 62_Good with it 「ずいぶん綺麗じゃない?」 「ふたりがこれほど素晴らしく変わるとは、思ってもみなかったわ。それに、ふたりがこんなに熱心になることも」 「おカネ、すごくかかったんじゃない?」 「この結果を見たら、文句は言えないわよ。倫理面についてはちょっと後ろめたい点もあるけど」 「倫理面? ふたりがマリアに何をしたか知っているでしょう? 犯罪者に、その犯罪の代償を払わせることのどこが悪いの? 何も後ろめたい点なんてないわ、リンダ。これぞ正義よ」 「バカを言わないで、ジャネット。これは正義じゃないわ。むしろ、復讐。正義じゃない。別に、ふたりがしたことは悪いことじゃなかったと言ってるわけじゃないのよ。でも、ふたりがしたことは違法だったとは言えないの。マリア自身が望んだことだから」 「彼女は酔っていたのよ!」 「それは、このふたりも同じだったわ。ふたりがネットに出した動画を見たでしょ? 彼女、抵抗していなかった。酔っぱらった3人が、酔った勢いで間違いを犯した。そういう内容だったでしょう? そういうわけで、このふたりは起訴されなかったのよ」 「このふたりが起訴されなかったのは、ふたりの父親が金持ちだったからよ。それに、ふたりとも高額の弁護士を雇うことができたから。この国の司法システムは、そういうふうになっているの。リンダ? あたし、あなたはあたしと同じ船に乗っていると思っていたのに。この計画についてあなたに話しに行ったとき、あなたは全面的に賛成してたでしょう? 一体、どうしたの、リンダ?」 「別に何も。あたしはまだあなたと同じ船に乗っているわ、ジャネット。ほんとよ。ただ、あたしたちの友達がひどい目に合ったからと言って、あたしたちがしてることは道徳的に正当化されていると思い込んで、自分自身をバカにするような真似はしたくないと言ってるだけ。あたしたちがしたことは悪いことなの。それは認めなくちゃ。でも、あたしはそれでいいと思っている。このふたりがこんなになってるのを見て、いずれ、あたしたちはふたりから条件付けを解除することを思うとね。解除後は、ふたりは、残りの人生をずっと、彼ら自身がひとかけらも敬意を払っていなかった存在のまま生き続けることになるわけで、それを思うと、あたしには、これをした価値があったと思うわけ。ふたりはそういう目に合って当然の人間だから」 「ということは……これは良かったことと思ってるのよね?」 「そうよ、ジャネット。良かったと思っている。それに、いずれ条件付けを解いて、ふたりに、あたしたちがふたりにしたことを、分からせる時が来るでしょう? その時のふたりがどんな顔をするか、今からそれを見るのを楽しみにしているの」
 62_fucked up 「そのポーズ、いいわよ」 カメラマンのカルメンが言った。彼女は年配の女性で、黒っぽいショートの髪と、刺すような青い瞳をした女性だった。「その格好で!」 あたしは溜息をつきたい衝動を抑えた。疲れていたし、寒いし、お腹も減っていた。何より、今すぐ自分のアパートに帰ってパジャマに着替え、面白そうな本とワインを1本抱えて、ごろりと横になりたかった。でも、撮影は重要なこと。この種の仕事がなければ、そもそも、あたしには帰るべきアパートすらないだろう。本も買えないし、ワインも買えないし、多分、パジャマすら買えないだろう。 だから、あたしは「セクシー・ルック」を顔に張り付け、カメラを睨み付けた。でも、そうしつつも、どうして自分はこんな状況に嵌りこんでしまったのだろうと思いを巡らしていた。 考えてみてほしいのだけど、あたしは、結構おカネを稼いでいるの。映画スター並みのおカネではないのは確かだけど、普通の仕事をしている平均的な人に比べたら、すごい巨額のおカネと言えると思う。それに、あたしには、あたしのことを愛してくれる何千人ものファンがいる。ファンたちは、あたしが、アレやコレやいろんなセクシーなことをするのを見るためなら、汗水たらして稼いだおカネを喜んで貢いでくれる人たち。外から見たら、これって素晴らしい人生と思えると思うし、あたしも不平を言うべきではないというのも分かってる。本当に。 でも、最近、ますますそう思うようになっているんだけど、そのおカネって、ポルノ・スターでいることに伴う頭痛の種と、本当に釣り合うのかなって疑問に思うの。巨額のおカネ? でも、そのおカネのうち、かなり大きい割合が、このカラダを得るための医療措置に消えちゃうのよ。ファンから愛されている? でも、ファンのみんなにとっては、あたしは結局、動いてしゃべる玩具であって、自分たちの家の暗くて狭い部屋の中で楽しむのが一番の存在でしょう? ファンたちは、あたしのことを好きと、あたしのような女が好みだと公言するのは恥ずかしいのよ。 時々、そういうことを思って、落ち込むの。自分は綺麗だと分かっている。実際、今のような女になるために、たくさん時間を使ったし、努力もしてきたし、おカネも使ってきた。それに男たちがあたしのことを魅力的だと思っているのも分かっている。あたしが世界で最も人気があるトランスジェンダーのポルノスターのひとりだという事実自体が、その証拠。でも、男の人って、あたしの脚の間にあるモノを見つけると、これ以上ないってくらい素早くあたしとの関係から逃げちゃうものなのよ。その人にとっては、あたしの脚の間にあるアノ小さなモノって、契約違反だとなるの。 そのタイプの男の人に加えて、もうひとつ、あたしのような「女」だけが好きな男もいるわ。正直、どっちのタイプが悪いかは分からない。そのタイプの男たちにとっては、問題はセックスだけ。その人たちにとっては、男と女が何かを分かち合って、関係を育てるってことは全然念頭にないの。頭にあるのは、いいカラダをしているシーメールの女とヤルことだけ。この手の考え方ほど、あたしは自分がモノ化されてると感じることはないわ。だから、あたしは、カメラの前ではおカネのためにセックスをする。だから、あなたたちとは、「いいえ結構です」と思うわけ。 多分、あたしが言おうとしてることは、こういうこと。確かにあたしは幸せだし、自分に自信をもって生きている。これがあたしの仕事だから。情緒不安定で、神経質なポルノスターなんて、誰も見たいと思わないもの。でも、あなたが、暗い部屋の中であたしを見て、あたしが何もかもちゃんとやってるように見えるからと言って、本当のあたしが本当にちゃんとやってるということにはならないの。本当のあたしは、この世の中のすべてと同じくらい、ぐちゃぐちゃなのよ。
 62_fallen タミーはびっくりしてフェラの途中で身を強張らせた。ドアの方をじっと見る。そこにはレイチェルが立っていた。邪悪そうにニヤニヤしながらタミーたちを見ていた。 「ダメ、ダメ、ダメ。やめないで。あたしのために。あなたがちゃんとしてるか確かめに来ただけだから」 タミーはためらい、動けずにいた。開けたままの口の先、1センチも離れていないところでペニスが特有の男性的な匂いを発している。自分は服をはだけ、下着をまったくつけていないことを露わにしている。豊胸した乳房を露出し、自分自身の小さくしなびたペニスも露わにしている。 レイチェルが声を荒げた。「やめるなって言ったはずよ。それとも、何? あなたは会社に背任してるって経営陣に言ってほしいの?」 タミーは心臓が喉奥から飛び出しそうに感じた。それだけはやめてほしい。そういうレッテルを張られるのだけは避けたかった。服従しないとどうなるか、タミー自身、よく知っていた。 かつて、タミーは男だった。しかも、権力を持った男だった。だが、それは、新しい規制が可決する前までのことだった。彼女がへまをする前までのことだった。 「あんた、いつも言ってたわよね。男は女より優れているって。男の方がいいんでしょ? 彼に、おちんちんがとてもいいって、感謝の気持ちを行動で示してあげなさいよ!」 タミーは、もはやためらうことはやめ、仕事を再開した。これが今の自分の人生なのだ。これが今の自分の姿なのだ。これに抗うのには意味がないのだ。
 62_disbelief 彼がプールから上がってきた時、僕は彼が自分の兄だとすら気づかなかった。ひどい言い方だと思うけれど、これだけ変わってしまったのだから、こんな言い方、悪いことだとは思うけれど、理解できることだと思う。 「ポール、元気?」 と兄は僕に声をかけた。女性的な裸を晒していることを恥ずかしがることもしないようだった。大きな乳房が揺れていた。彼は、男性とは無縁のあらゆる曲線の集合体と言えるような体をしていた。長い赤髪が濡れた重さで細り、体にまとわりついている。彼の顔すら、かつて僕が知っていた顔とはほとんど似ていなかった。以前よりずっと柔和で、丸みを帯び、そして女性的な顔になっていた。 自分で言うのも恥ずかしいが、僕は兄の姿に目をくぎ付けにされていた。突然、僕の背後から女性の笑い声が聞こえた。僕の様子に思わず笑ってしまったような声だった。「この人、新しいあなたのことが気に入ったみたいね」 僕は素早く振り返った。恥ずかしさに頬が赤くなっていたと思う。兄の姿を見て思った事柄は、決して僕の本心ではない。けれども、その思いはなかなか頭の中から消えなかった。それがとても不快だった。 僕の背後にいた女性は、僕の義理の姉のカイリーだった。カイリーは馴れ馴れしく僕の肩に触れた。僕は肩を揺すり、その手を振り払った。すべて、この女のせいだ。この女が兄に何かをしたんだ。兄に無理強いして、この姿にさせたのだ。どういう方法か分からないが、兄を女の姿に変えてしまったんだ。そう思ったし、僕の兄は、事実上、姿を消してしまい、その代わりに、その曲線美にこれから何ヶ月も僕は悩まされることになる女性化した肉体を持った別の人が兄に取って代わったのだとも思った。 「あ、兄に何をしたんだ?」 僕は小声で囁いた。幸い、兄は少し離れていて、僕の声は聞こえていない。 「何をしたって?」 とカイリーは訊き返した。彼女の方を向くまでもなく、彼女が顔に自己満足しきった笑みを浮かべているのが分かる。「彼には何もしていないわよ。ただ、彼がどうなったら私が嬉しいかを教えてあげて、それを達成する手段を与えただけ。こうなるように決めたのは彼自身よ」 「そんなの信じない」 と僕はつぶやいた。僕のつぶやきが彼女に聞こえていたかは分からない。それほど小さな声で呟いていたから。兄とは1年しか歳の差がなかったけれど、僕はいつも兄を尊敬していた。ずっと、兄のようになりたいと思っていた。賢くて、格好よい。スポーツマンタイプではないけれど、兄は昔から人気者だった。 カイリーが僕の背中に体を近づけ、耳に顔を寄せ、囁いた。「信じようと信じまいと、これが今の彼。この方がずっと素敵だと思わない?」
 62_creative punishment 「おや、おや、おや! これは、これは!」とジェレミーは偉そうに椅子に座り、言った。「まさか、巨根のリックじゃねえよな」 「いらっしゃいませ」と裸のウェイトレスが答えた。「私の名前はリッキーです。今夜は私がこのテーブルのお世話をいたします」 「リッキー? はぁ? お前、俺たちのことを覚えていねえのか? お前、ずいぶん変わったが、俺には分かるぜ」 リッキーは周りを見回した。「今はやめて。あの人たち私のことを見張っているから。マニュアル通りにしないと、罰を受けるのよ。ここでは、できないの」 「何だよ。俺のことを誤解しているようだな。俺はリックに会いに来たわけじゃねえぜ。俺はリッキーに会いに来たんだ。連中がお前をどんなふうに変えたか、見たくなってな。で、実際見てみたら、どうしても言わずにいられねえぜ、連中、お前にとんでもねえ、いい仕事をしたんだなって、よ」 「な、何ですって?」 「俺は、やるなって言ったはずだぜ? 覚えているよな? えぇ? 俺はお前に、あの件はほっとけって言ったよな。だが、お前はタフガイ様にならずにいられなかったってわけだ。喧嘩してカタをつけずにはいられないと。その結果が、このザマだ。自分を見てみろよ」 リッキーは目を背けた。彼はかつては、普通と言ってよい男だった。確かに、怒りを抑える点に関して問題はあったが、そういう男は他にもたくさんいた。彼は、怒りを抑え続けた。それが重要な点だったからだ。少なくとも、彼は怒りを手なずけようとしていたが、その時、あの男たちが彼の弟をバカにし始めたのであった。その瞬間、彼はキレてしまった。その結果、男たちのうち3人が病院送りになり、リックは留置所送りになったのである。 リックは罪を認めた。どう頑張っても、罪状を否定することはできなかった。そして、判決が下されるとき、その時の判事(女性判事)は、彼が新しい更生方法の最初の適用例になるだろうと言ったのであった。「良い話は、あなたは最小の期間だけ刑務所にいればよいということ。悪い話は、あなたは遺伝子操作により男らしさを失うことになるということ」 女性判事はそう告げた。 「退治すべき敵は男性ホルモンなの。あなたのような男性には、そのせいで暴力に駆られてしまう。暴力の触媒となる男性ホルモンを取り除けば、暴力衝動も消えるわ。単純なアイデアでしょ?」 もちろん、リックは反対した。誰だって男なら反対するだろう。だが、彼には選択肢がなかった。彼は、法を犯した瞬間に、自分の権利をすべて放棄したようなものなのだ。そして、それからおおよそ6ヶ月をかけて、彼はしっかりと変身させられたのだった。すべての処置が終わったときには、彼は、他の若く可愛い女性たちとほとんど変わらない姿になっていた。ただ1点、過去の自分を思い出させる脚の間の小さなモノを除いては。当局の人たちは、彼が自分の犯罪を否定しないようにと、それを残すことにしたのだった。 彼は釈放後、保護観察の対象となった。その期間では、ある特殊なレストランに勤務することが条件となっていた。そこでは、リッキーと同じような女性化した男たちが働いており、みな裸でウェイトレスをしている。その姿を彼らの昔の仲間たちに見せることが目的である。犯罪を犯すとどうなるかの見せしめでもあり、刑罰の一部となってもいた。気まずく屈辱的に感じるよう意図されていた。まさにその通りのことだと言える。 「ご、ご注文は? 今日のスペシャルは……」 とリッキーは説明し始めた。 「いや、今はビールのお替りでいい」とジェレミーは言った。「あと、それから。厨房に戻るときは、ちゃんと、その可愛いお尻を振って歩くのを忘れるなよ!」 「か、かしこまりました。すぐにお持ちします」とリッキーは言った。
| HOME |
|