その日、アパートに戻ると、やっぱり、彼女たちはまだ部屋にいた。…前と同じくらいの人数。確実に前とは違う人たちが何人かいた。一人は黒のベビードールのナイトガウンを着てたけど、ほとんど何も隠してないも同然。もう一人は、Tシャツだけの格好で、下半身は裸のままだった。そして、みんな、黒いリボンをつけていた。私は自分の部屋に入って、ベッドに潜った。
ベッドの中、しばらく眠らずに、どうしようか考えた。あの人たち騒々しくおしゃべりなんかはしていないし、実際、ちょっとバスルームを使う時、バッティングはするけど、それを除けば、私を邪魔したりはしていない。しかも、私の夕食も作ってくれる!
いつの間にか眠ってしまったようだった。目を覚ましたけれど、まだ夜で、暗かった。でも少し灯りが入ってる。… 私の部屋のドアが開いていた。何だか頭がぼんやりしていた。… 何か薬を盛られたような感じだった。
誰かが私のベッドに入ってるのに気づいた。でも、どうしてなのか、とても眠くて、気にするどころじゃなかった。
朝になり、目が覚めた。私は女の人に抱きつかれている! 2本のスプーンを重ねたように、私の後ろにぴったりくっついてる(
参考)。
私はそっとベッドから抜け出て、彼女を見た。彼女はまだ眠っていた。とても綺麗な人だった。とても安らかに眠っている。私はどうしてよいか分からず、ローブを羽織って部屋を出た。
そう、やっぱり… リビングにはあたり一面に女の人たちがいた。冗談ではなく、歩こうにも足の置き場を捜さなければいけないほどだった。
バスルームは閉まっていた。ノックをしたら、女性がドアを開け、私を中に引っ張った。バスルームの中には4人いた。みんな裸で、何と言うか、あらゆることをやっていた。
私を中に引き入れた女性は、洗面台のところにいて、歯を磨いていた。先にシャワーを使っていいわよ、と私に言ったけど、でもシャワールームには別の人が入っていてシャワーを浴びている。その人が終わるのを待ち、ローブをフックに掛けて、中に入った。待っている間、他の人たちがバスルームに入ってきたり、出て行ったりをしていた。
シャワールームに入ってようやく、ちょっとだけプライバシーを保てている感じになれた。とはいえ、カーテンの向こう側には他の人がいたわけだけど…。でも、安心したのもつかの間、いきなり女の人がカーテンをすり抜け、中に入ってきた! 私の背中を洗ってくれると言う。もう、何をどうしてよいか分からなくなっていた。…ともかく、できるだけ早くシャワーを済ませ、中から出た。すると、別の女性が私にタオルを差し出した。もし、何もしなかったら、彼女は私の身体を拭き始めただろうと思う。
部屋に戻った。私のベッドを見たら、3人も女の人が寝ていた! 私は素早く着替えをして、アパートを出た。キッチンには女の人が二人いて、私に朝食を出そうとしてくれた。でも、私はできるだけ早くアパートを出たかった。玄関に行くと、ドアの内側にテーブルがあって、その上に大きな籠があった。その中には、黒リボンがたくさん入っていた。
その日の夜も、あまり変わらなかった。ただ、信じられるかどうか分からないけど、女性の数はさらに増えていた。しょっちゅう、女性のうちの誰かが、ジョージの部屋に出入りをしていた。みんな、あの黒リボンをつけている。
カウチには女の人が二人座っていて、キスをしていた。何人かが私のために夕食を作ってくれて、私はそれを急いで食べて、またアパートを出て行く準備をした。この場所は勉強には適さない。
その時、電話が鳴った。ダイアンだった。
「調子はどう?」 ダイアンは、どこかちょっとナーバスな声で訊いた。
「大丈夫よ」 私もナーバスになっていた。ダイアンに事情を言っても信じてもらえるとは思えなかった。
「彼は…? ジョージだけど…」
「まあ、彼もうまくやってると思うわ」
「ほんと? 彼、私がいなくて寂しく思ってるんじゃない?」 ダイアンはジョージとのことを考えなおそうとしてると感じて、私は少し沈んだ気持ちになった。
「私には… 私には、そうだとは言えないわ…」
「彼、いまアパートにいるの?… あ、いや、彼を電話に呼び出すのはやめてね!」
「ええ…」
「オーケー、じゃあ電話、切るわね。ごめんなさい、忙しいところ」 と言って、ダイアンは電話を切った。
私は勉強しに図書館に行った。勉強ははかどった。多分、この奇妙な状況に少しだけ慣れてきていたのだと思う。
アパートに戻ったけれど、事態はあまり変わらなかった。私のベッドには5人ほど女の人が寝ていた。
「ねえ、ちょっと!」 と私は端に寝ていた人を揺すった。
彼女は目を覚まし、ぼんやりした顔で私を見上げた。
「あら、ごめんなさい!」 と言って起き上がり、そのまま、私の部屋の隅に行き、なんと、床の上に寝てしまった! 他の女の人たちはベッドの上にいたまま。いろんな姿勢で丸くなって寝ている。
彼女たちを見下ろしながら、全員、起こすべきかどうか考えた。さっきベッドから出た女の人のおかげで、他の人に触れずに横になれるスペースができていた。私はしかたなく、そこに寝ることにした。
「あーあ、今夜の教会のお手伝い、いきたくないなあ」 と、トリスタが溜息をついた。
「どんなことをしなくちゃいけないの?」
「配ぜんのお手伝い」 と、また溜息。「今度の日曜日、教会で貧しい人のために夕食会を開くことになってるのよ」
返事をしようとしたら、その前にトリスタが俺の肩から頭を離し、くるっと向きを変えて、両脚を俺の太ももの上に乗せて、両腕で俺を包むようにして抱きついた。
「今夜、教会に一緒に行かない? 私のママとパパに会うのはどう?」 と、俺の目を覗きこみながら言った。「…お願い」 と言い、優しく俺の頬にキスをした。
「今のようなキスをされたら、断れないよね」 と俺も彼女を抱きしめた。
「ほんとにありがとう、ジャスティン。どれだけ私が嬉しく思ってるか分からないでしょうね」 トリスタは、また俺の肩に頭を乗せた。
俺たちは、しばらく抱き合ったままでいたが、ふと彼女が時計を見た。
「もう帰らなくちゃ。パパが帰ってくる前に車を教会の駐車場に入れておかないと大変なの」
トリスタはそう言って、俺の太ももから両脚をおろした。
二人、立ちあがって歩き始めた。自然と手をつないでいた。出口に向かって歩いていたが、再び、フレデリックスの店の前で立ち止まった。
「いつか、勇気を出して、ここでショッピングをしてみせるわ」 トリスタは俺の手を引き、出口に向かいながら、そう言った。
車に着き、俺はトリスタのために運転席のドアを開けてあげた。彼女は乗り込み、俺の目を見上げながら微笑んだ。俺が助手席に乗り込み、トリスタは車を走らせ始めた。
「家はどこなの?」 とトリスタ。
「あそこの向こう」 と、俺は次の通りを指差した。「じゃあ、君のお父さんはすごくコントロールが厳しいんだね」
「ほんと、そうなの。統制キチガイ」 とトリスタはステレオの音量を上げた。
「ママも、本心では、パパのことをビクビクしていると思う」
「そこを曲がって」 と俺は左に曲がるように指示した。
「パパはいつも、私たちは罪びとで、いつか地獄で火あぶりにあうと言ってるの」 彼女の顔が笑顔から、陰鬱とした表情に変わるのを見た。「パパの言ってること分からないわ… どうせ地獄で火あぶりにあうなら、私なら、その前に楽しむだけ楽しみたいわ」
「ここを曲がって。この通りが家の通りなんだ… あそこに大きな白い家があるだろ? 黒縁の…」
「…ここね」 とトリスタは俺の家の前に車をつけて言った。
「そのとおり」 俺は彼女の車からでなくちゃいけないのを少し名残惜しく思った。
トリスタはギアをパークに入れた。俺は彼女にキスをしたかったが、ちょっと急かしすぎかもしれないと、ためらった。
「じゃあ、今夜ね?」
「何時?」 と俺はドアの取っ手に手をかけながら訊いた。
「7時でいいと思うわ」 トリスタは俺の顔を見つめながら言った。
トリスタも名残惜しくなっているようだと見て取れた。その時、トリスタが顔を近づけてきて、頬にキスした。
「じゃあ、後でね」 と彼女はオーディオのスイッチを押して、ラジオ局を変えた。
俺は車の外に出て、トリスタが走り去るのを見送った。