ビルは、この前、コンピュータの前で作業していたのと同じ4階の部屋にいた。部屋の前に来ると、ビルの隣に可愛いブロンドの女の子が座っていて、彼が何か話しているところだった。ブロンドの娘の前のディスプレーには、昨日、撮影した私の写真が映っていた。クリスが登場する前の、私が自慰をしているところの画像。
どうしてか分からないけど、ビルが彼女に話しかけているのを見て、ちょっとやきもちを感じた。それに彼女が私の写真を見ていることにも、ちょっと恥ずかしさを感じた。
私がビルに声をかける前に、ビルの方が私に気づき、声をかけた。
「ステフィ! 入ってくれ。すぐに終わるから」
ブロンドの娘は私を見て、にっこりと微笑んだ。ビルは立ち上がり、私に両腕を回して抱き寄せた。私の唇にキスをし、それから彼女に向かって言った。
「ベッキー? こちらがステファニー。 ステフィ? こちらはベッキー・アンブローズ。彼女は雑誌のための写真の複製作業をしてる」
ベッキーは立ち上がり、手を差し出し握手を求めた。
「会えて嬉しいわ、ステフィ。いま、あなたの最初の画像に作業しているところなの。こんなこと言ってお気に触らなければいいんだけど、とってもエロいわよ、これ。あなた、絶対、男たちの人気者になるわ。私には分かる。…ただ、ひとつだけ問題があるの。あなたの名前のこと。何か芸名を考えている? たいていの女優は本名を使わないの」
さっきちょっと感じた恥ずかしさが、もっと強くなってきた。彼女の言葉を聞きながら、顔が熱くなってくるのを感じた。
「いいえ、芸名は何も… 芸名のことを考えすらしてなかったの」
「そう… 芸名があった方がいいと思うわ。だから、考えておいて。決まったら教えてね。でも、ちょっと急いで欲しいの。ロスに戻るときまでには、これを印刷に回さなければいけないから」 ベッキーは私の手を握ったまま話した。
「何か決まったらすぐに、知らせます」 と彼女に言い、それからビルに向かって 「もうランチに行かないと。セットに戻るまで1時間しかないの」 と言った。
ビルと二人で階下に降り、とても美味しくランチを食べた。食事の間ずっと、私たちはおしゃべりを続けた。それに、食べながら、芸名のことも考えていた。でも、これといって、特に、人から呼ばれたい名前は、何も出てこなかった。
ランチの後、ビルと二人でプール周辺を散歩した。ビルは夕食を一緒に食べようと、私を誘った。私は、今夜はマリア、トレーシー、マーク、それにヘレンと一緒に夕食を取りたいと言った。みんな私の友達だし、もっと言えば家族のようなものだから。それに、ビルには、私の時間を独占できるとは思って欲しくなかった。そこで、ビルも私たちと一緒にディナーに加わって、と誘った。
ランチの後、再びヘレンと一緒に別のシーンの撮影に備えて待機した。今度のシーンは、マリアは関わらない。彼女の撮影は今日の分は終了していた。今回は、サミーとピーターと言う名前のゲイの絡みだった。ピーターはとても優しい人で、勃起の反応も早かった。サミーも同じく反応が良かった。ではあるけど、シーンのセットに時間がかかったのも事実だった。
その日の撮影が終わる頃には、私の唇はかなり腫れ上がっていたし、ものすごくエッチな気分にもなっていて、ベッドが壊れるほどセックスしたい感じになっていた。ありがたいことに、マリアとヘレンも私と同じくらいエッチになっていたので、ディナーの前に3人でお互いの欲求を解放する素敵な時を過ごすことができた。
気分をすっきりさせた後、ドレスアップして、5人で外に出かけ、本当に素敵なレストランに入った。マークは私たちに、今夜行くレストランはとてもシックなビストロなので、ドレスアップするように言っていた。ビルのことが気になったのは、それを言われたときだった。勝手にビルを誘ったけど、それでよかったのかしら? でも、マークは、全然大丈夫と答えてくれた。ビルも来れば、男はマークだけということにならないから、かえって良いのだと。
この前と同じ窓際のテーブルにつき、トリスタが来るのを待った。彼女は担当している各テーブルを巡回している。ようやく、俺の席にやってきた。
「あら、今日も、ようこそ」 と彼女はコーヒーカップを置いた。
この言葉には嬉しかった。トリスタは俺のことを覚えていたんだ。
「やあ、トリスタ」 コーヒーを注いでもらいながら返事した。
「コーヒーの他に何か?」と、俺の目を覗き込みながら言う。
「いや、これで充分」と、俺はコーヒーにクリームを入れた。だがトリスタが他のテーブルに移動していくのを見て、少しがっかりした。
コーヒーを飲みながらトリスタを見続けていた。優雅に店内を歩き回っている。ジーンズと白のTシャツで、その上から緑色のエプロンをつけている。とてもキュートだ。
…彼女、いいなあ… と俺は独り言を言った。
コーヒーを3分の2ほど飲んだ頃、トリスタが注ぎ足しに戻ってきた。テーブルを挟んで俺の向かい側の席にちょっと腰を降ろして、注ぎ足ししてくれた。
「しばらく座っていたらいいよ。そんなに忙しそうでもないし」 と微笑みかけた。
彼女は店内を見回し、コーヒーのポットをテーブルに置いた。
「ありがと」 と耳のところに手を当て、髪の毛をさっと後ろに払った。
「私の名前は知ってるわね。あなたの名前は?」
「ジャスティン」 俺は握手をするため手を差し出した。
トリスタは柔らかな指で俺の手のひらに触れ、それから手をつなぎ、しっかりと握手した。
「よろしく、ジャスティン」
「君はまだ学校に通ってるの?」 コーヒーをひとくち啜り、訊いた。
「いいえ、この春、卒業したわ」 トリスタは、用事を求めている客はいないかと、店内を見回しながら答えた。
「どこの学校?」 彼女が俺が出た高校にはいなかったのは確かだった。
「ヴァレイ・クリスチャン・アカデミーよ」 トリスタは自分の高校を誇りに思っている様子だった。
「あなたはどこ?」
「僕はノーバート高校の卒業」
「君の高校はどんな感じ?」 彼女のきれいな緑の瞳を見つめて、訊いた。
「まあまあね。私のお父さんはそこの牧師なの。だから、ちょっと退屈」
「へえ、お父さんは牧師なのか?」 少しびっくりしたような顔で答えた。
「ええ、ずっと牧師人生」 とトリスタはまた店内を見回した。
俺は、そこで、いきなり切り出した。 「ねえ、夕食、僕と一緒にどこかに食べに行かない?」
トリスタは顔を赤らめて俺を見た。
「そうねえ… 今夜、この店で会って、もうちょっとおしゃべりするのはうのはどう?」 と、彼女は席からすべり出て、立ち上がった。
「是非!」 と言い、俺も立ち上がり、テーブルに5ドル札を置いた。
「7時でオーケー?」 他のテーブルでお呼びがかかったようで、彼女は急いでる感じだった。
「もちろん」 と俺は出口に向かった。
「じゃ、またね、ジャスティン」 可愛い声を聞きながらドアを押した。
出口でちょっと立ち止まり、振り返って、返事した。「じゃ、7時に!」
コーヒーショップを出た。通りの向かいにシーサイド・ダイナーが見える。もう朝食時は過ぎているので、レストランの中は客がほとんどいないようだった。俺は自転車に乗り、家に向かった。
ふと、しまった! と思った。トリスタに電話番号を聞いておくのを忘れていたのだ。
家に戻り、部屋に入った。グラフ先生に贈るつもりの小包を取り出し、中を確かめた。きちんと揃ってる。その大きな黒い箱をクローゼットにしまった。計画は整ってる。あとは実行あるのみだ。
何もすることがなくなったので、ブラッドの家に遊びに行くことにした。また、自転車に乗り、漕ぎ出す。ブラッドの家の前に行くと、ブラッドの母親の車が止まっているのが見え、ちょっとワクワクした。自転車を降り、玄関をノックするとすぐに、ブラッドが出てきた。
「よお、ジャスティン、入れよ」
俺たちはテレビが置いてある部屋に入った。