そこにいるのは私と受付の女性だけになっていた。私は、ようやく落ち着いて、受付の女性の反応を見た。驚いているようだったが、同時に好奇心を持って私を見ている。ショックを受けていた私は、それまで理性的精神がないも同然だった。だが、ようやくそれを取り戻し、彼女に懇願した。
「お願い、私を逃がして!・・・・お願いよ。あの人たちが戻ってくる前に・・・こんなこと、恥ずかしくて死んでしまう! これから私にどんなことが起きるか、想像もできないわ!」
彼女は、まだ目に好奇心の表情を浮かべて私を見ていた。しばらく沈黙が続いた。
「その人たち、あなたに鞭を使った?」
「え・・・ええ!」 ためらって何も言えず、しばらく黙っていた後に息せき切って言った。彼女にここから逃げられるようにしてもらう。そうするためには、彼女に話しを合わせるのが良いと思った。
「そうされて、気持ちよかった?」
「お願い、私を逃がして。いいでしょう? ええ、気持ちよかったわ。ねえ、お願い?」
彼女は少し考え、そして、いいわと言い、私の手の拘束を外してくれた。
「私についてきて」
私はあたりを見回して自分の服を探したが、服はなくなっていた。
「何か着るものを取ってくるわ」
そう彼女が言い、私は素早く彼女の後についていった。その受付の人は私にレインコートをくれた。そして私を連れて階下に降り、夫と一緒に来るときにいつも使っていた裏ドアから外に出た。そとの駐車場を彼女と歩いて進んだ。看護婦が見ているかもしれないと、私はできるだけ目立たないようにして歩いた。その受付の女性は私を別の医療施設の建物に連れて行った。半ブロックほど先にあった建物だった。彼女についていくほか、どうしてよいか分からなかった。私自身の車の鍵はなくなっていたし、彼女が車を持っているかどうかすら分からなかったから。
彼女は私を連れて階段を登り、結局、別の診察室に私を連れて行った。そこの待合室にはすでに何人か患者さんがいたが、彼女はそこの受付の人のところに行き、小さな声で話しかけた。最後の方は、受付の人の耳に囁くようにしていた。2人とも話しをしながら、ちらちらと私のことを見ていた。私は、だんだん、とても居心地が悪い気持ちになっていた。
ようやく2人の会話が終わり、そのすぐ後に、この診察室の受付の女性が、私についてくるように命令した。彼女にエスコートされて、私は小さな診察室連れてこられた。レインコートを脱いで、診察台の上に座るように言われた。私がレインコートを脱ぐと、彼女はすぐにそれを取り、部屋から出て行ってしまった。
しばらくそこに座っていると、彼女が戻ってきた。看護婦も一緒に来ていた・・・というか、最初は看護婦と思っていたが、実際には女医だった。その女医は私に横になるように命じた。言われた通りに横になると、彼女は、検査をするようなビジネスライクな手つきで私の体を両手で触った。でも、その彼女の手が行ったことは、本当に信じられなかった。私は、さほど時を経ずして、その診察台の上で身悶えし、背を反らせて喘いでいたのである。彼女は、私の乳首とクリトリスを、まさに操っているかのようだった。ほとんど気絶しそうになっていた。でも、これだけは意識に残っている。看護婦が、キラキラ輝く金属製のディルドを手に部屋に入ってきたこと。女医と看護婦が私を横向きに寝かせたこと。そして私のお尻に潤滑液を塗っていたこと・・・
おわり
スティーブは落ち着いた口調で始めた。
「バーバラ? 君は今夜、あの場所に座っていて、誰だか知らんが、あの男が君の前で僕を軽視するのを放っておいたんだよ。君があのような事態を招いたのだし、しかも、それを笑っていた。テーブルについていた誰もがそれを見ていたんだ。あの時の僕は、かなり紳士的に振舞ったと思っているだが・・・それも君を思ってのことだ。他の場合だったら、あの『ジミー坊や』の首根っこを引っつかんで、裏に連れ出し、ゴミ箱に放り込んでいたと思うよ。人に対する敬意というものを少しは考えろと教えるためにね」
スティーブはゆっくりと妻が立っているところへ歩いた。2人の寝室に通ずる廊下のところである。
「だけど、もし僕がそんなことをしたら、あいつにフェアじゃなかったかもしれない。そうだろ?」
バーバラは、夫が言うことを理解できず、彼を見つめていた。
スティーブは優しい声で続けた。
「バーバラ? もし僕が、あのバカが僕に向かって言ったことの仕返しとして、あいつを血まみれになるまで殴ることにしたら、僕は、君もあいつと同じようにゴミ箱に放り込まなければならなかっただろう。君とあいつ2人一緒にゴミ箱の中に横になることになる。違うかな? 何と言っても、君の夫をバカにしていたのは、あいつばかりでなく、君も一緒だったのだから。そうだろ?」
スティーブはじっと妻の顔を見ていた。長い時間が経つ。二人とも何もしゃべらなかった。スティーブは怒鳴り声になった。
「だが、僕にはそんなことはできない。それは僕も君も分かっていることだ。違うか? 父はたいした男じゃなかったかもしれないが、僕に教えてくれたことがあった。女を殴る男は、牛の糞以下の人間だって」
また2人とも沈黙した。2人の会話では、普通、沈黙状態は長く続かないだけに、このときの沈黙は一層長く感じられた。スティーブは静かな口調に戻った。
「バーバラ? 君は僕と離婚したいのか?」 バーバラの目が大きく開いた。
「わ、私・・・いえ・・・どう言えば・・・あなた、過剰反応していると思うわ。そうじゃない?」
彼女は最初、言葉に詰まったものの、うまい切り返しを思いついたのだった。彼女は、最後の『過剰反応』という言葉を勝ち誇って口調で発し、夫が前言を撤回するのを待った。だが、彼は陰鬱な顔のまま彼女を見続けていた。
「これだから女ってのは・・・。過剰反応だろうが、そうでなかろうが、今夜、君がしたように、この次、君が他の男の側に立ち、僕に背いたら・・・この次、他の男が僕を侮辱し、僕を卑しめている時に、君が笑ったら・・・この次、君が他の男にへつらって、その男が言うことは君にとってこの世のすべてで、僕の言うことは何の意味もないと言わんばかりの態度を取ったときには・・・その時は、僕が、この結婚は終わったと思った時だと考えて欲しい。君が適当なことを言って僕の機嫌を取ろうとする前に、即刻、君と離婚する。本気だよ、バーバラ! 本当に起こりうることなのだよ」