帰りの車の中。
予想通り、ブルースはリンダを質問攻めにした。リンダは、疲れていて、帰り道は眠りたいからと、質問には答えなかった。家に着いたら話すから、と。
何時間か後、二人は家の寝室にいた。ブルースは先にベッドに入っていて、リンダが来るのを待っていた。彼の頭の中は、過熱状態になっていた。パーティではどんなことが起きたんだ? リンダはどんな反応をしたんだ? 大丈夫だったのか? 今日の出来事で自分はどういう影響を受けるのか? リンダは怒っているのか? おそらく、あの並はずれて逞しい黒人男に抱かれたのだろうけど、それでリンダはどう感じたのだろうか? だが、その光景を想像することで、ブルースはむしろ興奮してしまうのだった。どうして、自分は興奮しているんだ? 困ったことなのに。
ようやくリンダがバスルームから出て、ベッドに這い上がってきた。ブルースの方を向いて横寝になり、片腕を彼の胸に乗せた。夢を見てるような笑みを顔に浮かべ、ブルースを見つめた。
「あなた、大丈夫?」
「ああ、僕は大丈夫。でも、僕が外にいた間、どんなことがあったか教えてくれないか?」
「どこから話してよいか分からないわ」
「じゃあ、あそこから… あの野郎と二階に上がっただろう? そうだよね?」
「ええ… 彼の名前はジェイムズ。礼儀を守って」
「すまない… それで?」
「そうねえ… まずは、彼、私のランジェリ姿を喜んでいたわ… あなたが選ぶのを手伝ってくれたランジェリ… あの下着は、確かに、意図した効果を上げていたわね…」
ブルースは、自分の妻が、ラベンダー色のガーターベルト、ブラジャー、パンティの姿でポーズを取っているのを想像した。みるみる勃起してくるのを感じる。あの下着は、今回のパーティのために買った下着だった。リンダがそれを着たところは、彼自身は見たことがなかったが、自分がジェイムズの代わりになったとして、想像した。
「良かったな。それで… それであいつはお前を… お前を、何というか… 裸にしたのか?」
「いいえ。というか、その前に、私から、彼のためにちょっとしたストリップをして見せたのよ…」
「本当に?」 ブルースはますます興奮していた。
「ええ。ジェイムズはシャツと靴を脱いで、ソファにくつろぎながらお酒を飲んでいたわ。私たち、ちょっと濃厚な前戯をしてたの… 分かるでしょう? キスしたりとか、身体を触りあったりとか… 舌を私の喉奥に触れんばかりに挿しこまれたわ。私たち二人ともすごく興奮してきてて…」
いまやブルースは完全に勃起していた。掛け布をかけて横になっていて良かったと彼は思った。でなければ、勃起していることをリンダに見られてしまっただろう。
「本気で話しを聞きたいの? 大丈夫?」 とリンダが訊いた。
「ああ、大丈夫だ。話しを続けてくれ」 ブルースの声は、明らかにかすれ声になっていた。リンダは微笑み、話しを続けた。
「そう? だったら、ともかく、話してしまった方が良さそうね… 私、前から、あの噂が本当か興味があったの。あの男の人たちについてサラが言ってたこと… 自分の身体で体験してみたいって思って… 体験してみれば、あのグループで続けたいかどうか、あなたと一緒に決められると思って…」
「ああ、ああ… 分かったから、続きを…」
「私はジェイムズを押してソファに座らせて、それから部屋の真ん中に立って、ドレスのチャックを降ろしたわ。そしてちょっと踊って見せたの。彼を焦らすためね。分かるでしょう? そして、とうとう、ドレスを脱いだわ。身体を滑るようにしてドレスが床に舞い落ちるようにさせたの。脱いだ後は、それを脇に蹴って、私は腰に両手をあてて、堂々と立って見せたわ。ジェイムズに私の身体をしっかり見てもらおうって感じで…」
「うーむ… ジェイムズにとっては、かなり嬉しいことだっただろうな…」
「ええ、確かに。その時、私、この下着は全部あなたが選んでくれたって彼に言ったのよ」
「そんなこと言わなくていいのに」 とブルースは文句を言った。どこか恥ずかしさを感じていた。
「だって、本当のことじゃない? それに、彼もとても喜んでいたのよ。控え目に言っても、喜んでいたのは確か。それから、2回くらいくるっと回ってみせてからブラのホックを外して、脱いで、それを彼に投げたの」
「わーお!」
「まさに、わーおって感じにね。ブラを外した後は、両手で胸をちょっと隠すようにしながら、自分で乳首を触って見せたわ。ジェイムズに、今から、これを自由にできるのよって見せてあげる感じにして…」
ブルースは、その光景を想像して、身もだえし始めていた。実際、自分は、そういう経験をしたことがないじゃないか、と思った。もちろん、友人たちとスワッピングで妻を交換したりはしてきたが、この場合とはまったく異なる。ジェイムズは何も交換していないのだ。欲しいものを一方的に享受しているだけなのだ。
私は自分の部屋に戻りシャワーを浴び、午後の撮影に備えて丹念に洗浄を行った。身体を清め、メーキャップもなおした後、昼食を取りに下のロビーに行くことにした。
部屋を出ると、ちょうど同じくトレーシーも部屋から出てきたところだった。トレーシーは私の姿を見るとすぐに、両腕を広げて見せ、私は近づいて、彼女の腕の中に飛び込んだ。二人抱き合いながら、しばらくキスをした。
トレーシーは、私の唇から唇を離すと、こう言った。
「今朝はどうだった? 万事順調だといいけど?」
「そう思います。マークは、どこもまずいところがないような様子だったから」
二人でエレベーターに向かって歩きながら話しをした。
「問題はなかったみたいね。それで、午後のシーンについてだけど、改めて、やりたいという気持ちになってるかどうか? 私もマークも、あなたには義務でやるというふうに思ってほしくないの。取りやめにするのは、今からでも遅くないのよ?」
「そういうふうには、全然感じていないんです。やってみたい。そのことについてはずいぶん考えてきました。今は、試してみたいと本当に思ってるんです」
二人でエレベータの前に来て、エレベータが来るのを待っていた。トレーシーは私の額にキスをした。
「そういう気持ちでいてくれて、嬉しいわ。それで、今夜のことなんだけど、マークが、私に、あなたを今夜、私たちのベッドに招待してくれって言ってたの。でも、ビリーと予定があるなら、断ってくれてもいいんだけど」
私は、ビリーとよりもトレーシーとマークとベッドに入る方が、ずっと好きだった。誤解してほしくないのだけど、ビルとのセックスはとても楽しんでいる。だけど、マークとトレーシーと一緒のセックスは、それよりはるかに楽しいのだった。
「今夜あなたがたとベッドを共にする栄誉を嬉しく存じ上げますわ。今日は早めに撮影が終わるといいわ。そうなれば一緒に過ごす時間が長くなるから」
私の大げさな言葉遣いにトレーシーは、アハハと笑い、私をもう一度抱きしめた。「今夜は、マリアとヘレンにビルをもてなすしてもらえるかもしれないわね。彼のような良い男が欲しいと思ってる女の子は、ここには他にもいることを教えてあげましょう」
マーク、ビル、トレーシー、ヘレン、マリア、そして私の6人でランチを食べた。前もって計画されていたのかどうか、私には分からないけど、マリアとヘレンは、食事の間、ずいぶんビルを喜ばせていたようだった。食事が終わって、ビルが立ち上がりエレベーターへ向かっていった時、彼のズボンがかなりきつそうになっているのが見えた。
ランチの後、メーキャップ室に行き、パティに私の最初のセックスシーンに備えてお化粧を整えてもらった。その時点までは、少しもナーバスな気持ちにはなっていなかったのだけど、なぜか、急に両手が震えだして止まらなくなってしまった。
パティは私がナーバスになっているのを見て、言った。
「おバカさんね。心配する必要はないわよ。あなたは、ただ、流れに任せるだけでいいの。そうすれば素敵なシーンになるはずだから」
パティにありがとうと言うと、トリキシーもメーキャップ室に入ってきた。トリキシーは化粧直しを終えると、私の手を握った。
「さあ、行きましょう。二人で奇跡のシーンを演じるのよ!」
私は、ただトリキシーについて撮影へ向かうだけだった。
二人でエレベータに乗り4階に向かった。エレベータの中、トリキシーは私を両腕で抱きしめた。
「マークに、私があなたと一緒のシーンを撮影すると言われた時、私、びっくりしたのよ。だって、あなたがTガールだったとは思わなかったんですもの。ホテルの中を歩いてるあなたはよく見かけたわ。でも、あなたは本当に女の子だとばかり思っていたのよ」
私は、ありがとうと言うほか、何と言ってよいか分からなかった。トリキシーにも、本当の女の子に見えると言おうとしたけれど、それを言う前に彼女が話しを続けた。
「ほんと、見慣れた人が見れば、私なんか、一瞬で男だって分かってしまうもの。でも、あなたの場合は、それはないって思うわ。だから自信をもってね。あなたはただリラックスして、撮影を楽しむだけでいいの。私も、この撮影が楽しいものになるはずって確信してるのよ」
私はトリキシーにキスをしたくなって、顔を寄せた。けれどトリキシーは、私を制した。
「ダメダメ、カメラの前に行く前に、お化粧が台無しになってしまうわよ」
4階に着き、警備員のチェックを受けた後、マークに会った。彼は、私たちが待機することになっている部屋の外に立っていた。マークは私を抱き寄せ、額にキスをした。