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報復 第8章 (2) 


「え? 車、何かあったのか?」

と訊いたスティーブだったが、バーバラが現れたことによるショックで声が上ずっていた。そもそも質問するつもりはなかった。まるで、無理に引っ張り出されたかのように、問いかけてしまったのだった。

「いや、別に。今夜はタクシーを使うのがベストだろうと思っただけ」

スティーブはうろたえながら頭を振った。バーバラはここに来るはずじゃないのだ。彼女の妹に自分がしたことに怒りまくって、もう2度と自分と同じ部屋にいることすら考えたくないと思うはずだったのだ。口をきくことすら嫌悪するはずだったのだ。こんなはずがない。

「どうしてここに? 何で、君は・・・」 

「家にいて、ママやパパと一緒にいないのか、って? それに妹とも一緒にいないのかって?」

その時になって初めてバーバラはスティーブに顔を向けた。怒りに満ちた顔をしていると思ったのに、平然とした表情をしている。

「ああ・・・どうして、ここに?」

「他にどこに行くって言うの?」 バーバラは楽しそうに返事した。「私は夫のもとにいるべきなんじゃない? そうでしょう。良かれ悪しかれ、一緒になった男のもとにいるべき・・・そうじゃない?」

スティーブは顔を背けて、椅子のクッションの中に身を沈めた。そして呟いた。

「あの日、君が言った他のことは何も気になっていないようだな」

だが、その言葉には、心がこもっていなかった。このような展開は、計画したのとは異なっていた。彼は、バーバラが頭を振るのを見て、さらに驚いた。

「私が滅茶苦茶なことをやったのは確かだわ・・・でも、それについては私に仕返しをしたでしょう? そうじゃない?」 

バーバラは落ち着いた言葉で付け加えた。「これで、この件を全部片付けて、元の夫と妻の関係に戻れるんじゃないかしら?」

スティーブは唖然とした。文字通り、言葉が出なかった。ここにいる女は、夫が、この何週間か週末を、自分の妹とセックスして過ごしてきたことを考慮に入れ、落ち着いた話し合いで解決するのではなく、その事実をてこに鞭打ってやろうという気になったのだろうか。スティーブの方は、すでに心の痛みは消えていたと感じていた・・・だが、バーバラが言うことも正しい。今や、心の痛みはおあいこになっているのだ。そもそも、彼女が痛みを感じていると仮定してのことだが。

いや、痛みは感じているのだろう。その様子は見て取れる。バーバラは感情をコントロールし続けていたが、心痛の状態は、目の表情や、張りのない口元、額に浮かぶしわに現れていた。

大型のデスクの向こうから、遠慮がちに咳払いをする音を聞いて、スティーブもバーバラも、この場にいるのは自分たちだけではないことを思い出した。二人とも同時にカウンセラーの方に顔を向けた。

「どういうことか、お聞きしてもよろしいですかな?」

「あら、スティーブはまだ話していなかったのですか? 彼は、この何週間か週末を私の妹とセックスをして過ごしてきたんです」 バーバラは、平然と、あからさまに言ってのけた。

スティーブはたじろいだ。こんな言い方で事情を話すのは、全然よくない。ヒューストン氏は、即座に姿勢を正して座りなおした。

「妹さんはお幾つで?」

「次の金曜に19歳になります。・・・満19歳に」

ヒューストン氏は強張った顔をした。スティーブを睨みつけることはしまいと堪えているようだった。そして、厳格な声でスティーブに向かって言った。

「カーティスさん。こんなことはまったく何ににもならないことだ。復讐については離したはずです。仕返しは決して答えにならないと・・・この点については同意したはずですぞ。まったく、全然、理解できない!」

「彼女の方から誘ってきたんだ・・・」スティーブは弱々しく反論した。「僕からではない・・・」

「そんなことはほとんど関係ないのですよ、カーティスさん。あなたは大人です。若い、感受性が強い女性とそういう行為を行うべきではないと、しっかり分かっているべきでしょう! それに・・・」

「いえ、実際は・・・」とバーバラが口を挟んだ。

「・・・感受性が強いと言う言葉で、『うぶな』といった意味を含意しているとしたら、それは・・・何と言うか・・・スティーブが私の妹としたことには関係ないんじゃないかと・・・」

ヒューストン氏はまばたきをした。どういう意味なのか分からなかった。

「妹のキンバリーは、コカインと他に2種類の薬局処方の薬物の中毒なんです。ヘロインにもちょっと手を出している・・・」

バーバラは、すらすらと話し続けた。

「・・・それに、彼女は、この4年間に、覚えているだけでも76人の男と関係を持ったこと、それから16人から20人くらいの女性や彼女と同じ年代の女の子と関係を持ったことを認めているんです」

ヒューストン氏はあんぐり口を開けてバーバラを見つめていた。30年近く、家族のカウンセリングを続けていたが、何を言ったらよいか、さっぱり分からなかった。

[2008/10/16] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)