テッドにとって、今のエリンはまさに飽くことを知らない妻に変わっていた。セックスを求め、彼が突き入れると激しく腰を突き上げてくる。
テッドは昨夜の行為について少し罪悪感を感じていた。エリンがセクシーな脚を彼の身体に絡め、いよいよこれからという時に、彼はあまりに早く果ててしまったのである。その時、エリンは両脚で彼の腰をきつく包み、ぎゅっと彼の身体にしがみつき、そして切なくも色っぽい声で喘いだのだった。
「ああ、テッド ………やって ……………私を犯して ……………淫乱娼婦のように私を犯して、お願い!」
テッドは、その声を聞いた瞬間、感極まって頂点に達してしまったのである。エリンがまだ絶頂の登り口にすら達していない時点で、彼は激しく射精してしまったのだった。
「ああ、イヤッ …………ダメ、テッド ………い、イヤッ …………………まだなのに ……………こんなに早くなんて、イヤぁぁぁッ!」
テッドは早くイキすぎたことに罪悪感を感じた。
……ああ、何てことだ。今まではいつもエリンを喜ばせられていたのに! なんであんなに早くイッテしまったのか信じられない! あの時のエリンの反応があまりに刺激が強すぎたのかもしれない。脚で包むように僕にしがみつき、やって、犯してとせがんでいた。まるで別の女性としていたような気分だったなあ。僕はいつも、セックスの時には僕に激しく反応する淫らな女性がいいなと思っていたけど、まさにそんな女のような感じだった。あの時、もう少し持続できて、エリンを満足させることができたら良かったのに! まあ、日曜に帰る時、バラの花束を買ってエリンを驚かせようかな…。
テッドはそんなことを思った。
飛行機の中、その後もテッドは自分の美しい妻のことを思い続けた。今この瞬間、彼女がそばにいて、愛し合えたらいいのにと願った。今度こそはちゃんと長持ちして、絶対、最後までいかせてあげるのにと。
彼は、飛行機に乗る前に立ち寄ったレストランでのことを思い出した。あの時のエリンの何と愛らしかったことか。藤紫色のドレスと、白いハイヒールを履いた清楚な姿。テッドは、こんな魅力的で、かつ知的な女性を妻にもてて、幸せだった。しかも、エリンは努力家で、今度、地域の婦人会の会長になるらしいと聞いて、自慢にも思っていた。エリンは貞淑な妻だ。夫に隠れて浮気をするような他の妻たちとはまったく違うのだ。
テッドは、最近離婚した職場の親友のことを思い出した。その男は、自分の妻が彼の親友とベッドにいるところに踏み込み、それが原因で離婚したのである。さらにテッドは、ゴルフ仲間の男のことを思い出し、思わず笑ってしまった。そのゴルフ仲間の妻はテニス教室に通っていたのだが、テニス・クラブのプロにテニス以上のことを教えられていたそうだ。テッドのゴルフ仲間の男は、そのふたりの現場に踏み込んだらしい。
テッドは思った。……最近のエリンはあんなに情熱的だし、エッチな気分になっているから、ひょっとすると、僕が彼女のあそこを舐めようとしても、前のように拒んだりせず、諦めて、させてくれるかもしれないな! ああ、エリンの濡れた割れ目に舌を挿しこんでみたいなあ。クリトリスを舌でチロチロなぶって、僕の口にどっと本気汁を出させるんだ。そして喜びに喘ぐ悩ましい声を聞く! エリンには本当に激しく乱れて、大きな喜びの声をあげてほしいのに! だけどエリンは、ベッドの中でも、いつも貞淑で慎ましい女でいようとしているんだよなあ……。
テッドがそんなことを思っていたまさに同じ時、『秘密のモーテル』の8号室で起きてることをテッドが覗き見したなら、彼は心臓発作を起こしていただろう。
彼の妻の高価なドレスは、薄汚いモーテルの床に丸まって落ちていた。白いハイヒールの上に重なるように丸まっている。そして、それを着ていた彼女自身はと言うと、今は、ベッドの上に横たわっている。彼女を買った無骨なトラック運転手に、染みひとつない象牙色のセクシーな美脚を惜しげもなく見せていた。
すでにエリンは本物の娼婦のように振舞っていた。焦らすように腰をくねらせながら、パンティに手をかけ、腰を浮かせてお尻から降ろし、一方の脚を高々と上げて、脚を抜き、同じようにもう一方の脚を上げて完全に脱ぎ去る。彼女の身体を守っていた最後の衣類が、こうして彼女の身体から離れた。その様子をいかにも下品そうな男が期待に舌舐めずりしながら見ていた。
その後の光景を見たら、テッドは自分の願いが実現したと分かるだろう。もっとも彼の代わりに見ず知らずのトラック運転手が実現していることであるが。
エリンが素っ裸になったのを受け、トムはベッドに這いあがった。それに連動するように、エリンは恥ずかしげもなく両脚を開いていき、トムの油っぽい髪に両手の細指を絡め、そして自分の股間に男の顔を引き寄せたのだった。男の唇が局部に触れるのを感じ、早速、大きな喜びの声をあげる。
「あっ、ああぁぁぁ ………………あっ、いいっ! …………………いいわ .............................食べて、私を ………んんんっ………もっと、舐めて! 貪って! ああっ! か、感じるぅぅぅぅぅ ……………あっ、あっ、あっ…いやっ ………わ、わたし………あっ……………い、いっ ……くぅぅぅぅッ………あ、いっくぅぅぅぅぅっ!」
フライトも中間地点にまでさしかかった。テッド・ウィンターズはリラックスし、目を閉じた。そして愛する妻の姿を思い浮かべた。
「ああ、僕は本当に運の良い男だ。あんな美しい女性と結婚できたんだから! 息子には立派な母親だし、夫には愛らしい妻! エリンが浮気などしないのは当たり前だ。だけど、考えてみると、エリンが他の男と一緒にベッドにいるのを想像したらすごく興奮してくるなあ。まあ、そんなことしようと思うヤツがいても、エリンならいきなりピシャリと平手打ちするだろうけど」
テッドはそんなことを思いニヤニヤと笑い、引き続き、愛する妻が裸で見知らぬ男とベッドにいる光景を想像し、妄想を楽しむのだった。
テッド・ウィンターズは、もし運よく『秘密のモーテル』8号室を覗くことができたら、別に妻の行為を想像する必要はないだろう。
彼が妄想を楽しんでいた、まさにその時に、この部屋で起きてることを見ることができたら、彼は人生最大のショックを受けていたかもしれない。
安手のモーテルのベッドがギシギシとスプリング音を立て続けていた。テッドの愛する妻の身体も顔も見えない。見えるのは大きな男のごつごつした背中と醜い尻、そしてその身体を包み込むようにしている、ほっそりとした美しい肌の2本の腕と脚だけだろう。
だが、もし見ることができたら、彼女の美しくセクシーな身体や快感に喘ぐ美貌の表情は、これ以上ない官能的な光景だろう。その美しく「貞淑な」妻のしとどに濡れた陰部には、今、無骨なトラック運転手の極太が激しく出入りを繰り返しているのだ。
テッドは、妻が愛の行為において以前より自由で表情豊かになってきているのを思いながら、自分が一番好きな瞬間を思い出していた。それは、彼が挿入し、ぐっと押し込むときにエリンが発するよがり声である。それを聞くのが一番好きだった。
彼は思った。……それにしても、エリンが完全に自分の殻から外に出るのはあり得るのかなあ? いや、たぶん無理かもしれないな。エリンは、保守的でクリスチャンの家に育ったから、そういうふうになるのは完全にエリンらしくないものなあ……
この点に関して、テッドはこれ以上の間違いはあり得ないほど間違っていた。まさにこの瞬間、彼の愛する妻はモーテル中に轟くような声で叫んでいたのである。
「ああぁぁ、感じるうぅぅぅぅぅ …………すごく太いわ ………………あああぁぁぁぁぁ ………やって、やって、やって、もっとヤッテ!…………あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!………… 200ドル払ってくれたんでしょ? 淫乱娼婦にヤルために! だからもっと!…………あっ、いいッ……………いいっ、いいっ! もっと深く …………もっと、もっと! ああ、感じるうぅぅぅぅぅ! いいぃぃぃぃ! ………ああん …………あぁぁぁぁぁ!」
エリンは自分の身体をカネで買った男に、歌うような声で叫び続けた。
その5時間後。カネを払った最後の客がモーテルの部屋を出て行った。エリンはシャワーを浴び、そして服を着て、正装状態に戻った。この数時間の間、これを何回繰り返したことだろう。
ちょうどその時、彼女に身体を売らせた張本人が部屋に入ってきて、彼女の後ろに立った。リオンは後ろから両腕を回してエリンの身体を抱き、両手で乳房を覆い、首筋に顔を擦りつけた。エリンはほとんど本能的に深い喘ぎ声をあげ、それを受けとめた。
「今はもう完全に俺のオンナだな、ウィンターズの奥さん! あんたは俺のモノだ。俺に何をしてほしいか言っていいぜ!」
リオンはドレスとブラジャーの中、エリンの乳首がみるみる固くなるのを感じた。
「ああ、リオン…………お願い ………………お願いよ …………私を淫乱娼婦のように扱って! あなた専属のオンナとして! やって …………お願い ……………やってほしいの ……………あなたの大きなおちんちんが欲しくてたまらないの! あなたのためにおカネを稼いだわ、カラダを売って ……………あたし …………あたし、何でもするから。してほしいこと何でも …………あなたが喜ぶなら、喜んでカラダを売るわ! だから、お願い ……………やって …………やって、やって、やってぇ、お願いッ! ………ああ、そう……いいぃぃぃぃ ………………触ってぇぇぇ …………ああ、感じるぅぅぅ ……………いいの、感じるの! ……気持ちいいの!」
エリンの声はすっかり蕩けるような声になっていた。リオンがドレスを捲り上げ、レースのパンティ越しにあそこを指で擦ると、途端にエリンはうっとりとした顔に変わった。
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ジミーは立ちあがって、両手を腰に当てた。結果を期待している他の人と同じく、指示を待っている。
これはすべて彼のガールフレンドの考えだった…正確には彼の元ガールフレンドだが。ジミーは前からスポーツマンであった。だがグレート・チェンジが起こり、彼は男と競い合うことができなくなってしまった。そういうわけで、彼の不平を耳にタコができるほど聞かされた彼の元カノのエイミが、もっと身体に合ったスポーツをしたらと提案したのである。すなわち、チアリーダーをしたらと。
最初、ジミーはそのアイデアを鼻で笑ったが、2ヶ月ほど経つうちに、彼の中でその考えが大きく育ち、そしてとうとう、彼はやってみようと折れることにしたのだった。
それ以来、彼はトレーニングを続けた。いつか大学の正式チームのレギュラーになるのを期待してる。
試行期間はわりと順調に進んだ。ルーティンの運動は上手くやれた。だが、ここにはboiは彼しかいない。望むらくは、そのことを理由に反対されなければいいんだけど。
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ゲイリーは写真を取りながら、にっこり笑った。もっとも彼はほとんど楽しんではいない。むしろ、気が狂うほど恐がっていたと言ってよい。グレート・チェンジが起きた時、彼のガールフレンドは外国に留学しており、彼の身体が変化してからは、一度も、彼と直に会っていなかった。もちろん、彼女は何が起きてるか知っていた。他の国の白人男性も、同様に影響を受けたから。でも、新しくなったゲイリーを見たら、彼女はどう思うだろう?
彼女は、自分の女性的で身体の小さなboiを受け入れてくれるだろうか? それとも、鼻っから自分と一緒になるなんて考えを拒否するだろうか? だが、それ以上の疑問は、自分が何を求めるかということ。大半のboiと同様、ゲイリーも男に関心を持つことと無縁ではなかった。そのことは、彼女との関係にどのような意味を持つのだろう? 時間が経たないと分からない、とゲイリーは思った。
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見てみて! 彼、boiブリーフとかいろいろ着てるのよ!
グレンは笑顔にはなってるが、内心、ゲーっと言っていた。ドレスなんか着たくなかったのである。boiブリーフも履きたくなかった(まるで、boiブリーフと呼ぶことで、たいていのboiが履いてるパンティというより、ましになってるような言い方だ)。彼は、tomboy(おてんば娘)にならって使われ出したtomboiと呼ばれる種類のboiなのである。-boiたるもの、か弱くて女性的であるべしという文化的基準に従わない存在。彼は、典型的なboiの好みに反し、スポーツや車や女の子が好きなのである。
しかし、そんな彼ですら、周囲からの無言の圧力からまぬかれるわけではない。この日、彼の姉の結婚式で、彼の姉はグレンに花嫁の付き添い娘になってほしいと頼んだのである。もちろん、グレンは承知した。なんだかんだ言っても、自分の姉なのだから。
このように黙従してしまったことの帰結を悟ったのは、それからほぼ1週間後のことだった。彼はドレスを着なくてはいけなくなってしまったのである。4年前のグレート・チェンジ以来、ずっと拒んできたことなのに。
姉のためを思い、彼はむやみな抵抗はしなかった。彼は姉にもらった下着もつけている。
こうして立っている時も、彼の姉はふざけまじりに彼のboiブリーフを母親に見せる。そんな時、グレンは早く元の着心地の良い服に戻りたいと心を痛めているのだが。
boiは家族のためにいろいろ気を使わなければならないのだ……
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グレッグは上半身裸で、同じように裸のルームメイトの隣に立ち、髪の毛をまとめた。彼は、グレート・チェンジのたった1年後に大学に入った。当時は、女性のルームメイトを持つなんてあり得ないと思っていた。
だが今はグレッグは裸の女性がいることにすっかり慣れている。裸の女性がいても、少しも興奮しないのだ。まったく普通のこととなっている。
グレッグはルームメイトの方をチラリと見て、溜息をついた。慣れているとはいえ、時々、あんなふうな乳房があったらいいのにと思うのである。胸があったら、まともな男性を今よりずっと簡単に手に入れられるのに、と。
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エディはディルドの先端がアヌスの入り口に触れるのを感じた。そして溜息をつきながら、下を見た。とうとう、これをする。真実が分かる瞬間がきた。
boiであるという状態を認めると完全に意思を固めることができるだろうか? すでに髪の毛は長く伸ばしていたし、boiの服を着るようになっていた。だが、これはそれとは違う。これをやったら、後戻りはできなくなる。
エディは、自慰のようなあまりにありきたりなことがこれほど重要な意味を持つとは思っていなかった。だが、これは重要な意味を持つ。少なくとも、どんなふうにするかは重要な意味を持つ。これまでの人生、自慰と言えば、必ずペニスが関わっていた。だが今は……確かに今までとは違う。
彼は前とは違う。確かにペニスからある程度の快感は得られるが、でも、アヌスには敵わない。こっちが彼にとっての本当の性器になっている。
疑念やためらいの気持ちを払いのけ、エディはディルドへと腰を沈めた。思わず、あっと声を漏らした。こんなに気持ちいいとは思っていなかった! 上下に動いてみた。入れては出す。エディはディルドに対して、ロデオ乗りを続けた。何時間もと思えるほど長時間。その間、一度もペニスに触らなかった。
ことが終わり、性的満足を得て幸福感に浸りながら、彼は思った。みんなが言ってたのは正しいのだろうか? boiは男と一緒になるのが本当なのだろうか? エディは人生で初めて、男とセックスしたらどんなだろうと知りたくなったのだった。
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シンディはボーイフレンドが腰を抱え、後ろから挿入しようとする間、何これ?と言わんばかりにきょろきょろしてみせた。かつては自慢のペニスも今は小さなコブのようなもの。シンディは何も感じなかった。そもそも挿入さえもできない大きさなのは確か(それも彼が勃起できたらの話し。それすら最近ではめったにない)。
それでも彼はやろうとし、結果いつものように、しばらく下腹部を彼女のお尻に何度か押しつけた後、イライラして、座り込んで泣きだすのであった。もちろん、そういう時、シンディは彼を慰める。
しかし、シンディは最近、思い始めている。彼はもはや本当の意味では男ではないということ、そして彼は男性としては彼女を喜ばすことはできないということを、もうそろそろ認める必要があるのではないかと。ただ、それを言いだしたら、彼がひどく傷つき、永遠に彼はダメになってしまうかもしれないとシンディも分かっている。だから、こうして前屈みになってお尻を突きだし、役割を演じているのである。いつの日か彼自身でそのことに気づいてほしいと期待しながら。
*
ビリーは自分が非常に可愛い存在であることを知った。本物の(黒人の)男たちみんなから視線を浴び、そのことをはっきりと自覚できた。実際、ほとんど化粧をしなくても、彼は大半の女の子よりも可愛いかったのである。
彼とメアリはモールの中を歩いた。ビリーは圧倒された。いたるところに、ほとんど裸同然の白人の男の子(boiと呼ばれていたが)の広告写真が飾られていたからである。広告の中のboiたちはすべて化粧をし、非常に女性的な服装をしていた。ビクトリアズ・シークレット(
参考)ですら、新しく誕生した人々に商品を提供していた。boi用のランジェリや、小さなブラジャーすら売っていた。そのブラジャーは乳房が揺れるのを防ぐためではなく、薄地のシャツを通して乳首の突起が見えるのを防ぐためだろうとビリーは思った。
メアリはビリーに山ほどランジェリを買った。パンティ(ソング(
参考)、フレンチカット(
参考)、ボーイショーツ(
参考)などなど)も、ストッキングも、ガーターベルトも、さらにはboi用のブラまで。
それから、ふたりは普通の服の店を何軒か訪れた。メアリはビリーにいろんなタイプのショートパンツ(非常に裾が短いのが普通)、ブルージーンズ、そして細いストラップの丈の短いタンクトップからカジュアル・シャツに至る広範囲のトップを試着させた。大半は身体に密着したピチピチのもので、どのトップでもビリーの乳首が見えてしまうものだった。
だが、ビリーにとって最もショックだったのは、スカートを履くboiの数の多さだった。ミニスカートであれロングであれ、少なくともboiの半分はスカートを履いていた。チアリーダの服装をした10代のboiすらいたのである。
ビリーは、意図的に、変化の効果をテレビやコンピュータで見るのを避け続けてきた。だが、家を出て、ショッピングモールに来たからには、どうしてもそれを目の当たりにせざるをえない。どうやら、白人男性という概念は過去のモノになってしまい、白人boiによって取って代わられたようだった。
(メアリはまだまだビリーに試着させたいものがあったのだが)ショッピングのお祭り状態が半分までさしかかったころ、ビリーは自然の要求のためトイレに行きたくなった。そしてトイレに行って、彼はまたも驚いたのだった。今はトイレが3ヶ所に分かれていたのである。ひとつは女性トイレ、もうひとつは男性トイレ、そして、3つ目がboi用のトイレだった。ビリーは自分がどれに入るべきか知っていた。
boiのトイレに入ると、boiがふたりほど化粧を直していた。小便用の便器はなく、ビリーは個室トイレに入った。ビリー自身、しばらく前から立って小便をすることが上手くできなくなっていた。彼はジーンズとパンティを降ろし、便器に腰かけた。
「あのね、あたし、リロイに誘われたのよ」
外でboiのひとりが言うのが聞こえた。とても甲高い声をしている。たいていの女性よりも高い声だった。
「それで…?」 ともう一人が訊いた。
「そうねえ、彼ってとってもエッチなの。絶対、ケダモノのようなセックスするわよ」 最初に話したboiがそう答えた。もう一人がクスクス笑うのが聞こえた。
「分かったでしょ? 私が言ったじゃない? そういう服になれば、簡単におちんちんをいただけるって…。男たちはboiか女の子かなんて気にしないの。基本的に私たちは女と同じよ。おっぱい好きの男は除外するけど」
「どうなんだろう。分からないなあ。何と言うか…。あなたも知ってる通り、あたし、昔は女のことばっかり考えていたでしょ? でも今は、男のことばっかり……。強い腕に抱かれるととても気持ちいいし、脚を広げられて…うぅぅぅん……」
「最後まで言わなくていいわよ。それはどのboiも同じ気持ち。でもね、ちゃんとシグナルを送り続けるのよ。そうすればリロイが近づいてくるから。男たちはいつも……」
会話の声が遠くなった。ふたりの男狂いのboiたちがトイレから出て行ったのだろう。
ビリーは用を済まし、股間を拭いた(良いboiは終わったら、きちんと拭く!)。そしてパンティとジーンズを引き上げた。トイレから出て、キュートなドレスを見ていたメアリのところに戻った時も彼は少し茫然としていた。
ショッピングを終えた後も、ビリーは上の空の状態だった。その理由のひとつは、あのふたりのboiの会話だった。もうひとつの理由は、モールを歩きながら自分が他の男たちのことを気にしていることに気づいたことだった。かなり多くのboiたちが黒人男と手をつないで歩いていた。明らかにカップルだと分かる。だが、カップルのように見えるboiと女性のペアはまったく見かけなかった。
「じゃ、映画でも見に行く?」 メアリが声をかけ、ビリーは我に返った。
「ああもちろん」
「どれにする?」
「何でも。君が選んで」 とビリーは微笑んだ。
メアリはビリーとチケット売り場に行った。ビリーはもぎりのそばでメアリがチケットを買うのを待った。メアリはチケットを買って戻ってくると、「何か食べるもの欲しい? ポップコーン?」
ビリーは頭を振った。「いや、特に」
「オーケー」 とメアリは言い、ふたりは劇場に入った。
その映画をビリーはとても啓蒙的だと思った。新しく作られたのは明らかで、それは黒人男性と20代の若いboiとのロマンチック・コメディだった。ラブシーンまでもあった。そういうところもあり、ビリーはとてもその映画を楽しんだのであるが、深い意味を考えると、世界はずいぶん変わってしまったのだと思わざるをえなかった。
白人のboiと女の子は、今はほぼ同じ土俵に立っていることになったのだ。両者とも、同じもの、すなわち黒人男性を求めて競い合う間柄になっているのだ。
このことがビリーをかなり考え込ませたのは確かだった。