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報復 第6章 (3) 

怒りと沈鬱。それが今のスティーブの日常の一部となっていた。毎日、眠るために睡眠薬を飲み、目を覚ますために何杯もコーヒーを飲む。医者に抗うつ剤を処方されたが、それを飲むと神経質になる感じがしたので、飲むのを止めてしまった。

彼を悩ませていたのは、バーバラの不倫それ自体もあるが、他に主に2つあった。その一つは、バーバラの言い分だった。彼女は、家の中で疎外されていたことと、自分の犯した不実に直面しなければならないことにより心の痛みを感じているとし、その痛みは、スティーブの感じている彼女の裏切りから受けた深い怒りと同等だと言い続けていた。

もう一つは、スティーブが顔を見せるといつも、彼は過剰反応していると言う人が必ずいることだった。スティーブは自分の感情を理解できない人々に分かってもらおうとしたが、今や、説明するのを諦めてしまっていた。とはいえ、内心、苛立たしさを感じていることには変わりがなかった。

この週末は荒れた週末だった。兄のジョンが電話をよこし、誘われて、土曜日に一緒にスポーツ・バーにテキサス大チームのフットボールを見に行った。テキサス大のロングホーン・チームは、確かに勝ったものの、あまりにもずさんな勝ち方だったので、スティーブにとっては、何の満足感も得られなかった。

翌日曜日、ジョンの家でディナーを食べた。楽しい夕食だったが、ジョンと彼の妻サンディの間の愛情深さに目が行き、かえって心が痛んだ。サンディは、夕食後、ジョンの後ろに立って、長い時間、肩揉みをした。それを見てスティーブは涙が溢れた。そして、それを見られまいと、二人から目を逸らさなければならなかった。スティーブは、いとまを告げ、早々に引き上げざるを得なかった。

そして月曜日。その日の夜、彼は家で独りダラスのカウボーイズ・チームとシアトル・チームとのフットボール試合を見ていた。つまらない試合だった。カウボーイズは2点のリードにしがみついた試合をし、できるだけ早く試合を終わらせようとしているようにしか見えなかった。

スティーブは試合を見ていたものの、気はうつろだった。バーバラが感じていると言った『心の痛み』とは何なのか? 彼女は彼自身の心の痛みについて、本当に分かっているのか? 自分がそういう疑問に取り憑かれてしまっていることは分かっている。だが、どうしても頭から振り払うことができない。

この前のカウンセリングで、デビーのことについて話し、彼女がレイプ後、心痛を抱き、その心の空虚感に共感できると言った。だが、自分自身、共感しているとは言ったものの、誇張した言い方だったのは知っていた。実際は、自分は、逆の立場から、あの言葉を使っていたのだ。自分自身は、デビーの心の痛みをほんの少ししか分かっていない。だが、もしデビーが自分の立場なら、今の自分の心に巣食う空っぽの虚しさを理解してくれるのではないか。

だが、いずれにせよ、この酷い状態は好転しそうになかった。スティーブは、バーバラに、いま彼女が感じている、その『心の痛み』とやらが、いかに些細なものか、それを味わわせるにはどうしたらよいかを考えていた。今の自分の気持ちに比べたら、バーバラが感じている痛みなど取るに足らないものだということを、はっきり知らせてやりたかった。だが、どうやったらそれができるか思いつかない。それを考えて、夜中、突然、目が覚めてしまったり、日中、他のことをしていなければならない時に、ぼんやり中空を見つめていたりしてしまってる。

ダラス・チームが3つ目のファンブルをし、緑色のジャージを着たシアトル・チームに負けたとき、ある機会が玄関のドアをノックした。

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[2008/04/03] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

誰とやったか知ってるぜ 第2章 (3) 

俺は、下のリビングに降りて、テレビを見た。親たちが帰ってくるのを待つ時間が、やたら長く感じる。ようやく母親の車がガレージに入ってくるのを聞いた。ピザを抱えてキッチンに入ってきた母親にハグをして出迎える。

「今夜の夕食は軽めにするわね。お母さんは着替えをしてくるわ。お父さんもすぐに帰ってくるだろうから、それから食べましょう」

母親が寝室に入ってすぐに、父親が帰ってきた。父親も寝室に着替えに入った。俺はピザの箱をテーブルに置き、紙皿やナプキンを並べ、冷蔵庫からコーラを3本出した。

両親が出てきて、3人で食べ始めた。おしゃべりもしたが、大半が親たちが仕事のことについて話していた。食べた後、俺は後片付けをし、親たちがコーラを飲んでるのを見ながら、自分の部屋に戻った。ベッドにごろんとなり、小さな音でステレオを流した。明日の夜、グラフ先生の家の様子を見に行くのが待ち遠しい。

朝になった。いつもの朝と変わらない朝。一つ、違っていることと言えば、遅くまで寝ていたこと。先生の家に確かめに行くのを待つのは、死にそうなくらいいらいらする。昼過ぎまで寝て過ごせば、夜の9時が来るのも早くなるんじゃないかと思ったから。

ベッドから出て、シャワーを浴び、メールをチェックするためパソコンを立ち上げた。ネットにつなぎオンラインになると、ブラッドもオンラインになっているのに気づいた。俺たちは早速インスタント・メッセージで、昨日の警官のことについて話し始めた。チャットをしながら、メールもチェックしていたが、何も変わったことはなかった。山のようなジャンク・メールだけ。

ずいぶんチャットをしていたと思う。気づくと、親たちが仕事から帰ってくる音が聞こえた。パソコンを切り、親たちを出迎える。両親は夕食に中華料理を持ってきた。俺は中華はあまり好きじゃない。なので黄色いライスだけ食べた。もちろん、この日も俺は良き息子を演じ、両親がリビングでくつろいでいる間、食器を洗った。その後、親たちと一緒にテレビ番組を見て、9時になるのを待った。

ようやく番組が終わる。もうすぐ9時だ。俺は靴を履いてガレージに出た。親たちには俺が出かけることを知られたくないので、小さいドアからこっそり自転車を出した。自転車に飛び乗り、ペダルを漕ぐ。グラフ先生の家の場所は知っている。

俺は、直接、先生の家の通りに行く代わりに、次の通りに向かった。ゆっくりと自転車を走らせながら、家々の間を見る。次に見えてくる家が先生の家だ。心臓がドキドキしていた。さらに速度を落として、家の間からグラフ先生の家を見た。9時ちょうど、先生の家の玄関のポーチ・ライトが点くのが見えた。俺は、それを見届けた後、狂ったようにペダルを漕ぎ、家に向かった。警察がいたらヤバイから。

家に着き、静かに自転車をガレージに入れ、家の中に戻った。そして、リビングの前を通り過ぎながら、何もなかったように親たちに、もう寝ることにするよと告げ、自分の部屋に入った。

部屋に入り、早速、パソコンを起動する。ワープロを立ち上げ、次の手紙の文面を考えた。心臓が狂ったように鼓動しているのを感じた。先生をどういう風に犯してやるかを考えるだけでも、興奮して背中がゾクゾクしてくる。この手紙を読んだら、先生も俺と同じく、ゾクゾクするに違いない。

[2008/04/03] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)