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バースデイ・プレゼント 第9章 (1) 

「バースデイ・プレゼント」 第9章 

ドーナッツを食べた後、ドナは、シャワーを浴びて、ショッピングに行く準備を始めると言った。僕にも、化粧をし直し、新しくちょっと香水もつけ直したほうが良いと言った。彼女は寝室内のバスルームにシャワーを浴びに行き、僕は寝室の外にあるバスルームに行った。

鏡の前、ティッシュを使って、乱れた口紅をぬぐい取り、新しくつけ直した。唇の輪郭を描くようにして、口紅をつけ、唇全体にのばしていく。

ふと、自分は何をしているんだろうと思った。いつから僕は自分の唇のことを綺麗だと思うようになったのだろう。ドナが僕の唇にグロスを塗る前は、そもそも自分の唇のことを表現するのに、綺麗とかいう言葉を使うことすら考えなかった。それが今は、突然に、自分の唇を綺麗だと思っている。

口を半開きにして、ピンク色の舌を出し、唇にゆっくり這わせた。頭を振って、ブロンド髪の毛を自然な感じでふわりとさせる。ブラウスのボタンを2つほど外し、ドナの香水を黒いレースブラの谷間にスプレーした。それが蒸発し、胸の谷間から香りが立ち上ってくるのを嗅ぎながら、うつむき、自分の胸元をのぞきこむ。鼻から深呼吸し、豊かな香りを楽しんだ。

顔をあげ、鏡の中の自分を見ながら、ブラウスの中に片手を差し入れた。ブラジャーの中、自分の乳首をつねってみる。すると、全身に興奮が走り、ペニスが再び硬くなってくるのを感じた。ピクピクと跳ね、血液がそこに集まってくる。僕はもう一方の手で、その位置を整えた。鏡を見ながら、乳首をつねり、ペニスを撫でる。

ふと、自分がどんなことをしているのかに気づいた。僕は、鏡の中の女性に愛の行為をしているではないか。しかも、その女性は自分自身でもあるのだ。

僕は自分自身に対する愛撫をやめ、ブラウスのボタンを留めた。ブラウス、唇、胸、ブラジャー、パンティ、ガーター、ストッキング、そしてハイヒール。僕は何をしたんだろう? どこへ向かっていたんだろう? 鏡の中、誘惑する目で僕を見つめている、この女性は、いったい誰なのだろう?

僕はビクトリアとの恋に落ちている。だがビクターはどこにいるのだろう? ビクトリアがリアルになっていくのにつれて、ビクターがますます存在感をなくしていくように思えた。そんなことがあってはならない。僕はビクターだ。僕にはドナという妻がいる。仕事がある。僕はハンドボールを楽しむスポーツマンだ。僕は女ではない。

僕は、今や柔らかく萎えたペニスに手をあてた。・・・女であるわけがない。

興奮溢れるセックスは好きだが、今のセックス・プレーはやりすぎだと悟った。かつらをはずし、ブラウスを脱ぎ、カウンターの上に置いた。前のめりになり、苦労しながらもハイヒールの留め具を外し、足から脱ぎ、それもカウンターに置いた。きついジーンズのチャックを下ろし、腰をよじらせながら、尻を出し、皮を剥くようにして足から外した。

体を起して鏡を見た。化粧顔、黒レースのブラジャー、黒いガーターベルトとストッキング、そして黒の絹パンティの姿がそこにあった。僕は決意を固めて、鏡の中の自分にバイバイと手を振った。

ブラを腹まで降し、半回転させてホックを外す。パンティを脱ぎ、ブラと一緒にカウンターに置いた。ガーターのホックを外し、それも脱ぐ。それからスツールに座り、ストッキングを注意深く丁寧に丸めながら脱ぎ去り、それもほかの衣類と同じ所に置いた。

もう一度、鏡を見る。素っ裸。体毛がない。だが胸元からは香水の香りがしてくるし、顔にも化粧がついたまま。

「ビッキーちゃん、さようなら。楽しかったけど、僕は自分に戻らなければならないんだ」

そう言って、シャワーに入った。お湯を調節し、コールド・クリームを取り顔を洗い始めた。お湯で顔を洗い流した後、体に石鹸をつけ、香水の香りを洗い落した。ホラー映画の有名なせりふが頭によぎった。

「戻ってきたぜ!」

『エルム街の悪夢』に出てくるフレディーの声を真似て、にやりと笑いながら、シャワールームを出た。寝室に入り、引出しからBVDと、僕のジーンズ、シャツ、そして白いソックスを出した。素早くそれに着替え、テニス・シューズを履いた。

再び、鏡の中を見る。この2日間ほど、いろんなものを着せられ、女のように泣かされたにもかかわらず、ひどい顔をしてるわけでもないなと思った。にやりと笑い、男が着替えるには、女ほどは時間がかからないものだなと思った。


[2008/03/20] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)