ifap_63_male_wife 股間にストラップで装着したゴム製のペニスを握りながら彼の後ろに立ち、彼のアヌスを見つめる。小さなペニスがぶら下がっている。ふにゃふにゃで役には立たず、どこをどう見ても男らしさのかけらもない。どこを見ても睾丸は見つからない。概して言えば、この人には私が結婚した男性の面影がひとかけらもない。もちろん、それこそ、重要な点。 私が彼を選んだのは、まさに、彼なら私に操作できると思ったから。愛情はあったと思う。どこかに確かにあった。それに、彼のことが好きだったのは確かだ。でも、「好き」ということが、人間として彼に純粋な愛情を持っていることから指示される感情なのか、彼なら私は好きなように変えることができると分かった興奮から出てきた感情なのか、私には区別ができていない。 彼と出会ったとき、彼は恥ずかしがり屋で内向的で、驚くほど、うぶな人だった。それゆえ、いっそう、彼をコントロールすることが簡単になった。そういうことをするには、セックスはとても便利なツールであり、私は容赦なくセックスを利用した。私とのセックスは、獲得すべきご褒美とした。逆に、セックスを拒絶することで、懲罰とした。ほどなくして、私が望むところに彼を誘導することができるようになった。彼には自分の意思がない。ただ単にご褒美のセックスをさせてもらうことだけを欲している人だった。 でも、私は結婚するまで、本格的な行動は起こさなかった。彼を、私が構築した社会システムに囚われた存在にすること。それが私の望みだった。彼を私の意思に縛られた状態にするのが私の望み。私以外の人に顔を向けることは許したくなかった。私が言うことに従う他に選択肢がない、そういう状態にしたい。そして、私の作戦は実に完璧に成功したのだった。 彼を縛り付けた最初は、結婚式の夜。彼は初夜の営みを待ち望み、すっかり興奮していた。私が股間につけていたストラップオンを見て彼が文字通り口をあんぐり開けたのを覚えている。「寝室では、あなたは私の妻になるのよ」と言ったが、彼はほとんど文句らしい文句を言わなかった。彼はおどおどと従順に役割に従ったのだった。まさに私が計画した通り。 それがおおよそ1年前のこと。それ以来、私は彼に抗男性ホルモンを取るようにさせてきている。また、標準的な女性の服装を着るよう、強制した。家にいるときは、ハイヒールを履き、ランジェリーを身に着け、化粧もするようにさせている。 私の計画は完璧に達成されている。そして私は以前から欲していたものを手にしているのだ。完璧な男性妻である。
ifap_63_learning_to_live_with_it 「ねえ? えーっと、あたし思うんだけど……あたしの…あたしの問題について、病院に行くべきかなって思うの」 「そう? フェリス先生に予約入れる? 彼女ならあなたのためになるよう何でも解決してくれると思うわ」 「あたし……なんて言うか……別のお医者さんのところに行くのはどうかなあ? フェリス先生が嫌いというわけじゃないの。ただ、あの先生、精神科医でしょ? だとすると、あたしの……あたしのこの種の問題は扱えないと思うの」 「まず第一は、その問題の呼び方からね。それ勃起不全というの。でも、たいした問題じゃないわよ。第二に、フェリス先生はあなたにとって完璧に適切な先生よ。あなたの年だと、それはたぶん、精神的な原因。そして最後に、もうそろそろ彼女を信頼してもよい頃だと思わない? あなたのために、そして私たち夫婦のために、フェリス先生がどれだけのことをしてくれたことか」 「あ、あたし、別に……」 「それとも何なの? 先生があなたの両性具有状態についてどれだけ助けになっていただいたことか、忘れちゃったとか? 衣類の点で殻に閉じこもっていたあなたを先生が救い出してくれたことを忘れちゃっとか?」 「で、でも、あたし……あたし、女の子みたいになっているじゃない! それに、もう、全然、勃起できなくなっている! さらには、職場の男の人たちったら……もう、みんな、あたしが昔はどんな容姿をしていたか覚えていないのよ……。何と言うか、あの人たち、あたしに色目を使い始めているの! このあたしによ、カレン。それに加えて、あたしたちの性生活がどれだけ変わってしまったかを考えると……」 「何もかも、良い方向に向かっているわ、あなた。だったら、むしろ自分から進んで女の子ようになったらどう? 私はあるがままのあなたが好きなの。今のあなたが好きなの。それに、職場のバカ男があなたのことを好きになったからといって、誰が気にするのよ。それを言うなら、私にも、私に言い寄ってくる男たちが職場にいるわよ。でも、あなた、私がそのことで愚痴を言うところ聞いたことないでしょう? 聞かれてもいないけど、あえて言えば、時々、あなたもそんな男たちにお返しのお色気を振りまいてみるといいと思うわ。仕事が円滑になるわよ。 で、でも、あたしは…… それに性生活についていえば、今朝のあなたは不満を漏らしていなかったと思うけど? 昨日の夜も。いや、おとといの夜も。事実に直面して、あなた。あなた、私がストラップオンでするのを喜んでいたじゃない。それ、いいのよ。私も大好きだから」 「でも……」 「でも、何なの? フェリス先生に予約を取るわね。多分、先生はあなたの些細な問題を解決する手伝いをしてくれるでしょう。そうなったら、それはそれで万歳。そうならなかったら、その時は、その問題は、これから私たちふたりともずっと付き合っていかなければならない問題がもうひとつ増えただけだと思うのは、どう?」
ifap_63_labels 「分かってると思うけど、これ別に意味があるわけじゃないからね。いい?」 とライリーは言った。「あたしは…あなたも知ってるように…あたしはゲイとかそういうのじゃないから」 「確かに、違うよな」 とケビンはニヤニヤしながら答えた。 ライリーは彼の足を踏みつけた。「違うんだから!」 だが、ライリー自身、心の中では、この発言はバカっぽいように思えた。この1年、彼は二重生活を送ってきた。一方では、彼はちょっとなよなよしているがごく普通の若い会計士。だが彼の生活にかかわる誰一人として、彼がもう一方の顔を持っていることを疑う人はいなかった。彼は、ホルモンを取り始め、自分の時間の大半を女の子の格好をして過ごしていたのだ。 だが、彼はトランスジェンダーではない。正確には異なるのだ。トランスジェンダーなら、むしろ心の救いになっていたことだろう。彼は、自分が間違った肉体のもとに生まれてしまったと思いつつ大きくなったわけではなかった。彼は自分は女だとは思っていない。ホルモンや衣類や身のこなし方。それらすべてたった一つの目的のために行われてきた。その目的とは男を得るという目的である。 論理は極めて単純だった。男は女が好きなのである。ライリーは男性とのセックスが好きだった。それゆえ、もし自分が女性のような外見を持てば、好きな相手と一緒に寝るチャンスがはるかに増えると思ったわけである。 それはまったく理屈が通っていた。ただ一つ、彼が自分自身をゲイと思っていないという事実を除いては。彼は男性にセックスされる感覚が大好きなだけであった。愛とか親密さとかとは関係がなかったし、セックス以外の点では男と付き合いたいという気持ちはまったくないのは確かだった。純粋に単純な快楽だけ。そして彼の心の中では、この区別こそが、自分のセクシュアリティは「ストレート」側にあると強く主張するのに十分な根拠のように彼には思えていたのである。 「でも、ちょっといいかな? 俺は君と議論する気はないんだけどさ」とケビンが言った。「だけど、君みたいな人がだよ、俺みたいな人とセックスをするってわけだろ? 人はそれをゲイと呼ぶかもしれないし、そうは呼ばないかもしれない。でも、そんなこと誰が気にするかって思うよ。そんなのただのレッテルだろ。そんな区別、誰が必要としてるのかって」 「レッテルねえ」 ライリーはつぶやき、顔に小さく笑みを浮かべた。「そうよね。誰がレッテルを必要としてるのかってことだよね。その考え方、あたし好きよ」
ifap_63_IT'S_OK あたしのこと欲しいなら、いいわよ。
ifap_63_if_you_loved_me
メリッサ、これ、うまくいかないよ。誰も僕のことを君だなんて信じないと思う。僕は全然……
あなた、別に私のように見える必要はないわ。女の子のように見えればいいの。私があげた学生証、ちゃんと持ってるわよね?
でも、僕は完全じゃないし。3秒以上僕のことを見たら、それでおしまいだよ。僕らふたりとも退学になってしまうよ。
あなたが私の代わりにテストを受けてくれなかったら、私は落第するのよ。ケイデン、そうなっちゃ困るの。ほんとに困るんだから。
そんなにひどいことにはならないよ。君のご両親に会ったけれど、……
そんなにひどいことなのよ。いいから、私のことを信じて。いい? これしか道がないんだから。
どうなのかなあ……
もし私のことを愛しているなら、言うことを聞いてちょうだい。大丈夫、うまくいくって約束するから。完璧にうまくいくわ。あなたは着飾って、テストを受けて、そして、いつものあなたのように1番を取る。そうすれば、私たちは一緒にいられるわ。私と一緒にいたいんでしょ? 違うの?
でも……
でも、私が落第して退学になったら、地元に帰らなくちゃいけないくなるわ。そうしたら一緒にいられなくなるのよ? 私のこと好きなんでしょ? 私の彼氏でいたいんでしょ?
もちろんだけど……
だったら、やってよ。やってくれるわよね? あなたなら、どんなことでもしてくれると思ってるんだから。
ぼ、僕は……いいよ、分かった。やるよ。
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僕は女の子じゃない、女の子じゃない、本当に女の子じゃない
僕は何度も呪文を唱え続けた。今の状況は一時的なものだと自分を納得させようとしていた。もうすぐ、僕は男子学生社交部のメンバーになれる。呪文を唱えれば、この新入生いじめは気にせずに済むと。
「スカートをめくれ、淫乱」とハリソンが言った。社交クラブの部長だ。彼はスマホを掲げた。すでに何十枚も写真を撮っている。今後ももっと撮るだろう。「お前がちんぽと呼んでる小さいヤツをこっちに見せろよ。それに、笑顔も絶やさないようにな。こうなることを望んでいたんだろ、違うか? メンバーになることをよ? こうなるように、お前はお願いしたんだろ」
それは本当だった。僕はお願いした。第一次選考で通らなかった僕は、彼らに、メンバーにしてくれるなら何でもしますと言った。僕は何より社交クラブに入ることを望んでいた。そして、驚いたことに、僕の嘆願が通ったのだった。彼らは妥協して、入会誓約者にしてくれると言ったのだった。ただ、ひとつ条件があった。ひとセメスターの間、女の子として過ごすことという条件である。
拒否すべきだったとは分かっている。実際、拒否しそうになったほど。でも、それは選択肢にはないということを分かってほしい。僕はどうしてもあの社交クラブのメンバーにならなければならなかったのだ。父の昔の社交クラブに引っかかることができなかったら、父は決して僕に話を最後までさえなかっただろう。結局、僕は了解したのだった。
最初、それは何かジョークのようなものだろうと思っていた。ありがちの侮辱だろうと。普通の新入生いじめだろうと。でも、彼らが女子学生社交クラブの女の子たちを呼んできて、僕の身支度をさせ、その結果を見たとき、これはジョークでも何でもないと理解し始めた。なかなかの見栄えだったのだ。もっと言えば、普通の女子よりずっと可愛かった。僕は飛び切りのセクシー女子学生になっていたのだ。
時々、もし僕が女物のドレスを着た奇怪な小人のように見えていたら、彼らは全部あきらめていたのじゃないかと思うことがある。多分そうだろう。でも、結局それは考えても仕方ない。そうだろう? というのも、僕はそんなふうに見えなかったから。まったく逆だったから。さらに悪いことに、連中は僕に変な薬を取り続けるよう強いた。あの薬は女性ホルモンだと僕は確信している。
そして、これがセメスターの終わりになった今の僕。本当の性別を示すものを股間にぶら下げた格好で写真のためににっこり微笑んでいる。今や、連中は僕を社交クラブに入れることはないだろうと分かっている。そもそも、それに十分なほどの男らしさを僕は失っている。ぜんぜん男じゃなくなっているのだ。
ifap_63_happiness
生まれて初めて、今、自分は幸せだと思っている。自分でも、そう思っているのが不思議。というのも、これまでも自分に満足していた時期を経験してきているから。喜びを感じた時期もあるから。自分は幸せだと思った時期もあったから。でも、振り返って、そういう時期を今の本当の幸せと対比させてみると、本当は違っていたんだなあって見ているの。薄ぼんやりしてて、とらえどころがなくって、本物を真似た偽物だったんだなって。
時々、どうやって自分があの生活を耐えてきたのか不思議に思うことがあるわ。毎朝、毎朝、ベッドから起きて、完全に間違った生活をこなす。よくやっていたなって。自分とは無縁で、認めることができない価値観に、よく我慢していたなって。周りからは男らしくあれと期待されるけど、自分はそんな人間じゃないし、そんな人間にならないと分かっている。そんな屈辱感でよく生きていられたなって思う。屈辱というか、恥ずかしさというか、失望させてるなあって気持ち。
多分、あたしはそういうことを無視するように学習したんだと思う。人間には立ち直る力があるし、適応する力もある。あたしもその点はまったく同じなんだと。周りを変えることは無理と思ったから、あたしは、周りの反応は関係ないと思い込むことにした。でもね、関係がないわけはないの。がっちり、関係してきた。そうならないわけないでしょ?
何が変わったのか本当のところ分からない。「ユーリカ!」の瞬間なんかなかった。単に、ある日の朝、「自分が変わる! 自分に嘘をつくのはやめにする!」って言いながら目を覚ましたわけ。多分、徐々に態度での変化が積み重なっていて、自分は、他の人のようになってるフリをしてるけれど、本当は違うということをゆっくりと自覚していたんだと思う。そういう思いは、否認が何層にも積み重なって心の奥底にずっと前から埋められていたんだろうけど、それが蓄積していて、ゆっくりと圧力が高くなっていってて、信じられないほど過度に上昇してしまい、とうとう、耐えがたいレベルまで来てしまったと。そして、自分が変わらなければと思ったと。もう、自分を誤魔化すのは止めなくちゃと思ったと。そういうことだと思うの。
そしてあたしは開始した。少しずつ、少しずつ、自分の人生を変えていった。髪の毛を伸ばした。女性の服を試しに着てみるようになった。遊び半分でお化粧をしてみるようになった。そういう時、自分の家だから他から見られていないというプライバシーもあって、あたしは幸せだった。そういうことをすればするほど、自分の進む道が見えてきたと思ったの。
でも、そういうふうに確実な充実感で自分の意識を叩き壊し続けいたけど、それでも、まだ自分の中に抵抗感があったわ。1000個くらい理由が浮かんできて、しかも、そのひとつひとつに論理性もあって、あたしの決心に食って掛かってくるのよ。自分は女の子じゃない。なろうと思ってもなれないのだ。自分は精神的な障害をもった変人なのだ。「罪深き人」なのだって。100個もの様々なレッテルを自分自身に張り付けた。そのどれもが「罪深き人」と同じくらいネガティブなレッテルばっかり。
でも、自分の本当の気持ちを抑えることができなかった。人は誰も、本当の自分を否定しつつ、何らかの幸せを得ることなどできないものなのよ。そのたった一つの単純な事実を認めたことが、ブレークした瞬間だった。それを悟った後は、もう引き返せないと分かったの。自分自身に抵抗し、社会的偏見から身を守るよう洞窟に潜め、自分自身の否定を通して、暗黙のうちに承諾してしまうことは良くないことなのだって。そういうわけで、あたしはやめた。自分自身の幸福に身を委ねることにしたの。あたしは、自分がならなくては気が済まないと思っている人間へと変わったの。
そして今、あたしは幸せだ。満足している。長かったけれど、とうとう、この世界に居場所を見つけたと思っているのよ。
ifap_63_exceeding_expectations
「はい。彼ですよ。お約束通り」
「何という! 嘘じゃなかったのか。本当にできたとは」
「私ども、正確にお約束したとおりのことをしました」
「だ、だが……」
「だけど、本当に可能だとはお思いでなかったと。いや、いいんです。私ども、いつも同じことを言われていますから。男性を完璧で従順な美女に変えることができるなんて、誰も信じてくれないですよ。少なくとも結果を見るまでは誰も信じない」
「でも、どうやって? どんな方法でやったのですか? 何と言うか、ここにいるのは確かにジーンで、ジーン本人だと分かるのだが、それにしても……」
「今は彼の名前はジェンナです。名前というのは、新しいアイデンティティを確立する際に重要な部分なんです。で、ご質問に答えると、たくさんの手術、ホルモン、条件付け、食事制限、懲罰、催眠術ですかね。チェース医師は、方法をひとつだけに限定しない方ですから。」
「そういえば、彼は従順だといいましたよね? 彼、抵抗しないのか?」
「彼は、今の自分こそ、ずっと以前から自分がなりたいと思っていた姿だと思っています。あの別の人生、つまり、彼の以前の人生ですが、何でしたっけ? ……あなたのビジネス上のライバルだったとか?」
「私と彼は、うちの法律会社で、あるポジションをめぐって競い合っていたんです。そして彼が獲得しそうになっていた」
「今の彼にとっては、それは夢でも見てるように感じているでしょう。彼は過去のことを覚えていますよ。でも、良い思い出とは思っていないんです。彼にとっては、忘れたい悪い記憶になっています。今の彼はジェンナでいることが大好きになっているのです」
「それに、彼は私が言うことを何でもすると?」
「ええ、何でもします。どうです、いいでしょう? ちゃんと自分の意思を持っていて、好きなことをさせるセクシーで頭の軽い美女」
「驚きだ。本当に驚きだ!」
「ということは、結果にご満足いただけたと理解してよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。想像していたよりもずっと満足している」
「ありがとうございます。で、お支払いの件については?」
「ああ、もちろん。すぐに電信で送金するよ」
ifap_63_confirmation あたしは廊下に立っていた。ほとんど過呼吸の状態になっている。心臓が激しく鼓動し、いろんな気持ちが頭の中を駆け巡る。あのドアの向こう、あたしがどんな光景を目にすることになるか、見る前から知っていた。この1ヶ月、断片的情報を集めてきたけど、それをしなくても、あの部屋から聞こえてくる声がどんな声か、間違えようもない。砂の中に頭を埋めて、何も知らない、自分は間違っていると思い込もうとしたけど、どうしても見なくてはいけないという気持ちだった。反論できない証拠が必要だった。
そして、あたしは、少なからざる努力をして、ゆっくりで安定した呼吸を行い、葛藤を鎮め、これまでのあたしの行動の目的を達成するに十分なほどの落ち着きを取り戻した。ドアノブを回し、ドアを押した。そのドアは重いドアだったけれど、音を立てることもなく簡単に開いた。カウチにいたふたりは、あたしがドアを押し閉め、それが重々しい音を立てるまで、気づきもしなかった。
「な、なに!」 馴染みがあったはずの声の主の叫び声。「な、何てこと…ああ…ナタリー? ど、どうして……こ、これは違うの……ああっ……」
あたしが探し続けた彼がそこにいた。行方不明になっていた夫。1年前、「調査」旅行に行くと言って出て行った夫。その夫が、ほとんど全裸で、逞しい男の上に乗り、大きなペニスをアヌスに埋め込まれていた。
「事実じゃないと期待していたのに」 あたしは言った。声に悲しみがにじんでいる。怒りもあったけれど、むしろ、失望感の方が上回っていて、それに打ち消されていたと言える。「1年前、あなたが仕事を首になったのを知ったとき、あたし、わけが分からなくて混乱したわ。特に、おカネは振り込まれ続けていたから。もっと言えば、以前よりもずっと多額のおカネ。あなたが別の仕事をしていると悟るまで、あまり時間はかからなかった」
「ぜ、全部、説明するよ。それに…」
あたしは手を振って、説明を断った。「いらないわ」 自分でも驚くほどに平然とした口調の声になっていた。「分かってるから。確かに、断片的な情報を集めてつなぎ合わせるのに、時間がかかったけれど。でも、あなたが解雇された理由を知ったら、そんなに難しいことじゃなかった。女子高生の格好をして、上司とセックスしているところを見つかったんだってね? それって変態的だわ、チャーリー。あなたみたいな人にしても、かなり変態的」
「そんなことしてない」
「黙りなさいよ!」 次第に怒りが勝ってくるのを感じた。「もし、あたしに女装を試してみたいと言ってくれてたら、あたしも心配せずにすんだのに! 楽しいことかもしれなかったのに。自分はゲイだとか、女の子になりたいとか、そう言ってくれてたら、理解を示すこともできたのに。あたしに正直に言うべきだったのよ、あなたは!」
あたしは顔をそむけた。「でも、あなたはそうしなかった。そしてあなたは別の道を選んだわけよね? 隠すことに決め、1年間の調査プロジェクトで旅行に行くとバカバカしい話をでっち上げたのよね?」 あたしは彼の方へ振り返り、明らかに女性的になった体を指さした。「その間、あなたは変身していた。そうでしょ? そのカラダへと自分を変えていた」
あたしは声に出して笑いだした。かすれた笑い声になっていた。「あなたがカラダを売るようになったのって、当然のように思うわ。あなた、製薬会社での仕事、一度も気に入っているように見えなかったもの。そうだったんじゃない? いつも勤務時間が長すぎると文句を言っていた。でも、報酬がすごく良かったので、職を変える選択肢がなかったのよね? でも、娼婦の方がずっとペイが良いってことなのね? そのことであなたを責めることはしないわ。あたし自身は賛成していないにしても。だって、あなたの人生だものね」
「でも、ナタリー。僕は……」
「やめて。あたしは、別にここに話し合いをしに来たわけじゃないの。あなたの言い分なんか聞きたくないわ。そんなのどうでもいいのよ、チャーリー。今はどんな名前で通っているのか知らないけど。あたしがここに来たのは、あたしたち離婚をするということを言うため。あなたは自由に自分がなりたい人になればいいと言いに来ただけ。もう、嘘をつく必要はない。自分を誤魔化す必要もないと」
そう言って、あたしは背中を向け、部屋を出た。後ろで彼が何か文句を言ってる声が聞こえたけれど、気にしなかった。あたしは、確かめに来ただけだ。それをやりきったのだ。
ifap_63_close_enough 「後ろからだと、本当に彼女にそっくりだ」とダミアンは言った。「つまり、カツラとかいろいろつけたら、彼女との違いが全然分からないということだけど。違いはというと……何と言うか……」 「それは無視して」と、背中を反らせてケイシーは言った。「それはないかのように思って、すればいいの。お望みなら、あたしのことを彼女と思ってくれていいのよ。あなたのために、あたしに彼女の代わりをさせて?」 ダミアンはためらった。そして、それは初めてのことではない。ケイシーが途方もない提案をしてきた時からずっとダミアンは居心地が悪い気分だった。これまで彼がケイシーとのこの関係を断たなかったことは、彼がどれほど元のガールフレンドであるアマンダを恋しく思っているのかを証言しているようなものだ。アマンダはケイシーの双子の姉である。彼はアマンダを純粋に心から愛していたのだが、アマンダはほとんど言い訳もせずに彼の元を去ったのだった。ある日、突然、彼女は姿を消してしまったのだった。ダミアンに残されたのは、急いで書きなぐった「ダメだったわ」との伝言だけ。 その後、ダミアンは深い鬱状態に陥った。食事もとらない。ほとんど眠らない。大学の授業も休みはじめ、その後、成績不振で退学してしまった。そんな状態だったので、ケイシーが提案してきた時、ダミアンは、その提案を真面目に考えるほど気持ちが弱くなっていたのだった。 ダミアンはケイシーと初めて会った時から、ケイシーが自分に気があるのを知っていた。自分を見つめるケイシーの眼差しや、一緒にいるときに自分の言葉に反応するケイシーの様子。それはもう明らかだった。それに、ダミアンの方も、そんなケイシーの態度は問題ないと思っていた。人はだれでも誰かを好きになってしまうものだ。そんな大ごとではない。そうダミアンは思っていた。 ダミアンは視線をケイシーの女性的なお尻に落とした。それは、ひとつだけ明瞭な違いがあるものの、アマンダのそれとそっくりに見える。それに、ケイシーは化粧をすると、ほぼ完全にアマンダそっくりに見える。ダミアンとケイシーのふたりにとって、ケイシーがアマンダに似ていることを言わば利用しても、それは一種、理にかなっているとも思えた。ダミアンはアマンダを求め、ケイシーはダミアンを求めているというように、ふたりが求める対象はズレてはいても、満たされることになる欲求は、ふたり共通しているのだ。むしろ、それをしない方が愚かなことだとすら言えるだろう。それに、ともかく、いったい誰が傷つくことになるというのか? 結局、ダミアンは欲していたものを手に入れ、ケイシーも同じく欲していたものを手に入れた。いろんなことを話しあい、いろんなことを行ってきたが、これは完璧な一致といえた。ケイシーが男であることは、何の影響もない些末なことに思えた。 ケイシーの中に自身を押し込みながら、ダミアンは囁いた。「ああ、アマンダ。本当に会いたかったよ」
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