カウンセリングのその後の時間は、スティーブのためにバーバラとヒューストン氏にはどんなことができるかを探すことに変わった。スティーブの感情を和らげるために必要なことは何か? バーバラは道を外す前、彼のどのような要求を叶えていなかったのか?
スティーブは、フラストレーションのあまり、目を剥いた。彼は、こんなたわ言を、一刻も早く終わらせたいだけだった。それが今は、ただ話しを聞いているだけでは済まなくなり、話し合いに参加するよう求められている。話せ、話せ、話せ。そればかりを、求めてくる。
ヒューストン氏は、最初のカウンセリングの時に、スティーブとバーバラに記入させた質問紙を取り出した。
「多くの点で、お2人は、感情的に必要としていることに関して、大変似た考えを持っています。ご主人、あなたは、男女関係における主要な要求として、セックスよりも思いやりを優先させてすらいる。大半の男性は、最も重要な要求としてセックスを挙げるものですよ。ということは、お2人の性的要求は満たされていたと考えてよろしいのでしょうね」
スティーブは、突然、不満の声を上げた。
「それは間違いだ。哀れなレイフと僕には一つだけ共通していることがある。どちらも、僕の妻からセックスをさせてもらっていないし、させてもらっていなかったということだ」 声に皮肉が混じっていた。「・・・僕は、3月末から一度も、自分の妻とセックスしていない・・・それに、それ以前にもほとんどなかったようなもの」
「では・・・どの時点で、性行為が不満なものに変わったのですか?・・・例えば、お話ししてもらった、例の去年のクリスマス・パーティの前はどうでしたか? それまでは、満足できていた?」
「はい」とバーバラが答え、同時に、「いや」とスティーブが答えた。
バーバラは驚いた顔でスティーブを見た。その驚きの顔は、ほとんど瞬時に、怒りの顔に変わった。
バーバラが声を出す前にヒューストン氏が質問を続けた。「では、いつ頃から不満だったのですか、ご主人?」
スティーブはしばらくバーバラの顔を見つめながら、じっくりと答えを考えた。そして、ようやく答えた。
「新婚旅行から戻って2ヶ月ほど経ってから」
バーバラはハッと息を飲んだ。
「何ですって?」
二人の相違により、それからもう30分間、話が続いたが、最後には、スティーブはまったく話さなくなってしまった。彼の我慢の限界に近づいていた。
ヒューストン氏が、「トイレ休憩」を入れましょうと言った後、スティーブは、ヒューストン氏にもバーバラにも何も告げずに、カウンセリングが行われているビルを抜け出した。車に乗り込んだとき、携帯電話が鳴ったが、彼はそれを無視した。
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「グラフ先生? じゃあ、あの後、先生は独りで帰るわけにはいかなかったということかな? 警察を関与させなきゃ気がすまなかったと? あんたは一体何を考えたいたんだ? 俺があんたの人生を破滅されられることが分かっていなかったのか? お前にできることは、俺がお前にやったことを受け入れ、その思い出を大切に温めることだけだったのだよ。そうすれば、俺と2度と係わらずに済んだのにな。なのにそれをしなかったし、できなかった・・・」
「・・・だが、グラフ先生。今日は先生には運が良い日だったな。先生にもう一度、授業をしてやろう。この金曜日の夜、先生の旦那が出張で外泊するのは知ってるんだ。それが、何を意味するか分かるだろう? 俺が先生の家に出向いて授業してやるということだ。先生の家でな! 警察は呼ばない方が良いぜ。そうしたら、絶対、あんたの小さな秘密を撒き散らしてやるからな。去年の夏、自分の生徒とやりまくったなんてこと、旦那に知られたくないだろう? 教育委員会にも知られたくないよな・・・」
「・・・明日、先生はもう一通、手紙を受け取る。俺が先生の家にいく前日だ。この手紙も含めて、両方の手紙にある指示に忠実に従うことだ。さもなければ、先生の人生をボロボロにしてやる。旦那の職場に、俺と先生がやりまくってるのを映したビデオを送られたくないだろう・・・」
「・・・今夜9時、先生は、この手紙の内容を完全に理解したことの合図として、玄関のポーチ・ライトを点けること。電気がついてなかったら、俺はすぐに何箇所かに電話を入れる。そうなったら困ることになるだろうな。・・・追伸:『今年の最優秀教師』賞の受賞、おめでとう。ある意味、皮肉だよな。今は、俺が教師でお前が生徒のようなもんだから」
俺は文面を読み返し、プリントアウトした。先生の家の住所もシールにプリントアウトし、封筒に入れ、切手を貼った。靴を履きながら、思わず顔に笑みが浮かんだ。何日か後に、またグラフ先生の熟れた女肉を楽しめることになりそうだ。
外に出て、自転車に乗り、狂ったように漕いで郵便局に行った。係りの人に渡し、すぐに家に戻った。
自分の部屋に戻って、邪悪な計画についていろいろ考え始める。どうすれば、先生をこれまでにないほど燃え上がらせることができるか? この前は、先生は11回もいきまくった。まさに連続発火したような感じだった。今回は、前回を上回るよう、先生が限界を超えるような何かを考えておかなければならない。あまりにも激しく、タブーに満ちている何か。それによって先生が繰り返しクライマックスに達せるような何か。ベッドに寝転がりながら、俺は究極の計画を思いつき、にやりと笑った。
「早とちりしないで。何も、自慰をしなさいって言うつもりはないの。それに、率直に言って、すでに私は、あなたの日々の自慰行為については、知りたいと思う以上に情報を知らされているのよ。私も、自分のことについて、あまり愉快じゃない真実を語ることにするわ・・・」
「・・・私はデートしてないの。まったく! 男性とは、もう3年近くご無沙汰。本当に寂しくて気が狂いそうになることがあるわ。でも、そういう関係を築く時間がないの。本当に。出張の連続で、独りっきりで、見知らぬモーテルに寝泊りすることばっかり。独り、バーに出かけて、独りでいるビジネスマンに声をかけて、ちょっと気晴らしするというのが、どれだけ難しいか分かる? 私は、そういうタイプの女じゃないし。高慢だと思うかもしれないけど、私は、一夜限りの出会いはやらないの。少しでも恋愛関係になっていない男性とはセックスしたことがないの。実際、高慢さとは違うわね。ともかく愛のないセックスは楽しくないということだと思うわ。私自身の緊張をほぐす必要があると感じた時は、自分でした方がずっと良いと思っているの・・・」
「・・・でも今、私経ちはこの状況にいる。あなたが今の状態で困っている状況。そして私はあなたを困った状況から救い出してあげなければならないと思っているのよ。私が言っているのは、こういうこと。つまり、あなたのその緊張状態を、ありきたりな方法で解消してみることについて、どう思う? と訊いているの」
ディアドラは、唇をまっすぐに閉じたまま笑みを浮かべ続けていた。まるで、僕に、ドーナッツでも食べる? と訊いてる感じだった。
僕の方はと言えば、口をあんぐりと開けていたのは確実だった。僕は、ハエが飛び込んでくる前に、慌てて口を閉じた。
ようやく、話す言葉を見つけた。「ありきたりな方法で? ありきたりな!!! はい、そのありきたりな方法で緊張状態をほぐそうという試み、この上なく喜んでしてみたい。今、そう言いましたよね? それともただ僕がそう想像しただけ?」
ディアドラは手を伸ばし、テーブル越しに僕の手を取った。ああ、彼女の手はとっても熱くて、チャイナ・シンドロームの如く融けてしまいそうだ。地球の中心まで、すべてを融かして進んでいけそうじゃないか。
彼女は、優しく、物思いに沈んだ声で、自分の気持ちについて話し始めた。
「私は、この仕事を引き受けたし、振り返ることはしなかった。両目をしっかり見開いて、自分が何に従事しているかをはっきり見極めていた。でもね、私も女だし、男が恋しいとも思っているの。あなたは、ある意味、私に触れるところがあったと言えるわ。男性に惹かれた気持ちになったのは、ずいぶんしばらくぶりになるわ。私は、私とあなたの共同で行う仕事を進展させるために、コンサルティングの祭壇に捧げられたいけにえのようなものとして自分を提供しているわけじゃないのよ・・・」
「・・・正直言って、セックス自体は問題じゃないの。あなたのことが好きだし。とっても好きよ。だから、お互いに何かを与え合うことができるかもしれない。こんな風に話しを持ちかけたことは、これが生まれて初めてなの。あなた、その気がある? それとも、いつまでも劣等感の妄想におぼれたままでいるつもり?」
僕は、どう言えばよいのだろう? 「も、もちろん! その気があります! 僕は、あなたのテーブルから落ちる、どんな欠片でもよろこんで受け取ります。何でも言ってくれ。今日は、朝は自分のことがいやで堪らなかった。だけど、僕のコイツが言うことを聞かないから」
「オーケー! じゃあ、7時に私のホテルの前に車で迎えに来て。一緒にディナーを食べましょう。それから2人であなたの緊張状態をほぐすことにしましょう。それで良いわね? アンドリュー?」
「完璧です。どんなことでも。あなたが望むことはすべて、僕にとっての命令となります」
ディアドラはにっこり笑って言った。「それじゃあ、命令するわね。あなたはリラックスして、仕事に戻ること」