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64_a dire warning 「不吉な警告」
「おい、おい、おい…なんだよ、これは。ええっ、何だ! マーク? マークなのか? 一体何が起きたんだ?」
「説明する時間がないわ。ただ……」
「どう見ても……何と言うか……乳房があるし…裸だし……」
「落ち着いて、お願いだから、話を聞いて。すべてを説明する暇はないの。そこはいい? あなたがとてつもない危険な状態にいることだけは理解して。行ってはダメなの…」
「お隣のバーベキューにかい? 危険って?」
「その通り。で、ちゃんと聞いて。ああん、もう。あたしのおっぱいを見つめるのはやめてよ。ちゃんとあたしの言うことを聞いてって」
「すまない。何と言うか、すごく、大きいから。何か服を着るとかできないのか?」
「いいえ、できないの。そこがポイントなのよ、ケビン。レニーが許してくれないの。彼女がどうやってこういうふうにしたのか、分からないわ。でも、この1年をかけて、彼女はあたしを女性化した。あたし、自分自身でも数日前まで気づかなかったの。一種の催眠術か何かだと思うわ。それに遺伝子治療も。よく分からない。でも、気づいたらこのカラダになっていて、言葉も女になっていて。そして、今日は、あたしが盛大にお披露目する日になっているの」
「おめでとう、でいいのかな?」
「イヤな人! 半分はその気が……いや、違う……あんたがバカだからと言って、こんな目に合うことはないわ。今日のお披露目は、概念が正しいということを証明する意味も兼ねているの。そんなわけで、女たちが集まっているのよ。みんな、レニーがあたしに何をしたか見たがっている。みんな、同じことを自分の夫にしたいと思っている」
「するって、何を?」
「んもう、ケビンったら! あんたの奥さんがあんたをあたしみたいな女に変えたいと思っているのよ! レニーが手伝ったら、本当に実現しちゃうわ。だから、あんたは……あ、ダメ。彼女、こっちに来る!」
「あら、ケビン、ここにいたの? どこかに行っちゃったのかと思ったわ。あたしのマーキーちゃんが何か陰謀論を語ってあなたを困らせていたんじゃない? この可愛い小さな頭で考えたことを?」
「え、ええ、まあ……」
「一緒に来なさい。パーティが始まるわ」
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64_a different world 「異なる世界」
「ケイシー、行くわよ」 僕のテントの入り口にふたりの姿が現れた。「遅くなるわ」
僕は、ぼんやりした意識を振り払おうと頭を振った。僕はこのふたりを知っている。それは確かだ。だが、ふたりを見ていると、意識がぼんやりしてくる。ふたりについて、何も詳しいことを思い出せないのだ。僕たちはずっとずっと昔から知り合いだったという漠然とした感覚しか出てこない。
そして、僕はアレに気が付いた。
僕が驚いたのは、ふたりが裸でいることではなかった。いや、裸でいることは、僕にとってそれほどアブノーマルなこととは思わなかった。実際、僕は子供の頃から、何も服を着ずに自然の中を歩き回るのが好きだったし、大人になってからは、文化のひとつとしてのヌーディズムに惹かれてきたのも事実だ。別にヌーディズムに僕の人生を支配されるほどのことではないが、休暇で自然の中に来るときは、服を着ることの方が少ない。
だが、彷徨うように視線を僕の「友人たち」の陰部へと向け、僕は大きな驚きに襲われた。
「な、何なんだ……」と僕はつぶやいた。怪訝の気持ちを声に出すことすらできなかった。目の前にいるふたりは、典型的な男女のカップルだ。しかし、ふたりの股間についてとなると大きな混乱があるように見えた。バギナがあるべきところにペニスがあり、ペニスがあるべきところにバギナがある。
「君が昨夜、目をつけていた女の子が来てると思うよ」と女性(あるいは男性?)が言った。「それに彼女、今回は愛用のストラップオンを持ってくるらしい」
「な、何だって……」同じ言葉を繰り返していた。何も言えない。その時、自分の胸に奇妙な重さを感じた。すぐに僕は両手を出して、自分の胸を押さえた。大きな乳房ができていた。「ぼ、僕に……おっぱいができている」
「それ、とてもいい形ね」と男性が言った。「自慢すべきよ。さあ……」
「でも、おっぱいがあるんだ。それに……」
「私にもあるよ」と女性が言った(男性なのかもしれない。僕はふたりをどう呼んでよいか分からなくなっていた)。「それに世界中、どの男にもついている。そんなに特別なことじゃないよ」
「ぼ、僕は……」
何と言ってよいか分からなかった。何をどうすべきかも。分かっていたのは、もし今、鏡を見たら、いつも見慣れている男性の肉体を見ることはないだろうという点だけ。何か女性的な、曲線が豊富な体を見ることになるだろうということだけ。
「一体、ここはどこだ?」 と僕はつぶやいた。
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64_a deal 「取引」
「マジで、このカスを着ろって思ってるわけじゃないよね? バカみたいになるじゃないか。それに僕を女の子と思う人なんか誰もいないよ」
「本気で言ってるのか? ジャック、鏡を見てみたか? そのウィッグと化粧のおかげで、君のことを少しでも男かもしれないと思う人がいたら、むしろ、その方が俺はびっくりするよ」
「それは誉め言葉と取るべきなのか、侮辱されたと取るべきなのか分からないなあ」
「誉め言葉だ。お願いだよ、ジャック。これをしてくれないと困るんだ。うちの母親がどうなるか分からないんだよ」
「君のお母さんは高圧的そうだからな。母親はたいていそんなもんだ。それでも、僕にはなぜだか分からないんだけど……」
「話したはずだぜ、ジャック。母親は止まらないんだ。年がら年中、俺に、ガールフレンドができたかとか、いつになったら結婚するのかとか、いつになったら孫の顔を見られるんだとか訊いてくる。それで、先月、母親に、女の子を家に連れてきて会わせるよと言ったら、すごく嬉しそうな顔をしたんだよ」
「だけど、その後、フェリシアとは別れてしまったと。ああ、それで理解できたよ。お前が計画していることが分かった。つまり、なぜ僕がここに呼ばれたのかの理由な。でも、どうしてお母さんに本当のことを言えないんだ? そのわけが分からない。お母さんは分かってくれるんじゃないのか?」
「説明しても、たぶん母は僕が最初から嘘をついていたと考えると思う。君は実際にうちの母に会ったことがないから分からないんだよ。ともかく、この夏の間、僕が正気でいられるには、これが唯一の方法なんだ。頼むよ、ジャック。僕たち親友だろ? 親友というのは互いに助け合うものだろ?」
「でも、これは親友の領域をかなり超えてるし、それは分かってるだろ?」
「さっきも言ったけど、大丈夫だよ、ジャック。それに、君も、案外、こういうの気に入るかもしれないし」
「ああ、それはどうかなあ」
「試してみる前に拒むのは良くないよ。ほんと、頼む。この夏だけでいいんだから。ひとつ僕に貸しを作ったと思ってくれていいから」
「貸しはひとつじゃ済まないと思うけどね。来学期はレポート課題全部、僕の代筆しろよな」
「いいよ」
「それも全部B以上」
「オーケー」
「あと寮の掃除も」
「何でも言ってくれ」
「よし。ソレならやろう。本当にうまくいくとは思えないけれど」
「うまくいくって。それに面白いって。やってみれば分かるって」
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64_a confrontation 「対決」
「ぼ、僕には……できないよ、アンバー」 ジョーイは口ごもりながら顔をそむけた。手で髪の毛を掻く。「どうしても、できないんだ」
アンバーは、裸だったので無防備状態だったが、カッとなって大きな声を出した。「何ですって?」
「できないよ」 ジョーイは繰り返した。
「ええ、それは聞こえたわよ。どういうことか理解できないということ。あんた、あたしとヤルためにどのくらいあたしを口説いてきたっけ? もう6ヶ月にはなるわね? それで、今こうして、事実上あたしから体を差し出しているというのに、あんたは引き下がろうとしているの? いったい何なのよ!」
「分からない」 ジョーイは小さな声になっていた。「もし前もって知ってたら……」
「何を知っていたら?」 アンバーは、彼がどう答えるか分かっているがゆえに、いっそう苛立った。そういう答えは前にも聞かされたことがあったし、今も、もう一度聞かされることになる。
「僕は知らなかったんだ。君が……その……男だったって。知らなかったから」
「男ですって? 本気で言ってるの? あんたにはあたしが男に見えてるわけ? あんたが3週間ぶっ通しであたしにまとわりついてデートに誘っていた時も、あたしのことが男に見えていたわけ? あたしがあんたのおちんちんを口に入れたときも、あたしのことが男に見えていたわけ?」
「でも君にはちんぽがある……ちんぽがあるのは男だよ」
「女の子の中にもちんぽがある人はいるのよ」とアンバーは反論した。「マジで、もっと大人になってよ。そもそも、コレがついてることが何で問題になるのよ? あんたはあたしが好き。あたしもあんたが好き。いや、あんたのことが好きと思っていただけかも知れないわね。あんたがこんな分からず屋だと分かった今は、もう。で、何が……」
「待ってくれ。僕は分からず屋なんかじゃない! ただ、何と言うか……僕は、その種のことには惹かれないというだけじゃないか? そのことを考えなかったのか?」
「あんたのズボンの中のこん棒は逆のことを言ってるけど? いい? ちょっと聞いて。これがショックだってことは分かってるわ。それにあたしももっと前にあなたに言うべきだったかもしれない。でも、あたしたちは今ここにこうしているの。あたしは素っ裸になっている。あなたにヤッテほしいと思っている。あたしには、何が問題だか分からないわ」
ジョーイは長い間、何か考えているようだった。そして、ようやく口を開いた。「誰にも言わないって約束してくれ。約束してくれたら、ヤッテもいいから」
「何ですって?」 アンバーの怒りはさらに高まっていた。
「誰にも言わないって約束してくれればいいんだ。いいだろ? 君のソコについてる小さなモノについて誰にも言わないって……君も、みんなに知られたくないようだし。そうだろ?」
「いいこと?」 アンバーは不快そうな笑みを顔に浮かべていた。「たった今、ここから出ていって。今すぐに! あんたの薄汚いちんぽなんか、1ミリでもあたしのそばにいてほしくないから!」
「でも僕は……」
「でもも何もないわ! ジョーイ、あたしはあんたに何も約束するつもりはないわよ。これがあたしなの。あたしは、屋根の上に上がってみんなにこれのことを叫びたいと思ったら、そうする。だから、とっととここから出ていって」
「君は僕のことを断っているんだよね? なんだかんだ言っても、僕と寝る気はないということなんだね?」
「お願いだから。あんたがあたしのご機嫌を取ってきたのよ。あんたが言い寄ってきたからこうなってるの。だから、さっさと出て行ってちょうだい。あたしが警察を呼ぶ前に」