私が見つけたうちで、激しい反応を引き起こした小説で、最も昔のものは、「コスチューム・パーティ (The Costume Party)」という題の小説である。これはゲイの緊縛・支配を扱った小説で、1989年10月28日にalt.sex.bondageに投稿された。この作品は、それと同時に、匿名の投稿サービス(のちに「匿名再メーラー(anonymous remailer)」と呼ばれるサービス)から発信された、私が見つけたうちで最も古い投稿の一つである。匿名サービスについては、後でもっと触れることにする。
上述したように、異常性愛や反社会的セックスを扱った小説は、システム管理者たちに削除されてきた可能性がある。この件に関しては、1989年末から1990年1月にかけて有名な事件があった。その事件は、「シンディの拷問(Cindy's Torment)」という小説に関するものである。この小説は、ある企業の重役とその秘書が巧みに工作し、若いアジア系女性に対してレイプ、性的拷問、辱めを繰り返すストーリーだった。問題は、この小説がalt.sex.bondageに現れた後、突然、消失するという事件が起きたのである。明らかに、有能なシステム管理者が、あるいは複数のそのような管理者たちが検閲したのだろう。システムからの削除は決して容易な作業ではなかった。と言うのも、ニューズグループへの投稿は単一のサーバに保管されるわけではなく、ニューズグループに加入しているすべてのプロバイダーのサーバに分配されるからである。幸い、「シンディの拷問」の場合は、その後も繰り返し再投稿され、実際、その気になって探し回れば、今日でも見つけることができる。しかし、他の小説の場合は、より巧妙に検閲が行われたし、大学の中には、例えばウォータールー大学のように、alt階層のニューズグループへはアクセスを禁止してしまった大学も現れた。
1989年11月、alt.sex.bondageの投稿者たちの間での趣味や欲望の違いが原因となって、小説に、その内容について読者へ「警告」するためのラベル付けを行うべきかどうかが議論となった。このラベル付けが、今日のいわゆる「ストーリー・コード」である。提案されたラベルは頭文字語であった(例:「女性支配者・男性従属者(female dominant/male submissive)」にはFD/MS、異性間行為(heterosexual)にはhet、同性間行為(homosexual)にはhomなど)。このような略称がすぐに採用されたことを見ると、これらは以前から用いられていたものであったのかもしれない。alt.sex.storiesには、1993年4月という、かなり古い日付の投稿小説で、件名部分にストーリー・コードが付いている。
1990年3月、調整役が付いた官能小説サイトが(レクリエーションを表す)rec階層に設立された。rec.arts.erotica (r.a.e)である。投稿された官能小説を調整役の人物や委員会へ送り、彼らが作品を選別するというのが、その設立の趣旨であった。しかし、rec.arts.eroticaは現在もニューズグループとして残っているものの、その活動は非常に低調であり、alt.sexの階層のように「飛躍的な伸び」を見せることはなかった。その理由の一つは、調整役にとって作品の選別作業が過重であったことが明らかであるし、また、質が低いと判断される作品を排除しようとする気持ちがrec.arts.eroticaにあったことも理由と言える。そのような状況は、alt.sex.storiesの登場で変わるのである。
1992年5月、ニューズグループalt.sex.stories(a.s.s)が設立された。セックスにまつわる議論ではなく、小説投稿に特化したグループとして設立されたのだった。ほぼ同じ時期に、セックス小説やそれに関連した話題について議論する目的で、alt.sex.stories.dが設立された。また、望まぬ広告や誘導である、いわゆる「スパム」なるものが急増したことを受けて、1996年から7年にかけて、alt.sex.stories.moderated (a.s.s.m)も設立された。alt.sex.stories.moderatedも、rec.arts.erotica同様、作品が前もって調整役に選別される形式であった(当初は、最初の真の調整役であるEli the Bearded(
参考)が行っていて、後に、チーム編成になった)。だが、alt.sex.stories.moderatedでは、作品の「質」による選別は行わなかった。それは読者に任せたのである。スパム以外ならどんなものも許容された。したがって、少なくとも仮説上は、セックスにまったく関係のない小説も可能とされていたのである。1997年、これに関連したウェブサイトである
Alt.Sex.Stories.Text.Repository (asstr.org)が立ち上げられた。この時点から、セックス小説専門のウェブサイトが、広範囲に登場し始める。(広告で収入を得るサイトもあったが)その大半は無料サイトであった。ただし、購読料を取るEジン(ezines、ネットマガジン)も徐々に増えつつある。
中に入り、奥のテーブルに座ると、ウェイターがやってきて、注文を取った。
「ボストン・クリーム・パイを」
そう言うと、ウェイターは向きを変え、マネジャーのオフィスへ入っていった。俺はどんなテストがあるのだろうと考えながら待つった。ウェイターは戻ってきて、「ケイトさんがお会いになるそうです」と言った。
俺は立ち上がり、ウェイターについてケイトのオフィスに入った。中に入るとウェイターはドアを閉めて立ち去った。
ドキドキしながら立っていると、ケイトはデスクの前の椅子に座るよう手招きし、タバコから長々と時間をかけて一服吸った。
「テストに通ったら、入会を認めるわ」
そう言って、また一服吸い、その後、灰皿にタバコを押しつけて消した。
ケイトは立ち上がった。ラテックス以外の服を着た彼女を見るのは初めてだった。頭からつま先まで、ケイトの姿をじろじろ見ていた。生唾を飲み込む音が彼女に聞かれたかもしれない。
デスクの横を回って歩いてくる。赤のミニスカートだが、腰の部分をぴっちりと包んでいる。前と違いストッキングはなくなっていた。だがセクシーなパンプスのハイヒールは変わらない。上は、布きれ1枚だけと言ってもよくて、白い布きれで体を包み、たわわな胸の前で結びつけただけだ。
「テストの準備はできてる?」
そう言いながら俺に手を差し伸べ、俺の指に指を絡めた。
俺は立ち上がり、この美女に導かれて、クラブに通じるドアへと向かった。ドアを過ぎ、らせん階段を降りていく。昨日、ケイトは「いつも完全にコントロールを保つこと」が重要と言っていた。だから、どんなことを求められても、それを行おうと心に決めた。このクラブ、加入する前にはじき出されるのだけは避けたい。
階段を降り、ステージの方向へ歩いた。ステージに上がるところに3段ほどステップがあるのだが、そこを上がるとき、ケイトは俺の手をぎゅっぎゅっと握り締めていた。
ステージに上がり、その中央に立ってじっとしているように言われた。指示されたとおりにした。ケイトはちょっと引きさがり、俺を見ながらゆっくりと俺の周りを歩き始めた。一周した後、また俺の前に立った。
それから、またゆっくりと歩き始め、俺の真後ろに来たところで立ち止まった。
「ここで待っているのよ」
ケイトはそう囁いて、ステージから降りて行った。
突然、音楽が鳴り始めた。低音の振動で俺の身体もステージ全体もブルブル振動した。決して大音量ではないのだが、特殊な低音のためブルブル震える。
ちょうどその時、スポットライトがつき、俺を照らした。眼が慣れるまで1、2分かかった。コツ、コツ、コツとケイトのハイヒールの音が背後に聞こえた。俺の後ろに来ている。俺たちを照らしているスポットライトが、ぐるぐると円を描くような動きを始めた。ケイトが両腕を俺の脇から差し込み、俺の腹を包むのを感じた。どうやら、テストというのはこのタイプのテストだったのかと、その時になって俺は理解した。
背中にケイトの身体を感じる。首筋から頬にかけて彼女の温かい呼気を感じ、その後、後ろから優しく頬にキスをされた。実に繊細で官能的なキスだ。俺の首筋に沿って、唇を這わせ、舌でちろちろと舐め回る。キスをしながら両手は俺の胸を上下にさすり始めた。さらには、唇で耳を挟み、はぐはぐと食べるような愛撫を始めた。背筋がビリビリと痺れる。
「このテストに合格したら、全権利付きのメンバーにしてあげるわ」
ケイトはそう言いながら、俺の耳穴に舌先を差し入れた。
俺はうめき声を上げることしかできなかった。