2ntブログ



Vacation 

ifap_63_vacation

「認めたらどう? 楽しかったんでしょう?」

「分かる? ほんとたのしかった。期待はしてなかったんだけど、女の子のふりをするって、驚くほど自由な気持ちになれるもんなんだって。でも、家に帰ってこれて嬉しいよ。元の現実の生活にもどることだけど」

「またしたいと思っていない?」

「たぶん、一部はね。よく分からない。今度のことはどれをとってもリアルと感じられないので、答えるのが難しいよ。分かるよね? 何より、最後の2週間は夢のようだった。でも、もう髪の毛を切った方がよさそうだね」

「あなたの長い髪、あたし好きよ? 本当にかわいく見えると思うわ」

「でも、これだと女の子みたいに見えちゃうし」

「そんなに嫌なこと? あなた、この休暇はずっと女の子のふりをして過ごしてきたのよ? それにあなたがそれを気に入ってるのは分かってるわ。何を言いたいかっていうと、あなた、自分のことをもっとよく見てみるべきだと思うの。あたし、あなたのこと、この種のことのために生まれてきたような人だと思ったわ」

「どういう意味?」

「とても女性的な体つきをしているということ。それって悪いことじゃないわよ。だから怒らないでね。それに、あなたのアレも女の子っぽく見えるわ。ちょっと思っていることがあるんだけど、もし、家に戻った後も、これを続けるのって、そんなに変なことかなって思ってるの。あなたがあたしのボーイフレンドに戻らなかったらどうなるかしら? もしあなたがあたしのガールフレンドになってくれたら、どうなるかしら? そういうの嫌かしら?」

「そ、それが君が望んでいること?」

「あたしが望んでいることは関係ないわ。あなたが望んでいることが大切なの。あたしには見て取れる。でも、あたしに見えてることも、どうでもよいこと。あなたも認識すべきよ。その考え、真面目に考えてみるべきだわ」

「そんなことできるのか分からない。僕たちの友達はどうなる? 仕事は? それに……」

「あなたの人生なの。他の人がどう思うかを心配するのは時間の無駄だわ。ねえ、あたし、今すぐ決心してとは言ってないの。それについて考えてみてとお願いしているだけ。考えている間、家に戻った後も、練習してもいいし。普段の場所に戻った後もうまくいくか、試してみるのよ」

「そ、それは良だそうだね。これってゲームのようなものだよね?」

「そういうふうに考えたいなら、そう考えてもいいわ。これはゲーム」

ifap_63_vacation.jpg

[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Unbelievable 

 ifap_63_unbelievable

「すごくきれいだ」 とクラークはあたしの腰に手を添えて言った。「君みたいな娘がいたなんて知らなかったよ」 

僕は返事をしなかった。返事したら、自分が思ってもいないことを言ってしまいそうで怖かった。だから、四つん這いになったまま、待っていた。期待で震えていた。心臓がドキドキ高鳴っていた。アレが欲しくてたまらなかった。本当に切望していた。そして、まさにそのことが僕を怖がらせていた。というのも、まさにこの前日まで、僕は自分のことを完全にストレートな普通の男だと思っていたから。

では、どんな変化があったのか? どうして、僕は、見ず知らずの男のいるベッドで、素っ裸で四つん這いになっている状態になってしまったのか? どうして、そんな格好でその男に分身を突き入れてほしいと待つことになってしまったのか? あまりにも極端にすっ飛んだ結果のように思えるかもしれない。ほとんど、信じられないと。でも、これは実際に起きたことなのだ。そして、僕は、こういうことになると予想すべきだったのである。

友達のデビンは、昔から嫉妬深い人だった。彼はどんな娘と一緒であっても、その娘がどんだけ信用できる人であっても、その娘が浮気をしているのではと疑う男だった。過剰防衛する人間の中でも最悪のタイプと言えた。以前は、それも彼の良い部分に由来しているのではないかと僕は思っていた。愛情からそうなっているのであると。その後、僕は少し違ったふうに見るようになった。そして、これはデビンが自分の所有物を失うことを恐れることに由来すると考え直している。これは、実際、悲しいことだった。

デビンが僕にガールフレンドの見張りをしてほしいと言ってきた時、僕はすぐに食って掛かった。そんなの、彼女のプライバシーを侵害することになると。それは悪いことだと。だけど、最後には、これはただの予防措置なんだと説得されてしまった。もし彼女が浮気をしていたら、それについては知る権利があるはずだ。もし浮気してなかったら、何も問題がないから、それはそれでいいと。彼の論理に同意すべきじゃなかったし、その理由も数多くあったけれど、僕は同意してしまった。

「でも、ひとつだけ問題があるんだ」と彼が言った。「君は嫌がるだろうと思うけど」

そして彼は説明し始めた。彼のガールフレンドは独身女性のパーティに行くことになっている。女性だけで男性ストリップのクラブに行くと言う。その中にバレずに混ざるには、それなりの格好にならなければならないということだった。つまり、女の子のふりをしなければならないと。

反論すると、彼は言った。「いや、君なら通ると思うんだ。去年のハロウィーンをことを覚えているだろ? 大半の男たちが、君のことを本物の女の子と思っていたじゃないか」

ほぼ1時間にわたる議論の末、僕は折れてしまい、女装してスパイするという頼みを受けてしまったのだった。

その夜、僕はあのストリップ・クラブにいた。隅から隅まで女の子のように見える格好になっていた。女の子たちの中で、僕のことを二度見するひとは誰もいなかった。だが男たちはというと……ともかく、その夜、僕は男性ストリッパーたちの注目を集めたとだけ言っておこう。そして、それが気持ちよかったのだった。本当に。ちやほやされて気持ちよさのあまり、僕は自分の任務をすっかり忘れてしまったほどだった。途中で、デビンの彼女のことは見失ってしまった。そして、さらに何杯かお酒を飲むうちに、自分自身のことも見失ってしまったのだった。

ある時点から、その店のバーテンダーが僕に接近し始めているのに気が付いた。僕は控えめな態度を取り続けていたけど、彼は執拗に僕に言い寄り続けた。それに彼はなかなか魅力的な人だとも思った。ハンサムだったし、セクシーだったし、僕も積極的に拒んだりはしなかった。そして、そういうふうにして、僕は気が付いたら、彼のアパートで四つん這いになり、バージンを奪われるのを待っていたのだった。

前にも言ったように、信じられないことだと思うだろう? でも信じてほしい。本当に起きたことなのだから。

ifap_63_unbelievable.jpg


[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Two choices 

ifap_63_two_choices

「それを脱いでって言ったんだよ、チャド。それに、もうこれ以上、あたしは言い訳は聞きたくないわ」

「で、でも……」

「でも、何? チャドは自分は女の子じゃないって言い続けているけど、パンティを履くのは女だけじゃないの? もし自分は女じゃないと言うなら、そんなの履くのおかしいわよ」

「でも、だからって脱ぐのは理屈に合わないわ! 女の子はドレスを着て、お化粧をするでしょ? それにパンティだって……」

「その通りだわ。だから、女じゃないなら、そんな服を着るべきじゃないんじゃない?」

「ありがとう! だったら、もう家に帰って、今日のことは忘れましょう? ママやパパにはこのことは絶対に内緒ね。あたしは、ただ……」

「家に帰るなんて誰が言ったの? きれいなドレスを着てモールの中を見て歩くためだけに、ここに来たんじゃないんのよ。他にもすることがあるんだから」

「でも、あんた、言ったじゃない……」

「あたしの見方だと、チャドには選択肢はふたつだけだわ。ひとつは、文句を言うのはやめて、その可愛い服を着たままでいること。ただし、もちろん、パンティは脱ぐこと。もうひとつは、その服は女物の服だから、そしてチャドが女の子じゃないのは確実だから、その服を全部脱いでパンティだけになること。そのどっちかだわね」

「で、でも……できないわ……こ、こんなのフェアじゃない!」

「フェアなんて関係ないよ。チャドがこの賭けをしたんだからね? そしてあたしが勝った。実際、3回勝負で最初の2回ともあたしが勝ったんだから。チャドはまだ1勝もしてないんだよ」

「でも、やっぱりフェアじゃないわ、ニコール! あんたは実際にバスケの選手でしょ。でも私は……」

「可愛い女の子じゃない? それでいいのよ。あたし、前からお姉さんがほしかったから」

「で、でも……」

「ほら、いいから。チャドがこれから何をしなくちゃいけないか、もうはっきりしているじゃない? だから、そのパンティを脱いで、先に行きましょう? このモールにいる間に、プロム用のドレスを何着か試着してもらうつもりなんだから」

「プ、プロム?」

「もちろん。言ってなかったかしら? チャドはマークの友達のジェフとプロムに出ることになってるのよ? 彼はすごくきれいな格好をしてきてほしいと思ってるの。だからちゃんと優雅に歩く練習もしておいた方がいいわ。だらだら歩くのはやめて」

「い、いいわよ……これでどう? 脱いだわよ。これで嬉しい?」

「もう一息ね、お兄さん。もう一息」

ifap_63_two_choices.jpg



[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Taking control 

ifap_63_taking_control

思い出せる限り昔から、僕はコントロール狂だった。子供のころは、それを否定しようとした。僕はただ物事がちゃんとなっていることを望んでいるだけだと。でも、それは、物事を僕の思った通りにするということを意味していた。成長するにつれて、僕は、ことの正しい・正しくないは、このこととはほとんど関係ないことを悟っていった。ちゃんとコントロールできているかどうかが僕にとって重要なのだと。そして、僕はその考え方を大事に思うことにした。というのも、僕がかじ取りをすると物事がうまくいくことが少なからずあったからだった。

しかし、僕のそういう態度は男女関係になると最悪な結果にもなった。数えきれないほどのガールフレンドが僕の元を去っていった。そのすべて、僕が彼女たちの人生を仕切りたがるという単純な理由によるものだった。彼女たちの服装や、いくらお金を使うかや、どんな友達と付き合うかなど。知る限りすべて僕が管理した。当然予想できるように、たいていの女性はそんな男とは付き合っていられない。そんな僕だったけれど、ハンナだけは、何とか僕と結婚するように説得できたのだった。

思うに、ハンナは、ふたりが正式なパートナーになれば、僕は変わると思ったのだろう。それに、僕自身も変わりたいと思っていた部分があった。でも、あの時点までは僕はやっぱり僕だったわけで、急に、何か違った存在へと魔法のように変身するわけにはいかなかった。ほとんど、結婚直後から、僕たちふたりとも、これは負け試合だと悟ったのだった。とはいえ、ふたりとも頑張り続けた。いずれ夫婦関係は破滅するだろうとは思っていても、ふたりとも、何とか上手くいくよう努力を続けたのだった。

そんな時、僕たちはセイドに出会った。うーん、セイドについてはどこから話をしたらいいだろう? 彼は僕がなりたいと思うすべてを具現化したような男だった。100%の理想形の男だった。すべてをコントロールし仕切る男。男らしい男。ハンサムで、逞しい男。ハンナは、たぶん、僕をうまく制御したら、こんな男になるんではないかと想像していたのではないかと思う。そんなタイプの男だった。そして、それゆえに、彼女がセイドと一緒に寝るようになった時も、僕はそんなに驚かなかったのだと思う。

ふたりがそうなることを、ほぼ最初に会った時から分かっていたように思う。ハンナもセイドもふたりの関係を隠そうともしなかった。そして僕がハンナに問い詰めると、彼女はただ肩をすくめるだけだった。「あなたに私を責めることができるの?」と。

僕は大声を上げたかった。怒りのあまり、家具を部屋中に投げ飛ばしたかった。でも、そんなことはしなかった。どうしてかわからないけど、ふたりの関係を一種容認したのだった。その代わり、もし彼女が他の男と寝るのだったら、僕も同じことをすると言った。ハンナは同意し、僕は言った通りのことをした。だけど、いくらいろんな女たちと寝ても、僕は楽しくなかった。その代わり、僕は怒りっぽくなっていった。怒ってばかりいた。どうしてもハンナを取り戻したいと思った。

振り返ると、バカげた考えだったと思うし、ハンナとはほとんど関係のないことだったと思う。明らかに、それまで僕はかなり抑制していたのだろう。それが本当の理由だと思う。ともかく、理由が何であれ、僕はハンナに仕返しするため、彼女を侮辱しようと思ったのだった。僕は、まともな女性なら誰も夫としては求めたがらないような男になってやろうと思ったのだった。僕は女性的なナヨナヨした男になることにしたのである。

本当に慣れるまではちょっと時間がかかったけれども、変身が終了した時には、僕は生まれつきそうであったかのように、女性的に振る舞うようになっていた。すべてを変えた。着る服装から、話し方、振る舞い方などすべて。その間、僕は、ハンナを居心地悪い気分にするために、こうしているのだとずっと思っていた。でも、彼女は逆の反応を示した。むしろ僕に女性化をもっと進めるよう励まし、ようやく男っぽい振る舞いを捨て去るように決めてくれて心から喜んでいると言うようになったのだった。

一線を越えたのがいつのことだったか分からない。あまりに急速に進んだから。でも、そのすぐ後に、僕は女性になる道を進み始めていた。パンティ。スカート。そしてホルモン。名前も元の名前の女性版の名前を使うようになっていた。その間も、依然として僕は、女性にとって、男とは言えない男を夫に持つこと以上に恥ずかしいことはないという考えにしがみついたままだった。

その間、セイドはいつの間にか僕たちの家に居座るようになっていた。好きな時にやって来ては、好きな時に出ていく。彼がハンナと寝るときは、僕が予備の寝室に移って眠った。そういう夜、壁を通してふたりの声が聞こえるのだった。ふたりは自分たちの行為をまったく隠さなかった。

僕の計画において、次に必然的に進むべき次のステップについて認識したのは、彼が僕のことをじっと見つめているのに気付いた時だった。それに気づいたとき、どうしてもっと早く気が付かなかったのだろうと僕は自分を責めた。それほどあからさまな視線だった。

その日、僕とセイドしか家にいなかった。ハンナは夜遅くなるまで帰ってこない日だった。僕は浴室の外に立っていた。永遠とも思えるほど立っていたような気がする。シャワーの音を聞きながら、どういうふうに進めるかを考え、失敗した場合どうなるだろうと想像しながら立っていた。そして、とうとう、僕は深呼吸をして、浴室のドアを開け、中に入ったのだった。すでに裸になっていた僕は、そのままシャワーのお湯の雨の中に入っていった。

彼はほとんど僕の存在に気づいていなかったと思う。少なくとも、僕が後ろから手を伸ばし、彼の一物を握るまでは。それがみるみる固くなるのを感じ、僕は彼を自分のものにしたと分かった。もっと進んでも彼は拒まないだろうと。そして、僕の計画がようやく完成に近づいたと分かったのだった。

僕にはハンナに僕を愛するようにさせることはできない。ハンナがセイドと寝るのを防ぐこともできない。それに、彼女を辱め、従属的な態度を取らせることもできない。でも、僕はセイドを盗むことはできたのである。ようやく、僕はコントロールを掌握することができたのである。

ifap_63_taking_control.jpg



[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Stupid beautiful love 

ifap_63_stupid_beautiful_love

時々、その価値があったのかと考えてしまうことがある。その疑問を頭に浮かべてしまう自分自身が嫌いだけど、どうしても考えてしまう。彼女の病気がぶり返してしまったのを知っている。あたしが決断をした時ですら、彼女は再発してしまうだろうと思っていた。僕がサポートしても、彼女は足掻き苦しんでいたし、まして僕がいなかったら、彼女は立ち直るチャンスすらなかった。でも、僕には他に道がなかった。あんなにたくさんのことが並んでいたので、拒絶することなどできなかった。それは知っている。心の奥底では知っている。だけど、それを知っていても、この事態に我慢することが楽になるわけではない。僕の人生が生きやすくなるわけではない。

こんな事実を知らなかったら、どんなに良かっただろうと思う。彼女をあの依存症から逃れることを助けることができていたら、どんなに良かっただろうと思う。ずっと長い間、僕は彼女を助け出せていたと思っていた。だけど、今は、僕は知っている。彼女は単に僕から依存状態を隠すことが上手になっていただけなのだと。あるいは、僕の方が彼女の依存状態から目を背けることが上手になっていただけなのかもしれない。結局、否認するということが最悪なのだ。特に、それが愛する人にかかわることであると、そうなのだ。

そして、僕は彼女を愛していた。心から愛していた。他の何よりも、彼女のことを。彼女は僕が求めるすべてだった。聡明で、美しく、楽しい人。そして彼女と僕は完璧なカップルだった。真の意味でふたりは結びついていた。ほとんど霊的とすら呼べるレベルで結びついていた。こんなことを言うと、うさん臭く聞こえるのは分かっているけど、ふたりは魂の友どうしだった。そうなるように運命づけられていたとのだと。それはしっかりと分かっている。この世界についての事実について知っているのと同じくらい、しっかりと。本当に。そして、それゆえに、いっそう彼女の問題に耐えることが難しくさせていた。いや、ほとんど不可能と言ってよい。

薬物に依存する人もいれば、アルコールに依存する人もいる。ヘザーの場合は? 彼女はギャンブルが好きだった。いや、もっと正確に言えば、彼女はギャンブルをしないといてもたってもいられなくなる、しかも奥深い心理的なレベルでそうなってしまうのだった。一度、彼女はその心理状態を僕に説明しようとしたことがある。それは、精神的なエネルギーで、絶えることのなく蓄積し続けるもの。正しいカードを引きさえすれば、正しい数を当てさえすれば、正しい馬に賭けさえすれば現実のものとなる希望や夢や願いが、波のように引いては打ち寄せてくる心理。勝てば勝ったで、それも悪いのだけど、負けると、いっそう厳しい現実が襲い掛かってくる。ヘザーは、いくらお金をつぎ込んだか自覚していた。そして、それゆえ、最後には、取り戻すための唯一の方法は、なお一層深みにハマることだと自分を納得させてしまうのだった。

彼女はそれから逃れようとはした。彼女とふたりで、ギャンブルのことを忘れさせようと実に多くの時間を費やした。しかし、依存というのは簡単に逃れさせてはくれないものなのである。思うに、ふたりとも、この問題は永遠に続くだろうと思っていた。ヘザーも僕も、心の奥では、彼女はギャンブルから逃れることは決してできないだろうと思っていた。あれだけ努力していても、彼女はすぐにポーカーやカジノに戻ってしまうだろうと確信していた。端的に言って、ヘザーはやめられないのだった。

彼らがやってきた時、びっくりしたと言えたら良かったのにと思っている。実際は、驚いてはいなかった。避けられない結末だと思っていた。ヘザーは、狂気じみた額の金銭を、あの種の人間たちから借金していたのだった。連中に乱暴に引き連れられながら、ヘザーは懇願していた。必死に懇願していた。僕も声を上げ、彼らと戦おうとした。だが、彼らはいとも簡単に僕を跳ね飛ばした。

「何でもするから!」と僕は叫んだ。声がかすれていた。男がふたりヘザーを部屋から引きずり出すのを見ながら、頬を涙が伝うのを感じた。「どんなことでも! 何をしてほしいか言ってくれ!」

あの時、あの男たちが僕のことを無視していたら、僕はどうしただろうと思うことがある。警察に行ったかもしれないが、この街では、警察はあてにならないのが常識だった。だが、あの時、男たちは僕の訴えを無視しなかったのだった。多分、借金を取り戻す可能性を見つけたのだろうと思う。その点に関して、ヘザーでは役に立たないが、僕だったら役に立つかもしれないと。

ふたりの乱入者のうちのひとりが、唸り声をあげ、何かよく分からない反応を示し、僕の方を振り返り、そして僕の腕をつかんだのだった。ひっぱりあげるようにして僕を立たせ、そして外に待っていたバンに僕を引きずり込んだのだった。僕とヘザーを乗せ、バンが動き出す。ヘザーは僕から目を背けていた。僕は彼女をなだめようとした。すべてがうまくいくよと伝えようとした。でも彼女は恥や悔しさからか、何も聞いてくれなかった。数分後、バンが止まり、僕たちはある大邸宅へと案内された。そこに入ると、男たちは僕とヘザーを床にひざまずかせた。

さらに数分、その姿勢のままでいると、あの男が入ってきた。この男がすべてを仕切っている人物だとすぐに分かった。振る舞い方に独特の雰囲気があった。従わざるを得ない気持ちにさせる男だった。ハンサムではなかったが、その魅力は否定できなかった。パワフルな男と言えた。そして、彼は僕のことをじっと見つめ続けたのだった。その眼差しは、あまりにドキドキさせる眼差しだった。何かある種、称賛するような目つきだった。その時は、僕はそれをどう理解してよいか分からなかった。でも今は完全に理解している。

それから間もなくして、僕は、僕が10年かかっても稼げそうもない多額の借金をヘザーが抱えていたことを知った。ヘザーは、そのカネを捻出できなければ、完全に返済し終えるまで、売春宿で働かなければならないだろうと。ヘザーは泣き叫んで懇願したし、僕も同じことをしたが、男たちは無表情のまま、冷たい目で僕たちを見るだけだった。ただ、ボスと思われる例の男が僕にある提案をしたのだった。僕にヘザーの身代わりになることも可能だと言ったのだった。僕に彼の女になれと。プライベートな女に。そうなると、僕は自分の生活と男性性を失うことになるが、すべては許されることになると。ヘザーも自由になると。

僕はためらいすらしなかった。僕は立ち上がり、胸を張り、顎を突き出して誇らしげな姿勢になって言った。「それで彼女が安全になるなら、どんなことでもする」と。

そして、その通りになった。彼女も自由になった。2年間、女性化が進んだ。手術からホルモン摂取に至るまですべてが行われた。そして今は僕は彼の個人的な愛人となっている。そうする価値があったのだろうか? 理性的に考えたら、たぶん、答えは否定的だろう。だけど、論理は僕の決心とは何の関係もない。関係があるのは愛情だった。そして、愛というのは、時に、人に愚かなことをさせるものなのだと思う。

ifap_63_stupid,_beautiful_love



[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Improvement 

ifap_63_improvement

「ああ、ジャネット。何なの? あたしの部屋に突然入ってくるなんて、何か、そんなに大事なことがあったとでも言うの?」 とアーロンはヘッドフォンを降ろしながら言った。

「えーと……ちょっと何か着たらいいと思わないの?」 と彼の姉が目を逸らしながら言った。

アーロンは両手を腰に当てた。「イヤよ! ここはあたしの部屋。あたしは、裸のままでいたいと思ったら、そうするの。それが気に入らないなら、出ていけばいいじゃない? さあ、どうしたいの?」

「姉さんは、ただ……ただ、あんたに起きてることについて話をしたいだけ。ここのところ、あんたがすごく変わってしまったことについて……」

「神様に誓ってもいいわ、あたしには何の問題もないわ。何回、同じことを言わなきゃいけないの? あたしはあたし。完全に。もう、部屋から出て行ってよ!」

「でも、あんたは違うわ! 自分をよく見てみてよ、アーロン! あんたが、あれを聞くようになってから、どんどん……」

「ああ、また、その話? あたしが誰かに催眠術を掛けられているって話でしょ? あたしが何かに変えられようとしているって。何かって何? 女の子? 本気で言ってるの? もうちょっとマシなこと考えられないの?」

「でも、鏡を見てごらんなさいよ! あ、あんたの胸、大きくなっているじゃない。それに髪の毛も伸ばしちゃって。こともあろうに、この前なんか、ドレスを着て学校に行ったでしょ。どうして自分が変わってきているのが分からないの? どうして自分に起きていることが見えていないの?」

「まず第一に、ジャネット!」 とアーロンは咎める口調で言い始めた。「第一に、胸が膨らんできているのはホルモンのバランスが崩れているせいなの。お医者さんは、これはすぐに元に戻るって言ってるわ。それに髪の毛のこと? ねえ、今は何時代なのよ? 50年代? 男も時々髪の毛を伸ばした時代があるじゃない。それにドレスのことも。あれはボーイズ・ドレスって言うの、ジャネット! ファッションの一つなのよ」

「でも……」

「姉さんは、あたしがあの自助音声を聞くようになってからずっとあたしに突っかかってばかり。もう、うんざりしているわ。姉さん自身が何の目的も持たないからと言って、あたしまで持っていないと思うのはやめて。最近、あまり一緒になることがないから、姉さんがイラついているのは分かるけど、もう、姉さんに縛り付けられることは嫌なの。あたしは自分の人生を考えているところ。姉さんもそうすべきよ。だからもういいでしょ? あたしをひとりにしてよ、お願いだから」

「い、いいわ。分かった。姉さんには、あんたに分からせることはできないみたいね。姉さんの言ってることが分からない。でも、あんたは幸せそうだし。だから……」

「そうよ、あたしは幸せ。姉さんも幸せ。だから部屋から出て行って!」

ifap_63_self_improvement.jpg



[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Probation 


ifap_63_probation

「ほら、やれよ。前にも俺に見せただろ?」とジョンが言った。

タイラーはうんざりした声で言った。「やりたくないって言ったろ? どうして、お前は、この件になるとそんなに頑固になってしまうんだ?」

「アダムがお前は男だって信じないからだよ」とジョンが答えた。「それって頭に来るだろ? あいつに見せてやればいいんだよ。自分は男だって証拠を見せてやればいいんだよ」

タイラーはため息をついた。彼は母親に無理やりスカートを履くようにさせられてから、ずっと、一種の余興であるかのように友達に振る舞われてきた。彼が現実の人間でないかのように扱われてきた。

「いいよ、分かったよ!」 とタイラーは紫色のドレスの裾をめくった。彼は下着を履くことを許されていない。したがって、彼の性別を示す証拠が丸見えになった。「これで嬉しい?」

「ああ、本当かよ!」 とそれを見つめながらアダムが言った。「本当に男だったんだ。何てことだよ。でも、お前……お前にはおっぱいがあるだろ。それにどう見てもお前は……」

「女の子みたいだ、って?」 とタイラーは続けた。「そこがポイントなんだと思う。これは母親が考えたことなんだ。最後に僕が逮捕された時、僕の母親は断固とした態度に出たんだ。こういう姿になるか、家から追い出されるか、どっちかにしろって。家から追い出されたら、僕は刑務所に行かなくちゃいけない。母親と一緒に暮らすというのが、執行猶予の条件だから」

「でも、お前の胸には……」

「ああ、おっぱいがある」 とタイラーは続けた。「そんなに大きくはないけど、確かにある。これも母親からのプレゼントさ。本物なんかじゃない。母親は、すごく値引きしてくれる医者と知り合いなんだ。執行猶予期間が明けたら、僕が望むなら、取り除くこともできるんだって」

「それにしても……」

「俺が言った通り、男だったろう?」 とジョンが割り込んだ。

「でも、それにしても、……これってすごく変だよ」とアダムは言った。「どうして、母親にこんなことをさせたんだ……どうしてこんな格好に……?」

「こうなるか刑務所かのどっちかだったから」とタイラーは答えた。「僕を見てくれ。この格好で刑務所に入ったら、生きて帰れないだろう? 絶対無理だ。ひどい状況だけど、この格好になるのがベストの選択だったんだ。それに、付け加えれば、これはそんなに悪いわけじゃないんだ。大半の時はね。実際、ちょっと気に入っている部分もあるんだ」

「気に入ってる?」 とアダムが訊いた。

「ああ、確かにお前、気に入ってるよな?」とジョンも言った。「でも、いつまでも、その姿のままでいるつもりはないんだろ?」

タイラーは肩をすくめた。「たぶん、このままでいるかと思う。でも、今はどうでもいい。何か決断をしなくちゃいけない時まで、まだ半年もあるから」

ifap_63_probation.jpg


[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Outside looking in 

ifap_63_outside_looking_in

最初から知っていたと言えればどんなに良いだろうと思っている。これは全部間違いだったと。あたしは夫婦生活の破滅に至る道を進んでいたのだと。それを知っていたと言えたらいいのに。でも、あたしは、そんなことは言わなかったし、言えなかった。あたしは、能天気に、前方に待ち構えている最悪の事態に気づかないふりをしていた。

確かに最初はとてもワクワクすることのように思えた。特にあたしたちの性生活の状態を考えると興奮できることのように思えた。夫とあたしは愛し合っていた。高校時代からずっと一緒だったし、一緒になって後悔したことはまったくない。でも、多くの夫婦がそうであるように、あたしたちの性生活は薄味な感じになってきていた。想像力を掻き立てないというか、つまらないというか。

あたしたちが幸せでなかったと言っているのではない。その逆だ。セックスは良かった。すごくはなかったというだけ。冒険的なところがなかったというだけ。ただ、無難で、普通に良かったとということ。そして、あたしたちの性生活以外の生活も似たような感じになっていた。欲しいものはすべて手に入れていた。白い杭垣で囲まれた郊外の家。飼い犬。新車。良い職業。完璧な生活だった。

示唆はどこからともなく現れた。あるいは、少なくともそう思えた。今から考えると、実際は違っていたのだろうと思う。彼はずっと、ずっと前から計画していたのだ。多分、何年も前から。でも、当時は、あたしも、ちょっと変わっているけど面白そうに思ったのだった。あたしたちのエロティックなことについてのレパートリーを限界まで拡大する方法になると。あたしは警戒はしていたけれど、興奮もしていた。あたしたちのベッドに他の人間を招き入れるなんて、性的にとても危険なように思えた。でも、彼は強く求めたし、結局、あたしも同意したのだった。

最初の驚きは、その招き入れる人間として彼が選んだ人を見たときだった。あたしは、たいていの男の人と同じように、彼は女性を招き入れたいと思っているんだろうと思い込んでいた。そうなるだろうと心づもりはできていたし、あたしとしても、むしろ好ましいと思っていた。あたし自身は、性的な立ち位置を広げるために女性とするなんて試したことがなかったので、それは良い機会になるのではないかと思った。しかし、夫は違ったことを考えていたのだった。いや、彼の観点からすれば、あたしと同じ考え方をしていたと言うべきか。分からないけど。ともかく、彼があたしたちの性生活に加えようと連れてきた人は、強靭そうな大きな体をした逞しい男性だったのだ。

あの最初の時、夫はその男性の肌を触れることすらしなかった。とてもおどおどしているように見えた。ほとんど、可愛いと形容できるほどの様子だった。その日のことがすべて終わったとき、これで、この話はおしまいになるだろうとあたしは思った。でも、そうはならなかった。再び、同じことが起き、そして、また再び。結局、毎週のように繰り返されることになった。そして、それを繰り返すたびに、夫は大胆になっていった。

あたしは、夫と男性が初めてキスをするところを見たとき、何か様子が変だと気づいていたと思う。互いに唇をくっつけ、舌を絡ませあうのを見ながら、ふたりともどれだけ興奮しているか、容易に見て取れた。その間、あたしはというと、そばで椅子に座って、ふたりの様子を見ているだけ。ふたりからは忘れられた存在になっていた。夫が初めて他の男性にフェラチオをするのを見たときも、あたしは同じ状況だった。それに、彼があたしたちのパートナーのひとりにセックスされるのを見たときも。さらには、もうひとり新たな男性が加わって、夫がふたりの男性の間になって行為を受けているのを見たときも。後から考えると、あたしは単なる観察者になっていた。

そして、その頃から夫は変わり始めたのだった。最初は、はっきりと分かったわけではなかった。あたしのランジェリーがどこかにいってしまって見当たらないことがよくあった。その後、それは、しばらくすると元の場所に戻っているのだけど、かなり伸びて緩くなっているのだった。お化粧品も、普通より早くなくなるようになっていた。でも、あたしが、そういう断片的な情報をつなぎ合わせるようになったのは、夫が脚の体毛を剃り始めた時になってからだった。そして、その時、あたしは夫はすでにどこかに行ってしまい、元の夫ではなくなっていると知ったのだった。

それが2年前のこと。それ以来、夫はどんどん大胆になってきている。何も恐れなくなってきている。彼は自分の女性的な側面を隠そうとすることすらなくなっている。夫は、これは単にセックスの問題、妄想の一部にすぎないと言っている。だけど、あたしは真実を知っている。彼が何を本当に欲しているかを知っている。夫が男性の人格でいる時ですら、その歩き方、話し方からそれが分かる。夫があたしと別れるのは時間の問題だと思っている。あたしの中には、それを歓迎している部分がある。そうなった方が彼のためだろうと思うから。その方が彼は幸せだろうと思うから。彼がいない人生が恐ろしいものでないなら、あたし自分から断ち切るだろう。でも、あたしにはそれができない。しようとも思わない。

そういうわけで、夫が本当の自分自身になりたいと思い、自分が望む人生を生きる勇気を奮い起こすまでは、あたしは、自分の夫婦生活であるのに部外者であり傍観するだけという今の状態で満足しなければならないのだろう。

ifap_63_outside_looking_in.jpg


[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

Out of the bag 

ifap_63_out_of_the_bag

「一体、どういうことだ?」 と馴染みのある声がした。兄のトーマスの声だった。僕は顔を上げ、兄が純粋に恐怖を感じてる顔をしてドアのところに立っているのを見た。「お、俺は……いったいこれは?」

僕は何を言ってよいか分からなかった。兄が僕の部屋に突然入ってきて、僕が彼女と一緒にベッドにいるところを見るなんて、一番予想していなかったことだから。もちろん、それはそれで充分恥ずかしいことだけど、最悪なのはその点じゃない。それくらいなら、笑い飛ばせていたかもしれない。兄が言葉に詰まるほど驚いたのは、その点じゃなかった。

「せ、説明するよ!」 と呼吸を乱しながら言った。とりあえず、その言葉が口をついて出ていた。僕は毛布をつかんで、ある程度の上品さだけは守ろうとした。でも、上品さにについて言えば、すでに、かなりダメージを与えてしまっていた。兄は僕が隠し続けていたものを見てしまっていた。「これは、見た通りの物とは違うんだ!」

それは嘘だった。実際は、まったく見た通りの物だった。ほぼこの2年間、僕はひそかにホルモンを摂取していて、それに応じて僕のカラダは変化していた。もちろん僕は隠し続けてきた。ジャネットを除くと、僕がトランスジェンダーであることは誰も知らなかった。

「じゃ、じゃあ、何なんだ……」

兄は目を離すことができず、ずっと見つめたままだった。僕はそんな兄をとがめることはしなかった。兄の心の中でギアが変わるのが見て取れた。僕の長い髪の毛、滑らかな肌、だぶだぶのスウェット・スーツを着ていても完全には隠しきれていなかった僕の体の線。それらすべてが突然、兄の認識の中でこれまでとは異なった意味を持った瞬間だった。
 「ちょっと、トミー?」とジャネットが口をはさんだ。彼女は裸体を隠そうともしなかった。「レズリーは女の子なの。あなたはこの子を自分の弟だと思っているでしょうけど、彼女はずっとずっと前から女の子になっているの。こんなふうに事実を知るとは思っていなかったでしょうけど、あなたが知ってよかったと思うわ。バンドエイドで傷口をふさぐように取り繕っても意味がないわ。これが彼女の本当の姿なの。それが嫌なら、とっとと地獄に落ちちゃいなさいよ」

「ジャネット……」

「いいのよ、レズリー。あたし、もう、あなたがコソコソしているのにうんざりしているの。あなたが隠さなくちゃいけないと思っていることにうんざりしている。そんな必要ないのよ。あなたは、自分自身のあるがままの姿でいることに謝る必要なんてないのよ」

「俺は……ああ……俺、い、行かなくちゃ」 とトーマスは言い、言うと同時に走るようにして立ち去った。

「予想していたよりずっと良い結果になったわ」とジャネットが言った。

「本当? ジャネットは、どんなふうになると予想していたの?」

「もっと大声で怒鳴りあうかと。ひどいことを言いあったり。分かるでしょ? よくあることよ。こうなったことは良かったと思う。お兄さんも知ってるべきだもの」

僕は彼女ほど確信はしていなかったけれど、でも、それはどうしようもない。とにかく、とうとう隠れていた猫がバッグから飛び出した(事実が明るみにでた)のだ。

ifap_63_out_of_the_bag.jpg


[2017/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)