私は訊いてみた。
「アンドリュー、どんな悩みなの?」
彼は辛そうな顔をした。「もう、こんなことにすっかり疲れ果てただけ。勘違いしないでほしい。僕は愛しあうことは好きなんだ。大好きなことなんだ。でも、あの女性たちとの場合は、愛しあってることにならないんだ。ただ、ヤッてるだけ。ドニー、僕はもうすっからかんだよ…
「…僕たちが一緒の時、つまり僕が君とディ・ディといるときは、どの一瞬も貴重だ。毎日、互いに一緒になれる時間がある。その時間の中のセクシャルな時間は特に素晴らしい。でも、どうしてその時間が素晴らしいのかと言うと、それは僕たちが一緒にいるからなんだ…。セックスじゃないんだ…
「…僕が求めているのは、君たちと一緒にいること。性行為から愛の側面を抜きとったら、残りは診療的と言うか臨床的なものだけで、それは退屈で悲しいものだ。彼女たちを幸せにしてあげようとベストを尽くしているよ。実際、たいていの場合は、うまくやってると思ってる。でも、僕自身は幸せじゃないんだ…
「もちろん彼女たちはとても良い人たちだろうと確信している。でも、そうだとどうしたら分かるだろう。彼女たちは家にやってきて、僕とセックスして、帰っていく。彼女たちが帰った10分後には、僕は名前すら忘れている…
「…明後日あたり、同じ人を連れてこられても、僕は気づかないだろう。あの女性たちは、僕にとっては、みな名前も持たず、顔もないんだ。これには落ち込むよ。どうか、どうかお願いだ。この奉仕を実行できる誰か他の人を探そうよ。僕には、もうこれ以上、できない」
ディアドラが言った。「あなたがウェブから得た情報で作った、あの数々の縁組はどうなの? あの縁組の中でうまく子供ができた組はあったの?」
「まあ、あったかどうか。結婚したのは何十組とあった。でも子供については知らない。統計数字を見ようとすら考えてこなかった。彼らは、情報を提供したい気分になった時は、提供してくれるけど、そうでないときは何もしない。知ってるだろう? 僕はプログラマであって、数字屋じゃないんだよ…
「…それに、たとえ子供ができたとして、その子供たちが次世代の新人類かどうかは分からないし。これまでと同じ双子の女の子、つまり賢いけど平均的なホモ・サピエンスかもしれないし」
ディ・ディが甲高い声を上げた。「どうしたら分かるか、手があるわ!」 と彼女は裏庭に面した窓に顔を向けた。
エレが外から急いで家に戻ってきた。Eガールたちは庭で犬たちと鬼ごっこをしていた。娘たちと犬たちとの間にはある種、奇妙な絆がある感じだった。犬たちはEガールと一緒にいると、普段よりずっと知的になるように思える。
エレは息を切らしながら入ってきた。「ママ、何か用事?」
「子供たちがいれば、その人たちの注目を得るために大きな声を上げることもないわ」とディアドラは自慢げに私たちを見た。そしてエレに向き直って、「エレ? パパやママたちが作ったリスト、覚えてる? 他の妹、弟たちと連絡を取るためのリスト」
「もちろん。まだ私のコンピュータに入ってるよ。あのリストにある中で話しができる人全員に連絡を取ったわ」
ディ・ディが訊いた。「あなたがコンタクトした子供たちで、リストに載っていない子、いた?」
エレは不思議そうな顔をした。「いいえ。だって、ママはリストに載ってる子供たちとコンタクトを取ってって言ったでしょ? リストに載ってない子はたくさんいるよ。でも、その子たちとはコンタクトは取ってないわ。ママがコンタクトを取ってほしいなら、私にそう言うはずだもの」
アンドリューが椅子から飛び上がって、エレを抱きしめ、頭の上に抱え上げた。彼は大笑いして、抱きしめていた。エレも笑っていたけど、父親の反応の激しさにビックリして笑っている感じだった。
アンドリューがこんなに安心した様子になったのは初めて見た。いままでのこと、ひどくつらかったに違いない。長い間ずっと耐えてきたいたのに、私たちに何も言わなかったなんて!
でも、そんなに辛いことだなんて誰が想像できただろう? たくさんのいろんな女性とセックスする機会を与えられて、しかも私たちの同意の上でなのだから。
なのに彼は私たちだけを求めていた! 私とディアドラだけを!
結局、その水着の上に着古しのカットオフ(
参考)を履くことにした。上も着古しのシャツ。それに靴は裸足のままテニスシューズを履くことにした。それから急いで地下室に行き、物入れを漁り、古いブランケットを見つけた。そのブランケットとココナツ・オイルを持って地下室を出て、ガレージへと走り、バンに乗り込んだ。
これから水着姿のバルを見られるぞと期待しながらモールへ急いだ。モールの駐車場に入り、店の入口へと向かった。そこで見たバルの姿に、きつめの水着に包まれた俺の分身が、さっそく大きくなり始めた。
バルは入口脇のベンチに脚を組んで座っていた。俺の姿に気づくと、立ち上がり、バンの方に歩いてきた。さっきまで履いていたビーチサンダルは手に持って、今はセクシーなハイヒールを履いている。それを見た時、息がつまりそうになった。特段、ヒールが高いわけではなかったが、セクシーなのは事実だ。
バルは車のドアを開け、乗り込んできた。やっぱり驚くほど美しい足をしてる。その隅々まで見ることができた。
「新しい靴も買わなくちゃいけなかったの」 とバルは俺の方に頭を傾け、微笑みながら、小さな声で言った。
「どう、気に入ってくれる?」 と片足を持ち上げ、ダッシュボードの上に乗せた。
「うん、もちろん」 と俺は車を動かし始めた。
「とてもセクシーに見えるよ」 と彼女の目を見つめながら言った。ちょっと見つめてる時間が長すぎて、他の車にクラクションを鳴らされてしまった。別の車線に入ってしまってたようだ。
それにしてもバルのすらりと長い脚と足先から視線を外すのは辛い。どうしても見てしまう。ハイヒールは、ストラップで留める、つま先の空いたデザイン。見てるだけであそこがヒクヒク言いだす。そのまま見続けていたら、水着の中、先走りを出してしまうんじゃないかと心配だった。
バルは手を伸ばして、またラジオのスイッチを入れた。チューナーを回して、「ノー・ダウト」(
参考)の曲を流してるトップ40のラジオ局を見つけると、音量を上げた。そしてその曲にあわせて彼女も歌い始めた。
「グウェンってすごくいいわよね」 とそのバンドのリード・シンガーになった気で歌っている。
「ああ、そうだね」
その頃には、ビーチに着き、俺は公園の駐車場に車を入れた。幸い近くに空きスペースがあったので、そこにバンを駐車した。それからふたり車から飛び出し、俺はブランケットとココナツオイルを手にした。
ふたりでビーチ沿いの板道を歩きながら、あまり人が混んでいない、良さそうな場所を探した。
「あそこは?」 とバルが指差した。岩で半分囲まれたようになってる場所だった。
その場所を見てみると、近くには3人くらいしかいないところだった。大半は海に近いところに集まっていたから。
~*~
イサベラは毛織のズボンを履いた。脚がむず痒い。男の人はこういうのを履いて居心地が悪くないのかしらと思った。それでも彼女は自ら進んでこれを履いた。村のはずれにいる親類を訪問する母親に付き添う少年の扮装をするためである。
イサベラは、マリイが農民から馬を買うあいだ、後ろに引きさがってそれを待ち、その後、マリイとそれぞれの馬に乗り、マリイが指示する道を進み始めた。
何事が起きても動揺してはいけない。マリイを信頼することはできないのは分かっている。それでも、イサベラは自分の命をマリイに預けた。マリイが寝返り、自分を父に引き渡すかもしれないが、マリイに渡した金塊が充分であればと願った。これが賭けなのは知っている。うまくいけばいいと祈るのみだった。
その前夜、レオンは帰ってこなかった。おそらく、朝か翌日までイサベラがいなくなったのに気づかないだろう。彼は激怒するかもしれない。でも、その怒りを喜んで耐えるつもりだ。もしこの計画が実を結んだら…。もしマリイが裏切らなかったら…。
イサベラは鞍についてる物入れからリンゴを取り出し、不安げにそれにかぶりついた。そろそろ正午だった。空を見上げ、陽の光を顔に浴びた。心地よく暖かだったが、彼女の不安をなだめることは少しもなかった。
~*~
レオンは廊下を大股で進んだ。革の手袋を手から引き抜きながら。長時間、馬上におり、ひどく消耗していた。その間ずっと、イサベラが自分の前で自らを慰めた光景が頭に浮かび続け、それによっても苦しめられた。
部屋の前に来て、付き添っていた衛兵たちを解散させ、ドアを開けた。あの甘い香りを鼻から吸い込む。イサベラの香りと分かるあの香り。そして、レオンは気づいた。その小部屋に愛しい妻がいないことを。
レオンはチュニック(
参考)を頭から脱ぎ、ベッドに腰を降ろした。すぐに浴槽が来るだろう。それにイサベラも、俺が帰城したと聞いて駆けつけてくるのは間違いない。そうしたら、イサベラにしっかり教え込んでやる。あのようなことをして俺を焦らしたら、どのような結果になるのかを。
ブーツを引き脱いでいる時、一枚の羊皮紙が、イサベラのブラシと香水瓶の間に挟まっているのが目に入った。
レオンはそれを取り、書かれた文字を追う。そして心臓が高鳴るのを感じた。
「私を許して、レオン。私は、あなたが求めるような従順な妻ではいられないと分かったの。あなたが戻ってくるのを辛抱強く待っていることができないと分かったの。私の手でしなければいけないことがあるのです」
レオンは固唾を飲んだ。