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64_an irresitable proposition 「抗しきれない提案」
「マーク? 何を……ここで何をしてるんだ? それに何を着てるんだ?」
「スカートよ。お気に召さない?」
「それは……いいと思うが。でも、私は…ちょっと待って、なんで、スカートをめくりあげてる?」
「面倒くさいことはカットしていいのよ、アンドリューさん。あたしたちふたりとも分かってるはず。あなたがこれを求めているって」
「私が何を求めてるって? 君は……」
「もう何年も、あなたがあたしを見るときの目つき、あたし、知ってるの。あなたが何を思ってるのか知ってるのよ」
「何のことを言ってるのか……」
「あたしは18になったわ。だからもう我慢する必要がないの。あなたは、好きなようにあたしのことを奪ってくれていいの。どんな形でもいいの」
「でも君は……君はうちの娘のボーイフレンドじゃないか!」
「あたし、今だけは、あなたのガールフレンドになりたいの。いけないことなの、アンドリューずさん? ずっと何年もあたしを見ては思い続けてきた、いやらしくて、エッチなことあるでしょう? それを全部やりたいと思わない?」
「いや、それは……」
「できるわよ……」
「いや、しない。したくないんだ。やってはいけないんだ」
「やりたいって思ってるくせに。ただ、やっちゃえばいいの。誰にも分からないから。お願い、アンドリューずさん。あたしたち出会った時から、こうなることを夢見てきたでしょう? それを認めてしまって。あたしは歓迎してるんだから。あたしを抱きたいんでしょ? あたしが欲しいんでしょう? あなたのズボンの中のモノは、もう観念しているみたいよ?」
「わ、私は……本当に誰にも知られないだろうか?」
「あたしたちが知ってほしいと思うまでは、誰にも」
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64_Accidental 「誤送信」
あいつはわざと写真を送ってきているのだろう。もちろん、あいつに言っても、絶対に認めないだろうが。間違って送信したとするには頻度が多すぎる。あいつは、そうすると私がどれだけ怒るか知ってるし、あいつが下した人生の決断に私がどれだけがっかりしてるかも分かっている。分かっててやっているのだ。
「あいつ」のことを「あの娘」と、女性の表現で呼ぶべきなのかもしれない。少なくとも、そうすべきと周りから言われている。だが、20年間もあいつのことを自分の息子と思って過ごしてきたのだ。いまさら変えることなどできない。あいつがどれだけ体を変えてしまおうが、どんな服装をしようが、あいつは私にとっていつまでも男の子なのだ。
もちろん、あいつは私のことを憎んでいる。だからこそ、こういうことをするんだろう。風俗で働いたり、ストリップをしたり、まるっきり体を変えたり。すべて邪悪な父親への仕返しでやってると私は納得している。確かに、あいつにとって、この仕返しは大成功だろう。私は、うちの家族の薄汚い秘密がいつの日か誰かにバレるのではないかと、恐れている。どれだけ私が恐れているか、誰にも言えないほどだ。
確かに、そんなことを無視するのは実に簡単だろう。あいつはこの国の反対側に住んでいるので、そもそも、私には息子なんかいないとシラを切り通すことは簡単だ。ただ、あいつがこういう写真を「間違って」送ってくることがなければの話しだが。あいつが送ってくる写真は、みな同じだ。あいつは、素っ裸になって、女性化した肉体を余すところなく露出し、知らない男たちに囲まれて弄ばれている写真だ。
こんな写真、すぐに削除すべきなのだろう。だが、私にはそれができない。なぜか、何度も開いては、繰り返し見てしまう。何枚も連続して見続けてしまう。息子がどんな姿になってしまったか、どうしても見たくなってしまうのだ。どうしてもやめられないのだ。
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64_a very good thing 「とても良いこと」
「あなたの体って、まさに、こうするためにできてるのね」とレニーは自分のボーイフレンドに微笑みながら言った。「あなたも、そう思ってるんじゃない?」
チェイスはおどおどしながら、レースのランジェリの裾を握りしめた。それにより、彼の男性自身が露出した。「これがよいことか悪いことか分からないよ」 彼は普段は強圧的な言い方をしていたが、この時の声はその面影は皆無だった。
「アハハ、あなたは人生での自分の立ち位置を発見したの。だから決して悪いことじゃないわ」
「僕の立ち位置? そんな……これは一回限りのことだよ、レニー。僕は決して……」
「バカ言わないで。あなた、びっくりするほど素敵よ。あたしが思っていた通り」
「でも……」
「認めなさいよ。あなたも気に入ってるのよ。そうじゃない理由がないもの。何年もの間、あなたは他の男たちとの『比較』ばかり気にしてきた。そうじゃない?」
「僕は、べ、別に……」
「でも、今は、あなたがどれだけ小さいかとか気に病む必要はないの。どれだけ可愛いかとか、顔かたちがどれだけ女性的かとか、そういうことに悩む必要がなくなったのよ。それらは全部、良いことに変わったの」
「ぼ、僕は別に…自分では……君は僕が小さいと思っていたの? いつも、ちょうどいい大きさだって言ってくれてたけど」
「うーん……あなたの気持ちを大事に思って言ってったのよ。男の人ってそうでしょ? あそこの大きさとか、誰が男らしいかとかに囚われちゃってる。でも、今はどう? 私にはあなたは女の子の仲間になっていると見えてるわ。だから、あそこの大きさなんて、そんなことを気にしなくていいんじゃない?」
「で、でも……分からないけど……これって永久ってわけじゃないんだよね? 君がこういうのを着てみたらと言うものだから、試しただけだよ。今回限りで……後は……」
「でも、あなたのその姿を見ると、私があなたに試してほしいと言ったのは正解だったと思うわ。あなた、美しすぎる。その美しさを男性の仮面の下に隠しておくなんてできないわ。それほどきれいなのよ。セクシーだし。とても女っぽいの」
「でも……」
「大丈夫、リラックスして。そして、これを楽しむのよ。良いことなの。とても良いことなの」
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64_A small surprise
彼女がいつからそこに立っていたのか、あたしたちを見ていたのか分からない。ドアが開く音が聞こえなかった。それほど夢中になっていたということかも。
「それで」 彼女の声に恐怖心が高まった。「あんたたち、ここで、こんなことしてたわけね?」
氷のように冷たい水をバケツ一杯、頭から掛けられた感じだった。
「あんたこそ、いったい誰よ?」 とレアが訊いた。レアはあたしの脚の間にいて、お気に入りのディルドをあたしのお尻に挿し込んでいたところだった。もちろん、あたしもレアも素っ裸だった。「それに、あんた、あたしの部屋で何しているの? 誰が入っていいって言ったのよ?」
「私はチャドの彼女よ」 とサマンサが叫んだ。
「チャドって誰よ?」 とレアが声を荒げて言い返した。あたしはベッドや床を透過して消え去りたかった。気まずさがどんどん増してくるこの状況から逃げたかった。
サマンサは引きつった笑い声をだした。もちろん、その笑い声は嬉しさとか面白さとは関係がない類の笑いだった。「あんた、彼の名前すら知らないの? なのに、それを……そんなものを彼の中に入れてる。彼が誰かも知らないのに」
「あんた何なのよ……ほんとに……」 レアはそうつぶやき、あたしに顔を向けた。「どういうこと、ゾーイ?」
「ゾーイ……。あんた、ここではその名前で呼ばれてるの?」 とサマンサが言った。
「ぼ、……ぼくは……」 混乱した頭で考えをまとめることができず、あたしは口ごもった。「分からない……」
「もう、あんたは黙っていて」とサマンサがさえぎった。「私が代わりに説明するから。ここにいるチャドは…」と彼女はあたしを指さした。「彼は、たぶん、故郷にガールフレンドがいることをあんたに言わなかったんでしょう? 彼は野球選手になる奨学金でこの大学に入ったことも、あんたに言わなかったんでしょう? それに……」
あたしは何とか勇気を振り絞って、叫んだ。「お願い、もうやめて、サマンサ! あたし……あなたに言うべきだったわ……」
「あんたが、シシーだったと?」
「あたしが女の子だとよ! あたしはずっと前から女の子だったの。ただ……どうしたらいいか分からなくて……地元ではカムアウトできなかったのよ。ここに来るまでできなかったの。ほ、本当にごめんなさい……」
「ごめんなさい?」 とサマンサはあたしの言葉を繰り返した。「それってどういう意味よ? あんたは、最初の日から嘘をついてきたということ? 私たちが出会った最初から、嘘を? それで、あんたは、私にそれでもかまわないと言ってほしいわけ? そして、地元を離れてここに来たらすぐに、他の女と寝ていると。ごめんなさいと言えば、それで済むと思っているわけ? 最低ね、チャド。最低ね、ゾーイ。あんたが他に何と呼ばれてるか知らないけど、あんたって、最低!」