「報復」第3章 Chapter 3 - Last Week of June
6月第4週
あの土曜日の後の週末は静かだった。翌日曜日、スティーブは、庭のデッキの仕上げとジャクージの清掃をして過ごした。そのように忙しく雑用をすることで、物思いに沈むことなく過ごせたし、そもそも家の雑用が片付いていくという利点もある。
日曜日の夕方、彼は、バーバラの荷物をいくつか、彼女の両親の家へ運んだ。彼らは、土曜日に来たとき、荷物を持ち帰ることを忘れてしまったのである。
その家には誰もいないようだったので、スティーブは、箱を車から降ろし、ガレージのドア前の通路に積み上げるだけにしてきた。スティーブは、荷卸を終え、車で帰るとき、通りの先の角をロイドの車が曲がってくるのを見たような気がした。本当にロイドの車かどうか確かではなかったが、彼は気にしなかった。
その週の火曜日までには、バーバラの両親も、自分の娘が行った不実に関する映像証拠を見たショックから立ち直っているように思われた。スティーブは、電話の呼び出しが再び始まったのを受けて、そう推測した。火曜日の午後、バーバラから3本電話の呼び出しがあり、彼女の両親からそれぞれ1本ずつ呼び出しがあった。スティーブは、バーバラからの電話は無視したが、ロイドとダイアンからの電話には、折り返し返事をした。
水曜日になると、電話の数は2倍に増えた。そして、木曜日、スティーブが帰宅すると、18本のメッセージが彼を待っていた。この他にも、彼は携帯電話の方にも2本ほど呼び出しを受けていた。携帯の番号にはかけないでくれと頼んでいたにもかかわらず、である。
電話やメッセージの内容はおおむね同じだった。バーバラが、彼を裏切ったことを心から悔やんでいるということ。スティーブが写真やビデオの価値を誇張しているということ。そして、どうかお願いだから、みんながこれまで通りにやっていけるように、バーバラが行いそうになっていたことを心の中に留め、許してあげられないか、という懇願。
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「スティーブ?」
「ああ、義父さん」
スティーブはうんざりした声で答えた。携帯電話が鳴ったとき、相手の番号をチェックせずに反射的に開けてしまったのである。その時にはすでに遅く、彼はうんざりしてしまった。誰からの電話なのかを知っていたら、決して出なかったのに。
僕はブレンダに跳ぶようにして抱きつき、激しくキスをした。感触も香りも素晴らしい。僕の興奮は伝染性があったようだ。妻の喉奥から小さくあえぎ声が漏れるのを聞こえたからだ。長々とキスを続けた後、ようやく僕はブレンダの柔らかく肉感的な唇から唇を離した。
「わあ・・・こういう服を着るとあなたがこんな風になると分かっていたら、ずっと前からこうしていたと思うわ」
僕は大喜びだった。ブレンダはすでに気持ちをほぐし始めているようだ。僕は気持ちを込めて妻の体を抱きしめた。彼女の大きな乳房が僕の胸板に押し付けられる感触が大好きだ。いつもブレンダが着る服装だと、彼女の体の曲線を隠し、一種、効果的な緩衝装置として働く。ともかく、いま着ている服装のレースの感触が気持ちよかった。僕は、いったん引き下がり、美しい妻の天使のような顔を見つめた。
「ねえ、先に下に降りて、バーで僕を待ってくれないかな。僕は5分位したら行くよ。そういう風にすれば、僕たちは見ず知らずの間柄であるように振舞うことができる。僕は、君を口説いて、僕の部屋に連れてくる。そういう風にしたいんだ」
それを聞いていたブレンダの唇がゆがみ、笑みに変わった。
「トム? あなた、私をすごくエッチな気分にさせてるわ。困っちゃう。・・・でも、私、独りで下に行けるか分からないわ。とてもドキドキしてるの」
僕は答えを知っていたが、あえて訊いた。
「エッチな気分と、ドキドキした気分、どっちが大きいのかな?」
ブレンダは、小娘のようにくすくす笑い、僕の頬に、頬を擦りつけ、僕の耳に息を吹きかけるようにして質問に答えた。そして、ふいに向きを変え、何も言わずにドアへと向かった。
「部屋の鍵を忘れないで!」
僕が呼びかけると、ブレンダはハンドバックを軽く叩いて見せ、ドアを出て行った。
可愛い悪魔め。ブレンダは、最初から、独りで出て行くつもりだったんだ。妻は、かなり、気持ちをほぐしている。今夜は、ちょっとした夜になりそうだ。
ブレンダが出て行った5分後、僕も部屋を出た。エレベーターを降り、ロビーの前を通って、バーに入った。僕は、5分前の光景を想像した。僕のセクシーな妻が、このフロアを颯爽と歩き入った時の様子を。
バーは薄暗かったが、少し経つと、目も慣れて、歩くのに困らないくらいは見えるようになった。右手に進んだが、ブレンダの姿はなかった。そこで戻って、左手に進んだ。そしてようやくブレンダがバーのカウンターに座り、コーラを啜っているところを見つけた。ブレンダはアルコールは飲まない。突然、隣のスツールに座る男が、彼女に話しかけるのを見て、驚いた。僕は、妻のところに近づくのを少し待とうと思った。男との会話を終えるまで、待ってあげたいと思ったのだった。だが、奇妙なことに、すぐに終わると思った会話は、5分近くにまで続き、妻の方も会話をやめようとする素振りを見せないのだった。実際、ブレンダは、自分の座っているスツールの向きを、少し、男の方向へ回しさえしている。