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心が望むものをすべて 6 (15) 

サイン会は3時に始まった。彼女が、列に並ぶ私を見たかどうかは分からない。書店には、時刻より早く来た。早すぎたと思ったのだが、すでに40人近くの人が列を作って、ダニーと彼女の随行員が現れるのを待っていた。やがて、私の後ろには100人以上の人が並んでいた。皆、「生粋の地元出身の有名人」に本にサインをしてもらおうと思っている。男性の中には、ダニーのグラビアが載っている雑誌を持っている者も何人かいた。グラビアに彼女のサインをしてもらい、歴史的なグラビア写真にしてもらおうと思っているのだろう。

ダニーは、私の順番が来て、本を差し出したときに、目だった反応をしたりはしなかった。メディア関係者がいたので、彼女は私のことを彼らに知らせたくなかったのだと思う。そのときですら、彼女は私のプライバシーを優先してくれた。私を見て、普段よりちょっと目を輝かせたし、笑みも、他のときより、嬉しそうだったと思う。とても巧みに、私たちの再会を隠してくれた。ダニーは、私が出した本の替わりに、膝の上に載せていた本を出して、それにサインをして渡してくれたが、それに気づいた人は、私以外にいなかったと思う。

彼女が用意しておいてくれた特別な本。それを見てみたいという衝動を押し殺しながら、会場の書店から出た。歩道に出て、本を見てみた。表紙の裏、びっしりと言葉が書かれていた。その言葉を読み出した私は、歩道の真ん中で、凍りついたように立ち止まってしまった。


[2007/09/08] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)