指には、それまでよりもずっとたくさん精液がついていた。指を口に入れた後、舌でこね回すようにして味わった。思ったより濃厚な味がして驚いた。舌を口の中の天井部分に当てて、こねるようにして、香りを鼻に抜けるようにさせた。 この味、好きだった。嘘を言っても始まらない。悪い味じゃないわ。 口の中のモノを飲み込んで、また指を身体に戻して、さらに新しいのをすくった。何を口に入れてよくて、何がいけないかなんてすっかり忘れ、今は、これを味わうことを純粋に楽しもうと決めた。どうせ、誰にも見られていないし、構わないと思った。 じゃにむに指で精液をすくっては、口に運ぶ。口の中、まだ味わってる最中でも、指を身体に戻し、新しいドロドロを探し、すくい取っていた。おへその水たまりからも、おっぱいからも、さらにはおちんちんの先端にも指を伸ばして、すくい取り、口に運んだ。 香りも味もすごく魅惑的だった。うまく言葉で説明できない。それに、興奮させるものでもあった。その存在を無視しようと頑張っていたけど、生温かい精液を飲み下せば、飲み下すほど、あたしのおちんちんは固くなっていった。そして、気がつくと、またも勃起して直立していた。 唇のところはヌルヌルまみれだったし、ほっぺたにも少しついていたけど、身体に目をやったら、テカテカに光ってはいたものの、いつの間にか、白濁はすっかり姿を消していた。知らぬ間に、全部すくって食べてしまったのだ。どんだけ食べたか、自分でも分からない。よっぽど、気が狂ったように貪り続けていたのだろう。 ペニスが疼いていたし、触りたいと思う自分もいたけど、最後の数滴を飲み下すと、突然、何だかおどおどした気持ちに変わってしまった。それに、身体のベトベト感が急に気になってくる。 「シャワーを浴びなきゃ」 自分におちんちんができていたこと、生れて初めてのペニスからのオーガズムを感じたこと、そして……自分が出した精液を食べたこと。そんな興奮が治まっていくのに合わせて、不思議と無感覚になっているのに気がついた。ついさっきまでおちんちんのことが気になっていたのに、射精をし、後始末を終えると急に無関心になる。男の人ってこうなのか? でも、味や匂いはまだ残っていて、その点でのドキドキ感はまだ残っていた。 ベッドを汚す心配がなくなったので、立ち上がった。大きなおっぱいがぶるんぶるんと揺れる。それと同じように、勃起状態のおちんちんもぶるんぶるんと揺れた。それを見て、ちょっとたじろいだ。 でも、今日はこのおちんちんのことは無視しようと決めた。もう、おちんちんについては充分遊んで楽しんだし、そもそも、こんなモノがあたしの身体にくっついてること自体、決して、正しいことじゃないのだ。今日は、この後は、いつも通りの生活をして、その後、リリスに取り除いてもらうよう頼もう。それで、この件は一件落着。 そう心に決めただけでも、ずいぶん気休めになった。いつか後になって、このことを思い出し、あたしは、そんなこともあったわねと大笑いするはず。それから、誰か彼氏を見つけよう。だって、アノ味、もっと味わいたいから。 そのように、おちんちんのことはさしあたり無視しようと決め込んだものの、たったひとつ問題があった。前にも言ったように、この大きなおちんちんが勃起していること。 もう、コレのことは考えまいと決めたのに、まだ勃起したままだ。勃起するなと思えば思うほど、逆にいっそう勃起してくるみたい。 椅子に掛けてあるタオルを掴んで、胸の周りを包んだ。大きなおっぱいのおかげで、胸のところ、タオルが大きく盛り上がって見えるのに、その胸の谷間の向こうに、もうひとつ大きな盛り上がりが見えて、がっかりする。ビーンっと突っ立ってるんだもん。 廊下に出てウェンディやウェンディの友だちに出くわしたらどうなるか、想像すらできない。あたしは部屋の中を見回し、テレビのリモコンとiPodを入れておいたバスケットを見つけた。それを取って、股間の前に被せた。どうして変なところにテントができてるのかを説明するよりも、どうしてバスケットを持っているのかのほうが説明しやすいから。 部屋のドアを開けて、首を出した。家の中は静かだし、誰もいない感じ。素早く部屋からバスルームまでの数メートルをダッシュ!! バスルームに入った後、すぐに鍵をかけ、バスケットを降ろした。そして、ふうーっと安堵の溜息をつく。 タオルを剥いで、シャワールームに入ろうとした時、鏡に映った自分の姿が目に入った。長い髪、愛らしい目、張りのあるおっぱい、曲線美豊かな腰、長い脚、そしてビンビン跳ねてる大きなおちんちん。 どうしてだか分からないけど、ふと、思った。これらの部分部分が一緒に組み合わさった自分の姿が、何と言うか……いい感じだなと。こんな格好でも大丈夫なのと自分に問いかけたわけではない。ただ、自分の姿を見て、「これって、何だか、セクシー」と自然に感じたのだった。 でも、そんなふうに感じたと自覚してすぐに、頬が真っ赤になるのを感じた。恥ずかしくなって、あたしは鏡を見ないようにしてシャワーに飛び込んだ。 シャワーを浴び、髪を洗った。身体を洗う時、下を見ないようにしたし、ペニスも洗わなかった。シャワーのお湯をかけてれば充分清潔になるだろうと思った。依然として、アレは存在していないと思いこみ続けたのだった。 シャワーを浴びていたのは、ほんの数分。すぐに出て、身体を拭いた。意識的に鏡は見ないようにした。こんな姿をセクシーだと思った自分が恥ずかしかったし、そういう気持ちになりたくなかったから。 タオルを身体に巻いて、ドライアーで髪を乾かした。それを終えた時、ちょっとだけ下を見た。そしてビックリする。だって、まだあそこが勃起したままだったから。 まあいいわ、コレのことについて悩むのは自分の部屋に戻ってからにしよう。今日は日曜日だから、気になったら、部屋に閉じこもって、外に一歩も出なければいい。退学になってるんだから授業の心配もない。 バスルームのドアの鍵を開け、ちょっとだけ開けた。聞き耳を立てたが、やっぱり静かなまま。 あたしは素早くシンクに置いておいたバスケットを取って、ドアを開け、もう一度、外をチェックした。誰もいない。びくびくしながら、つま先立ちで部屋へと戻った。歩くと、乳房とおちんちんが同じリズムで上下に揺れるのを感じる。誰もいないのに、顔が赤くなるのを感じた。 そうして自分の部屋に戻り、ドアを閉めた。 「ふうーっ!」 ドアが閉まる音を聞きながら、安心して溜息をついた。安心すると、すぐにタオルが気になった。これを巻いてると、おちんちんにも乳首にも擦れて、妙に気になってしまう。あたしはタオルを剥いで、床に放り投げ、素っ裸になった。そうしてベッドに腰を降ろした。 両手を後ろについて、身体を支え、ベッドの端に座る。両膝は閉じていた。その太腿の間から、おちんちんがニョキっと突っ立っていて、その根元には睾丸がふたつ並んでいる。おちんちんは勃起したまま、あたしの顔を見つめていた。 ダメだ、この変な状況、シャワーを浴びても全然変わらない。 その時、何かカチャリと音がした。そして、あたしは全身に鳥肌が立つのを感じた。 部屋のドアに鍵をしてなかった! ドアが勢いよく開いた! 「ねえ、ラリッサ、ジーナが帰ったの。それで……え? な、何?」 ドアのところ、ウェンディが立っていた。目をまん丸にさせてこっちを見ている。 あたしは必死に枕を探し、身体の前に置いて隠した。でも、遅すぎた。ウェンディはあたしの姿を見た後だった! もう何も考えられない! 「あう……あわ……あう……」 それしか言えなかった。陸に上がった魚のように口をパクパクさせるだけ。 ウェンディは長い間、ただあたしを見つめてるだけだった。瞳がガラス玉みたいになっている。顔には、困惑した表情を浮かべている。 しばらくした後、ウェンディはようやく、自分が見た光景を飲み込んだようだった。気が変になりそうなのを心配してるかのように、部屋の中を見回し、何かに気づいたのか、急に後ろを向いて部屋のドアを閉めた。 彼女が後ろを向いた時、黄色いサンドレスの裾が舞い上がった。その時、スカートの下の、彼女の綺麗な長い脚が見え、あたしは奇妙な興奮を感じた。 ウェンディは、またすぐにこっちに振り返って、あたしのところに駆け寄ってきた。目がギラギラしている。顔には、こんなこと信じられないって表情が浮かんでる。 「ラリッサ、いったいどういうこと? 本当に、どういうことなの?」 彼女は完全にショックを受けてる感じだった。あたしの真正面に立って、あたしのおちんちんを見おろしていた。 「あたしは……あたしは……」 何か言おうとしたけど、何を言ったらいいんだろう? こんな状況に備えることなんて考えていなかった。 「こんなことおかしいわよね。何と言うか、これってあなたの身体なわけないんでしょ? これまでも、バスルームとかで、あなたがドアの鍵をかけ忘れてて、あたしがあなたが着替えてるところに入ってしまったことが何度もあったわ。そんな時、あなたの身体を見てるもの。あなたにコレがついてたりなんかしてなかったのは、ちゃんと知ってるもの。あなたは……何て言うの? シーメール? そんな人じゃないこと、ちゃんと知ってるもの。いったい何が起きてるの?」 ウェンディは、このここまで全部、一息で言った。頭に浮かんだことを全部、そのまま口に出しているのは明らか。 あたしは、おどおど、ドキドキしてて、身動きできなかった。それにウェンディにこんなに近くから見られていて、恥ずかしすぎる! 彼女は、その後もいくつかわけのわからないことをしゃべった後、しゃべるのをやめて、あたしの顔を見た。 「あたし……、あたし……」 また話しだそうとしたけど、話しが出てこない。こんな最悪の悪夢、ありえない! もともと、ひと付き合いが苦手で、それに不安を抱えていたというのに、その不安感がいっそう強化されてしまう。だって、ルームメイトがいきなり部屋に入ってきて、女の身体のはずのあたしに巨大なペニスが生えているのを見られたんだもの! ああ、もうお終い! 「どこか悪いの? お医者さんに行く? それとも……これ、意図してしたことなの? ラリッサは、男か何かになろうとしているところなの?」 「違うの、あたし……」 返事しようとしたけど、ウェンディは話しを続けたままだった。 「でも、だったらどうして豊胸手術をうけたの?」 と彼女はあたしの胸を見ながら言った。 「ラリッサの胸は小さかったはず。これ、本物じゃないわ。でも昨日は、あなたはワンダーブラをつけていなかったわ。ほんと、すごい胸! でも……もしあなたが男になろうとしているところだとして、どうして、こんな大きなおっぱいをつけてもらったの? 本当に、本物っぽく見えるわ!」 ウェンディの話しのスピードはますます速くなっていた。もう、話しながら、狂乱状態になっている。そして、あたしはと言うと、それに合わせて、ますますおどおどした状態になっていた。 こんな状況のもとでは、黙ったままでいることの方が、話すことより悪い結果につながると思った。今の状態だと、何にもならない! 「ウェンディ! ストップ!」 「あっ……」 ウェンディは夢から覚めたみたいに、頭を振った。そして、またあたしのおちんちんへと目を降ろした。でも、もうしゃべるのは止めている。 「ああ、えーっと、うーん……全部、説明するわ。だから、ちょっと落ち着いて」 ウェンディは素直に頷いた。 あたしはおちんちんに目を降ろした。あたしの身体の中で、唯一、女性的に柔らかくなっていない部分がココなのね。まだ、カチコチに勃起している。いったい、これからどう話したらいいだろう? 考えなくちゃいけない。 ウェンディには疑問に応えると約束してしまった。どう言ったらいいだろう? このおちんちんをつけてもらうよう、悪魔に魂を売ったなんて言えっこない。たとえウェンディが悪魔の話しを信じてくれたとしても、どうして、こんなおちんちんを願ったのか、その理由を知りたがるだろう。 手術を受けたみたいな角度から話しても、やっぱり同じ問題にぶちあたる。加えて、ウェンディの言うとおり、ふたつの大きなおっぱいと、大きなおちんちん1本は全然、理屈が通じない。 胸が苦しくなってきたし、手に汗を握ってる。苦しい…まるで完全にアレになったみたいに。そう…… 「病気!」 そう叫んでいた。 そして我に帰って、一度、咳払いをした。 「……とても珍しい、先天的な病気。白人女性の35万人にひとりにしか生じない病気。さらに最悪なのは、その病気になっているかどうかは20代にならないと分からないらしいの。その病気にかかってるかを知りたければ、子供の時に遺伝子検査を受けなくちゃいけないんだけど、それって、とても高額なの。この病気のことを知ったのは、あたしの遠い叔母さんが、この病気にかかっていたから。でも、子供のころに遺伝子検査を受けた時、結果は、この病気にかかってるかどうかは50%だと言われたわ。だから、誰にもこのことは言わなかった。症状が出ないようにと、ずっと祈り続けながら、黙っていたの。だけど、最近……ウェンディも分かったように、症状が出てしまったのよ」 これまでの人生で、こんなホラ話をスラスラ言えたことは一度もなかった。今の話し、筋が通っているかどうかも分からなかった。ただ、話し始めたら、スラスラと出てきた。あたしは、ウェンディに見えないところで、指をクロスさせた。 何秒か、ウェンディはただ茫然とあたしを見つめたままだった。でも、その後、急に瞳の表情が柔らかくなった。 「それじゃ、それって……医学的なことなのね?」 あたしは安堵してホッと息をついた。どうやら、信じてくれたみたい。それに、何か恥ずかしい病気の状態になったとして、ルームメイトになら、それを秘密にしてくれるよう頼むことができるはず。そうよね?
第3章 キンタマ 翌日、日曜日。あたしは昨日の朝よりはちょっとだけ早く目が覚めた。でも、この日も、ぐったりした目覚めだった。昨日は二日酔いのような感じだったけど、今朝は寝すぎた感じの目覚め。 目を擦って頭を振った。昨日の朝とは違って、朦朧とした感じはなかった。昨日の夜に起きたことはすべて明瞭に覚えている。リリスが来たことも、ふたつ目の願い事をしたことも。 堂々と肝が据わった性格になっているのか、ウェンディに会ってみようかとか、街に出て誰かに話しかけてみようかとか思った。テストしてみたかった。 でも、自分が本当にそういうふうに性格が変わったのか……「キンタマ」がついた感じの堂々とした性格になったのか、自分でもよく分からなかった。 いつもと変わらない感じ。試すためには、他の人がいるところに行かなければならないのかもとも思った。 毛布を腰のところまでめくって、ちゃんと胸があるのを見て嬉しかった。まだ、たったの二日目だけど、やっぱりこの胸が大好き。とても綺麗。しかも、またジンジン痛み始めている! 昨日、自分のおっぱいを吸ったときの快感が大好きだったし、もう一度、して見たいと思った。今度はフィニッシュのところをリリスに邪魔されないだろうから。 自然と笑顔になって、身体をベッドの背もたれにズリ上げて、首を前に倒す姿勢になった。多分、これから毎日、これをすることが毎朝の行事になるだろうなと思った。 片方の乳房を持ち上げて、小さなピンク色の乳首を唇のところに引っぱり上げた。前よりも今回は楽にできた。どうすればよいか会得したから。繰り返すうちに、どんどん楽になっていくだろうと思った。 固くなった小さな突起を口に押しつけた途端、ゾゾっと電流が身体を走り、ぶるっと身体が震えた。目を閉じて、その快感を味わう。乳首を吸い始めると、すぐに濃いミルクがあたしの口の中を満たし始めた。 「ああ、いいわぁ!」 乳首を咥えたまま、思わず声が出てくる。自分の身体がこんなに美味しいモノを産出するなんて! その甘さを堪能した。 そして飲み始めると同時に、身体の奥から、あのじんじんする疼きが湧きあがってくる。オーガズムに徐々に登りつめて行く、あの疼き! ゆっくりと安定したリズムでおっぱいを吸い始めた。ミルクが乳房から出て、喉の奥へと流れ、そこを通って行く感覚を味わう。 昨日と全然変わらない強烈さ! 最初はゆっくりとしたペースで行こうと思っていたけど、やっぱりそれでは我慢できなくなっていった。吸えば吸うほど、もっともっと欲しくなり、だんだんスピードが上がっていく。気持ちの上ではゆっくり味わいたいと思っているのに……。 そして、何分もしないうちに、片方の乳房が空っぽになってしまった。でも、あたしは目を閉じたまま、高まった興奮が鎮まる前に、素早く空っぽになった乳房を離して、もう一方の乳房を唇に押しつけた。慣れた調子で吸い始めると、すぐに温かくて美味しい液体が口の中に溢れてくる。 こちらも、最初はゆっくりと、優しく、そして一定のリズムで吸い始めた。味が前より甘さを増してる感じがした。糖分が最後の一滴まで行きわたっている感じ。 自分の乳房を口に咥え、ミルクを吸いながら、あたしは、ああん、ああんと声を上げ、ベッドの上、身体を自由気ままにクネクネさせ悶え続けた。心臓の鼓動が速くなってるのを感じた。あそこの方でも快感を得たいと思った。 ベッドの上、ちょっと姿勢を整えようと動いた時だった。何かいつもよりパンティがキツイ感じがしたのだった。どうしてそんな感じがするのか分からなかった。それが気になって、思いっきり絶頂に登ることができない感じ。ひょっとすると、知らないうちに身体を動かしすぎて、パンティが丸まって股間に食い込んでいるのかなと思った。 あたしは乳首を咥えたまま、掛け毛布を剥がし、目を開いた。 脚の間に目をやり、すぐに眉をしかめた。夜の間に、あたしはいつの間にかパジャマを履いていたのだろう。それはよくあることなので、不思議ではなかった。不思議だったのは、脚の間に大きな盛り上がりがあったこと。まるで、パジャマの前のところに何か詰め物でもしてるみたいになっている。 それが何なのか、ぜんぜん分からなかった。あたしはちょっと不安になりながらも、口に咥えたままの乳首を吸って、少しミルクを吸いだした。 その瞬間、ちょっと驚いて、思わず身体がビクッとなった。だって、おっぱいを吸うのに合わせて、パジャマの中のモノがビクッと動いたから。 でも、その時は、オーガズムに向かって一直線に駆け上っている途中だったので、途中で止めることができなかった。あんなに絶頂に近づいていなかったら、途中で止めていたと思う。心配になって止めていたと思う。 でも、その時は頂点が間近になっていた! 身体の奥に快感がズンっと蓄積されていて、すぐに解放してと叫んでいたし、ミルクもすごく美味しくて、途中で吸うのをやめるなんて、とてもじゃないけど、できっこない! でもパジャマの中のモノも気になっていた。空いてる方の手を脚の間にもっていき、ショーツの端を掴んだ。そうして、最後のひと吸いとばかり、乳房を強く吸って、最後の一滴を吸いだすと同時に、ショーツを引っぱり降ろした。 熱を帯びて、全身を包みこむようなオーガズムが襲ってくるのを感じた。同時に、露わにした脚の間に目をやった。 それまで、あたしはオーガズムに達した時の、泣き声に近い喘ぎ声を上げていたと思う。でも、その声は、すぐに、頭の中が混乱した時のうめき声に変わった。 あたしの脚の間から顔を出し、あたしの顔を見ていたのだ……おちんちんが! 固くなった15センチくらいの、皮が向けたペニスが、ショーツの中から突き出ていて、あたしの顔を見つめている! ビクンビクンと跳ねながら! あたしはビックリして、ハッと息をのむ声を出した。でも、それと同時に、あたしはオーガズムの頂点に達し、全身の筋肉がぎゅーっと収縮する感じになり、強烈な解放感が全身を襲った。昨夜のそれに比べても強烈で、これまでの人生で最大級の破壊力! ぐはあぁぁぁっ! とても女の子のあたしが出した声とは思えないような声を出していた。そして、一瞬、脚の間にできていた不思議なモノのことが頭から消えた。 でも、頭から消えたのは、文字通り、一瞬だけだった。目を閉じたままだったし、口も開けたまま、ああー、ああーっと声を出して、強烈なオーガズムに浸っていたけど、そうしながらも、何か熱いものが飛んできて、まぶたや鼻、それに開けたままの口に振りかかるのを感じる! ビックリして目を開けた。そして、あたしの身体についたペニスから、白いものがたくさん、ビュッ、ビュッと噴射してくるのを見たのだった! 驚きのあまり、身動きすらできなかった。でも、感じることはできた……これって、精液? 自分の身体から出てるのは分かる。さらに噴射は続いていて、乳房やお腹に振りかかってくる。あたしは本能的に口を閉じた。 そして味わったのである。多分、あたしは、それが何であれ、口の中に飛び込んでいたのに気づいていなかったのだろうと思う。ほんの数滴だったとは思う。あたしは、バージンだし、精液を味わったことなどないし、それを味わうことすら考えたこともなかった。 味はと言うと、少ししょっぱい感じだった。濃厚な味。口の中に残っていたミルクの甘さと混じり合って、不思議な風味がした(けれど、不快な味では決してない)。むしろ、美味しいと思った。何が起きてるか、完璧に頭が混乱していたものの、味についてそう思ったのは本当だった。 ゆっくりとだけど、オーガズムで頭が朦朧としてる状態から回復するのにつれて、あたしは自分の状況に対する意識がはっきりしてきた。オーガズム状態の時は頭の中が混乱して朦朧としてるけれど、でも、意識がはっきりしてくるにつれて、いっそう頭の中が混乱状態になっていく。これってどういうことなの? 自分の身体に目をやった。身体じゅうに、どろっとした白い液体がついていた。大きな乳房には、両方とも、そういう紐状の白いものが幾筋もあって、覆われている。お腹の方にあるのはもっと濃くて、おへその窪みには水たまりまでできていた。ちょっと身体がベトベトしている感じ。 指先でそれをなぞってみた。濃くてベトベトしている。でも、温かくて、触った感じもそんなに悪くない。むしろ、肌に擦りこんでみたら、ちょっとヌルヌルしてて気持ちいいとも言えた。 あたしはポルノをよく見ているから知ってるけど、これって、かなり量が多い。ビデオで男の人が出すのを何度も見たことがあるけど、こんなにたくさん出したのは見たことがない。 でも、白濁をいじってるのは、ただの気休めで、本当は、もっと本質的にわけが分からない存在を見たくないからだというのも自覚していた。でも、それは避けては通れない。あたしは勇気を振り絞って、胸やお腹の先にあるモノに目を向けた。 そう……ペニス。おちんちん。 それがおちんちんであるのは充分知っている。ポルノビデオはいっぱい見てきてるから、ペニスがどんなものかちゃんと知っている。それがあたしの身体にくっついて何をしているのか? それが分からないだけ。 単にあたしの身体に乗っかってるだけなのかとも思っあたしの身体に付いてるのじゃなくって、あそこに沿う形で立っているだけじゃないかって。 そんなこと変すぎるのは分かっているし、実際そうだったら、もっと気持ち悪いだろうけれど、その時のあたしは正常な精神状態じゃなかったから。 あたしは、おへその溜まりをいじっていたけれど、その指をゆっくり下腹部へと這わせていって、おちんちんの先端へと持って行った。そして指先でそこを触れた。その瞬間、身体がビクッとなった。 感じる! 昨日のおっぱいの時と同じ! 指先が急速に柔らかくなっていくおちんちんに触れた感触を感じたと同時に、その指先に触れられたおちんちんの方も感じたのだ。この不思議な感覚! そのおちんちんは今はすっかり柔らかくなっていて、固かった時に比べると驚くほど小さくなっていた。あたしは指先でそのおちんちんの先端をつまんで、持ち上げてみた。先端をつままれて、痛みを感じ、あたしは指を離した。ソレは、下腹の肌にびちゃって湿った音を立てて倒れた。 急に恐怖感が身体の中に湧いてくるのを感じた。ほとんどパニックと言ってもいい。 「何てこと……」 そう呟きながら、頭の中、ある考えが生れ出てくるのを感じ、ペニスの根元へと手を伸ばした。何か熱いものが手に触れた。柔らかくて、しわくちゃの肌……。 「た……タマタマッ! ああ、何と! こんなはずじゃ……」 そう叫んだ時、突然、電話が鳴った。 弾丸のように視線を携帯電話に飛ばした。ベッド脇のテーブルに置いておいた電話。 手を睾丸から離した。睾丸? ああ、考えたくもない! 電話を取ろうとしつつも、自分を罵っていた。どうしてあたしはこんなにバカなんだろう! 特に、最初の願い事の時に母乳を出すおっぱいのせいで大変なことになったのを経験したばかりだというのに(まあ、それは嬉しい喜びに変わったけれど)。 電話を掴もうとした時、指が精液で覆われているのに気がついた。指を見ると、白い液体がべっとり付いていてキラキラ光っている。これで電話を握りたくない。でも、ベッドで指を拭うのもイヤだった。 電話は鳴り続けていて、どうにかしなければならなかった。結局、あたしは、切羽詰まって、指を口に入れ、ついた液体を舐めだした。すでに口の中にはミルクの残りが消えていたので、前よりずっと塩辛い味だったし、指についている量は、さっき味わったよりもずっと多かった。 ピリピリした、ちょっと野性的な味がしたけど、正直、不味くはなかった。別にこれを舐めるのが好きなわけじゃなかったの、と自分に言い聞かせ、自分に嘘をついてることを無視して、電話を握った。 666の番号。リリスからだ。リリスに文句を言ってやる! こんなのあたしが求めたものじゃないのは明らかじゃないの! 「もしもし? イエローストーンはどんな感じ?」 あの妙に妖艶な声。リリスは、いつもあたしをバカにする言い方をする。 「イエローストーン? 何よ?」 「オールド・フェイスフルは?( 参考)……ちょっと、これって、別にポップカルチャーでしか通じないことじゃないと思うけど?……まあ、別にいいわ。あんたのふたつ目の願い事がかなって、どんな調子か知りたくて電話しただけだから」 「ええ、ええ、すごく面白いことですこと! リリス」 あたしはリリスのことを恐れているのも忘れ、そう言った。でも、リリスはあたしの返事に別に怒っているふうでもなかった。電話の向こう、邪悪そうにケラケラ笑うだけだった。 「で? 何が問題?」 あたしはベッドの上、動けずにいた。動いたら、そこらじゅうに精液がくっついてしまう。なので、ただじっと横たわったまま、リリスがあたしをからかうのを聞いていた。少なくともあのペニスだけは見たくないと、目を閉じて聞いていた。 「分かると思うけど、あたしがキンタマと言った時、こんなモノを意味したわけじゃなかったのよ!」 そう叫んだ。電話の向こう、ちょっと沈黙状態が続いた。そしてリリスがしゃべりだした。 「あら、ごめんなさい」 本当にすまなそうな声で言う。「あんたがキンタマって言ったのは知っているけど、でも、あんたがそれが欲しいと言った時、棒の方も合わせて欲しいと言ってると思ったのよ。だって、タマが2個、ただぶら下がってるって、どう見ても変じゃない?」 「何言ってるの!」 リリスが何を言ってるのか理解するのにちょっと時間がかかった。そして、言ってる意味が分かると、あたしはさらに腹立たしくなった。 「そんなことじゃないの! つまりね、あたしは比喩的な意味でキンタマと言ったのよ! 勇気とか堂々と意見を言える肝っ玉とか、そういう意味で! 睾丸が欲しいなんて言わなかったわ!」 「あんたが何を言ってるか分からないフリをしなくちゃいけないとでも?」 突然、リリスは真剣な口調に変わった。「願い事をする時には注意しろって、あれだけ言ったのに。あんたがキンタマが欲しいというから、それをあげたのよ。比喩とやらは、どっか別のところから出てくるものでしょ? 人がそういう意味でタマという時、暗黙のうちに睾丸のことを言ってるものじゃないの? 別にサッカーのボールのことを言ってるわけじゃないでしょ?」 もちろん、リリスの言うとおりだった。すでに経験から、リリスの場合、少しでも抜け道を残しておくと、必ず、そこに付け込んでくるのをあたしは知っていた。 「ええ、それはそうなんだけど……」 敗北した気持ちでそう答えた。電話の向こう、リリスは笑っていた。過度に残酷っぽい笑いじゃなかったが。 「まあ、少なくとも、前より賢くなってきてるんだからいいじゃない。繰り返すけど、もし気に入らなければ、今夜、それを捨てる願い事をすることはできるのよ」 「もちろん、いらないわ。なくして! これっておっぱいとは話しが違うんだから」 とあたしは白い精液で覆われた乳首を見ながら言った。 「ちょっと、まだ言っちゃダメよ! あんたには、素敵なのをあげたのよ! 巨大ではないけど、あんたの身長にしては大きめのをね。性別ぬきで、その身体にしては大き目よ。加えて、もし、あんたがあの種の行為にのめり込んだら、あんた、精子製造工場並みにいっぱい出せるようになってるんだから」 「どういう意味?」 とあたしはうんざりした気持ちで訊いた。 「何言ってるの、隠さなくても知ってるんだから。あんたがもう試したことを。あの量、並みの量じゃなかったでしょう? 240ccはあったんじゃない? あんた、自分のミルクを飲んだでしょ? あんたのミルク、あんたが出す精液と不思議な反応をするの。今後もたくさん出るはずよ」 「ああ、素晴らしいことですこと」 と別に興奮もせずに答えた。 「そういうことにハマる人もいるのよ」 「あたしは違うわ!」 とあたしは断固として言った。確かにあたしのヘマのせいでこうなったかもしれないけど、だからと言って、怒りが収まったわけではなかった。 「あら、ミルクがでるおっぱい、気に入っていないような言い方ね?」 とリリスが言った。 まあ、確かにリリスが言ったことは正しい。でも……。 彼女に何か言いかえそうと思っているうちに、リリスが先を続けた。 「まあ、あんた、家の中をちゃんとしなければいけなそうね。今は、ちょっとどんな様子かチェックするために電話しただけだから。いい? あたしは何だかんだ言っても、あんたの友だちなんだから」 リリスはそう言って、またケラケラ笑い、そして電話を切ってしまった。 あたしは携帯をテーブルの上に戻し、仰向けになって、しばらく天井を見つめた。 こんなの完全に狂っている。昨日、あたしは大きな乳房を獲得した。その変化は大きな変化だったけれど、別にあたしのアイデンティティを変えたわけではない。あたしは女のままだったから。胸が大きくなっただけで、女だというところに変化はなかった。 それに対して、今のあたしは何なの? 男ではない。でも、女と言える? シーメールになった? そのいずれも筋が通らない。 ひとつだけ、はっきり分かっていることは、今すぐ身体をきれいに洗いたいということ。自分の身体を見てみた。全身、ドロドロに覆われている。 何か手元に身体を拭くものがないかと、部屋の中を見回した。でも、何もない。いま立ち上がったら、身体についた精液が全部流れおちて、ベッドをベトベトにしてしまうのは明らかだった。それはイヤ。フラストレーションがたまってくるのを感じた。そうでなくてもひどい一日になっているのに、イヤなことが加わっている。 本当にどうしよう? できることはなかった。あるとすれば…… 「仕方ないか……」とあたしは溜息まじりに独り言を言った。「もうすでに2回味わってるわけだし、そんなに気持ち悪くもなかったし……」 このドロドロを処理できるところは自分の口の中しかない。別に興味があるわけでもないし、変態的に興奮してるわけでもないんだからね、と自分に言い聞かせた。本当は、すでに2回も味わってるし、その2回とも、妙に美味しいと思ったのだけど、その2回で好奇心は満たされていて、これから、このドロドロを舐めるのは必要に迫られてなのだと、必死になって自分自身を納得させようとしていた。でも、なぜか胸がドキドキしていたのだけど。 左の乳房から始めた。乳首の下のところに、大きな塊があった。指をカギ形にして、固くなっている乳首のところから塊をすくった。 その精液は前よりは冷めていたけど、あたしの体温のおかげで、まだ温かさが残っていた。その時、指が乳首に触れ、気持ちいい。また電流が身体を走る。ペニスまで少し反応したのを感じた(無視したけど)。ああ、また思い知らされた。あれはあたしのペニスなのだと! 指を顔に近づけた。濃度が濃いようで、指にしっかり乗っかっていた。ブラインドから射しこむ陽の光に照らされて、キラキラ輝いていた。真珠のような色形をしていて、パソコンで見る過剰な照明のポルノ動画で見たのほど、不自然なものにも見えなかった。 指を鼻に近づけ、クンクンと嗅いでみた。自分から進んで触れたいと思わせるような匂いではないが、どこかお馴染みと思わせるような匂いがかすかにあった。あたしは、それ以上ためらうのをやめ、思い切って指を口に入れた。
上下の唇で強く挟んで、口を掃除機のようにして吸いこんだ。そうすると、前にした時と同じ強烈な解放感が襲ってくる。でも、今回は前よりもスゴイ。ミルクが強い噴流となって出てくる。前にした時に一番強く絞った時よりも、強い噴流。ビュビュッと口の中に飛んできて、中で砕ける感じ。 最初に感じたのは鼻孔に広がる香りだった。フルーティと言ってもよいような香り。次に、口の中が液体でいっぱいになってきて、ほっぺたが膨らんでくる感じがした。口の中で舌を回して、味わってみる。前にうっすら感じた、超甘いメロンの味がする。でも今回は量的に圧倒的。舌全体がそれに包まれ、その後、すんなりと喉を下っていく。ベタベタした感じはまったくなく、最高の喉ごし。自分の乳首を咥えたまま、あたしは、んんーんとうめき声をあげ、ベッドの上、身体をくねくねさせた。 もう一度、強く吸うと、またミルクが口の中にビュッと飛んでくる。快感が全身に波状攻撃。小さなクレシェンドで盛り上がってきて、また軽やかに弾む。この快感、あたしの身体の中から溢れてくる快感なのに、あたしを舞い狂わせて、楽しんでいるみたい。 あたしは思わず絶叫の悲鳴を上げた。外にいる人に聞こえてなければいいけど、と願った。 もっと欲しい! 滑らかに、ちゅうちゅうと続けて吸うことに決めた。一定のリズムで吸って、ミルクを口の中に吸いこみ始める。吸うたびにミルクが口の中に流れ込んできて、喉を下っていく。 もっと重要なことは、自分の母乳を吸いながら、身体の奥で、お馴染みのじんじんした疼きが高まってきてることだった。あそこをいじって感じる感覚と同じ感覚が高まってくる。あたしは自分の乳首を咥え、自分の母乳を吸いながら、ベッドの上、プルプル震えていた。目を閉じ、いま経験している不思議な感覚とその快感の大きさをじっくり味わおうと思った。もっともっと吸って、もっともっと味わって、そして……何もなくなった。 もう一度、吸ってみたけど、何もない。強烈な絶頂に向かって高まっていたところだったのに、徐々に、鎮まりはじめていく。 最初、ちょっと困惑した。バカなこと言っているように聞こえるのは知ってるけど、あたしは、自分のしてることにすごく夢中になっていて、本当に何が起きたか理解できずにいたのだ。 ちょっとがっかりして、乳房を口から出した。あたしの唾でテカテカに光ってる。けど、ミルクはなかった。そして、すぐに、何が起きたか理解したのだった。もう出しきっちゃったということ。 飲んだミルクでお腹が少しいっぱいに感じたけど、それは無視して、素早くもう一方のおっぱいを手に取り、口の中に押しこんだ。まるで、おしゃぶりを掴んだ赤ちゃんのように。 勃起した乳首を口に入れ、すぐに、一定のリズムでちゅうちゅう吸い始めた。さっきの乳房で試していて、とても気持ちいいと分かってるやり方だ。 そして、それを始めると瞬時的に、あたしの身体の中の緊張感が募り始めた。じんじんと疼いて、やがて絶頂に導かれていく、あの緊張感! きつめのショーツを履いていたので、ベッドの上、身体をくねくねさせると、それに合わせてショーツの生地がクリトリスを擦る感じになる。 その時、アッと思った。あたし、自分の持ち物の半分しか使っていないじゃないの! あたしには手がふたつあったんだ! 左手で乳房を口に持ち上げる一方で、右手を素早く股間に持っていった。指をもぞもぞさせて、ショーツの腰バンドの中に潜らせた。あたしの指たちは、あたしのすべすべした無毛の丘を下って行って、あそこの唇へと到着した。 びちゃびちゃ! それに、いつもよりねっとりしてる。 いったん、指を優しくバギナの中に入れて指を濡らした。それから戻って、固くなってる小さなクリトリスを見つけた。それに触れた途端、思わず悲鳴を上げた。その衝撃に、思わず乳首を強く吸う。 でも、それもつかの間。すぐに一定の、あたしにとっては完璧と言えるリズムに戻っていた。これがいいの! 最高なの! 舌で乳首を弾き、口でミルクを吸い取りながら、指はクリトリスを相手に踊り続ける。 前にキッチンで感じたオーガズムの時は、クリトリスへの仕事はしていなかった。それに比べると、コレは! 多重の攻撃! 身体が勝手に動き、どんどん速度を上げてくる。ほとんど何も考えられなかった。頭の中が真っ白になっていく。クリをいじる指はすごい速さでプルプル動いているし、自分の乳首にむしゃぶりついて、すごい勢いで吸っている。あんまり速く吸うもんだから、ミルクが口から溢れて、頬や首を滴り流れていた。 まるで、最初からずっとオーガズムを感じ続けていたような感じだった。何と言うか、ずーっと絶頂状態に達し続けていたんだけど。でも、本当は、それは序章にすぎなくて、とうとう、トドメのオーガズムが発生したのだった。 始まりは、喉の奥からだった。吸いだしたミルクをゴクゴク音を立てながらお腹の中へと流しこんだのだけど、その瞬間、全身が痙攣しだして、目も三白眼になった感じがした。そして強力な熱が乳首のあたりから湧き上がってきて、全身をぎゅーんと貫いて、一直線にクリトリスを直撃したのだ。 とたんに、何もかもが美しくてたまらなくなった。オーガズムを越えた経験だった。圧倒的な多幸感と純粋な快感に全身が包まれる感覚。「美」を感じた。あたしは口を開き、大きな溜息をついた。それに合わせて、空っぽになった乳房が口から離れ、元の位置に戻った。 本当の意味での絶頂に到達し、そして、ゆっくりと興奮が引いていく。思わず、叫んでいた。 「ああ、神様!」 「ぶぶーっ! はずれ!」 うっとりと目を閉じて休んでいるところに、ベッドのふもとの方から聞き覚えのあるセクシーな声が聞こえた。一瞬、ウェンディかジーナの声かと思ったけど、もちろん、あたしもそんなバカではない。それまで感じていた多幸感が一気にしぼんで、肌がぞわっと強張った。手を脚の間からぱっと離して、目を開いた。 最初はあたりの状況がつかめなかったけど、すぐに、リリスの姿を認めた。ベッドの先に立っている。片手をベッドについて、もたれかかり、尻尾を誘惑的に振っている。リリスはあたしのことをじっと見つめていた。目が燃えるような赤色をしていた。 「もうイヤ!」 あたしはそう叫んで、ベッドの中、跳ねるようにして身体を丸め、両膝を抱えた。 リリスは勝ち誇ったようにあごを突き上げ、ケラケラ笑って、ゆっくりとベッドの横へと回ってきた。 「あなたは、登場するときは、大きな音を立てて、床をぶち破って出てくるものだと思ってたけど?」 リリスは人間ではないとは分かっていたけど、彼女にオナニーしているところを見られて、ひどく恥ずかしい気持ちだった。それにリリスに会うのがちょっと居心地悪い感じもしていた。昨日の夜にリリスが来たわけだけど、あたしは本気でリリスが実在するとは思っていなかったと思う。夢かなんかに違いないと。でも今は彼女が本物だと知っている。危険な存在なのだと知ってるし、セクシーだなとも感じる。 リリスはベッドの横に来て、あたしの隣に腰を降ろした。そしてあたしの手首を握った。彼女の熱を感じる。 「あたしには、したいことを何でもできるの。今夜は、わざとらしい劇的な登場をする必要がなかっただけ」 と、リリスはつまらなさそうに言った。そして、握ったあたしの右手を顔に近づけ、ニヤリと邪悪な笑身を浮かべながら、あたしの指先の匂いを嗅いだ。彼女の口から長い舌がにゅるりと出てきて、あたしの指に巻きつき、そこに付着している愛液を舐めはじめた。 確かに不思議に気持ち良かったけれど、まだ怖かったし、思わず手をひっこめた。そして、また、両膝を抱え、体育座りの姿勢に戻った。リリスは片眉を持ち上げてあたしを見た。 「おや? あたしたちお友だちだと思っていたけど?」 と唇を尖らせて言う。 「どうかしら」 「傷つくわねえ」 とリリスは、さして傷ついてもいない声の調子で言った。そうして、ベッドにごろりと転がり、あたしの隣に横になった。 「でも、あたしに言わせると、あんたは、今日は嫌っても、明日には好きになるような傾向があるみたいだし」 そう言って、あたしの腕の中に手を伸ばし、乳房を軽くつねった。痛くはなかったけど、気持ちよくもなかった。あたしは身体をよけ、リリスを睨みつけ、囁き声に近い声で言った。 「やめて」 「で? おっぱいを取り除いてほしくないの? 今朝は、ずいぶん、はっきりと言ってたけど」 と、またあたしの胸をつねった。 「いえ、あたし……気が変わったわ」 「大事なものになってきたということ?」 と言ってリリスはまた笑った。「ごめんなさいね。ちょっと悪かったわね」 でも、やっぱりケラケラ笑い、あたしの胸から手を離した。 「このままにしておきたいわ。ありがとう」 ちょっと気分を取りなおして、そう答えた。リリスはかなり上機嫌のように思えた。 「あんた、ずいぶん、おっぱいを楽しんでるみたいじゃない」 リリスにそう言われ、あたしは顔を真っ赤にした。 「いいってことよ。気にしないで。あたし、そういうことに引っかかるタイプじゃないから」 と、リリスは、何でもないことのように宙空に目をやった。 また、何だか恥ずかしい感じがした。こういう状況なので、恥ずかしさもへったくれもないとは思うけど、やっぱり恥ずかしい。「ああ、神様、どうしたらいいの?」とか言うのが普通だろうけど、これから自分の魂の3分の2を売ろうという時に、神様のことを口に出すのも、あまり気乗りがしない。 時計を見たら、まだ9時になったばかりだった。 「今夜はちょっと早いんじゃない?」 話題を変えようと思ってそう言った。リリスも時計を見た。 「ふたつ目の願い事、いまからでもいいわよ。別に願い事に都合の悪い時間なんてないし。どうして? あんたの友だちに聞かれるのを恐れているの? 心配無用よ。あたしは人に見られたいと思った時にしか見えないから」 「あの人たちはあたしの友達なんかじゃないわ」 打ちひしがれた気持ちを隠しきれなくて、吐き捨てるような声の調子になっていた。とは言え、ウェンディたちが家の中に入ってくる様子でもないのは嬉しかった。こんな状況を見られたらどうなることか。 「あら、友だちじゃないの?」 リリスは本心から驚いた顔をして言った。「つまり、こういうこと? あの人たちが、あんたの大きなおっぱいを見て、お友だちにしてくださいとひれ伏して懇願すると思ったのに、そうならなかったということ?」 まさにあたしが想像していたことをリリスが知っていたこと、そして、そうならなかったことをぜんぜん驚いていないのは、明らかだった。 「どうなったか、知ってるんでしょ? 分かるわ」 そういうとリリスはにんまりした顔であたしを見て、ベッドから降りて立った。あたしは抱えていた両膝を離した。リリスはゆっくりと部屋の中を歩き始めた。ゆっくり行ったり来たりを繰り返しながら、視線はずっとあたしに向けている。 「まあ、正確に何がまずかったのか言ってごらんよ」 そう言われても、あたしは、その質問に答えたくない気持ちだった。でも、仕方ない。がっくりと肩を落として話し始めた。 「ずっと前からあこがれていた外見に変わったら、不安感も消えるだろうって思っていたのよ。でも、間違っていたの……」 リリスは行ったり来たりを繰り返していたが、あたしの正面に来た時、口を開いた。 「ということは、正確に、あんた、自分に何が欠けていると思ってるの? 何を出せばあんたの助けになると?」 ちょっと時間をかけて考えてみた。外面的なことじゃない。内面的な何かが欠けているのは明らかだった。あたしを引っ込み思案にしているのは外見じゃない。何か別のモノ。 「分からないわ。社交の場では隅っこに引きこもりたいと思うし、何か発言を求められるような場面になると、いつも、バカなことを言ってしまう」 と頭を振った。 リリスは歩き続けていて、また、あたしの正面に来た時、立ち止って言った。 「いつもバカなことを言ってるのに、おしゃべりし続けて、友だちを作っている人間は山ほどいるわよ」 あたしは不思議そうな顔をしてリリスを見上げた。リリスがそういうことを言うとは思っていなかったから。リリスはそんなあたしの反応に気づいたみたい。 「あたしはね、あんたに正確にお願い事をしてほしいだけよ。今回は、紛らわしいところがないように」 あたしは頷いた。実際、とても親切な助言だわ。 そして考えた。社交面で引っ込み思案なところ。リリスにそう言われたけど、その通りだ。問題は、あたしがおバカなことを言うとかするとか、そういうところにあるのではない。問題は、あたしが、バカなことを言うまいとか、おどおどするまいと思うあまり、あまりに神経質になって、そもそも、何もできなくなってしまうところだ。 「でも、確かにあなたの言うとおり。バカなことを言うとかそういうところが問題じゃない。何と言うか、あたしに必要なのは……自信かも」 リリスはそれを聞いて、訳知り顔で頷いた。 「自信、勇気、目的意識……」 リリスは、ひとつひとつの言葉をゆっくりと言い、あたしも、ひとつひとつの言葉に頷いた。リリスは、まさにあたしが必要としていることを述べてくれている。胸が大きくなったら、それが間接的な要因となって、得ることができるとばかり思っていたこと、それを全部、直接的に言ってくれている。 「ええ、そういうものが欲しい」 そう答えたら、リリスは動きを止めて、あたしをじっと見つめた。 「じゃあ、本当に欲しいモノを正確に言いなさいよ」 リリスの瞳は真っ黒に変わっていた。あたしはちょっとドキドキしてきて、彼女から視線を外し、目を伏せた。願い事を言うのが怖い。怖いけど、欲しいモノがあるのは確か。単なる「勇気」じゃ足りない。それ以上の何かが必要なのだ。単なる「大胆さ」でもない。それ以上の何か……。どーんと肝が据わった気持ちになれる何か。よく、男の人たちが、怖気づいた仲間に「お前、キンタマついてるのか?」ってからかうけど、まさにアレがあたしに欠けている! そうなのだ! あの、どーんと落ちついた感じで他人に対処できるような肝が! キンタマがあたしには欠けているのだ! 「キンタマが欲しい! 分かるでしょう?」 ようやく、求めていた言葉が頭に浮かんできて、あたしは叫んだ。 突然、リリスの瞳が真っ赤に燃えあがり、顔に不思議な笑みが浮かんだ。あたしの返事を聞いて、嬉しい驚きを感じたみたいに。それを見て気持ち良かった。さっきの言葉を言えたこと自体、あたしはすでに大胆さを獲得したような感じになった。 「もう叶えたわよ!」 そうリリスは言った。 でも、本当に肝が据わった感じになれたか見てないうちに(というか、何を見たらそんな気持ちになるのか自分でも分からなかったけど)、またもや、リリスの尻尾がびゅーんと飛んできて、あたしの頭を直撃! あたしはすぐに気を失ってしまった。
* * * * * みんながあたしの家でテレビを見ている間に素早くシャワーを浴びた。でも、それを除けば、あたしはずっと部屋にこもって、考えを整理することにした。 まず第一の、そして多分、いちばん重要なことはというと、いろいろ問題はあるけど、あたしはこのおっぱいが大好きだということ。心配の種はあるけど、このおっぱいをなくしてもらおうというのは論外だと思った。 今日一日のことを思い返しながら、仰向けになったけど、どうしても胸に目が行くし、優しく触れてしまう。家の中には他の人たちがいるけど、ずっと部屋に閉じこもったままでいようと思ったので、上半身は裸になってベッドでゴロゴロし、おっぱいをいじって楽しむことにした。シャワーの後は、ぴっちりした布のショーツだけの格好。 外は日も暮れて暗くなり、ウェンディやウェンディの友だちは庭に出てビールを飲んでいたけど、あたしはずっと部屋でゴロゴロしていた。 そして、この胸。形が最高であることに加えて、あのキッチンで感じたオーガズムが驚きだった。これまでの人生で、一番パワフルなオーガズムだったと言わざるを得ない。 もちろん、これまでも何度もオーガズムを感じてきている。でも、それは全部、似たようなオーガズムだった。それもそのはず、全部、自分で自分にして感じていたわけだから。あたしは、この通りの性格だから、彼氏なんかいないし、もちろんバージンだし。 このおっぱいでのオーガズムも自分で自分にしたわけだから、同じと言えば同じなんだけど、でも、強烈さは圧倒的だった。 それにそのことを考えれば考えるほど、ミルクのことはあまり気にならなくなってきた。確かに、ちょっと不便なことだけど、このおっぱいの見栄えと、ミルクを出す時に感じる快感に比べたら、何てことない感じだった。 それに、これも認めなければならないと思ったけど、そのミルクの側面も、あたしにはちょっとセクシーに思えるのだ。自分の身体から何かが出たという点。汚いモノとかじゃなくって、栄養があって、ジーナやウェンディの反応から察すると、美味しいモノ。それを自分の身体が分泌してるという点が、何かゾクゾクしてくる。 それにウェンディたちがあたしの分泌したモノを美味しそうに飲むというのも興奮だった! あの時のことを思い浮かべるとゾクゾクしてくる……。 でも…… ウェンディとジーナのことを思い浮かべたら、別のことも思い出してしまった。このおっぱいの唯一のネガティブな側面。つまり、おっぱいがあっても、効果がなかったということ。 あのとき、あたしは大きなおっぱいをしてキッチンに立っていた。明らかに「セクシー」に見えていたはず。なのに、あたしは相変わらずギクシャクとして強張っていた。ぜんぜん、みんなとうち解け合わなかった。前とおんなじ、「変人」のまま。 おっぱいは、一種の魔法の銃弾となって、あたしの人づきあいでの不安感や、おどおどとして、引っ込み思案なところを直してくれるとばかり思っていたのに。今になって思えば、そんな考えは甘すぎたみたい。 それに欲求不満も高まっていた。それが、その時いちばん強く感じていた気持ちかも。身体の奥底から湧き上がってくるような強烈な欲求不満感。じわじわと押し寄せてくるような感じ。 しばらく経ってから気づいたけど、その耐えがたい欲求不満感と一緒に、胸も痛くなり始めていた。最初、それがどういうことか分からなかったけど、ひょっとすると、あたしの大きなおっぱいは、不安感に反応するのかしらと思った。 でも、すぐに思い出した。6時間経ったのだ。ミルクの時間になったのだと。とすると、この欲求不満を解消する、お気に入りの方法があるじゃない?…… ミルクを受けとめるカップの代わりになるものがないか、部屋の中を見渡した。これまでの経験から、かなり多量なミルクが出るのは知っていた。部屋の中には水を飲むときに使うコップがあるけど、あれじゃ、小さすぎてダメ。700ミリリットルもの液体を受けとめられるだけのものと言ったら、お父さんがある年、あたしに買ってくれた宝石入れの箱くらいだった。でもアレもダメ。防水じゃないみたいだし。 アイデアに尽きはじめていた。その間にもどんどん胸が痛くなってくる。 服を着てキッチンに行くのはイヤだった。キッチンには大きな窓があって、庭から中が見える。キッチンに行ったら、ウェンディや彼女の友だちに、庭に出てこいよと言われるに違いない。それはイヤだった。 どうしたらよいかと、ベッドの上、ゴロゴロと寝返りをうった。そしたら、寝返りの動きに合わせて、あたしの大きな胸が動くのを感じた。この感覚、経験がなかった。身体を起こした姿勢だと、胸は重力で自然に下方にゆったりと垂れるけれど、横になって動くと、少し顔の方にせり上がった感じに動いてくる。以前は、こんなふうに動く大きな胸がなかったので、知らなかったけど、これにはちょっと驚いた。 そして、それを見て、あたしはあるアイデアを思いついた。背筋に戦慄が走るようなアイデア! 仰向けのまま、ベッドをずり上がり、首がヘッド・ボードに当たるようにした。その姿勢を取ると、首が起き上がり、身体と90度の角度で立つ形になる。あごが胸骨に強く当たって、若干、居心地悪いけど、あたしの大きなおっぱいが顔から5センチも離れていない位置に来る。 さっきのジーナとウェンディのことを思い浮かべた。あたしのミルクを飲んだ時のこと。飲んでも悪い効果はなさそうだった。リリスはそこまでは言っていた。それに匂いのことも思い出した。美味しそうな匂いがしていた。そうして、味見してみようかと思ったとき、運悪く、ウェンディたちが家に入ってきたのだった。 心臓がドキドキしていた。興奮している。手を出して片方の乳房をすくうように持ち上げた。そうして、注意深く顔に近づけ、乳首を口の方に寄せる。 多分、持ち上げる時、ちょっと力を入れすぎたのかも。あのとき感じたのと同じ、何かを放出するような強烈な感覚を感じた。そして顔面に温かい液体がピシャッとかかる。思わず、自分でクスクス笑ってしまった。 頬をミルクが滴り流れるのを感じたし、乳首の先には白い水滴がぶら下がっているのが見える。 でも今は、あたしの乳首があたしの唇のほんの先にある。しかも完璧な位置にある。 確かに思ったよりちょっと姿勢が辛かったけど(あたしの胸はそれほど大きいわけではない)、でも、そのすぐ後には、あたしの温かい唇があたしの乳首を優しく包んでいた。 その瞬間、全身に電気が走った。あたしの舌があたしの乳輪を焦らすように擦るのを感じ、ベッドの上、身体をくねくねさせていた。そして、胸に垂れていた一滴のミルクを味わった。初めての経験。 かすかな味しかしなかった。甘い味。普通の牛乳よりずっと甘い。ウェンディがバニラの豆乳と間違えたけれど、それよりもずっと甘かった。それに温かい。口と同じ温度。まあ、考えてみれば当たり前のことだけど。 かすかにメロンの味もした。説明しにくいけど。濃くて、ねっとりとした感じ。小さな滴だったけど、舌全体に広がって、舌を味わいで覆うような感じだった。 あたしの舌が勝手に動いていて、乳首を相手に踊っていた。その感覚にびっくりして、あたしは目をまん丸にした。その間にも乳首が固くなってくるのを感じる。自分の舌が自分の肌に触れてる感覚なのか、自分が分泌した甘いミルクの味のせいなのか、あるいは、そのふたつが組み合わさった感覚なのか? ともかくもっと欲しくなった。
ウェンディのお友だちのジーナ。頭からつま先までよくよく見た。この子もすごく可愛い。ウェンディとジーナは、高校時代、カッコよくってセクシーなふたりとして有名だったのは明らかだ。ジーナの背の高さはウェンディとほぼ同じ。髪の毛は長くて、濃い目の赤色。肌には軽くそばかすがある。上はビキニのトップで、下はカットオフのジーンズ。その引き締まったお腹に目を疑う。過剰に筋肉っぽいわけではなく、とても女の子っぽいお腹で、肌もちょうどよいくらいの日焼け。脚はすべすべしている感じで、そばかすは顔ほどはない。そして胸。彼女の胸も大きい。あたしのほどじゃないけど。 端的に言って、ジーナはウェンディと同じく、とても素敵でしかも一緒にいて気楽そうな人だった。 ふと、あたしは、ずいぶん長くジーナのことをじろじろ見ていたと気づいて、あたしは顔を赤くして、うつむいた。ウェンディはあたしが気まずい感じになっているのに気づいたのか、いつもの彼女らしいのだけど、うまく話題を転換して、雰囲気を救ってくれた。 「ああ、良かった。何か出しててくれていたのね? 昨日の夜、飲みすぎたみたいで、まだ二日酔い状態なの。何か水分補給になるものが欲しかったところ!」 ウェンディはそう言って、あたしの身体の前に手を伸ばし、あたしのミルクが入ったカップを掴んだ。あたし自身もまだ味わっていないので、気をつけた方がいいと、注意しようとした。だけど、その時、ウェンディがあたしの耳元に囁いたのだった。 「ワンダーブラかなにかつけてるの? すっごく良く見えるわよ!」 とウィンクしながら小声で言った。 その言葉に、あたしはとても嬉しくなって、あのミルクについて警告するのをしそびれてしまった。ウェンディはカップを唇のところに持ち上げ、中の白い液体を口に入れるのを見ているだけだった。ウェンディは大きくひと口分、口の中に入れた。喉のところが動いたので、あたしが出したミルクが彼女のお腹の中に流れ込んだのが分かった。 「あら、ミルクだとは思わなかった!」 と上唇に白い髭をつけながら言う。それを舌でゆっくりと舐め取ってから、「でも、美味しいわ。甘いし。これ何なの? バニラ風味の豆乳とか? それに温かいのね。豆乳とかって冷蔵する必要ないらしいけど」 あたしは、何か言おうと口を開いたけど、何も言えず、また閉じた。 「あたしにも飲ませて?」 とジーナが言った。 あたしはどうすることもできず、ただ見ているだけ。ジーナはウェンディの手からカップを奪い、自分の口に当てた。この子もあたしのミルクを飲んでいる。あたしは不安感が募ってきて、口の中が渇くのを感じた。 ここから逃げたい。自分の部屋に引きこもりたい。 「ほんと、これ、美味しいわ」 「だめ、これはあたしがいただくわ」 とウェンディはジーナからミルクを奪い返し、素早くひとくち啜った。「あなたが、あたしの最後のスナップル( 参考)を飲んだの知ってるんだから。これでおあいこ」 「ヘイ、君たち、キックオフを見逃しちゃうよ!」 男子のひとりが言った。そちらに目をやると、彼はあたしのところを見ていた。その時、そういうことがあったら、嬉しくなると思っていたのに、実際は、あたしは自分が恥ずかしい感じがしたのだった。 「いま行くわ!」 とウェンディが彼に言い、あたしにも「見に来ない? いい試合になると思うわ」と言った。 あたしはリビングにいる人たちを見た。一緒に見たいと言いたかった。本当にそう言いたかった。でも、言えなかった。この時も、みんなから離れたいと思ったのだった。 「いいえ、あたし……。しなければならないことがあるから……」 ウェンディは怪訝そうな顔をした。あたしは変な振舞いをしていたに違いない。自分でも変だと知っている。でも彼女は何も言わなかった。 「オーケー、分かったわ。後で時間ができたら、来てね」 「おいおい、いま来てくれよ!」 と部屋の中の男子が言い、他の男子が笑った。 「落ち着けって」 と他の男子が彼に言った。 もう、これ以上、嫌だった。くるりと向きを変え、キッチンから素早く出た。キッチンを出たところで、立ち止り、呼吸を鎮めた。 いったい何が起きたの? オーガズムを感じたことを考える時間もなく、ウェンディと彼女のお友だちがみんな入ってきて、そして、あたしは、以前のあたしとまったく同じように、みんなの前では固まってしまい、そしてウェンディとジーナがあたしが分泌した母乳を飲んで、そして……。 「ウェンディ、君のルームメイトはセクシーだって、どうして教えてくれなかったんだい?」 あたしを見つめていた男子が言ってるのが聞こえた。今はそれを聞いて、嬉しく感じた。でも、彼の横に立って、それを聞いたら、たぶんあたしは完全に恥ずかしくなっていたたまれなくなっただろう。あたしはキッチンのドアに近寄り、みんなが言ってることを立ち聞きした。 「変態ね!」 とウェンディが答えた。そして、別の男子の声を聞いた。多分、ウェンディのいまの彼氏だと思う。 「でも、君が彼女とルームメイトになっている理由が僕には分からないんだ。君たち友達同士という感じじゃないだろ? それに彼女、すごく変だよ。世捨て人みたいな感じ。でも、かなり可愛いしセクシーなんだけどね」 その後、その男子が枕で顔を叩かれたような音がした。 「嫌な人!」 とウェンディが言ったけど、怒ってる声じゃなかった。 「分からないわ。覚えているのは1年生が終わった頃。みんなが次の年のルームメイトを探してて、どんどんペアができていた。あたしの友だちはみんな完全な変人ばっかりだったし。でも、オリエンテーションの時、とあるきっかけで、彼女の両親がお金持ちだと知ったの。彼女と一緒なら、彼女が家賃を払わないとか言わないだろうと思ってね。そういうことで心配しなくて済むもの。例えばローラをルームメイトにしたら、そういう心配をすることになったと思うのよ」 ああ、それで、ずっと前から思っていた疑問が解けた。どうしてウェンディがあたしをルームメイトに選んだか? 親がお金を持っていたからなのね。いま頃になって、こんなことを知るなんて。もっと前にこんな嫌な気持ちになれてたら…… 「ずいぶん冷たいな!」 と男子のひとりが言った。 「いえ、いま言ったこと、ひどいことなのは知ってるわ。あたし、たぶん、嫌な女だったのよ。でも、いまは違うの。ラリッサは本当にいい人なのよ! どういうわけか、狂ってるほどシャイだけど、でも、いまなら、彼女が裕福な両親を持っていなくても、彼女をルームメイトにしたいと思ってるの」 それを聞いてちょっとだけ、気分が直った。 「ともかく」 と別の男子の声がした。「俺は冷蔵庫からビールを持ってくるよ。誰か、他に欲しいものはある?」 あたしについての話しは、たぶん、そこで終わったのだろうと思い、あたしはキッチンのドアから離れ、がっくり肩を落として、自分の寝室に戻った。またも、負け犬になった気分。
せっかく声を出さないようにと頑張ったのに、揉むたびに、喉の奥から、ぐぐぐっと声が聞こえてくる。揉むたびに、クリトリスを濡れた舌で舐められているような感じがした(実際はそういう経験がないから、その感覚をしらないけど、自分で自分を慰める時、指を濡らしてする経験から、そんな感じじゃないのかなって想像した)。 次に揉んだら、もうまともに立っていられなくなって、キッチンのカウンタに覆いかぶさるようになっていた。呼吸も浅く、ハアハア途切れ途切れになっていた。全身の神経がビンビン反応している。 もう中毒みたいに、何度も何度も繰り返し揉んだ。そのたびに、両足のつま先が、キューっと内側に反り、息づかいが乱れ、そして、感覚がどんどん高まっていく。もう一度、揉んだ。……でも、今度は何も起きない。 すぐに左の乳房に目をやった。乳首にミルクの滴が一滴くっついているけど、もう、その乳房は張った感じがしなくなっていた。 カップを見たら、350ミリリットルくらい溜まっていた。エクスタシー感が急速にしぼんでいく。でも、右側の乳房はまだ痛みがある。中腰のまま、すぐに右のおっぱいがカップの上に来るよう姿勢を変え、そして揉んだ。 「ホーリイ・ファック(すごく感じる)!」 喘ぎ声を出したけど、そんな言葉で言ったか分からない。あふぁ、ふぁ、くっ!って言葉ないならない喘ぎ声だったのかもしれない。音が似てるだけの、何か根源的な唸り声みたいな感じ。 ともかく、快感は麻痺して鈍くなっていくどころか、ますます強烈になっていくばかりだった。放り投げるように頭を後ろに倒し、胸を前に突き出す形になって、何度も何度も右の乳房を絞り続けた。ぎゅっと握るたびに、ビュッ、ビュッとミルクが出て、同時に、全身に強烈な快感の電流が走る。 右側のおっぱい、最初の3回くらい握った後は、握るたびに快感がずんずん加算されていくように感じた。こんな感覚、信じられない。オナニーは何度もしたことがあったけど、こんなのは初めて。 揉めば揉むほど、そこに近づいていく。全身がぶるぶる震えていたし、乳房を握る指にも力が入らなくなっていった。もう、力尽きてしまうかもと思い、最後に思い切り強く握った。乳首からミルクが勢いよく噴射するのを感じた。 「ああ、すごい!」 大きな声で叫んだ。ウェンディに聞かれても構わないと思った。 全身にオーガズムが大波のように打ち寄せる。こんなオーガズムは初めて。たいていのオーガズムのようにクリトリスからゆっくりと高まってくるような絶頂感とは違って、 胸と股間のあそこのふたつから同時に噴き出してくるように感じた。 衝撃、圧倒的で純粋な衝撃! それが両脚、胴体、そして身体のすべての他の部分を、同時に駆け巡る。 快感はあらゆる方向に動きまわり、あたしは自分の中心がどこにあるかも忘れ、完全にリラックスし、そして、どこか高揚した気持ちになった。その変化が同時に起きる。意識は身体の中だけになり、身体の外のことについては、聴覚も、味覚も、触覚も、嗅覚も、視覚も消えていた。全身が快感が充満したカタマリになっていた。 永遠に続くかと思ったそれも、ようやく、落ちついてきて、オーガズムがゆっくりと鎮まってきた。意識が戻り、キッチンで上半身裸のまま立っている自分に気づいた。ちょっとおどおどして、混乱してる感じで突っ立っている。 2分ほど立ったまま、息づかいが元に戻るのを待って、いまの快感が何だったのか、理解しようとした。何が起きたんだろう? ミルクを出すたび、いつも、いまのようなことが起きるの? それに、あたしが出したミルクは? カウンタの上のカップに目をやった。さっきの不思議なオーガズムについては、あまり重要でなくなっていた。オーガズムが去り、呼吸も元に戻ると、オーガズムより、あたしの乳房と、その乳房の不思議な性質の方が、もっと興味深くなっていた。 うつむいて胸を見た。無意識に強く握っていたので、ちょっと赤くなっているけど、リリスが受け合っていたように、相変わらず、ツンと張って、重量感たっぷりの形。もはや、張りの痛みはなくなっていた。 カップの容器は透明だった(あちこちにフットボールのロゴが塗られているけど)。中には、青みがかった白い液体が溜まっていた。 カップを一回まわしてみると、ミルクがちゃぷちゃぷと波立った。(水よりはずっと濃いけど)普通の牛乳よりは薄い感じ。スキムミルクのような感じかもしれない。たくさん溜まっていて、リリスが言ったように700ミリリットルは確実にある。 カップを鼻先に近づけ、匂いを嗅いでみた。どんな匂いがするか予想していたわけじゃないけど、うっすら、美味しそうな香りがした。ちょっと甘くてクリーミーな匂い。実際、飲みたいと思わせるような匂いだった。急に、どうしても味わってみたい気持ちが高まってきて、あたしはカップを口に寄せ、傾けた……。 「だから、あたし、こう言ったのよ……」 玄関が開く音がし、ウェンディの大きな声が聞こえた。声の様子から、連れの人も家に入ってくると分かった。かっと熱いパニック感が全身を走った。さっきのオーガズムで道を切り開かれたのか、さっきと同じ感覚経路を今度はパニック感が走る。 急いでカップをカウンターに置き、放り投げたTシャツを探した。床に落ちてたのを見つけ、急いで頭からかぶる。シャツの裾を整えている時、ウェンディがキッチンに入ってきた。 「だからね、あたし、まるで……」 ウェンディは後ろからついてくる友だちに話していた。女の子がもうひとり、それに男の人が4人くらいいるようだった。みんな、ウェンディの話しをうんうんと頷いて聞いている。 全員が入ってきたのを知り、あたしは冷蔵庫を背に縮こまった。できるだけ目立たない、小さな存在に見せようとして。 「あ、ハイ、ラリッサ!」 ウェンディは、立っているあたしに気づくと、可愛い声であたしに呼びかけた。 「ようやく起きたのね。気にしないでくれるといいんだけど、テレビで試合を見ようと何人か連れてきたの」 突然、全員の目があたしに向けられた。今は自慢の美しい乳房があるのに、あたしはみんなの視線が気になった。多分、以前よりも、人の視線が嫌と感じていたかも。胸の前で両腕を組んで、顔を赤らめた。 「いいえ、いいわよ」 男子学生たちは、ちょっとあたしのことを振り返りながらリビングに入って行った。彼らの視線があたしの胸に向けられるのを感じた。 「あ、あと、こちらはジーナ。あたしの友だち」 ウェンディはもう一人の女の子の方を指さして言った。「彼女、あたしの地元の友だちなの。来週にかけて家にステイしてもらうつもり? 彼女の大学は休みなんだって。いいわよね?」 「ハーイ、会えて嬉しいわ」 とジーナは手を差し出した。あたしは胸の前で組んでいた手の片方を出して、彼女と握手した。心臓がドキドキする。ウェンディの友だちと会うといつもそうなるのだけど、この時も、いつもと同じ人づきあいの不安を感じた。いや、別にウェンディの友だちに限らず、誰とでもそうなるんだけど。 でも、これが理由で、あたしは立派な胸が欲しいと思ったんじゃないの? 胸が大きくなったら自信が持てると思ったのでは? でも、思ったようには、なっていない。 「あたしも会えて嬉しいわ」 とあたしは小さな声で早口で言い、また顔を赤くした。
でも、リリスの話しを聞きながら、あたしは別のことを考えていた。 「胸の形が変わったりしないなら、母乳を出さないで放っておいてもいいいんじゃない? つまり、いちいち絞り出さなくてもいいって。違う?」 そう言って、また、頭を下げて大きくなった胸を見おろした。いろいろ問題が出てきたけれど、やっぱり、この胸すごく形がいい……。 「ふーん、あたしならそんなことしないけどね」 とリリスは不吉な返事をした。 「どうして?」 「そのおっぱい、6時間くらい前にあんたにあげたんだけど、いま、どんな感じしてる?」 訊かれるまで、気づかなかったけど、言われてみて、ちょっと痛くなってるのに気づいた。そんなひどい痛みじゃないけど、何だか圧迫されてる感じ。バスルームで感じた、あの、溜まってるものが放出されたような快感って、この圧迫感からの解放だったのだ。 「ほったらかしにしたら、どんどん痛くなるということ?」 手で片方の乳房を持ち上げて、ちょっと揺すってみた。重くなってる感じがしたし、前より痛くなっている。 「たぶん、しばらく痛みが続くでしょうね。でも、でも、別に何かしなくちゃいけないってわけじゃないわよ。意図的にミルクを絞らなくても、いずれ出てくるから」 「つまり、漏らしちゃうってこと?」 「ちょっとね」 リリスがあたしを笑ってる感じがし、あたしは顔が真っ赤になった。 「でも、そんなミルクをどうしたらいいの? 飲むとか?」 「飲んでもいいんじゃない? 害にはならないわよ。正直、あたしはどうでもいいけどね。ちゃんとうまくいってるか確かめるために電話したんだから。ま、多かれ少なかれ、あんたが求めたようになってるようね。もう、出かけるからね。今日はすごく忙しいんだから」 リリスは急に退屈そうな声になった。 「多かれ少なかれってどういうこと? 胸をこんなふうにしたいとは思ってなかったって言ったでしょう?」 あたしは必死になって訴えた。 「あのねえ、ラリッサ。さっきも言ったけど、願い事をする時には注意するのよ。それ、知っているべきだったのよ。そんなにそのおっぱいが嫌いなら、今夜の2回目のお願いの時に、それをなくしてくれって頼みなさい。でも、その前に、その大きなおっぱいをちゃんといじりまわしてみたら? 気に入るかもしれないわよ」 そして、電話を切る音がした。 あたしは、しばらく茫然としていた。いったいどうしたらいいの? こんなの正常じゃない。 そしたら急に胸の圧迫感が増える感じがし、胸元に目をやった。いまだに、この胸を見ると、その大きさや形の美しさにうっとりとしてしまう。だけど、母乳についてはどう思ってよいか分からなかった。ものすごく変! ふたつ目のお願いで、この胸を元通りにするか考える必要があった。でも、そんなの、せっかくのお願い事なのに、無駄遣いすぎる! ダメダメと頭を振った。それに合わせて、いっそう胸が痛くなった。 「たとえ今日一日だけでも、この状態、無視できないわ」 そう独りごとを言った。 この乳房をなくすかどうか、いまの時点で心配しても意味がない。ともかく、どんどん張ってくるお乳のことを何とかしなければ。 持ってるブラは全部あわなかったので、代わりに大きめのTシャツを着た。そのシャツは、前までは大きかったけど、乳房ができた今は、身体にぴったりな感じで、胸の丸い盛り上がりをゆったりと包んでくれていた。 一応、上半身も服を着た状態になれたので、安心して廊下にでた。ウェンディの部屋のドアは閉まっていた。これは幸い。シャツの中、胸を軽く弾ませながら、キッチンへと進んだ(もっとも、胸が弾むたびに張った感じがひしひしと伝わってくるんだけど)。 キッチンに入り、引き出しの中を漁り始めた。そして、あたしが前にフットボールの試合を観に行った時に、お土産として買ってきた大きなプラスチックのカップを見つけた。大きなカップで1リットルくらい入るヤツ。 それを部屋に持ち帰ろうと思ったけど、部屋の方向に振り返った時、急に強烈な圧迫感が襲ってきた。胸元を見ると、シャツの前に小さな濡れた染みがふたつできてる。ああ、漏れ始めているんだ! 部屋に戻ってる時間がなかった。後ろを確認して、絶対に誰も見ていないとチェックした後、素早くシャツを脇の下まで捲り上げ、胸を露出した。左右の乳首に、それぞれ白い滴が出てきているのが見えた。 その滴は見る間にどんどん大きくなって、やがて、ひとつがこぼれ、乳房の丸い肉丘を伝って、下に落ちた。 気持ちいい! 圧迫感からちょっとだけ解放される感覚! でも、こんなことしてたら、床をびちゃびちゃにしてしまう。急いで行動する必要がある。 大きなカップをキッチンのカウンタに置いた。そうして、ちょっとしゃがむ格好になって、左の乳房がそのカップのところに来るようにし、強く絞った。さっき洗面台の前でやったより、ずっと強く絞った。 「あああ、いいッ……!」 無意識に喘ぎ声が出ていた。あたしの乳房から、白いミルクが、それこそジェット噴流のようにビューッと撃ち出てきて、カップの中にシュワーっと入っていく。 この感覚、信じられないほど強烈だった。それに、ものすごく気持ちいい。もう一度、今度はちょっと注意深く絞った。温かいミルクがあたしの身体から出てくる。またも快感に喘ぎ声を上げていた。 この快感、もはや、否定しようがなかった。単なる溜まっていたものを解放する感覚だけではない。本当の意味での満足感。それに、性的な快感も確実にある。 もう一度、揉んでみた。3回目。ぎゅっと握りながら、膝ががくがくしていた。それに、間違いようのない湿り気が脚の間に広がってくるのを感じた。声を出さないよう下唇を噛んで、もう一度、揉んだ。今までで一番強く。
第2章 おっぱい 次の日の朝、寝室の窓からさす陽の光に目を覚ました。朝と言うより、実際は、昼過ぎ。最近、ずっとお昼過ぎまで寝てることが多くなっていて、今日も、時計によるとすでに午後の1時半になっていた。 ちょっと身体がだるかった。前夜にお酒を飲みすぎたような感じ。前夜に見た変な夢のことをかすかに覚えていたけれど、あれが何だったのか思い出せなかった。 寝ぼけ眼のまま、両脚を振ってベッドから降りようとした時、心のどこかからか、それはやめた方がいいと言われてる気がした。でも、その心の声を無視して、あくびをし、床に足をつけた。両足がちゃんと床のカーペットについて、あたしは両腕、両脚を伸ばして、背伸びした。 目をこすりながら廊下を進み、バスルームに入った。洗面台に行き、蛇口の下に顔を入れ、ちょっと水を飲んだ。水を流したまま、歯ブラシを握り、歯磨きをそれに塗りつけ、顔を上げ、鏡を見た。 その瞬間、あたしは口をあんぐりと開け、持っていた歯ブラシがシンクに落ち、かちゃりと音が鳴った。怪訝そうな目で鏡を見ている自分の顔がそこにあった。そのあたしの視線が胸へと降りて行く。 あたしは、いつもそうしているように、寝巻がわりに白いTシャツを着ている。でも、そのシャツがいつもと違って、普通じゃないように見えた。いつもなら、Tシャツの布地は、すんなりと胸の前を降り、パジャマのズボンのところまでを覆っているはず。なのに今日は、おへそが見えてしまってる。それに、うまく形容できないんだけど、胸の前が丸く膨らんでいるようにも見えた。身体の前、膨らんでいて、ふたつ丸い盛り上がりができている。その左右の盛り上がりの先端にはそれぞれ小さな突起ができていた。 次の瞬間、昨夜の出来事がいっせいに頭の中に溢れてきた。あの物音、匂い、光景、そして、何より、あの契約。 あたしは昨夜、乳房ともうふたつの願い事と引き換えに、自分の魂を売ったのだった。そして、それは白日夢でも幻覚でもなかったのである。本当に変化が起きていた! 夢に見続けてきた乳房ができている! 素早くシャツの裾を握って、頭の上まで捲り上げ、そして鏡を見た。それを見た瞬間、文字通り、ハッと息を飲んだ。 本当に完璧だった。まず第一に、それは大きかった。アニメにあるようなバカみたいな大きさではない。あたしは元々、小柄な女だ。だが、その小柄な身体にCカップの乳房がつくと、ものすごく大きく見える。先端には、以前同様、小さな乳輪があるし、ちょっと長めの乳首もついている。だが、その後ろにある肉の部分が、突然、巨大に膨らんでいる! この乳房、あたしの乳房! 形も完璧。ふもとが正円に近くて、ゆったりとスロープを描いて先端に通じ、パーフェクトな滴の形状をしている。 肩をちょっと揺らしてみると、胸も自然に、しかも誘惑的にプルンプルンと揺れた。それを見て衝撃を受ける。この乳房、本当にあたしの胸なんだ! あたしの身体にくっついているんだ! 身体を動かすと、左右の乳房がぶつかりあったり、跳ね揺れたりする。それにより乳房の重量感も肉の密度も感じ取れる。 もっと感じてみたい! 両手を胸の近くに持っていった。心臓がドキドキしていたし、指先も本当に震えていた。どんな感じがするんだろう? 貧弱な胸しか知らないあたしには、知らないこと。触れた途端、指が千切れちゃっうかも。それとも乳房がシューっとしぼんでしまうかも。でも触ってみたい。 指を乳房に押しつけてみたら、乳房の肉にむにゅーっと入っていった。暖かくて、肉が詰まっている感じ。しかも、指で乳房を感じることができたばかりか、乳房で指を感じることもできたのだ! 当たり前と思うかもしれないけど、こんなこと信じられない! 乳房を触りながら、うつむいてそこに目をやった。乳房の肌がぷるんぷるん波打ってるのが見えた。本当に完璧! それにいじるのが気持ちいい。自分がセクシーになった気がする。 前からずっと知りたいと思っていた。大きな胸を持つってどんな感じなのか、それに、それを揉んでみたらどんな感じになるのか。 そこで右手で左の乳房を掴んで、ちょっと軽く握ってみた。その瞬間、何か溜まっていたものが解放されるような不思議な感じがした。実際、目を閉じて、ああんってうめき声を漏らしていた。不思議だけど、気持ちいい。 目を開けて鏡の中の胸を見た。何だか変。鏡に、白い液体が何滴かついている。頭が混乱した。顔を近づけて見てみたけど、何なのか分からなかった。でも、鏡に映る乳房を良く見たら、そこの乳首にその液体の滴がくっついている! 右手の人差し指を、その乳首に当ててみた(瞬間、快感の電流がぞぞっと背筋を走った)。そして指でその白い液体をすくって、目の高さに持ち上げた。いったい、これは何なの? 天井に目をやった。天井から何か滴り落ちてるんじゃないかと思って。でも天井は乾いている。鼻に近づけて匂いを嗅いでみた。でも、何も匂わない。あたしは肩をすくめ、パジャマのズボンで指を拭った。それから、右側の乳房は違った感じがするかもしれないと、そっちも揉んでみようと思った。 今度は前より強く揉んでみた。やっぱり何か溜まっていたものが解放される感じ。前より強く感じる。でも、この時は、目を開けたままで揉んだのだ! 乳首から何かがビュッと撃ち出されるのを見て、ショックを受ける。あたしの身体から、液体が長い紐状になって出てきたのだ! その液体が鏡にぴしゃりと当たり、はじけるのを見た。鏡には、さっきのに加えて、新たに白い液体がくっついている。 顔を下げて乳首を見たら、またも、その先端に滴がついていた。 もしかしてミルク? あたしの乳房には母乳がいっぱいなわけ? 見ている光景があまりにショッキングで、あたしは何がなんだか分からなくなっていた。混乱させることが、一度に一気に押し寄せてきて、何が何だか分からない。 ゆっくりとだったけど、あたしの寝室から電話のベルが聞こえてるのに気づいた。あたしは、指先やバスルームの鏡についたミルクを見つめたままだったけど、一種、茫然とした状態で、上半身裸のままバスルームから出て、寝室に戻り、電話に出るため寝室に戻ることにした。そんな茫然とした状態であっても、歩きながら、胸が上下に跳ねるのに気づいた。 何とか部屋に戻り、ナイトスタンドのところに置いておいた電話を取った。表示されている電話番号を見た。知らない人からの電話。ディスプレーには666という数字しか出ていない。 ちょっと電話を見つめていた。こんな番号、ありえない。でも、母乳充満の大きな乳房があたしにくっついているというのも、ありえない。結局、あたしは電話のボタンを押し、「もしもし?」と言った。 「おはようございます、マンスフィールド様。いくつかご質問がおありかと感じまして、お電話さしあげた次第ですの」 電話からは、聞き覚えがあるセクシーな声が聞こえた。言葉づかいは違うけど。 「リリス?」 そもそも電話をよこしてくるというのがワケ分からないと思ったけど、「あたしはラリッサで、何とか様じゃないわ…」と答えた。 「そうよね、ジェーン・マンスフィールド( 参考)、冗談だわさ……あんたの時代より前の話しだから気にしないで。今ならパム・アンダーソン( 参考)? それもダメか、今の時点だと彼女もかなり古くなってるから。それで、どうなの? 今朝の調子はどう? おっぱいの件だけど」 リリスはそう言って、電話の向こうゲラゲラ笑いだした。 「これ、リリスがしたの?」 とあたしは胸を見おろしながら言った。 「お願いすれば、叶えられるということ。あんた、でかくて、綺麗なおっぱいを欲しがっていたでしょ? で、ちゃんと手に入れたのよね?」 「ええ、でも、このおっぱい、いっぱいすぎて……」 「セックス・アピールが? 動物的欲望の吸引力が? それとも、単に肉感が?」 「違うわよ、ミルクが!」 とあたしは叫んでいた。「大きくて綺麗な胸なのはいいんだけど、ずっとミルクを出し続けているの!」 「何のこと言ってるの?」 とリリスは興味なさそうに言った。 「母乳たっぷりの胸なんて言ってなかったわ。単に大きくしてくれと言っただけなのに!」 大きな声を上げると、それに合わせて乳房がぶるぶる震えるのを感じた。乳房の中、ミルクがたぷたぷ波打ってるのが聞こえそうに感じた。もちろん頭の中での想像にすぎないとは知っているけど、こんな感覚、変すぎる! 「まあ、確かにあんたは言わなかったけど?」 リリスは平然と言いかえしてきた。「だから、何なの? いいこと、ラリッサちゃん。あたしはね、太古から自然界で生きてるのよ。何もないところから何かを作ることなんかできないし、多量のシリコンも持っていないしね。そもそも、シリコンなんて、あたしが住んでるところではすぐ溶けちゃうし。あんたのおっぱいを大きくしてやったけど、これは昔ながらの方法でやったの。ミルクを入れる方法ね」 リリスの口ぶりは、彼女がどんな方法を使って願いをかなえるか、あたしは前もってちゃんと知っておくべきだったと言わんばかりの口ぶりだった。 「お願いするときは、注意することね」 話しを聞いてるうちに、突然、あたしは恐怖を感じた。 「赤ちゃんができたということ?」 だって、何もないのに母乳が分泌されるはずがないもの! でも電話の向こう、リリスはクスクス笑っていた。 「さすがのあたしも、そこまではしないわよ。でも、いま思うと、そうした方が良かったなあと思うわ。アハハ。やったのは、ただ、ミルクをたっぷり出す仕組みをいじっただけ。そうすると自動的に大きなおっぱいになる」 姉が子供を産んだ時のことが頭によぎった。あの時、急に姉の胸がちょっとだけ大きくなったっけ。ちょっとだけだったけど。 「でも、ミルクを出すためなら、カップのサイズ1つくらいしか大きくならないはずじゃない?」 あたしはベッドにどっしりと腰を降ろしながら訊いた。こんなの予想していなかった。 「そうねえ、赤ちゃんができて、正常に母乳を分泌するとしたら、1日当たり、700~900ミリリットルくらいかな。だったら、たぶん、あんたが言うのは正しいかも」 リリスの「正常に」というところの言い方に、何だか、嫌な予感がした。 「それで……あたしの胸の場合は、どのくらい分泌するの?」 「まあ、それはいろんな条件によって変わるわね。ほら、どんくらい食べるかとか、飲むかとか、運動とかも関係するし」 リリスは、まるで一般的な知識の話しをしているような口調だった。あたしはだんだん心配になってきた。 「お願い、リリス。だいたいのところでいいから」 「そうねえ、だいたい3リットルくらい? 牛乳パック3本分くらいかな。6時間ごとに、乳房一つあたり、340ミリリットル。まあ、寝てる時とかは、分泌速度も遅くなったり、止まるかもしれないけど」 牛乳パック3本分! 自分の身体からそんな多量の液体を出せるなんて、できっこない。しかも6時間あたり、700ミリリットルって! すごい量じゃないの! あたしって、牛になったの? 「あ、でも、心配しなくていいわよ。ミルクを出してもおっぱいがしぼんだりしないから。そこんとこは、ちゃんと注意しておいたわ。いくら出しても、プリプリのまま。形も変わらない。すごいでしょ!」
彼女はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべてあたしを見ていた。でも、完全に落ちつき払っている感じ。 あたしはちょっと彼女から視線をそむけ、床の穴を見た。こんなのありえない。彼女がこの穴から出てきたなんて…… 彼女はあたしが視線をあっちに向けたりこっちに向けたりしてるのに気づいたようだった。ベッドに両手をついて、前のめりになり、ベッドに入ったままのあたしに顔を突き出すようにした。その姿勢のせいで、大きな乳房が左右から押されて、むにゅーっと盛り上がる。あたしは自然とそこに目を向けた。 「あんた、あたしのおっぱいを見つめ続けてるだけ? こんにちはも言ってくれないの?」 すごく官能的な声。 あたしは2秒くらい目を閉じ、そしてまた目を開けた。目を閉じてる間に、この人が消えてくれればいいいのにと思って。 「あたしはまだいるわよ」 彼女は身体を起こして、そびえ立った。背が高いというわけではない。あたしとあまり変わらない。でも、背が高いように感じてしまう。彼女はあたしにウインクして見せ、片手に尻尾を握って、誘惑するような感じで、振り回した。 「誰……?」 ようやく声を出したが、小さなかすれ声しか出なかった。 「ラリッサ」 「何……?」 少しずつ普通の声に戻り始めた。 「あたしに会うと、自分の名前を忘れちゃう人がいっぱいいるのよねえ。あんたの名前はラリッサでしょ?」 そう言って彼女はベッドの横へと回ってきた(穴が開いていない方の横側)。そして、けだるそうにベッドに腰を降ろした。 「いえ、何が……?」 そう言いかけて思った。どうして彼女はあたしの名前を知ってるの? とは言っても、別にその疑問が重要だったわけではない。頭の中が混乱しきっていたし。でも、それが最初に浮かんだ疑問だった。 「あら、あたしのことを知りたいの? はじめまして。会えて嬉しいわ。あたしの名前、当ててくれるといいんだけど」 あたしは眉をしかめた。 「どう?」 どんどん頭が混乱してくる。彼女はつまらなさそうにクスクス笑い、瞳をくるくる回して見せた。 「あんた、若すぎるようね。ローリング・ストーンズは? まあ、どうでもいいわ、あたしをリリスと呼んでいいわよ」(訳注:ストーンズのレコード会社はリリスと言う) あたしはちょっと驚いた。何か、もっと邪悪な名前を予想してたから。ベルゼブブ(聖書での大魔王の名)とかなんか。 「血統の良い名前なのよ。いつかグーグルで検索してみて」 とリリスが言った。また、あたしの心を読んだみたいだった。 そう言って彼女は、ベッドの上、仰向けに倒れ、背伸びをした。毛布の上からだけど、あたしの両脚の上に背中を乗せるような感じで。 彼女の匂いがした。硫黄の匂いではなく、バラの花の匂いに近い感じ。毛布の上から彼女の体温も感じた。すごく熱い。でも、火傷するほどではない。 リリスは横になったまま背伸びをした。関節がポキポキなる音が聞こえた。じっと天井を見つめている。呼吸に合わせて、彼女の胸が上下に隆起を繰り返していた。ビキニの中、乳首が固くなっているのが見えた。寒さを感じた時に固くなるのと同じ感じで。リリスは寒さを感じているの? 「いったいあなたは誰?」 そう言うと、彼女は笑いだした。あまりに笑いすぎて、横になってばかりもいられず、身体を起こし、あたしを見た。また、あたしに興味をもったような顔をしていた。瞳は、さっきまでは黒かったのに、いまは赤く輝いていた。 「適切な質問ね。見かけよりは面白そうな人だわ」 「あなたは誰?」 「リリスよ。もっと面白い質問をしなさいよ」 と退屈そうな目を向ける。 「どこから来たの?」 そう訊くと、リリスは笑顔になった。彼女の歯が本当に鋭い牙になっているのが見えた。舌でゆっくりとその歯をなぞっている。舌は黒っぽい血のような赤で、フォークのように先割れしていた。 「その答えは知っているでしょ? 答えを知らない質問をしなさいよ。最後のチャンスよ。あたし、だんだん退屈してきてるんだから」 リリスがどこから来たか? 心の奥では答えは知っていたが、それを受け入れる気にはどうしてもならなかった。 でも、彼女が退屈したら、いったい何をしでかすか、それの方が恐ろしかった。あたしは別の質問をした。 「なぜここに来たの?」 リリスはニヤリと笑い、また仰向けに転がった。そしてあたしの横にすり寄ってきた。いまは、(毛布の上からだけど)あたしのお腹の上に寝転がっている。肘枕をして、顔をあたしに向けていた。 「あんたがあたしを召喚したんじゃない、ラリッサ?」 「そんなことしてないわ!」 すっかりわけが分からなくなって叫んだ。あたしは、人から宗教的な人と呼ばれるようなタイプではない。ましてや、助けを求めて、あ…悪魔を呼び出すなんてあり得ない。こんなこと完全に狂っている。 リリスは肩をすくめ、口を開いた。口の中、赤い舌は動いてなく、平らに収まったまま。なのに、彼女の口から声が出てきた。まるでテープレコーダのように。 「もうイヤ! 素敵なおっぱいができるなら、こんなあたしの魂なんか売り飛ばしても構わない!」 あたしの声だった! リリスの口から出てきてるけど、まったくあたしの声と同じ! そして、何時間か前に、その言葉を吐いたのを思い出した。あたしはまた頭を左右に振り始めた。 「否定するのはヤメな!」 リリスは身体を起こした。怒った声になっていた。 「あんたもあたしも、あたしが誰で、あんたが何を求めたか知ってるの。さっさと本題に取り掛かるのよ」 「いや、あたしは、ただ、感情をぶちまけただけなの。別に望んだわけじゃないの」 あたしは、この部屋で起きてることと、世界についての真理や物事が作用する仕組みについての知識との、つじつま合わせができずにいた。でも、ここに、あたしの目の前にリリスがいることは事実。ということは、リリスと契約を結ばなければならない? 「あのねえ、あたしは感情をぶちまける人のところには来ないの。本当に心から願ってる人のところにしか来ないの。いいこと? あたしを信じることね。あたしには嘘は見抜けるのよ」 リリスはそう言って、ウインクした。あたしは少し前のことを思い浮かべた。不満に思うことや、落胆させることが山ほどあって、一度にあたしに襲ってきたあの時。あたしは本気で言ったのか? すごく不幸な気持ちだった。いまでも不幸だけど。 「ええ、確かにあの時は本気だったわ。でも、今はもういいと思ってるの」 そう言った。 人生で、あたしがこういうことを言ったり、思ったりしたのは、何度目だろう。あたしは、そんな願いを言っても叶いっこないと知ってたから、そう言ったのか? それとも、心の中、本気でそれを求めていたということか? 「あたしが誰かに会いに来るときは、その人は心から求めていたモノを欲しがっているの。あたしがこうやって出向くのは、年に2回程度なのよ? それにあたしが望みを叶えてやると言えば、人間は受諾するものなの。妙な自意識は捨てて、魂をあたしに売りたいと思ってると観念しなさいよ」 「気持ちが変わったのよ」 あたしは良く考えずに、そう言った。これは狂っている。第一に、誰かに自分の魂を売るなんてことがそもそも不可能。起こりえないこと。それに、たとえそれが可能だとしても、おっぱいのために魂を売るつもりなんてない。第二に、今のあたしが何らかの精神的障害状態に陥ってるのは明らかであり、…… 「気持ちを軽く持って」 とリリスが言った。今は暖かい笑みを浮かべている。魂の代わりにどんなものが得られるか、まだちゃんと聞いてないでしょう? あんたがあたしのところに来たのは運がいいのよ。いや、あたしがあんたのところに来たのか? どっちにせよ、あんたの魂の価値に見合うものを与えてくれる人なんて、そうそういないのよ?」 リリスは早口になっていた。ちょっと中古車のセールスマンの口調になっていた。 「いえ、あたしは……」 「それに今は11月。11月には特別契約を実施してるの。今すぐ行動した方がいいわよ。いったん契約がテーブルに乗れば、5分以内に見返りが得られるから。5分よ。魂を売ってから、手に入れるまで、たったの5分……ええっと、ちょっと待ってね」 リリスはしゃべりながら、身体を反転させ、あたしの腰の上にまたがった。両手をあたしの首の左右に添えて、前のめりになって顔を近づけた。リリスの美しい顔が、あたしの顔から10センチも離れていないところに近づく。彼女の呼気からバラの香りがした。 「あたし、魂を売れない。地獄に行っちゃうもの」 この時点では、自分でも、どうして魂を売りたがっていないのか真面目に考えていなかった。それも一種、自然な反応だと思う。魂を売ることは悪いこと。だから、売らない。それ以上でも、それ以下でもない。 「あたし、たいていの時間は地獄にいるの」 とリリスが急いでつけ加えた。「あそこ、大好き。あんたも気に入ると思うわ」 リリスの瞳を覗きこんだら、今は青白い炎で燃えているように見えた。 「あ、あたし……」 「あんた、魂が必要なのね。自分の魂をいつも近くにおいておいて、キスしたりして、大事にしていたいのね? あたしにも分かるわ。あたし、今すぐ奪ったりしないから。あんたが死んだときにもらうから。ねえ、正直になったらどう? あんた、そんなに品行方正な人生を送っているわけじゃないじゃない? というか、妬みやひがみだらけの人生じゃないの? 確率的には、あんた、どのみち地獄に落ちる可能性の方が高いわ。だったら、地獄か天国か、どっちか分からない宙ぶらりんの状態を解消しちゃって、地獄に落ちると諦めて、そこから何か得た方が、いいんじゃない?」 「いや、そういうのとは違うの」 そうは言ったけど、心の中は違っていた。リリスが言うのは正しい。あたしは信心深い人間じゃないし、これまでも、神は存在しないと考えて生きてきた。まあ、それを言ったら、リリスも存在しないと考えて生きてきたんだけど。 ともかく、リリスはここにいて、あたしが間違っていると言っている。どのみち地獄に落ちて、身を焼かれるのなら……だったら、今の自分にご褒美をあげていても構わないんじゃ? リリスは、あたしの目を見て、心の変化を読み取ったに違いない。 「よく考えて、ラリッサ。あんたがどうしてそういうことを言ったのか、あたしには分かるわ。孤独になることも、怒りを感じることも、恥ずかしさも、不安感も、どういう感情かあたしは良く知っている。あんたが毎日、どんな日々を送っているのかも知っている。そんな人生、送る必要ないのに、あんたは。なのにこれからも今の人生を続けて行くつもりなの? 今日はあんたのサインだけもらえればいいの。他は何も求めていないのよ」 リリスは、あたしが自分について考えてきたことのすべてに触れてきた。あたしの考えてることを見通している。それに加えて、まさに痛いところを突いてくる。あたしには自分の人生を自分の力で直す決断力が欠けているのは明らか。本当に、これって、あたしが求めていたことのすべてじゃないの? 「ねえ、サインしてくれる?」 リリスは乳房の間に手を入れ、中から小さなノートを引っぱりだした。それから耳の後ろからペンも出してきた。あたしはそれを受け取り、彼女を見つめた。 「どうしよう……」 リリスの目がしだいに飢えた感じになるのが見えた。一瞬、こんなことものすごく狂っていると思った。こんなことが本当に起きてるなんてあり得ない。これって、何か、奇妙な夢かなんかじゃないの? でも、同時に、あたしは願い事をかなえられたらって、何度も期待してきたことを思い出した。人生を変えることができたらいいのに、と。これが夢なら、何も害はない。でも、これが夢じゃないなら……でも、あたしは、幸せになっちゃいけないのだろうか? あたしだって……。リリスはうまいところを突いている。 切り替えが速すぎるように思われるのは知ってる。魂を売ることにぜんぜん乗り気じゃない状態から、売ってもいいかなと思うようになるまで速すぎるのでは、と。でも、あたしには、実際、それほど速かったとしか言えない。 最初は、当然、魂を売ることを拒否した。でも、その後、落ちついてよくよく考えてみたら、あたしは、そもそも自分の魂を使っていないことに気がついたのだ! あたしの魂以外の部分は、みっともなくて、目も当てられない代物なんだけど、それで言ったら、あたしの魂自体もみっともなくて、目も当てられない代物だったと気づいたのだった。あたしには、守るべきものなど、そもそも何もなかったのだと気づいたら、急に、魂なんかどうでもいいじゃないと思った。大事なのは、今の自分を変えること。それだけだわ。しかも今すぐに。 「さあ、どうする? ラリッサ?」 リリスはあたしの魂を得ようと必死になっているのに気づいた。彼女の目の色からそれが分かる。今ならチャンスがあると思った。魂を売る時に、おまけを得るチャンス! 「そうねえ、何かもらえるんでしょ?」 「おやおや、偉そうに!」 リリスは高慢な口調でそう言ったが、顔は笑っていた。「誰かさんは、魂を売ることについて交渉しようとしているようだね。その種のことをやっただけでも、地獄に落ちるのに充分。まあ、あたしは好きだけどね、そういうの。あんたに何を提供するか、話してあげるわよ」 リリスはそう言って、あたしから離れ、あたしの膝の上にしゃがんだ。 「何をくれるの?」 「まずは、おっぱい。それをあんたにやるわ。あんたが望んだモノだからね。あんたが魂を売る代わりに得るものが、それ」 と、そこまで言って、リリスは話しを止めた。おっぱいが欲しいというのは、あたしもリリスも知ってること。でも、あたしはもっと欲しいのよ。あたしは目を落とし、自分のぺったんこの胸を見て、それから顔をあげ、リリスを見た。 「あたしの魂を奪っておいて、おっぱいしかくれないなんて、思ってないわよね?」 そう言うと、リリスは大笑いした。 「あんた、自分で思ってるほど弱くはないわよ。なかなかヤルじゃない? さっき、あたしは取引するって約束したでしょ? まずはおっぱい。それは今夜にも、もらえるでしょう。でも、それに加えて、続く二晩連続で、2つ、追加の要望を叶えられることになるわよ。一晩にひとつずつ。2夜連続。合計、3つ願いをかなえられるの。人間って、3つのお願いってのが大好きだからね。千夜一夜とか。父と子と聖霊のためにお願いしてもいいわよ、その気があるならだけど。ともかく、魂との交換で、願い事3つを提供するわ。もっと願い事を叶えてもらう願い事は不可とか、いろいろあるけど。で、どう? ラリッサ?」 リリスは一通り離し終えると、手の爪を見た。一種、「あたしはどうでもいいんだけどね」といったフリをしているのだろう。あたしも同じようにしたかったけど、できなかった。お願いが3つも叶う! それならどんなことでも、欲しいモノ何でも手に入れられる。とても、ポーカーフェースを装うことなどできなかった。 「取引するわ!」 とはっきり言った。 リリスは素早くノートをあたしの顔の前に突き出した。あたしはさっきのペンを握り、ノートを見た。何も書かれていない。あるのは、1本の直線と、その先に×印だけ。リリスを見たら、彼女は眉毛を上げた顔をした。心臓がドキドキしている。 「サインしなさい。そうすれば、もう二度と、自分は要らない人間なんだなんて思わずに済むようになるから」 またもあたしの胸に突き刺さるような言葉を振りかけてくる。あたしはノートをおいて、名前をサインした。すぐに胸に目を落とした。すると……何も変わらない。 「どういうことよ、リリス? ちゃんと最後までしなきゃ、魂をあげないわよ!」 突然、リリスの瞳が紫色に輝いた。そして、素早く立ち上がり、ベッドの上、仁王立ちになった。威嚇するようにそびえ立っている。全身から純粋な悪意が放たれてくる感じがした。 「奴隷の分際で、あたしに説教しようなんて思わないことね! あんたは、この地上には2年程度しかいられないのよ。その後はあたしのモノになる。つべこべ条件を言うのは止めることね! あんたには、願ったことをすべてやるわ。でも、それはあたしのやり方でヤルということ!」 リリスの声が頭の中でこだました。急に恐怖に襲われた。今まで経験がないほどの恐怖。あたし、なんてことをしてしまったんだろう? 次の瞬間、リリスの尻尾がびゅんと飛んできて、あたしの頭の横を強打した。そして、世界は真っ暗になってしまった。
この日、午前11時に仕事をクビになってから、ずっと家でごろごろしてたから、多分、新鮮な夜の空気を吸えば気分も良くなると思った。早秋の宵で、トリキシーと出かけた時には、すでに辺りは暗くなっていた。ちょっと寒くて、何か温かい服を着てくるんだったと思った。トリキシーが用を足したら、すぐに帰ろうと思った。 少なくとも、近くに散歩するのに手頃な場所があった。あたしが通っている(いや、通っていた)大学である。丘の上の中規模サイズの公立の大学。樹木がたくさん植えられている。あたしとウェンディは街の中でもわりと静かな通り沿いに暮らしているのである。 金曜の夜なので、大学生がたくさんうろうろしていた。 新入生たちは、嫌いな人が誰かが分かっていないのか、大人数で集団行動をしていた。薬中の連中は、芝生に座って宇宙のことについて議論していた。ガリ勉学生は、学生組合でロールプレイのゲームの準備をしていた。そして、他の何よりたくさんいたのが、パーティに行こうとしている男子学生と女子学生たち。 誰もが落ち着いて幸せそうだった。この幸せそうな人たちが、あたしと同じ世界に住んでるなんて理解できない。確かにあたしの中の一部は、あたしは、ここにいる人たちのように振舞い、彼らの中に溶け込みさえすればいいと知ってるけど、気持ち的には、どうしてもそうできないのだった。あたしは、できる限り自分を小さく見せて、足元を歩くトリキシーのことだけを見て歩いた。誰もあたしのことに気づきませんようにと祈りながら。 トリキシーは、ようやく良い場所を見つけたようで、郵便ポストの近くに駆け寄り、用を足した。こういうことにかけてはトリキシーは割と素早く行うので、安心できる。 そしてあたしたちは方向を変え、家に戻り始めた。でも、帰宅の途に着くとすぐに、突然、頭上で耳をつんざくような音が鳴り響いた。肌に鳥肌が立ち、あたしは文字通り地面にしゃがみ込んだ。何が起きたかさっぱり分からない。でも、すぐにその答えが出てきた。暖かいのどかな夜だったのに、一瞬にして、凍えるように冷え込み、滝のような土砂降りになったのである。 文字通り、滝のような土砂降りだった。すぐに道路には雨水が溢れだし、歩道にまでせり上がってくる。トリキシーは半狂乱になって、ぴょんぴょん跳ねまわり、狂ったように吠えていた。あたしはどうしてよいか分からず、両手を頭の上にかざしたけど、手では小さすぎるし、そうするのも遅すぎた。あっという間にずぶ濡れになっていた。 あまりに突然の土砂降りで、ちょっと凍りついていたけど、ようやく気持ちが落ち着き、あたしは家への道を歩き始めた。走って帰ることも考えたけど、どの道、すでにもうずぶ濡れになっている。あたしは両腕を胸の前で交差させ、うつむいた姿勢で歩いた。想像できると思うけど、これがあたしの普段の姿勢なのだ。トリキシーは水たまりを見つけ次第、そこにジャンプしようとしたけど、あたしはリード紐を短く持って、それを防ぎ、ともかく家路を急いだ。 家まで2ブロックほどのところに来た時、道端の消火栓のところに男がふたり立っているのを見かけた。ふたりとも雨のことは全然気にしていないようだった。慌てて歩く人々を見て大笑いしている。 あたしは、あの人たちに気づかれたくなかった(というか、誰であれ、あたしは人に気づかれたくない)。なので、歩道の端の方に寄って、できるだけふたりから離れるルートを取った。近づくとふたりの話し声が聞こえた。 「いや、マジで。これほどいいプランは考えられねえって!」とひとりが言い、もう一人が笑った。 「本当だぜ。タダでずぶ濡れTシャツ・コンテストを見られるんだからな。でもよ、急な土砂降りになった時に、俺たちが、女子寮がある通りにいる確率って、やたら低いんじゃね?」 「特に、みんなが、どういうわけか、白いTシャツを着てるとなると、かなり確率が下がるな」 あたしは歩きながらふたりの視線を追った。見てみると、通りの反対側を、女子寮に住む学生が10名ほどキャッキャッと笑いながら走るのが見えた。全員、白いTシャツを着ていて、走るのに合わせて、胸がぶるんぶるん揺れているのが見えた。このふたりの男たちは、それに目を奪われているようだった。多分、あたしも目を奪われていたと思う。ふたりから離れて歩こうとしていたにもかかわらず、気づいたら、彼らのひとりに身体を擦りそうになっていたから。 「あ、ごめんなさい」と呟いた。 「いいってことよ、お兄ちゃん」 それを聞いて顔が赤くなるのを感じた。もう一人の男が振りむいてあたしを見た。 「おい、あいつ女だぜ」 するとふたりともあたしに顔を向けた。あたしが白いTシャツを着ていたのは見ていたんだろう。すぐにふたりの視線があたしの胸に向けられた。そして、あたしにはすっかりお馴染みのがっかりした表情がふたりの目に浮かぶ。ふたりとも、すぐにあたしから視線を外した。 「ああ、いいってことよ、お嬢さん」 この「お嬢さん(Miss)」って言葉は、男子寮の学生風の男が使う場合、一番セクシーからかけ離れた言葉と言ってよい。この男に12歳の妹がいて、その妹の友達か何かに対して使う言葉だ。あたしは、目を落として、ふたりが見ていたところを見た。シャツがずぶ濡れで、胸がぺちゃりとなっているのが見えた。小さな乳首の突起が見えた。だけど、他は何もない。乳房があるべきところに、まるで何もない。多分、両脇にかけて、あばら骨も見えているかもしれない。 あたしは、ふたりを見て、彼らが道路の向こう側の女の子たちを見ていても咎める気すら起きなかった。トリキシーのリード紐を引っぱり、雨がなかなかやみそうもないこともあり、できるだけ急ぎ足で家に向かった。 家の中に入ったとたん、外にいる間ずっと溜めこんでいたストレスが一気に噴き出した。他人目の多い街に出る不快さ、他人の目にじろじろ見られる感覚、みんながあたしを笑っているような感覚、そして、とどめがあの侮辱。最もエッチな気分満々の、最悪バカと言える学生の目にもあたしがぜんぜん性的に魅力がないと思い知らされた侮辱。トリキシーのリード紐を床に落とし、トリキシーが雨水をふるい落とすためにキッチンへ走っていくのを見ながら、あたしは喉の奥から叫び声が募ってくるのを感じた。 「もうイヤ! 素敵なおっぱいができるなら、こんなあたしの魂なんか売り飛ばしても構わない!」 思いっきり叫んでいた。自分の声だけど、何か心の奥底からの原始的な叫び声のように聞こえた。その声が廊下に鳴り響くと共に、心の中のストレスが身体の中からゆっくり消えて行くのを感じた。 強い雨が家の屋根を叩くのが聞こえ、自分は家の中にいるんだと知った。ウェンディは遅くまで帰ってこないだろうし、あたしはしばらくこの家に独りでいるだろう。さっき受けた侮辱に、顔はまだ赤いままだったし、焦燥感からちょっと過呼吸になっていたけど、それでも、少し落ち着いた気持ちになっていた。 「もう、ラリッサったら! 自分をしっかり持って!」 あたしは自分に言い聞かせ、頭を振って、あたしはどうしてしまったんだろうと思った。こういうことには慣れていると思っていた。不安感が悪化しているの? そんな感じを振り払い、トリキシーがぶるぶるして水だらけにした後始末をするためにキッチンに向かった。 キッチンじゅうの水を拭きとるのには時間がかかった。でも、それは良かったと思う。悩み事を忘れることができたから。全部、拭き終えたけど、辺りじゅうが濡れた犬のような匂いがしていた。顔を上げるとトリキシーがあたしのことをじっと見つめていた。あたしはトリキシーに微笑みかけ、バスルームに連れて行き、お風呂に入れてあげた。トリキシーを洗って乾かした後、自分も服を着替え、髪を乾かした。 すべてが終わった頃には、すでにずいぶん夜遅くになっていた(多分、11時ごろ)。ということは、この数時間ほど、気持ちを落ち込まさせずに何とかやり過ごせたことになる。これは良い兆候だと思い、この機会を逃さず眠ってしまうべきだと思った。そして急いでベッドにもぐった。 でも、もちろん、忙しく動きまわることがなくなるとすぐに、いろんな思いや心配事が戻ってくる。ウェンディのことを考えた。いま頃、何をしてるんだろう? あの二人組の男子寮の学生は、いま頃どこにいるんだろう? それに大きな胸をした女子寮の娘たちは、週末の夜11時にはどこで何をしてるんだろう? さっきまでとは違って、周りにあたしを見てる人が誰もいなかったこともあって、強烈な負け犬感覚には襲われなくなっていた。ただ、悲しい気分。 でも、そんな悲しい気分に浸ることはせずに、代わりに比較的鮮明な空想へと滑り込んだ。あたしが、いろんな人がいっぱい来ているパーティに出かける夢。みんな、あたしに話しかけようとしている。どんなふうに見えてるか、お化粧はうまくできてるか、あたしの意見を聞きたがって、あたしに話しかけてくる夢。あたしはみんなとお話しするのに大忙し。一種、みんなの注目を一身に集め、その注目に浸っている感じ。 こういう空想をしていると、普通、首尾よく眠りに落ちることができる。あたしは目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ち始めた……… 突然、何かぐらぐら揺り動かすような衝撃が起きた。外にいた時に受けた雷鳴よりも10倍は大きな衝撃! ハッと目を開け、素早く起き上がった。心臓がバクバク言っているし、全身にアドレナリンが流れ渡り始めるのを感じた。一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。特に、この音が雷ではないと知ったことで、わけが分からなくなっていた。この音は、想像できないほど奥底から鳴り響く感じではあったけど、あたしのこの部屋から出た音であるのは確実だった。 その轟音がどこから出ているか、すぐに分かった。ベッドで起き上がってすぐ後に、バリバリと割れるような恐ろしい音がして、あたしの部屋が一瞬にして煙に包まれたのだった。でも、普通の煙じゃなかった。硫黄の匂いがすごい。 家の中で何かの火事が起きたんじゃないかと思った。確かに、部屋が熱くなってるように思った。ベッドの右側から熱が来るように感じる。そっちの方向に目をやって、あたしは思わず口をあんぐりさせていた。無意識のうちに、頭を左右に振っていた。 見ているモノが信じられない。床のど真ん中に、突然、大きな穴ができていて、口をぱっくり開けていたのだ。そこから硫黄の煙を吐き出している。中はオレンジか赤い色に光ってる。狂ってるとしか思えないことは、その穴の奥が見えたこと。少なくとも部分的にだけど。 あたしに見える限り、その穴はずっと奥まで続いているようだった。確かに、あたしの寝室は家の1階にあるけど、この家には地下室なんかない。AとBのふたつの考えをつなぎ合わせることすらできなかった。頭の中がぐちゃぐちゃで、ただ頭を左右に振ることしかできなかった。ありえないって。 すると、急に地割れするような音が止まり始め、床の穴も輝きを止め始めた。今度は別の音が聞こえてきた。床の穴から、煙と明かりと一緒に、急に恐ろしい唸るような、あるいは叫ぶような声が聞こえてきたのだった。まるで千人の人々がいっせいに苦痛にうめきだしたような声。肌がぞわぞわとなって、何よりもまずここから逃げ出したくなった。でも、身動きできない。 穴からの明かりが急に消え、部屋全体が真っ暗になった。うめき声はますます大きくなってくるし、硫黄の匂いもどんどんきつくなってきた。 そして、次の瞬間、うめき声が止まったし、硫黄の匂いも消え、部屋の電気の明かりがいっせいに戻ったのだった。 すぐにあの穴に目をやった。でも、穴はまだある。今は真っ暗で、前より不吉に見えていた。穴の奥は見えない。もはや輝いていないから。穴があるということは、これは想像ではないんだ! 「えっへん!」 急に声がして、あたしはビックリして跳ねあがった。声がしてきたのは、穴からではなく、ベッドの先から! 床の穴にばかり気を取られていて、誰かが部屋に入っていたことに気づかなかったのだ。いや、誰かと言うより、何かと言うべきかも。 ベッドの足先のところに立っていたのは、あまりに奇妙で予想外だったので、自分の目で見てるのに、信じられなかった。 声は女性の声。とてもセクシーな女性の声。古い映画スターのような、低くてハスキーな声。その声を生み出した生き物は、確かに、そういう声にふさわしい姿をしていた。おおまかに言って、その生き物は美しい女性のように見えた。彼女は(「彼女」って呼ぶけど、他に何て呼んでいいか分からないし)信じられないほど長いストレートな黒髪をしていて、大きな黒い目をしていた。鼻は小さく、唇は真っ黒で、まるで炭で(でも魅力的に)塗ったみたい。その奥の歯は黒い唇とのコントラストで、ものすごく白く見えた。顔は、角ばった特徴や、黒い目、それに鋭い歯先とあいまって、恐ろしいけど、同時に美しい。 身体に目を向けると、ただただ驚くばかり。首は長く細くエレガントで、両腕も細く女性的な腕。肩はほっそりとしてるけれど、スポーツウーマンの肩のようでもあった。胸は、黒いビキニのようなもので覆われていたが、そのわずかな布地の中からたわわにはみ出しているようにも見えた。お腹は平らで、下着のモデルのように、おへそのところを露出していた。腰は見事に女性的な広がりを見せていて、ミニスカートの下、腰のところに鍛え抜かれた筋肉も見える。脚は細く、長く、小さく女性的な足先へとつながっていた。 この時点であなたが何を考えているか、あたしには分かる。よくアニメやSFモノに出てくるような妖艶な美女を思い浮かべているはず。そういう想像は珍しくない。そういうキャラは山ほどあるから。そして、部分的にはその想像は正しい。でも、あたしはいくつか述べていなかったことがある。 ひとつは、彼女の肌の色。真っ赤なのである。彼女がアイリッシュ系の女の子のようだと言っているわけではない。本当の意味で、真っ赤なのである。頭の先からつま先まで、同じトーンの真っ赤。肌で赤じゃないのは、さっきも言ったように唇とまぶただけ。 髪の毛は長い黒髪と言った。でも、その髪の毛がこめかみから上のところで、直立してるのは言っていなかった。髪がまとまって左右に分かれ、15センチくらいの角になっているのだ。角の先は若干、内側に曲がっていて、左右の角先が向きあう形になっている。 そして、一番、異色なのは、彼女の後ろにある、お尻のところから真赤な尻尾が生えていて、その先端が矢先のような形になっているのだ。 要するに、彼女は美女だけど、とても恐ろしい美女。
「願い事には注意して」 Be Careful What You Wish For by YKN4949 第1章 魂を売る 「ねえ、ラリッサ? あたし、今夜デートなの。なので、お願い。あたしの犬を散歩に連れて行ってくれない? 寝る前に。何時でもいいから?」 ルームメイトのウェンディがドアを開けた音は聞こえていなかった。だけど、彼女の要望は聞こえた。あたしは、急に彼女に声をかけられ、びっくりしてちょっと椅子から跳ねあがってしまった。 急いでパソコンのブラウザを閉じる。パソコンの画面は彼女には見えなかったはず。身体で視界をブロックしていたはず。それに、シャワーを浴びた後、タオルを身体に巻いていたんだけど、それも解いていなかったのは本当に幸いだった。だって、もし毎週金曜の夜のあたしの計画について、ウェンディにバレたりなんかしたら、あたし、もう生きてはいけないもの。部屋に閉じこもって、違法にダウンロードしたポルノを見ながらオナニーするなんて。 あたしは振り返って、あたしの寝室に入ってくるウェンディを見た。 「うん、いいわよ……あたし、どこにも行かないから。散歩に連れてってあげる」 そう答えながら、自分がつくづく負け犬で、金曜の夜だと言うのに何の用事もないことを認めてしまってることを自覚した。でも、負け犬だって認めてるんだったら、そもそも、あたしは何を心配してるのかしら? ウェンディは、あたしのデスクの奥に鏡があるのを見つけて、近寄ってきて、あたしの肩越しに鏡を見た。あたしは、何を見ていたか覗かれないようにと、静かにノートパソコンを閉じた。ウェンディは鏡に映る自分の顔を見ながら、髪の毛をいじったり、唇を尖らせたりした。 「ラリッサにならお願いできると思っていたわ!」 あたしは小さく泣き声をあげた。週末には確実にスケジュールが空いていると、自分のルームメイトに確信させてあげることは良いこと。あたしには何の用事もないのが嫌って言うほどはっきりしてるから。あたしの泣き声を聞いてウェンディは、あたしがちょっと不満に思ってるのに気づいたみたい。 「ラリッサって本当に模範的な学生よね。あたし、あなたは、今夜は家にいて勉強するんだろうなって思っていたもの。あなたの楽しい日は土曜日の方なんでしょ?」 ウェンディは寛大にもそう言ってくれた。事実じゃないけど、そう言ってくれたのは優しい。確かにあたしは社交面では不活発だけど、それは、あたしがガリ勉だからじゃない。ウェンディが気づいてないことは何かと言うと、この2年間、彼女のルームメートだった人(つまり、あたし)が2ヶ月前に成績不振で退学になっていること。あたしの成績は、これまでもずっと不振続きで、今年になってからは、かろうじて残っていた勉強への動機も失ってしまったのだった。あたしが、勉強でパスできたからって何かいいことがあるの? 学位を取れたからといって、学位を持ったみじめ人間になるだけじゃないの、って。 あたしは、何にも集中できない気持ちになっていた。これはずっと前からのあたしの問題。ママがよく言っていた。あたしは雲の中に頭を突っ込んでいるって。目の前に現実の目標があって、それに集中すべきときなのに、手に入れられそうもないモノを夢見ているって。 ママが言ってたことは正しいと思う。大学に入ってからの3年間、あたしはキャンパスの可愛い人気者になることを夢見てきていた。人気者になったらどんなことがあるだろうって、いろいろくわしく妄想していた。でも、あたしがそんなふうにみんなの人気者になりたいって願うということは、逆に言えば、どうしたらその夢をかなえるかについて、あたしは、何にも知らないということ。人とどう付き合ったらよいか知らないから、みんなの中で人気者になりたいと願って、夢に見るわけ。 実際、あたしは、人に話しかけずに済むなら、めったに話しかけない。退学になる前でも、あたしの名前を知ってる学生は10人もいなかったと思う。それに、そういうあたしの愚かな夢のせいで、あたしは気が散ってしまって、講義にぜんぜん集中してなかった。もし本気で全精力を傾けたなら、落第して退学なんて避けられたと思うんだけど。 退学になったとは、まだ誰にも言っていない(パパから仕送りを受け続けるため)。キャンパスの近くの中古ビデオショップでバイトの仕事を始めたところ。誰かに見つかる前に、何かいいことが起きて、あたしの問題を解決してくれたらいいなと思っている。あ、でも、あの仕事もダメになったんだった。今日の午前中にクビになってしまったのを忘れていた。店番している時、ぼんやり宙を見つめていて、10代の悪ガキどもがDVDを盗んで、建物の壁にぶつけて壊してたのに気づかなかったから。 あ、忘れる前に言っておくけど、ウェンディはもうひとつのことについても間違っている。土曜日も、あたしの楽しい日ではない。明日の夜の計画はというと、今夜と同じこと。あたしの人生って、ホント、ごみ溜めみたいなものよ。 「ラリッサ、あたし、どう? 可愛い?」 とウェンディが訊いた。その声に、あたしは自己嫌悪から一瞬、抜けだした。顔を上げ、鏡の中を覗きこんだ。 すでに時刻は8時、彼女はデートに向けて完璧ないでたちだった。彼女の曲線美豊かな腰や形の良い太腿をぴっちり包み込むような流行の黒いタイトなドレス。ハイヒールを履いて、引き締まったお尻をキュッと持ち上げると同時に、素敵なふくらはぎに視線を引きつける。 瞳は大きく緑色で、アイシャドウを注意深く塗って完璧と言ってよいアクセントになっているし、ピンク色のぷっくりした唇もリップ・グロスで輝いていた。髪は長く蜂蜜のようなブロンドで、毛の先端に至るまでストレートなさらさら髪。髪やリップやシャドウの強めの色が、ミルクのように白い肌から浮き出て見える。ウェンディは、あたしが知ってるうちでも最高クラスに入る可愛い娘なのは事実。ボディには目を奪われるし、顔も欠点が何もない。 「完璧だわ」 と言うとウェンディは目を輝かせた。 「ありがとう。優しいのね。でも、あたしなら完璧とは言わないわ。あなたほどじゃないもの!」 あたしは力なく微笑んだ。 ウェンディは、こういう点では、ちょっとぎこちないところはあるけど、いつもとても気立てが良い。あたしがルックスについて気にしてることを知ってるからか、いつもルックスについて良いことを言って、おだててくれる。 でも、彼女のおだては、時々、恩着せがましい感じもする。あたしより彼女の方が可愛いのは誰が見ても明らかなのだ。鏡で自分の顔を見てみたが、いつもの顔。ほどほどのルックスの女の子。それ以上では決してない。長い黒髪でゆったりしたカールで背中に流れてる(これがあたしのベストな特徴)。そして大きな青い瞳。まつ毛はウェンディのより短いし、鼻もちょっと小さい(かと言ってウェンディの鼻が大きいと言ってるのではない)。背も彼女より低い(ウェンディは175センチでほっそりとしてる。一方、あたしは155センチでガリガリに近い痩せ形)。肌は彼女より濃い目で、オリーブオイルのような色。脚はいい形をしていると思うけど。 時々、こんなあたしでも、案外、かなり可愛いんじゃないかと思うことがある。特に今みたいにシャワーを浴びた直後とか、そう思う。そして、特にそんな時、どうしてウェンディには、デートに誘おうと素敵な男たちが群れ集まるのに対して、あたしは独り家にいて、自分で自分を慰めなくちゃいけないのかって思う。ぜんぜん、理屈が分からないと。どうしてウェンディはあたしが夢に思う生活ができて、あたしは部屋に座って、ただ切望し、自分が情けないと思ってるの? あたしとウェンディ、そんなに違わないと思うのに。 そんなことを考えていたちょうどその時、ウェンディが身体を傾けて、鏡の中を覗きこみ、唇の状態を確かめた。そしてあたしと彼女の違いが、あたしの左腕に押しつけられた。違いの左右両方とも。 それに気づくのにいつもちょっと時間がかかるのだが、この時は速攻であたしは悟った。ウェンディには完璧な形のCカップの胸があるのだ。ドレスから溢れんばかりになっている乳房。あたしは自分の胸元に目を落とした。身体に巻きつけたタオルを支えるのもやっとな胸しか見えなかった。21歳になるのに、トレーニング用のブラすら必要ない。見た目は、12歳の男の子の胸と同じ。こんな女と誰がデートしたがるだろう? 人が聞くと馬鹿げてると思うかもしれないけど、あたしは、この左右の虫刺されみたいなモノがあたしのすべての問題の根源なのだと確信した。 その時、あたしたちが借りている家の前から、クラクションの音が聞こえた。ウェンディのデート相手ね。 ウェンディはもう一度、鏡を覗き、確認した後、「お犬の散歩、引き受けてくれてありがとう」とあたしの頬に軽くキスをして、出て行った。 キスする時の彼女の唇が震えているのを感じた。「諦めなさいよ」のキスね、と思った。また、ひとりぼっちの金曜の夜か。行動予定の変更の見込みもほぼゼロ。 椅子に座り、鏡の中、自分の顔を見つめた。孤独感と自己嫌悪がずっしりと両肩に乗ってくるのを感じた。いつもお馴染みの涙が、目に溢れてくるのを感じた。そして、これもいつもお馴染みのことだけど、あたしは現実の生活から抜け出て、物事がもっと良かったらどんな生活になっていただろうと想像し始めた。あたしが今のあたしというより、ウェンディに近い存在だったら、どうだろう? 素敵な彼氏とデートに行って、お食事をして、映画を見て、意味深な視線を交わしあったり、焦らすような冗談を言い合ったり…。 これは、あたしが金曜の夜に思い浮かべる、いつもの夢。毎週金曜、オナニーをした後、不安感が必ず襲ってくる。そんな時に見る夢だ。そして、その夢から覚めると、前よりもっとみじめになるし、孤独に襲われる。 この日は、もはやオナニーする気にもならなかった。だから今夜は完全にムダな夜になる。また、ここにひとりぼっちで座っていたら、また泣き出してしまうだろう。しょうがないから、あたしの一番の親友を呼び出して、彼女に慰めてもらおう。あたしはそう決めた。 「トリキシー、おいで! 散歩に行こう」 小さな毛玉が、跳ねるようにして部屋に入ってきた。あたしはタオルを引きはがして、素早く運動用のショートパンツと白いタンクトップに着替えた。わざわざブラをつける必要も感じなかった。 数分後、あたしは、リード用の紐を握り、21年目にして初めてのデート相手と散歩に出かけていた。毛深い女性はあたしのタイプじゃないけど、相手を選べる立場じゃない。
≪前ページ | HOME |
|