2ntブログ



裏切り 第4章 (12) 


ジムという人は入り口にいて、客が来ると挨拶をしていた。面識はないも同然だった。今夜、この店に入った時は、彼は私に挨拶はしてくれたものの、他の明らかにストレートと分かる男性客に対してと同様、私にもほとんど無視も同然だった。

ダイアナはジムのことについて教えてくれていた。彼は背が低く、丸々と太ったゲイで、女装に興味があったと言う。最初は、彼自身がステージに上がってパフォーマンスをしていた。彼は店で働く者たちに時として暴君になるという噂があったが、本当は、彼はステージでパフォーマンスをしたり、サクラとして盛り上げたりする女の子たちを崇拝していて、密かに、自分もそういう女の子たちと同じくらい美しくなれたらと願っている人物とのことだった。

ジムは私を見るなり、目を飛び出さんばかりに丸くした。

「まあ、まあ、可愛い子ちゃん! ずるいわねえ、いつの間に店に潜り込んでいたの? この入り口から入ったんなら、絶対、あなたのことは覚えているはずなんだけど」

私は手を差し出した。

「リサ・レインです。ダイアナのお友達なの」

ジムは私の手を取り、手の甲にキスをした。

「ああ、もちろんそうだわね! 美女なら誰でもダイアナの知り合いだから。今夜、ダイアナが店に来たのは覚えているんだけど。でも、ごめんなさいね、どうしてもあなたのことが思い出せないんだけど」

「覚えてる理由がないと思いますよ。私が店に入った時は、くすんだ存在だったから。外に出るのはこれが初めてなんです。もっと言えば、私は2時間ほど前にあなたのお店の着替え室で誕生したようなもの」

ジムがどれほど感情的に盛り上がれるのか、果てしがないように思われた。文字通り、どうしていいのか分からず、私の周りをくるくる回って、私を見ていた。

「ああ、なんと、なんと! ほんとに優雅。今回が初めての外出? なのにこんなに素敵だなんて? そうすると、私は娘自慢のパパということ? ああ、落ち着くのよ、私! ああ、心臓発作を起こしそう。誰か私にアスピリンを持ってきて! この人、他に取られる前に、私がつぼみのうちに摘み取ってしまわなくちゃいけないわ! 今すぐ! ねえ、あなた、ダンスできる? 歌は? 少なくともアテレコはできるわよね? ローラースケートとかチアガールの真似は? どうしてもうちのステージに上がってちょうだい! ああ、私、すごく興奮している。自分が自分でないみたい!」

「ねえ落ち着いてちょうだい。じゃないとステージに上がったとしても出演料を二重に請求しちゃうから」 と冗談まじりに言った。

可哀想にジムは笑いすぎて、最後には涙まで浮かべていた。

「ねえ、お願いだから私と一杯つきあってくれない? あなたとの出会いは本当に特別な感じ。だからお祝いをしなくちゃ」

「私も是非、ジミー」 私はできる限りの魅力を醸し出して返事した。「…でも、ちょっと後でもいい? 実は、隣の従業員用のラウンジに立ち寄って、ちょっと……コーヒー・ブレークをしようかと思っていたの…」

これはダイアナに教えてもらった合言葉だった。ジムは私の言った意味をちゃんと理解した。

「じゃあ行ってらっしゃい! 初めて外出したというのに、もう素敵な男を狂わせたのね? あなた、スターになるわよ。ダイアナみたいに!」

ジムは両手で私の両手を掴み、ぎゅっと強く握った。私はその機会を利用して、手に25ドル紙幣を持って彼の手を握り返した。ビジネスを円滑に進めるためのちょっとした油。彼はおカネに気づき、にっこりと顔を崩した。

「あなたは本当に優れモノよ! デートに行ってらっしゃい。ちゃんとコンドームは使うのよ。ここからブザーで中に入れてあげるわ。戻ってきたら、一緒に一杯。いいわね。ああ、私があと20歳若かくて、女の子にそそられる人間だったらいいのに!


[2012/02/21] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)