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ポルノ・クイーンの誕生 最終章 (5) 


トレーシーはマークが立ち去ったのを見届けて、私に話しかけた。

「マークは、私に確かめて欲しいって思ってるの。あなたが本当に自分が飛び込もうとしている世界がどんなところか分かっているのかって。私たち3人だけでするのとは違うのよ。10人以上の人が同じ部屋にいて、あなたのことを見ることになるの。そういう中で、あなたと相手の人だけでしているように振る舞わなければいけないのよ」

「分かってます」 ちょっと皮肉っぽく返事した。

トレーシーは少しイライラしているようだった。

「それに、いろんなことを自分一人でしなければいけないわ。カメラが動き出したら、誰も助けてくれないから。特にデビュー映画はそういう感じになるはず。普通は、登場人物はあなた一人だけ。セクシーな下着で着飾った姿で登場し、その後、おもちゃや手を使ってオナニーして、イクという形」

確かに、私はそれは知らなかった。それまでオナニー・シーンの撮影を見たことがなかった。それに、トレーシーと一緒に住むようになるまでは何度も自慰をしていたけれど、一緒に暮らすようになってからは、まったくしていない。そういうシーンをみんなの前でするのは、確かに、恥ずかしいだろうなとは思った。

その気持は口に出さなかったけれど、トレーシーは私の顔の表情から私の気持を読み取ったようだった。彼女は、私の高慢な鼻をへし折ったかのように、微笑んで、言った。

「それで、そういうことを本当にやってみたいの?」

「・・・ええ」 そうは答えたものの、前ほど自信に溢れた声ではなかったと思う。

トレーシーはテーブルから立ちながら、言った。

「そう・・・分かったわ。じゃあ、花びらデザインの紫のビキニを着て、ホールに来て。パティがメイクをしているから。私はそこで待ってるわ」

自分がどいう世界に飛び込もうとしているのか、本当には分かっていなかったけれど、ともかく、やってみることになった。

言われたとおり、上の階の自分の部屋に戻り、トレーシーが指定したビキニを身につけた。とても露出度が高いビキニで、見る人の想像力に委ねられる部分がほとんどない。トップは小さな三角布が二つで、かろうじて乳首が隠れるだけ。三角布をつなぐ紐が1本、それぞれから別の紐が伸びていて、それを背中に回して結びつける。もう1本ずつ上に伸びる紐があって、それを首に巻きつけてずれないように留めるようになっている。

ビキニの下の方はすごくピチピチで、足の間に挟んだクリトリスと陰嚢をうまく固定することができるものだった。誰かが私の股間をまじまじと見たら、ないはずのわずかな盛り上がりが見えるかもしれない。けれど、そうでもしなければ、私が本当の女の子でないと分かるのは難しいと思う。パンティの後ろの方は、ひも状になって尻頬の間を上がっていて、お尻はすっかり露出しているといってよかった。

トレーシーには言われなかったけれど、ビキニの上に紫色をした薄織物の半そでローブを羽織った。ホテルの中を歩くとき、ビキニだけだとはしたない感じがしたから。靴にはヒール高8センチの紫のサンダルを選んだ。それを履き、軽くお化粧を直した後、サングラスを持って、トレーシーのところに向かった。

私が部屋を出たら、ちょうどビルも自分の部屋から出るところで、彼とばったり会ってしまった。ビルは私を見ると、途端に顔を明るくさせ、笑顔になった。私も反射的に笑みを返した。彼は私が笑顔になったのを見て、いっそう明るい顔になった。エレベータのところに行くにはビルの部屋の前を通らなければならない。ビルはそれを察してか、私が来るのを待っていた。私が彼と並ぶところまで来ると、彼は私の横に並んで歩き出した。

エレベータに入ると、ビルは話しかけてきた。

「また君に会えてよかった。ここに滞在してる間に、一度でいいから、君と話ができたらって思っていたんだ。僕は、この前のこと以降について軌道修正ができたらと思っているんだ」

私はもはやビルに腹を立てていなかった。もっと言えば、最初から怒ってはいなかった。ただ、ビルは、私に、自分はどこか間違った存在だと思わせただけ。

「何も軌道修正しなければいけないことはないわ。あなたは、私たちがしたことについてあなたが感じたことを伝えただけでしょう?」

「あの時は本当に楽しかったんだよ・・・」 ビルの声には、必死になってる感じがこもっていた。「・・・ただ、ちょっと怖くなっただけなんだ。みんなが僕を変人のように扱うんじゃないかって思って・・・」

「そういうわけで、何も起きなかったように振舞いたいと思ったんでしょう? 私とは何もしなかったように。いいわよ、私たちは何もしなかった。それに、これからも、まったく何も!」

エレベータのドアが開く直前に、私はそう言い放った。ビルは何か言おうとしていたけれど、私はそれを無視し、さっさとエレベータから出た。

トレーシーは、宴会用のホールの一室で私を待っていた。トレーシーは、私がビルとエレベータから一緒に降りるのを見ていたけれど、私が近づいても、それには触れず、ただ、「来て、パティが待ってるわ」としか言わなかった。私は、どうしてパティに会わなければならないのか分からなかったけれど、特に質問はしなかった。


[2009/10/23] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)