朝になり目が覚めた。誰かが私に腕を回して抱きついてる。見ると、女の人が私の後ろに体を密着させて寝ていた。体を起してあたりを見回した。床に寝ている人の数が増えていた。私はローブを羽織り、すり抜けるようにして部屋を出た。
その日の朝も、前の日の朝とほとんど同じことの繰り返しだった。学校に行こうと玄関を出たら、新しい女の人が二人、玄関ドアを入っていった。
朝の最初の授業が終わって教室を出たとき、誰あろう、ダイアンが私を待っていた!
「早起きして、車を飛ばしてきたの!」 ダイアンは興奮した声で言った。
「うわあ、久し振り! 会えてすごく嬉しいわ!」 私はダイアンを抱きしめ、精一杯の笑顔になった。でも、本当にすごく嬉しいかというと、どうなんだろうと思った。
「ジョージはどうしてる?」 とダイアンは息を切らせて言った。全然、無邪気な顔をして返事を待ちながら、私を見つめていた。彼女はとても綺麗だった。
「あ、彼は元気だと思うわ」
「彼、いまアパートにいるんでしょう? ねえ、一緒にアパートに戻りましょう!」
私は、ふつう、最初の授業の後に部屋に戻ることはしなかったし、彼女を連れていくのも気が進まなかった。でも、遅かれ早かれ、ダイアンはアパートに来ることになるはず。あの状態をダイアンに見せて、成り行きを見届けるのは、私の義務だと覚悟し、「いいわよ」と答えた。
二人で一緒に歩き始めたけど、ダイアンは何もしゃべらなかったし、私も無口のままだった。何をしゃべってよいか分からなかった。
ようやくアパートの建物のところに来た時、ダイアンが口を開いた。
「彼、他の女の人と付き合ってるのかな?」
「ええ」
「あらそう… 一人だけ?」
「いや」
その後、ダイアンは何も言わなかった。私は、ダイアンをアパートへ連れて行った。
予想したとおり、アパートは女の人たちでいっぱいだった。床にもたくさん座っていて、誰かが歩くときは、動いて通り道を作らなければいけなかった。私とダイアンが呆然として立ちつくしている間、女の子が二人、ジョージの部屋から静かに出てきて、別の二人が静かに入って行った。
「これって、何…?」 ダイアンが弱い声で訊いた。
「私も分からないの」
「これがジョージ…?」
ダイアンが何を言いたかったのか分からない。最後まで言わなかったから。
「ジョージと話しをしなきゃいけないわ」 ダイアンはやにわにそう言って、彼の部屋の方へ歩き始めた。
様々な格好で壁に背を預け、床に座ってた女の人たちがざわざわと動いて、彼女の通り道を作った。そしてダイアンはジョージの部屋に入って行った。私もなんとかしてキッチンに行った、女性が一人、椅子から立ち上がり、私に椅子を譲ってくれた。私は腰を降ろし、どうなるんだろうと思って見ていた。
座っていると、女の人が一人、玄関から入ってきた。彼女はリボンを取り、首に結びつけ、それから服を脱ぎ始めた。彼女のことは覚えている。とても背が高く、すらりと痩せた人で、ブロンドの髪をショートにしていた人。絶対、ファッション・モデルとして通じそうな雰囲気の人だった。
どういうわけか、私はその女の人が服を脱いで、素っ裸になるまで見続けていた。とてもほっそりとした体をしていて、脚がとても長い。彼女はジョージの部屋のドアへ歩き、中に入って行った。
ジョージの部屋からは何も聞こえなかったし、ダイアンも出てこなかった。
私は、何かが起きるのを期待して待ち続けていた。でも、やがて好奇心に負けてしまい、私は彼のドアまで歩いて行った。
ノックしようと思ったけれど、これまで誰もそんなことをしていなかったので、それも間抜けのような気がした。みんな、ドアをちょっとだけ開けて、するりと中に入っていくだけだった。だから、私も同じように、ちょっとだけドアを開け、さっと中に入った。
中は暗かった。…厚地のカーテンで日光が完全に遮断されていた。でもランプがあって、その光はあった。ジョージは床に膝をついて半立ちの格好になっていた。そして、さっきのブロンドの女の人が四つん這いになって彼の前にいた。ジョージは、後ろから彼女にしている!
それにダイアンも! 彼女も素っ裸になっていた。ブロンドの女の人の前で膝をついて半立ちになっている。そして股間のところをブロンドの人の顔に押し付けている!
ダイアンの体はとてもセクシーだった。両手でブロンドの女の人の髪をわしづかみにしている!
ブロンドの女の人は目隠しされていて、両手を背中に回され、手首を縛られていた。床には他の女の人たちもいて、あちこちに横たわっていた。大半が目隠しされて、後ろ手に手首を縛られている。
二人ほど、目隠しされていない人もいた。裸のまま、壁に背を預けて、ただ座っている。どちらも、精気を失ったようにぼんやりとしていた。部屋にいる他の女たちと同じに。
ダイアンが横を向いて、私を見た。すると彼女はブロンドの女性の顔を股間から離して、私の方に向かせた。ブロンドの人の舌が、行き場をなくしたように、宙をチロチロと動いてるのが見えた。
ダイアンは私に笑顔を見せ、軽く頷いた。私に、そこに行くように求めてる! ブロンドの女の人を私に差し出している!
私は素早く、音を立てずに部屋を出て、ドアを閉めた。ドアを背に、突っ立っていた。こんなの狂ってる。あのブロンドの人、すごく綺麗だった。
それにダイアンも、すごく綺麗だった。ダイアンはリボンをつけていなかった。ダイアンは、私にも横に座って欲しがっていた。同じように膝をついて半立ちになって、そして…
もう一度、中に入って、ダイアンの誘いに乗ることを考えた。どんな感じなのだろう? あの綺麗なダイアンの隣に膝立ちになって… あのブロンドの彼女の顔を私に… 強引に…
私は自分をしっかり持って、玄関へ向かった。その時、ブロンドの彼女が脱いだ服が、床に落ちているのが見えた。
それに黒いリボンも床に落ちてるのが見え、拾い上げた。
どうして、あのブロンドの人はすぐに中に入って、ジョージにあれをさせることができたんだろう? そのリボンは普通のリボンではなかった。近づけて、よく見ると、レースの生地でできてるのが分かった。
彼女はただあそこで膝をついていただけ。目隠しをされ、手を縛られて、自分では何もできない状態になっていた。ただ、なされるがまま、ジョージに後ろから突かれ、ダイアンに舐めさせられていた。ジョージとダイアンが彼女にしていた光景が頭に浮かんだ。
私はそのリボンを首に巻きつけた。
おわり
俺は小包がちゃんと届いたか心配だったので、自分の部屋に上がりメールをチェックした。グラフ先生からのメールが来ていた。
「もう! 今夜、家から抜け出て欲しいなんて。今夜は来客がたくさんあるの。とても、うまくいかないわ。『うまくいかない』なんて言い方だと試してみるように聞こえるかもしれないけど、実際は、本当に無理なのよ。小包に何が入ってるか知らないけど、明日、回収しに来るように宅配業者に頼んでください。後で二人とも悔むことになりそうなことが起きてしまう前に、このゲームをやめなくてはいけないわ」
こいつめ! と思いながら俺は返信ボタンをクリックした。
「お前はこれまでは実に素晴らしい生徒だったが、たった今、何もかも台無しにしてしまったようだな。あの小包は、お前がそれを受ける価値があると思ったから送ったのだ。お前が勝ち取ったものなのだよ。もう、同じことは言わない。今夜、お前は俺に会いに来るのだ。さもなければ、俺は否応なしに、お前の秘密を旦那や学校にバラすことになるだろう。そうなったら困るのはお前の方だろ? 今夜、待ってるぜ!」
メールを送ったとき、両親の乗った車がガレージに入る音が聞こえた。俺は階下に降りて親を出迎えた。
「お帰り」 とキッチンにいた両親に声をかけた。
母親は具合が悪そうで、すぐに自分の部屋に入っていった。父親も付き添って入っていった。俺は、カウチに座って夕食を待った。俺はトリスタのことを思い、今夜、彼女と彼女の両親に会わなければいけないことを思い出した。その後で、グラフ先生と会うことになる。
父親が部屋から出てきて、何か残り物を温めて食べるように言った。俺は冷蔵庫を開け、残り物ののポーク・チョップとマッシュド・ポテトを取り出し、温めた。温め終えた後、俺と父親の分をテーブルに並べた。
席に着くと、父親はポークにかぶりつきながら言った。「お母さんはかなり具合が悪そうなんだ」
「顔色が悪かったね」 と言い、俺も食べ始めた。
食べ始めてしばらくしたら、電話が鳴った。俺が出た。
「ジャスティン?」 と電話の向こうから小さな声が聞こえた。
「僕ですが」 声の持ち主が誰か分からなかったので、そう答えた。
「今夜、出てきてくれる?」 と小さな声。
ようやく俺は相手がトリスタであることを知った。「もう少ししたら、行くつもりだよ」
「ああ、良かった」 トリスタは興奮した声で言った。「分かったわ。じゃあ、後で」
「うん、じゃ、また後で」 と俺は電話を切った。
「誰からだ?」 と父が食べなが訊いた。
「あ、ちょっと知り合った女の子から」 とテーブルを片づけながら言った。
俺は食器を洗い始めたが、父親は詮索を続けた。「その子の名前は?」
俺は邪魔されたら嫌なので、父親を無視しようとしたが、答えてやれば、これ以上、詮索されないだろうと考え、答えることにした。
「トリスタという名前… 18歳で、シーサイド・ダイナーの向かいにあるコーヒー・ショップでバイトしてる人だよ… バレー・クリスチャン・アカデミー高を卒業したばかりなんだ。彼女のお父さんはその高校で牧師をしてるんだ」
「なかなか良い娘さんのようだね」 と父親は立ち上がり、食べ残しをシンクに持ってきた。
「彼女、今夜、僕に教会に来てほしいと言ってるんだ。両親に会ってほしいと」 父親の持ってきた食器をシンクに沈めながら返事した。「…トリスタは、教会でも仕事があって、貧しい人に食事を作る手伝いをしなければいけないんだって」
「本当に良いお嬢さんのようだね。…ぜひ、お父さんもその娘さんに会ってみたいよ」 と父親はキッチンから出て、リビングのリクライニングに腰をおろした。
「ジャスティン?」 と父が俺を呼んだ。
リビングに行って父親の前に座った。
「お前は素敵なお嬢さんを見つけて、その娘に会いに行くようだから、今夜はお父さんの車を使ったらどうかな?… 車のキーはカウンターの上に置いてあるよ」
父親はそう言って、リクライニングにもたれかかり、目を閉じた。
「ありがとう、お父さん」
キッチンに戻って車のキーを握った。確かに今夜は自転車に乗らずに済むのはありがたい。
自分の部屋に戻り、シャワーを浴びた。丹念にひげを剃って、こぎれいにした。シャワーから出て、部屋に戻り着替えをした。カジュアルな服装しかできない。カーキのズボンとポロシャツだ。まともな服はほとんど持っていないので、ラフな格好しかできない。ブラッドの母親からせしめた金もほとんどなくなりかけている。トリスタをどこか高級なところにデートに誘うとしたら、すぐにでもまたカネを手に入れなければいけない。
鏡で自分の姿をチェックした後、階段を下りた。リビングを覗いたら、父親はすでに居眠りしていた。母親も病気で寝ているようで、部屋からは物音ひとつ聞こえない。俺は静かにガレージに行き、父親のバンに乗り込んだ。