~*~
イサベラは目を覚まし、横の冷たいシーツに手を這わせた。誰もいないことに気づく。悲しい気持ちが彼女を襲った。…私の決意をレオンが受け入れてくれさえしたら…
彼は私を愛していると言った。彼が心からその言葉を言ったことは知っている。だが、彼が私を愛していると思いこんでるのは、ひとえに私に対する罪悪感から。罪悪感のせいで、レオンは私に対する本当の気持ちが分からなくなっているのだ。
レオンは私を修道院から誘拐し、強引に私の処女を奪い、子種を私のお腹に仕込んだ。父に対する復讐のために私を人質として使う計画だった。だが、そのことが引け目になって、なおさらレオンは、私を妻にし、お腹の子供に自分の名を継がせなければならないと決意を固くしている。父が死んだ今となってはいっそう頑なになっている。
レオンは、結婚を求めていても、本当に私のことを愛しているわけではない。私はそんな男性と契りを結ぶのはイヤ。もしレオンが他の女性と恋に落ちたら、私は破滅してしまうだろう。それに、私自身が、その女性からレオンを遠ざける理由となるのもイヤ。
私の身体が欲しいなら、いつでも喜んで私の身体を使って欲しいし、私の愛が欲しいなら、いつでも愛を注いであげる。でも、今のレオンがしてるような残酷なゲームには耐えられない。私が屈服し、結婚せよという彼の要求を飲むまで、愛し合うのを避けるなんて… 私の身体が言うことを聞かなくなってきている…
イサベラは、私をもっと強くしてくださいと祈るのであった。
ブラッドの家の前に着き、自転車から降りて玄関先に駆け上がった。ドアベルを鳴らして、しばらく待った。ようやく誰かが来てドアを開けてくれた。玄関に出てきたのがブラッドの母親なのを見て、俺は一瞬、息がつまりそうになってしまった。
「あら、こんにちは、ジャスティン」 ステファニはそう言ってスクリーンドアを引き、俺を中に招いた。俺は外ドアを開け、中に入った。
家の中に入ると、ステファニは途中で進路を変え、キッチンの方に進んだ。俺も彼女のあとをつけてキッチンに入った。後ろを歩きながらも、ステファニの見事な脚から目が離せなかった。今夜、この熟女は俺にカネを渡すために、俺にまた会うことになるのだ。
「ブラッドは出かけているの」 とステファニは前かがみになってオーブンの中に手を入れながら言った。
彼女が前かがみになった時も、もちろん俺は熟視していたし、履いてる短パンが少しずり上がり、尻頬の下のところがはみ出たのを見逃さなかった。
「マフィンは好き?」 とブラッドの母親は、オーブンの一番手前のマフィンの列をテーブルに持って来た。
マフィンをテーブルに乗せるときも前かがみになり、少しだけだがたぷたぷの胸の谷間を俺に見せる。
「ええ、マフィンは大好きです」 俺は返事しながら、また前かがみになりオーブンの中に手を入れてるステファニに視線を向けた。
今度は、もっと奥の方に手を入れてる。そのため、丈が短い白い短パンが前よりもずり上がり、尻頬がさらに上まで見えていた。だがそれもつかの間、すぐにステファニは身体を起こし、最後のマフィンの列をテーブルに持ってきた。
「少し冷ましてから食べたほうがいいわよ」 とステファニはまた前かがみになってテーブルに並べた。今度は前よりももっと前かがみになったので、美味そうな乳房を包む、柔らかそうな生地の白いブラジャーもはっきり見えた。
俺は堪らなくなって、紛らわすために最初の列からマフィンを取った。
「舌をやけどするわよ、ジャスティン」 と言いながら、冷蔵庫から牛乳を出し、俺に出すためグラスに注いだ。
「むぐむぐ…」 俺は柔く暖かいブルーベリーマフィンにかじりついていた。
「どう? 美味しいって言ってくれたと思うけど、ほんとに美味しい?」 ステファニーは俺の前にミルクのグラスを置きながら、そう尋ね、そして俺と向かいあった椅子に腰を降ろした。
「ええ、これは完璧ですよ」 とミルクで口の中をクリアにしてから答えた。
「じゃあ、テレビでも観ましょうか」 ステファニーは立ち上がって、リビングの方に歩き出した。
俺は素早く残っていたミルクを飲み干し、ステファニの後に続いてリビングに入った。俺はソファに座り、ステファニはテレビをつけてから、俺の向かい側にあるラブ・シートに座った。生脚の両脚をシートの上にあげて、あぐらの姿勢(
参考)で座った。俺はそのセクシーな脚に視線を向けないようにするのに苦労した。足の爪は薄いピンク色に塗られている。
ステファニはミュージック・ビデオのチャンネルに変え、しばらく画面を見つめていた。俺もテレビに目を向けてはいたが、横目で彼女の姿を見続けてもいた。どこか不安そうにそわそわしてる様子がないか確かめていたが、そんな気配はまったくなかった。内心不安を感じていても、外に出していないということか?
***
ひどい一週間だった。週とはいえ、実際には金曜の夜にダイアナのアパートから逃げ帰った時から始まり、あの長く、何もできなかった土日も含むのであるが、この一週間は大変だった。
月曜の朝、僕は会社に欠勤の電話を入れ、個人的なことに時間を使った。その後、スーザンが確実に家にいない時をみて、僕たちの住処のロフトであるプリンターズ・ローに戻り、僕の衣服や持ち物を回収してきた。このロフトは分譲マンションに変わる計画になっていた。僕がまだ、その変更契約にサインをしていなかったのは幸いだった。
部屋を出るとき、楽しかった記憶を思い返しながら、僕たちのーーあるいは、僕だけのーー幸せだった住処を最後にもう一度振り返った。そして、僕は玄関を出た。僕の背後で自動ロックのドアがカチャッと音をたてた。僕とスーザンの関係の終わりを告げる音に聞こえた。
まずは、離婚のための書類を用意した。その際、「公然で、かつ悪質な不貞」(
参考)という言葉を使った。僕の弁護士は、DVDを見た後、僕の裁判はスラムダンクになると保証してくれた。有無を言わせぬ圧勝ということなのだろう。
経済的側面でも、スーザンとの離婚は同じく簡単に済むとのことだった。手続きを進めるときに、いくつか前もって注意していたのが良かったのである。つまり、銀行口座を別々にしておくとか、資産の保護をしておくとか、外国に土地を所有しておくとかである。
スーザン個人の収入に加え、相手の男が百万長者であることも考慮に入れれば、彼女は僕の資産を当てにする必要はないだろうし、そもそも、法的にそうする立場にはないのである。僕の弁護士が吐き捨てるように言った。
「財産関係で奥さんにできることと言えば、前のめりになって尻を突きだし、自分で尻頬を広げておねだりすることくらいだね。そんなことも奥さんなら平気でできそうだが」
彼の言葉に僕は内心、ゾッとした。彼は、早速、裁判所に書類を送り、翌朝、ちゃんと処理されたか確かめると約束した。
火曜日のお昼ごろから携帯電話が鳴り始めた。スーザンは先の週末も月曜日も、まったく電話をよこさず、僕の安否を確かめる気などなかったのに、おかしなものだ。多分、僕が週末に帰宅していなかったことすら気づいていなかったのだろう。
発信者のIDですべてが分かる。僕は、即座に職場の電話をスーザンからの電話を拒否するように設定し、会社の受付にも、スーザンから電話があっても取り次がないよう指示した。彼女は連絡方法を携帯の方に変えたのだろう。携帯のディスプレーには「プライベートな発信者」とあった。僕はまた簡単にだまされるつもりはない。携帯にかかってきても出ることはせず、放置し、留守電に切り替わるにまかせた。
火曜日の午後、僕は、ノース・ピア(
参考)から通りひとつを隔てたストリータービル(
参考)にある購入権利込みの賃貸マンション(
参考)を借りる契約をした。寝室が二つある快適そうなマンションで、窓からは、オグデン・スリップ(
参考)とその先のミシガン湖が見渡せ、息をのむような素敵な眺めが楽しめる。僕はボートが好きで、これまでもオグデンスリップに行き、ボートのオーナーたちが近くのレストラン街でディナーを取ってる間、彼らのレジャーボートを見て楽しんできたのである。次の夏が楽しみだった。ともあれ、何か楽しみに待つものがあるというのは気分的に良いものだった。
続く三日間は、特にきっちりと計画を立てずに、あちらこちらを駆けまわりながら必需品を買い求めることでいっぱいだった。仕事の後、勤めている商事会社の同僚や同業者の仲間たちとの付き合いがあった。会社のクチコミ網はすでに僕と妻の間に何かがあったことを伝えていて、誰もがその話題を避けた。
僕の新しいマンションは豪華だったし、新たに備え付けた家具類のために一層、高級感が増していた。他の住民は、概して若く、紳士的であり、かつ最新流行に敏感な先進的人種だった。夜ともなると、周辺のレストラン、クラブ、商店などにどこからともなく多くの人々が集まってくる。