……で、でも……でも、ダメなの。できないの」
こういう会話はお馴染みで、ふたりで密会を始めてからの2年間、何度も繰り返してきた会話だった。でも、何度話し合っても事実は変わらなかった。あたしは妻を持つ男。女性になり切る能力があっても、体も女性化してきていても、女性でないことに変わりはない。そして妻と別れるのは問題外だった。本当に。
だから、あたしは、無言のまま、立ち上がった。そしてウイッグを引きちぎるようにして脱ぎ、バスルームへと引っ込んだ。そうやって、ボクは、ボクの現実の生活に戻る準備をするのだ。あるいは、本当は、架空の生活に戻る準備なのかもしれないが。
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