スティーブは、義理の父に手を差し出し、二人は握手した。二人とも玄関先に立ったままだった。 スティーブは、彼としっかり目を合わせて、見た。バーバラの父親がどれだけ強靭か、それを示すものを探した。前と変わらず、精力的で、しっかりと元気そうだった。健康状態も良好なのだろう。スティーブは、ロイド・モンゴメリが、毎朝3マイル、ジョギングを続けていることを知っている。今日という日は、ロイドからかなり多くのエネルギーを奪うことになるはずだ。それを乗り切るために、持てる力のすべてを使わなければならないだろう。 「ロイド」 スティーブは挨拶代わりに名前を呼んだ。 ロイドは笑みを浮かべて迎えた。「おお、よく来てくれた。さあ、中に・・・いやあ、ほんとによく来てくれた。会えて嬉しいよ。バーバラに電話をして、こっちに来るように言おうか?」 今日は月曜日で、バーバラは仕事の日だった。だが、スティーブが家に来たと言えば、バーバラは喜んで午後に休みを取るだろう。そうロイドは思ったのである。 「いや、いや、それには及びません」 スティーブはあえて説明しなかった。 ダイアンから頬に挨拶代わりのキスをされた。スティーブは、少しではあるが、これに驚かされた。この義理の母は、普通、こういうことはしなかったからである。もっと言えば、そもそも、ダイアンが、彼に対して、こればかりであれ愛情を持っているとは知らなかった。だが、悲しいことではあるが、バーバラとああいう風になっている以上、いまさら親愛の気持ちを示されても遅い。 「今日、来たのはバーバラとは関係がないことなんです・・・いや・・・関係があると言えば言えますが、大半は、キムのことについてなんです」 ロイドとダイアンは、困惑した目で互いを見やった。事情が飲み込めない様子だった。 「腰を降ろしませんか?」 スティーブの言葉に、あわててダイアンはソファの反対側にある安楽椅子に手招きした。ダイアンとロイドは静かにソファに腰を降ろし、スティーブが話し始めるのを待った。 スティーブは、厳粛な顔で二人を見ながら、ブリーフケースを脇の床に置いた。彼は、ブリーフケースを開けはしたが、中から何も取り出さなかった。二人に伝えなければならないのがだ、正直、話したくない。だが、二人ともこれについて事実を知る必要があるのだ。自分が話さなくとも、いずれ彼らは知ることになるだろう。だったら、自分から聞いた方がましなのではないか。 スティーブは深呼吸をした。 「キムのことですが・・・」 ゆっくりと話し始めた。「彼女はあることにのめり込んでいます。そのことを、お二人はぜひ知っておく必要があると思って・・・」 彼はもう一度、大きく息を吸った。そして、ようやく口にした。 「キムは、ドラッグの習慣に嵌まっています」 ロイドとダイアンは、目をぱちくりさせた。ロイドはごくりと唾を飲んだ。彼もダイアンも、スティーブが言ったことを理解するのに時間が掛かっているようだった。 しばらく経ち、ようやくロイドが口を開いた。 「ああ・・・確かに、マリファナを試したことがあったのは知ってるが・・・」 スティーブは頭を左右に振った。 「ハードな麻薬です」 ロイドとダイアンは、ゆっくりとスティーブの短い言葉を噛みしめた。ダイアンは右手を伸ばし、夫の左手に触れた。そして指を絡め、しっかりと握り合った。二人ともしばらく考え込んでいた。 突然、ロイドが声を上げた。 「そんなはずがない! そんな兆候は見たことがないぞ。本当なのか、スティーブ? 本当は何か見間違えをして、悪く解釈したんじゃないのか? そうじゃないと言いきれるのか? いいか、これは軽い冗談じゃ済まされないことなんだぞ。中途半端なことだったら、ただでは済まされないのは知ってるのか?」 スティーブは目を輝かせた。むしろ、怒りを表わしてくれることを歓迎していた。自分の代わりに父親自身が怒りを示さないようだったら、彼は、怒りを引き出すようなことを何もしなかったことだろう。だが、ロイドが言ってる言葉は、ここ数ヶ月、彼がスティーブに、バーバラの不倫について「過剰反応」するなと言っていた時の言葉と同種ではあった。 スティーブはブリーフケースに手を入れ、中からビデオのケースを取り出した。それからビデオを出し、立ち上がってテレビのところに行き、プレーヤーにセットした。テレビのスイッチを入れ、リモコンを持って席に戻る。義理の両親に鋭い視線を送りながら、彼は再生のボタンを押した。
自転車のスピードを落とし、角を曲がった。4軒先に目的地の家がある。周りには誰もいない。 自転車から降りて、家に近づき、家と家の間に自転車を隠した。玄関先が明るい照明で照らされているので、家の間はかえって暗くなって何も見えない状態になっている。 心臓がドキドキしていたので、乱れた呼吸が直るまで、少しそこに立って休む。それから素早く、裏庭をチェックした。誰もいないのを確かめる。 向こうにはグラフ先生の家が見える。部屋の明かりが点いていたから、多分、家にいるのだろう。と言うことは、俺が家に戻った時には、先生からのメールが来ている可能性が大きいということだ。 家の裏側の暗がりを進んだ。キッチンテーブルの前の窓はカーテンが開け放されていた。そこから注意深く中を覗きこんだ。俺のいるところからだと、キッチンとリビングが見渡せた。誰もいない。 さらに先に進み、次の窓のところに来た。ここは暗くなっている。どうやらバスルームのようだ。次の窓が寝室の窓なのかもしれない。 だがその窓は高くて、覗き込むことができなかった。だが、家の裏手に牛乳を入れる木箱があるのを見つけた。その木箱を窓のところに運び、それに乗っかった。 ゆっくりと、非常に注意深く顔を上げ、窓の中を覗いた。カーテンは閉まっている。だが、中が見えるような隙間が少しだけあった。そこから覗いたが、ここは寝室ではなかった。それに誰もいない。 その部屋の奥、ドアの向こうに目をやった。ドアの先、廊下の反対側の部屋が寝室になっていた。そして、俺は牛乳箱からあやうく落ちそうになってしまったのである。そこで起きてることを、一部だが目にしたからだ。一部分だけとは言え、それで充分だった。 ブラッドのママがベッドに仰向けになっていた。お腹のところから頭までが見えていた。上半身裸になっていて、頭を前後に振っているのが見えた。寝ながら、うんうんと頷いているような格好だ。 俺はカメラを持ち上げて、写真を撮ろうとしたが、撮影不可の表示が出てしまった。これでは、まともな写真が撮れない。 俺は牛乳箱から飛び降り、ガレージ脇に戻った。ガレージの中に通じている、小さな入り口があったからだ。そこのドアノブに手を掛けた。心臓がドキドキいっている。回してみると、思ったとおり、鍵がかかっていなかった。ゆっくりとドアを押して中に入った。 心臓の鼓動が聞こえる。額に汗が出てきた。ガレージの中、車の横を過ぎ、さらに家の中へ通じているドアに向かった。引き戸式の扉で、静かに横へ滑らせて開ける。 「お願いだ、犬を飼っていませんように!」 そう独り言を言いながら、中に足を踏み入れた。音が出ないように戸を閉め、注意深く、角から家の中を覗きこんだ。 前方には障害物なし! 俺は静かにつま先歩きでキッチンの中を歩き、寝室へと向かった。キッチンのカウンターのところに名刺のストックが置いてあった。そこから1枚取って、ポケットに突っ込んだ。 リビング・ルームの入り口に差し掛かり、ゆっくりと角から頭を出して中を見た。誰もいない。この家には他に誰もいないのだと知り、大きく安堵した。寝室から流れてくる音楽のおかげで、俺が音を立ててしまっても聞こえないだろう。リビングの前を通り過ぎ、さらに廊下を進んで寝室へと向かう。 とうとう、寝室の入り口に来た。ドアは開けたままになっている。この向こうでは、俺の親友の母親が、夫以外の男にセックスされようとしているところなのだ。部屋の中からは、音楽と共に、色っぽい喘ぎ声が聞こえてくる。ズボンの中、ちんぽがみるみる固くなってくる。
奥さんは、早速、頭を上下に振りはじめた。俺のペニスの頭から根元までを唇が上下に滑る。俺は、唖然としたまま奥さんを見ているだけだった。これまで、ジャクソン夫人のことを性的な目で見たことなど一度もなかったが、よく見てみると、そこそこセクシーな人と言える。それに、そもそも、こんな経験は、俺にとってまったく初めての経験だ。路地裏で人妻にフェラチオをしてもらうなんて! 奥さんは、決してやめようとしなかった。俺が射精するまで延々と続けた。そして、俺もとうとう奥さんの口の中に発射したのだった。 ようやく仕事を終え、奥さんは地面に座り込んでしまった。俺の脚に両腕を巻きつけたまま、ぐったりとなって、疲れきった顔をしている。だが、何秒もしないうちに、また身体を起こして、俺のペニスを舐め始めた。最後の一滴まできれいに舐め清めようとしているのだと分かった。奥さんは、それをしながら俺の顔を見上げていた。だが、今は、奥さんの顔には、前に見せたような恐怖におののいているような表情は消えていた。清めの作業が終わると、俺のペニスをズボンの中にしまい、チャックを上げ、立ち上がった。 奥さんは、何も言わず、俺の顔を見ていた。奥さんが何を考えているのか、俺にはさっぱり見当がつかなかった。ただ、まだ、何か疑っているような表情を目に浮かべていることだけは分かった。しばらく無言のまま見つめあった後、奥さんが口を開いた。 「一緒に来て」 俺の手首を握って、俺を引っ張りながら駐車場へと戻っていく。ある自動車のところに来ると、俺に助手席に乗るように言った。奥さんはキーを持っていた。どうやら彼女の車らしい。 俺は好奇心が沸いてきた。ジャクソン夫人は何を考えているんだ? 俺は、奥さんに付き合うことにし、車に乗り込んだ。すぐに車が動き出す。 奥さんは無口のままだったが、ある時、俺の方をちらりと見たのに気づいた。後ろの道路を振り返りながら、ついでに俺の方を見て、笑みを浮かべたような気がした。 長いドライブの後、ある家の玄関前に着いた。俺が住んでるブロックではない。もっと言えば、ずいぶん離れたところだ。 「来て」 奥さんはそう言って、車から出た。俺も奥さんの後ろについて、その家の玄関へ向かった。奥さんはドアベルを鳴らし、しばらく待っていた。待ちながら、もう一度、俺の方をちらりと見た。 玄関に出てきたのは若い女だった。多く見積もっても、せいぜい20歳そこそこか? この家の持ち主にしては若すぎると思った。 ジャクソン夫人とその女は、挨拶もそこそこにすぐに話し始めた。少し経ち、奥さんは俺にその女のことを紹介した。リサという名前だそうだ。 「私、週に2日、午前中だけ、スターン先生の病院で働いているんです」 リサは、自分から言い出した。 「看護婦よ」 ジャクソン夫人は、そう付け加えた。驚いたことに、奥さんは、そう言いながら服を脱ぎ始めているのだった。 玄関のドアが閉められた。俺たちはリサの家のリビング・ルームの真ん中に突っ立ったままだった。それに、ジャクソン夫人は、そそくさと服を脱いでいる。どこか、まるで、一刻も早く脱がなくてはならないと思っているようだった。リサは、そんな奥さんの様子をちょっと見ていたが、その後、ちらりと俺を見て、それから部屋の向こうの小さなキャビネットに向かった。 ジャクソン夫人が俺を見て言った。 「急いで! 早く脱ぐのよ!」
僕はディアドラに対して少し軽薄になっていた。 「え、そうすると、男との付き合いのことも全部妹さんに喋っちまうの?」 ディアドラは僕の言葉に食って掛かった。目を輝かせたが、今までとは違った種類の光が輝いていた。それまでは見たことがないような、怒りに近い目の表情だった。 「アンドリュー、私は男付き合いなどしてないわ! 遊びの付き合いもなし! ドニーにも私の恋愛について話すことはないわ。なぜなら、恋愛をしてないから。そういうことをする時間がないの」 ディアドラは言葉を吐きながら、少しずつ落ち着いていったようだった。僕は前より強く彼女を抱きしめた。彼女がリラックスしていくのが感じられた。 「ごめん、ディアドラ。多分、僕は今は少し無用心な常態になっているのだと思う。いま二人でこうしていること。このことを君が男と女の間柄とはみなしていないのは分かっている。恋愛の関係なんかじゃありえないんだ。でも、僕にはそういう関係にあるように感じられてしまって・・・」 「ディ・ディ・・・」 ディアドラが呟くのが聞こえた。 「ディ・ディ?」 「私に近い人たちは私のことをそう呼ぶわ」 「誰がディ・ディと呼ぶの?」 「ママとパパ、それに妹のドニー。私には近い間柄の人はあまりいないの」 ディアドラは顔を僕の肩に擦り付けるようにした。子猫が足にすがりつくような仕草で。素敵な感覚だった。 「僕もディ・ディと呼んでもいいかな?」 「ええ、呼んで」 彼女は僕を見ていなかった。顔を僕の肩に埋めたままだった。 僕は手を彼女のあごに添え、上を向かせた。二人の顔が並ぶ。 「ありがとう、ディ・ディ」 そう言って、彼女にキスをした。感謝の気持ちを込め、ソフトに優しくキスをした。ばかばかしいことを言ってるのは分かる。単にあだ名で呼ぶのを許してくれただけなのだから、たいしたことじゃない。でも、僕にとっては、何か大事な垣根を越えたように思えたのだった。いま僕のそばにいるこの女性、友達のいない女性が僕に友達になって欲しいと頼んでいる。僕はもっと近い存在になりたかった。でも、どんな旅でも、最初の一歩から始まるものだ。
| HOME |
|