
67 Cosplay 「コスプレ」
アーロンは手の込んだウィッグの毛を引っ張り、無駄な抵抗とは言え、少しでも居心地の良い形にしようとした。彼のガールフレンドのミアが、彼の手を叩き、やめさせた。「それ、いじるのやめなさい。せっかく固めたのに解けてしまうじゃない」
「でも、これ、すごく居心地悪いんだよ。それにこの衣装……ボクはこれが誰のコスプレかすら知らないんだから」
「ストリート・ファイターのレインボー・ミカよ」
「でも……」
「でもも何もないわ。あんた、コスプレするのに同意したでしょ? 今になって辞退するなんて許さないからね。それに、すごく似合っているのよ」
「でも、ボクのお尻がこんなに丸出しになってるんだよ。……これ、何と言うの? ショーツでないのは確かだよね?」
「それの呼び方なんて関係ある? あんたのお尻、最高だわ。お尻以外のところも最高。誓ってもいい。あんた、ぶっちぎりで優勝するわよ。他の男の子たち、あんたの半分にも及ばないわよ」
アーロンはため息をついた。ミアと言い争っても無意味だと分かっていた。彼女は、あるB級ビデオゲームのキャラのコスプレ大会に彼を出させると、心に決めたのだ。彼が何を言っても、何をしても、それを変えることは不可能だったし、そのコスプレ・コンテストの不思議なルールも変えられなかった。そのルールとは、女性キャラに扮するのは男に限定し、女装した参加者同士で競わせるというルールである。彼は、大会会場に来て初めて、様々な男たちが、皆、伝統的な女性のコスチュームを着てるのを知った。しかも、このコスプレ大会の暗黙のルールとして、女性キャラのコスチュームは信じられないほど露出的なものとされていた。アーロンは、自分のために選ばれたコスチュームが、そんな中でも最もスキャンダラスなコスチュームにランクされるのを知った。
「じゃあ、とっとと済ましてしまおうね? コンテストが早く終われば、それだけ、早くこのバカげた衣装を脱ぐことができる」
「あ、あんたに言っておくのを忘れてた。コンテストの後、ここで、大きなパーティがあるの。それに出席することになってるわ」
「でも、ボクは着替えを持ってきてないよ!」
ミアは肩をすくめた。「じゃあ、どんな衣装で出るか分かるんじゃない? 落ち着いて。あんた、最高なんだから。これであんたにおっぱいがあったら、本物の女の子じゃないなんて言えないと思うもの」
アーロンは、それを誉め言葉と取ってよいかどうか分からなかった。いちど、大きく深呼吸をした。「じゃあ、行こう」 これも運命とあきらめたアーロンだった。