カーラが帰って行った後、私はジョージをしばらく見つめていた。何か説明してくれると思っていたから。でも、彼は、普通じゃないことが起きてるとは思っていない様子で、平然としていた。
もう、黙っていられなくなって、私は切り出した。
「女の子、3人?」
「あ、そのことだったのか… 僕はただデートして遊んでるだけだよ」
「入れ替わり立ち替わり、すごい勢いね。強風にあおられちゃうんじゃない?」
私のジョークにちょっとは笑ったけど、彼はそれ以上、説明してくれなかった。ただ、ニコニコとバカみたいな顔をして座ってるだけ。私は自分の部屋に戻り、しばらく勉強をした。
また人の声がした。私は様子を見に立ち上がった。
「彼女、誰?」
また別の女の人だ。同じような質問をしてくる。
「私はアパートを共有してる者です。寝室は別です」
このメッセージを録音して、毎回、再生した方が良いかもしれないと思った。彼女のことは、ほとんど見てなかった。…とても痩せていて、腰までありそうな長いストレートの髪をしていたと思う。彼女とジョージはすぐにジョージの部屋に入ってドアをバタンと閉めた。
その後、私はまた図書館に勉強に行ったけど、その時までジョージの姿は見なかった。でも、図書館に行っても気が散って勉強にならなかった。ジョージのことが頭にこびりついていた …いったい何が起きてるの? あの女たちは何者なの? ジョージはどうやって彼女たちを見つけてるの?
アパートに戻ると、また女の人がキッチンテーブルに座っていた。その通り、また別の女。ジョージの姿は見えなかった。
それにしても、その女の身なりったら! Tシャツとビキニのパンティだけの格好でいる! 彼女は私を見上げると、ただ微笑むだけ。不思議なことに、私が誰なのかは訊かなかった。私は、ただただショックで、その場に突っ立ってただけ。
その時、ジョージの部屋のドアがカチャと音を立てて開いた。
女の人が出てくる! その人はジーンズとトップを着てた。にっこり笑って、「じゃあね」と言い、そのまま玄関から出て行ってしまった。
私は口をあんぐり開けて立っていた。テーブルに座っている女の人を見た。彼女はただ座ってるだけ。あんまり私が見つめるものだから、しばらくしてちょっと私を見上げたけど、平然としてる。ジョージの部屋のドアを見た。閉まってる。私は自分の部屋に入った。
翌朝になり、私は前の夜にいた二人の女性のことを思い出した。起き上がりながら、リビングに行ったら、何を見せられるのかなあと心配になった。
キッチンに行ったけど、誰もいなかった。でもバスルームのドアが閉まってる。中からくすくす笑う声が聞こえた。女の声!
ちょっと待っていたら、1分くらいでバスルームのドアが開き、中から人が出てきた。女性が二人!
二人とも丈の短いナイトガウンを着ていて、私に微笑みかけ、その後、いそいそとジョージの部屋に歩き、するりと中に入って行った!
私は学校の準備をし、朝食を食べ、アパートを出ることにした。何だか、あそこにいて、これ以上、見るのは嫌な気持ちだった。でも、アパートを出たら、また別の女性が私たちの部屋のドアに近づいてくる。あんなにピチピチのパンツを履いた女性は見たことがない。私は足早にアパートから離れた。
その日の午後アパートに戻ると、リビングとキッチンに女の人が5人もたむろしていた。みんな何も言わずに、ただ何するわけでもなく座ってる。ジョージの部屋のドアは閉まってた。下がジーンズで、上はブラだけの格好の人が一人いた。私はまっすぐ自分の部屋に進んで、中に入った。夕食はどこか外で食べなきゃいけないのかと思った。
朝になり目を覚ましたら、外は土砂降りだった。起き上がりシャワーを浴び、着替えた。朝食はポップ・タルト(
参考)二枚とオレンジジュース。それを摂った後、部屋に戻ってパソコンを立ち上げた。それから宅配業者を探そうと、電話帳を手にした。いくつか宅配業の会社があったが、ひとつ、「市内どの地域でも、どの時間帯でも、1時間以内で」との宣伝をしている業者があった。ジムズ宅配サービスという会社だ。
早速電話したが、忙しいのか、なかなかつながらない。その間にメールをチェックした。メールも来ていない。もう一度、宅配会社に電話したら、今度は呼び出し1回で、電話が通じた。
配達してほしい物とあて先を詳しく説明した。1時間以内の配達では35ドルだと言われた。宅配の手はずを整えた後、電話を切り、今度はパソコンでワープロを立ち上げた。
書く内容と言葉づかいを慎重に考えた後、打ち込みを始めた。文字の色はピンクに決めた。グラフ先生が好きな色だったからだ。それにフォントのスタイルと大きさも違ったものにした。
「最近、お前が行儀よく振舞っていることの褒美として、これをプレゼントしよう。厳格な規則と躾けに忠実に従えば、良いことがたくさんあることが分かるだろう。35歳の誕生日、おめでとう! この包みは、まだ開いてはいけない。旦那に見つからないところに隠すと良いだろう。包みの中には、お前が勝ち取ったものが入っている。今夜、お前の家族や知り合いたちに家で誕生日を祝ってもらい、旦那が眠りに落ちた後、お前はこっそりベッドからすり抜け、ナイトガウンを脱いで裸になるのだ。素っ裸のまま、このプレゼントを、箱に書いてある番号の順に開いていくこと。1番の箱から始め、中に入ってるものを身に付けた後、次の番号の箱を開けていく。すべての箱をそうやって開けていくように。すべてを終えたら、玄関から静かに出て、自分の車に乗り、お前に渡したゲスト・カードに書かれている住所に車を走らせる。カードを見せれば、そこの者がお前をステージ前のテーブルにエスコートするだろう。そのショーを見て楽しむことだ。俺が家に戻っても良いと言うまで、そこにいるように。分かったな、グラフ先生。すぐに返事をよこすこと。ご主人様より」
それをプリントアウトし、クラブ・カフスの封筒からゲスト・カードを取り出して、畳んだ手紙に挟み、封筒に入れた。そしてプレゼントの箱の上にその封筒を張り付けた。
時計を見ると、もうすぐ宅配業者が来るころになっていた。急いで包みを玄関前にもっていくと、ちょうど、古いおんぼろのシボレー・ブレザー(
参考)が家の前に来たところだった。
若い運転手が、そのおんぼろ車から出てきて、俺の家の前の住所を確認した。そして俺の家に歩いてきて、声をかけた。
「配達してほしい荷物があるのはこちらですか?」
俺はうなずき、箱を運転手に渡した。運転手はそれを車に乗せ、また戻ってきて言った。「35ドルです」
金を渡すと男は車に戻り、走り去った。
また雨がひどくなったので、俺は家でテレビを見て過ごした。何も面白いのをやっていない。やがて雨がやんだので、トリスタがいるコーヒーショップに行くことにした。家のカギをかけて道を歩いた。俺は普段、自転車に乗るので、こうして歩くのはめったにない。ずいぶん遠いなあと感じつつも、ようやく例のコーヒーショップに着いた。
中に入ると、トリスタは老人たちが座るテーブルでコーヒーを注いでいるところだった。