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64_The big night 「重要な夜」
「早くしろよ、遅れるぞ」 とジョナが言った。
ケイシーはちょっとだけためらい、返事した。「すぐに出るから」
その声は明るい調子だったが、頭の中で考えていることは、それとは正反対だった。体から石鹸の泡を洗い流しつつ、どうしてすべてがこうも急速に、こうも間違った方向に進んでしまったのだろうと思わずにいられなかった。
「それはあんたがバカだから」と彼はつぶやいた。その声はシャワーの音でかき消され、外には聞こえないだろう。彼は他にもいくつか自分を罵る言葉をつぶやいた後、シャワーを終えた。何をするにしても、この大きくて敏感な乳房が邪魔になる。でも、こういう胸をジョナは好きなのだ。この胸はケイシーの愚かさの代償なのだ。
シャワーから出て、タオルで体を拭き始めた。ジョナはノックすらせずにシャワールームに入ってきた。
「急げと言ったぞ」 ジョナは体の大きな男ではないが、どこか恐ろしい存在感がある男だった。ふたりの関係ではジョナが統率する人間であり、それはふたりとも了解していた。
「できるだけ早く済ませるから」とケイシーは訴えた。
「これから逃げようとしない方がいいぜ。これはもう決まったことなんだ。お前にできることなど何もないんだからな」
「分かってる」 ケイシーにはそれしか言えなかった。もし彼が自分に正直だったなら、わざと時間延ばしをしていたこと、しかも、そうすることには充分な理由があることを認めたことあろう。同窓会に行きたくなかったのだ。自分がどんな姿になってしまったか、それを昔の友達やクラスメートたちに見られたくなかったのである。
だが、ジョナはその正反対だった。彼はみんなにケイシーの運命を見せたがっていた。彼をイジメていたあのケイシーの今の姿を。ケイシーを見て、みんなが笑ったり、からかったり、ショックでハッと息を飲んだり、そういう光景を見たがっている。そして、それがすべて終わった後、この征服物を犯しながら満悦の気分に浸りたがっているのである。
ジョナはケイシーの丸い尻をひっぱたいた。尻頬がぶるぶると揺れた。「急げよ。お前にとって大切な夜だ。その前にお前にお仕置きをする気はねえんだからな」
「大切な夜……」 ケイシーは反復した。声は小さく、恐れている調子がこもっていた。もちろん、すべてを変えてしまう夜になるだろう。そうならないわけがない。旧友たちに知れるとすぐに両親にも知れ渡ってしまうだろう。兄やいとこたちにも。すぐに、彼が好きだった人すべてに、何もかも知られてしまうだろう。心の中、みるみる恥辱感が膨らんでくる。耐えがたいほどに。
とは言え、その代わりの道はもっと悲惨なものだった。もし行くのを拒否したら、ジョナは約束通り、お仕置きをするだろう。しかも、それで済むのは彼がご機嫌な時だけだった。ジョナの機嫌を損ねたら、ジョナがケイシーに飽きてしまったら、彼はためらうことなくケイシーを警察へ通報するだろう。ジョナがためらわないのは明らかだった。ケイシーが行った違法と言える悪いビジネスについて通報し、彼にその報いを味わわせるだろう。
それは避けなければならない。彼には選択肢がなかった。つまりはジョナが計画した通りにしなくてはならないということであった。