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報復 第1章 (2) 

スティーブは、気を紛らわすため、何かすることが必要だった。そこで意志に反し、新聞をめくり、上段に大きなCの字が出ている部分、つまりセレブ(cerebrity)たちの記事を載せた部分を開いた。最初のページの折り畳みの下には、ある地元の社交界の名士の邸宅で撮影した一連の写真が載っていた。1つ目の写真は、そのイベントの開催者を写したものだった。明らかに肥満の男で、面白くもなんともない。実際には5キロほど太りすぎなのだろうが、この写真だと25キロか30キロ太りすぎのように見えてしまうと彼は思った。スティーブは、できるだけ寛容に見てあげようとしていた。

2枚目も太った主催者の写真だったが、その彼の背後、脇のところにスティーブの妻がはっきりと写っていたのだった。カメラマンの位置から離れたところを歩いている姿だった。だが、彼女は独りではなく、連れの男に頭を傾けながら歩いている。顔には幸せそうな、いやむしろ敬愛しているような表情を浮かべていた。スティーブは怒りがこみ上げてくるのを押さえ込もうと、ぐっと歯を食いしばった。もっと目を近づけて写真を見る。

もう1つ問題があった。大きな問題だ。写真の中、男の左腕がある角度で下に降りている。この写真は修整されているように思った。仮に修正されていないとすると、男の手はバーバラのお尻を触るのにちょうど良い位置にあることになってしまう。妻は微笑み嬉しそうな顔をしている。ということは、彼女は、この体の不正な接触を喜んでいるということなのか?

スティーブの世界が薄暗い世界に沈み込んだ。何の警告もなく、彼はいまだ経験したことがない暗闇の世界に突き落とされたのだった。感覚が麻痺した。自分の手の感覚がなくなる。まるで死んだ人間の手のようだ。新聞が指から離れ、落ちた。新聞を持っている力さえなくなっていた。彼の周囲の光景がぼやけてきた。目にじんわりと涙が溢れていた。

考えることもできなくなっていた。脳内で何も処理されていない。視点を定めることなく、彼はぼんやりと、部屋の中、彼の直前の空間を見ていた。彼は自動操縦状態になっていたと言ってよい。思考もせず意識もはっきりせず、ただ胸の辺りに何かしこりが生まれてくるのだけを感じていた。