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64_Caught 「見つかる」
「気持ちいいんでしょ、エッチねえ」 秘書のサマンサがあたしの奥深くにストラップオンを突き入れながら荒い息で囁いた。「ほら、気持ちいいんでしょ? 私の大きなおちんちんが大好きなのよね?」
「ええ!」 あたしは喘いだ。かろうじて聞こえるほどの小さな声で。「ああ、いいっ!」
誰も知らない。あたしは、もう何ヶ月も外面を保ち続けてきた。それに、サマンサを除いて誰もあたしが二重生活を送ってきたことを少しでも疑う人はいない。職場では高価なスーツに身を包み、その分厚い生地の下に女性化した体を隠してきた。かつては本物の男になりたいと願っていたが、職場ではそんな男になっているフリを続けてきた。だけど、それは嘘。それは本当ではない。
自分でも、見つかってほしがっていたのだと思う。だからこそ、女性になって外に遊びに出たのだと思う。だからこそ、近くのバーに頻繁に通うことにしたのだと思う。いつの日か、誰かに見つかって、あたしだとバレることになると思っていたに違いない。そして、それが現実になったのだった。サマンサは二度見するまでもなく、あたしだと気づいたのだった。
その場ですぐにカムアウトして、大人がするように事態に対処すべきだったと思う。そうしていたら、確実に、みんなあたしを受け入れてくれたと思う。今の世の中は、かつての世の中よりも、はるかに進歩的になっているでしょう? でも、あたしはそうしなかった。あたしは彼女に秘密をばらさないでと懇願したのだった。お願いと何度も訴えたのだった。そして、結局、サマンサは同意してくれた。ただ、いくつか条件をつけられて。
最初は簡単なルールだった。これからは男性用の下着を着ないこと。その代わり、彼女は男性的なスーツの下、高価なレース・ランジェリを着るように要求した。さらに驚くべきことに、彼女は毎日、それを着てるかチェックすると言い張った。
その要求で、自分がどれだけモノとして扱われる気持ちになったか、言葉にできない。けれど、あたしには選択肢はなかった。サマンサはあたしの人生を掌握してしまったのである。
あの時、あたしは、サマンサがもっと要求してくるだろうと予想すべきだったと思う。でも、あたしは、あまりに驚いてしまって頭が回らなかった。なんと、彼女は一緒に近くのホテルへ行くよう言ってきたからである。驚いた状態のまま、あたしは彼女にホテルの一室へと連れ込まれた。彼女はあたしに何を求めているのか、よく分からなかった。多分、もうちょっとドレスアップするとか、そいうことだろうと思っていた。でも、彼女がバスルームから出てきた時、あたしは気絶しそうなほど驚いたのだった。サマンサは素っ裸で、股間にストラップオンだけをつけた格好で出てきたからである。
それが、ほぼ半年前の出来事。今現在、サマンサはほぼ毎日あたしを犯している。ホテルに行くときもあれば、あたしのオフィスでするときもある。さらには、あたしの家に来たり、彼女の家に行ったりすることもある。そして、毎回、あたしは、モノ化される感情と諦めの感情と恥辱の感情のすべてが混じった感情を味わわされている。しかし、それに混じって、誇りの感情と喜びの感情も間違いなく味わっている。あたしは、その混沌とした感情が好き。それが大好きだし、同時にそれが大嫌いでもある。
あたしは、自分には選択肢が他になかったのだと自分に言い聞かせている。でも、それは嘘。現実はというと、選択肢であろうがそうでなかろうが、結局は、あたしはこうなっていただろうということ。その理由は単純で、たった一つ。サマンサにアレを突っ込まれているときほど、自分がオンナになっていると感じる瞬間がこれまでの人生でなかったということ。結局は、これこそ、あたしが本当に求めていたことなのだ。本物の女性になったように感じること。
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64_Better late than never 「言わないより、遅れても言った方がまし」
「何ということだ」 リックはあたしの裸の体を見つめた。彼の眼はあたしの過去を示す証拠にくぎ付けになっていた。あたしは笑顔を保ち続けた。できれば、そこは無視してほしい、見過ごしてほしいと願いつつ。
もっと早く言うつもりだったけれど、いつも今は適切な時ではないように思えた。それに彼を失うのが死ぬほど怖かったし。ああ、彼がそれを知ったら、すぐにあたしから逃げてしまうといつも恐れていた。いや、もっと悪いことになるかも、と。もっとずっと悪いことに。
以前、ある男性に、あたしがその人を騙そうとしていたと責めたてられ、ひどく殴られたことがある。路上で、傷つき血だらけになって倒れながらも、あなたの方があたしに言い寄ってきたんじゃないのよ、って指摘したかった。あなたが惹かれた相手がトランスジェンダーの女の子だったからって、あたしが悪いわけじゃない、って。でも、あたしは言わなかった。その男の偽善性に文句を言う勇気があたしにはなかった。
でも、そういう性差別主義的なコインにも表と裏があって、あたしは裏の面も経験してきた。男性の中には、あたしのまさにアノ側面を必要以上に気に入る人もいた。そして、それは、しばらくの間は、あたしにも楽しいものだった。あたしの脚の間についているモノで必要以上に崇拝されるのだけど、それが気分が良いと思ったこともあった。でも、そんな関係は本物じゃない。相手のフェチの対象になっているだけ。ちゃんとした人間同士の関係とは言えない。
「も、もっと早く言うべきだった」とあたしは言った。内心、彼はあたしの脚の間にあるモノなんか気にしない、100万人にひとりの男性でありますようにと祈っていた。あたしの本当のあたしを見てくれる人でありますように、と。あたしのことを普通の女の子として見てくれますように、と。
彼は落ち着かない様子であたしから目を背けた。「ああ、そうだよ。君は言うべきだったんだよ」
「ごめんなさい。あたし、どうしても……」
彼は急にあたしの方へ振り返った。あたしは彼のこぶしが飛んでくるかもと半分予想し、身を屈めた。「こういうことはやめるようにしよう、いいか? つまり、喧嘩なんかやめだ。君はずっと前に俺に言うべきだったということだけ認めてくれ。そして前に進むんだ、いいか?」
「と、というと、これでもいいの?」
「そんなので何も変わらないよ」 彼の声は前とは違って辛辣な、怒った調子ではなくなっていた。いずれにしても、あたしが最初に彼のことを疑ったということに、ちょっと腹を立てているようだった。
「いいか、もう二度と俺に嘘をつかないでくれ。俺は君のことを愛しているんだ、トリッシュ。本当に。でも、嘘をつかれるのも許せないんだよ」
「あたしも嘘をつかれるのはイヤ。誓うわ、もう二度とあなたに嘘は言わない」
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64_Beautiful justice 「美しい正義」
「これが? ……ウソ? ありえない」 ヘザーは、友達のメラニーに話しを求めて顔を向けた。「ウソでしょ? 本当なの?」 メラニーは頷き、ニヤニヤしながら言った。「リッキー、ほら、昔の彼女に今の自分を見せてあげなさいよ」
「でも……」
「ママに、また言うことを聞かなかったって言ってほしいなら、別にいいけど? あんたがまたあんな目に会うのを見るの、あたし、本当はイヤなのよねぇ」
リッキーの顔が青ざめた。「ダメ……」 彼はすでに自分からつるつるの脚に沿ってショートパンツを降ろし始めていた。「お、お願いだから。ママに何も言う必要ないでしょ。何でも言うことを聞くから」
彼は、それに続いてTシャツとパンティも脱ぎ捨て、素っ裸で、すべてをさらけ出しながら自分の妹とその友人の前に立った。とても18歳の青年には見えなかった。しっかりとホルモンを摂取し続けたおかげで、体はしっかり変化していた。
「カウチに上がって、いつもの姿勢になりなさい」とメラニーが言った。
彼は言い返さなかった。言っても無駄だろう。彼は言い返す代わりに、カウチに仰向けになり、脚を広げ、両膝を引き寄せた。
「見えるでしょ? 脚の間のちっちゃいの」 とメラニーが訊いた。
「ほ、ほんとにちっちゃい」 とヘザーは感嘆した。
それを聞いてメラニーは引きつった笑い声をあげた。「かろうじてちんぽと言えるかどうか? 彼、今は、大学であの娘にひどいことをしたこと後悔してるわね。絶対」
「私は何もしなかったわ! 彼女は嘘をついてるの、それに……」 とリッキーは声を上げた。
「うるさいわね!」 メラニーはそう怒鳴りつけ、その後、優しい口調になってヘザーに言った。「ひどいことに見えるのは分かるわ。それに、変態じみているのも分かる。でもね、ママはリックには特別な罰が必要だと思ったの。そして、これがママが思いついたお仕置き。あたし、これって、たぶん、パパがママを扱ったやり方と関係があるのかもって思ってるわ。分かるでしょ? パパが……姿を消す前まで、パパがママをどう扱っていたか。ママは、リックがパパと同じ道をたどるのは見たくないって言ってたわ。だから、こうすることに決めたって」
「で、でも、どうやったの? どういうふうにして……」とヘザーが訊いた。
「ホルモンよ。それも、ものすごく多量のホルモン。それに、もしリッキーが私たちが引いた線を踏み外したら、確実に牢屋送りにするって、彼は知ってるから。他の人の人生を完全にコントロールできるようになると、何でもできるって分かるわよ。驚くほど」
「こ、これっていけないことよ。悪いこと。あなたにも分かるでしょ?」とヘザーが言った。
メラニーは肩をすくめた。「それは、物の見方の問題じゃない? これまでずっと私をからかってきた性差別主義者のバカには、これが最適の懲罰だと思うわ。あなたも分かるんじゃない? あなたたちが付き合っていた頃、この男はあなたの写真をネットに出しまくっていたのよ? あなたは悪いことと思うのは分かるけど、これこそ、リッキーにふさわしいと思っているの。正義っていつも上品なものとは限らないわ」
「でも……」
「あなたにこれを見せたのは、あなたはこれを知る資格があると思ったから。あなたには、彼が適切に罰を受けているところを見る権利があると思うから。あのことが起きたとき、あなたは彼の手の甲をピシャリと叩いただけ。でも、あれじゃダメなのよ。もし、あなたがちゃんと対処できないなら、そうねえ……私のママは理解がある女性とは言えないわね。もし、誰かが密告したとママが知ったら、ママが何をするか私には想像できないわ」
「どういう意味?」 ヘザーの声は少し震えていた。
「つまり、誰かに知られたとしても、ここにいるリッキーは自分の自由意思でこれをやっているということにしろということ。自分で選んでやってると」
「もし、私が警察に直行したら?」とヘザーは訊いた。
「さっきも言ったけど、ママが何をするか想像できないわね。私はママほど創造性に富んでいないわ。まだ分からないなら言うけど、ええそうよ。これは脅かし。誰かに本当のことを告げ口してご覧。うちのママがあんたの世界をめちゃくちゃにするから」と言った後、メラニーは笑顔になった。「でも、あなたはそんなおバカなことしないわよね? 私たち友達だものね?」
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64_Be careful what you wish for 「何を願うか注意せよ」
「さあ、ポーズを決めてもらおうか」 ご主人様が言った。この人のことをご主人様と言うのは嫌なのだけど、彼を呼ぶための他の名前を知らなかった。それに、いずれにせよ、その呼び方は適切だった。そもそも、彼に従わないことなんて想像すらできない。これは明らかに彼が私の精神をいじった結果だろうけど。
私は、同じ囚われ仲間と一緒に並んで床に座り、体を後ろに傾けた。両肘で体を支え、両脚を広げる。その私たちを見て、ご主人様がめったに見せない笑顔を見せたのを見て、私は報われた気持ちになった。私も、どうしても笑顔を返してしまう。彼を喜ばすこと、それは私自身を喜ばすことよりも、嬉しいことになっている。
ご主人様は椅子のひとつに腰を下ろし、何か思い悩んでいるような顔で顎髭を撫でた。「私は気づいたよ。これは無意味だな。何もかもだ。お前たちのどちらも自分が誰か分かっていないだろう? この方が、お前たちをコントロールしやすいから良いだろうと思ったのだが。もちろん、コントロールの点に関しては私は正しかった。今、お前たちにお前たちの道具を返してやっても、お前たち、その使い方すら分からないだろう」
「ご主人様、私たち、何かご機嫌を損ねることをしておりますでしょうか?」と隣の囚われ人が尋ねた。彼女の名前は知らないが、彼女も私と同じなのは分かっていた。つまり、自分の意思に反して女体化された囚われ人。彼女の方が年上なのは確か。でも、私と彼女は同じ運命にあるという点で親近感があった。
「いや」と彼は手を振って否定した。そして、スキンヘッドの頭を撫でた後、話をつづけた。「お前たちは、自分が誰か知るべき時が来たと思う。お前たちふたりともだ」
私は息を飲んだ。知りたかった。だけど、答えを知るのがとても怖かった。必死に求めていたけれど、あまりに無力で知り得なかった答え。
「お前!」とご主人様は年上の囚われ人を指さした。「お前は伝説だ。いや、伝説だったと言うべきか。お前こそ、これを始めた者たちのひとりだ。この自警の文化をな。お前は無数の犯罪者たちを捕らえ、世界規模のプロットをふたつも潰した」
彼は立ち上がった。「みんなお前はすでに死んだと思っている。お前の仲間の英雄たち全員、そう思っている。実際、お前は死んだも同然だが。お前は、お前がかつて用いていたあの素晴らしいおもちゃも、今は使い方すら分からないだろう。だが、お前は、お前の仕事がすべて無効にされてきているのを知るべきだな。お前が駆除した犯罪者たちはどうなったか? 全員、罪を逃れたよ。いま彼らは、お前が街と呼んでいた汚水溜めを、事実上、仕切っている」
彼は次に私に目を向けた。「ああ、そして、その子分。か弱いはぐれ鳥。彼はお前を自分の翼の中に引き入れ、お前は自分から犯罪と戦う恐るべき戦士になって、彼の庇護に答えた。だが、お前は最初から弱味でもあったのだ。彼か? 彼はほぼ攻撃不可能。巨人であり神。アンタッチャブル。確かに彼に傷を負わせたり、殺すことも可能だったが、その精神力の強さが抜きんでていた。その精神力のおかげで、彼は、誰にも、宇宙人ですら敵わない強さを得ていた。彼の唯一の弱点はお前だったのだよ、小鳥のお前。お前こそが彼の失脚の原因になったのだ」
彼はしばらく黙りこくり、その後、話をつづけた。「今の自分たちの姿を見てみろ。バットマンとロビン、ゴッサムの庇護者。それが今は性奴隷になっている。お前の執事ですら今のお前たちを認識できるか、それすら疑わしい。そしてここにいる私はと言うと、涙が出るほど退屈している。争いごとはなくなってしまった。抵抗もない。お前たちはふたりとも破滅した。そして今の私は、次に何をしてよいか分からず途方に暮れているのだよ」