Makurae (http://twitter.com/MakuraeClub)さんが作成し、ツイッターに掲載している画像に勝手に私が英語でストーリーを書いたものです。セクシーな話ですが、比較的マイルドなものです。快諾していただいたMakuraeさんに感謝を表します。
************  Hi guys! Yeah. It's Halloween. Trick or treat. We're tricking you guys. Look! We will tell you our secrets. One of us is biologically male, which is our trick. Can you detect which is the one? The left girl is me, Kate. And to my right side is Steffany, my best friend. If you can detect the correct one, we will give you our special treat. That's our trick or treat. Maybe, we should say it's trick AND treat. Hahaha. Ok, which one of us do you think is male? She? Steffany? You should take much time. So? Is it ok? It's your final answer, right? Aha. Bingo! You're right. She is a boy whose name is in fact Steve. And our special treat is our special disclosure to you. It may be a big surprise. The surprise is ... actually, we are both male. I only said, "one of us is male" and that's not a false statement, is it? Ahaha... But please, don't be disappointed, you guys. I can guarantee that we will surely make you feel like being in the heaven. What? You also have a surprising trick for us? What's that? What!! You... you are a girl!? Both of you two? Oh my god, tonight will make a perfect foursome night. (自分の英語を翻訳するのもなんですが:笑) こんばんは! 今日はハロウィーンね。トリック・オア・トリート! あなたたちにトリックを仕掛けてあげるわね。ちょっと、あたしたち、秘密があるの。あたしたちのどっちかは生物的に男なのよ。それがトリック。どっちだか分かる? 左があたしでケイト。あたしの右にいるのが親友のステファニー。ちゃんと言い当てられたら、特別のおもてなしをしてあげるわ。それがあたしたちのトリック・オア・トリート。ひょっとすると、トリック・アンド・トリートって言った方がいいかもしれないけど。うふふ。まあ、いいわ。それで、どっちが男だと思う? 彼女の方? ステファニー? ほんと?時間をかけた方がいいわよ? ファイナル・アンサーでいいの? アハハ! ビンゴ! あたり! 彼女は本当の名前はスティーブ。男の子よ。それで、特別のトリートはというと、あたしたちのもっとすごい秘密を教えてあげること。すごくびっくりするかも。それはというと……あたしたち二人とも男なの。さっき「どちらかが男」と言ったけど、それって嘘にならないわよね。ウフフ。でも、お願い、がっかりしないでね。ご褒美として、今夜、あなたたちを天国にいるような気分にさせてあげるから。保証するわ。 ええっ? あなたたちもびっくりさせるトリックがあるの? どんなjこと? ええっ?! あなたたち……本当は女の子?! ふたりとも? 何てこと。今夜は完璧な4Pの夜になるかも。 *********** 追記: その後のふたりのようすの画像もいただきました。感謝です(笑)。
62_bets a bet 「さあ、みんな! 大事な試合の前に、うちの逞しくて強い男たちの写真を撮っておきましょう?」 とティナが言った。 「僕たちのこと、からかわなくたっていいよ」とラッセルが言った。彼は長いブロンドの髪をしている。彼だけが、無理にかつらをつけずに地毛で通っている。「僕たちがこんな格好しなくちゃいけないだけで、十分だろ?」 「ティナはちょっとあんたたちをからかわずにいられないのよね」とケイトが口を挟んだ。「だって、賭けの一部だから。あたしたちがこういう格好しないと、賭けが成立しないもの」 「ティナ、本気で僕たちにこれをさせるつもりなのか?」 とマークが訊いた。避けられない質問だった。彼はこの中で一番背が高い。先発ピッチャーをする予定である。「分かると思うけど、僕たちを見るためにずいぶん人が集まってる。スカウトもいるかも」 マークのガールフレンドのメリッサが反応した。「そして、その人たち、あなたたちがどれだけ綺麗になれるか確かめるんじゃない? 私に言わせれば、そろそろメジャー・リーグももう少し多様性を持つ時代になってきたと思うの。今回のことは、あなたたちのためになるかもしれないわ」 「ああ、そうだよ」 とポールが口を挟んだ。彼は3人の中で一番背が小さい。二塁手をしている。「あの人たち、多様性なんてどうでもいいと思ってるんだ。それより、チームの勝利に貢献できる人かどうかだけを考えている」 「それこそ、私が言いたいこと」とメリッサが言った。「今日マークがすべきことは、良いピッチングをすること。そうすれば大丈夫。今回ダメだったらダメで、私は来月中ずっと『彼女』なら大丈夫って言い続けるから」 「こんなことが本当に起きているなんて信じられない」とふさぎ込んだ様子でラッセルが言った。「僕たちこんなことするはめになるなんて、絶対にありえなかったのに」 「ええ、私たちにビキニの格好で歩き回らせていただろうってことでしょ? それとも、何か似たようなセクシーなことをさせていたのにって?」 とティナが答えた。「でも、これもいいんじゃないかと思うわよ。多分、もう1ヶ月くらい、私たちの言うことに従ったら、あんたたちも女の子になるというのがどういうことか理解するようになると思うわ。それに、あんたたち3人とも、すごく綺麗な娘になったじゃない? それ、気に入るかもしれないわよ」 「あなたたちの可能性がどんだけあるか、誰にも分らないものね」とメリッサが付け加えた。「来月、ムラムラした男たちの大群があんたたちの後をぞろぞろついて回ることにならなかったとしたら、むしろ、その方が驚きだわ」 「ああ、そんなこと言うのやめてくれ」とポールが言った。 「ええ、どうして?」とケイトが言った。「そういうのって誉め言葉なんだよって言ってたの、あなただったじゃない? 男たちが関心を示しているって示すのを、むしろ感謝すべきなんだよって。違う? まあ、今はあなたたちも、そういう『誉め言葉』に対処しなくちゃいけなくなったってことよ。まあ、2週間くらいしたら、あなたたちがどのくらいその誉め言葉を気に入るようになっているか、これから見せてもらうわ」 「もうそのくらいにして、ケイト。十分よ。彼らも分かってるわ。イジワルする必要はないんだから。さあ、写真を撮ってしまいましょう。それから、あんたたちはウォームアップを始めるように。じゃあ、笑って!」
ifap_63_vacation 「認めたらどう? 楽しかったんでしょう?」 「分かる? ほんとたのしかった。期待はしてなかったんだけど、女の子のふりをするって、驚くほど自由な気持ちになれるもんなんだって。でも、家に帰ってこれて嬉しいよ。元の現実の生活にもどることだけど」 「またしたいと思っていない?」 「たぶん、一部はね。よく分からない。今度のことはどれをとってもリアルと感じられないので、答えるのが難しいよ。分かるよね? 何より、最後の2週間は夢のようだった。でも、もう髪の毛を切った方がよさそうだね」 「あなたの長い髪、あたし好きよ? 本当にかわいく見えると思うわ」 「でも、これだと女の子みたいに見えちゃうし」 「そんなに嫌なこと? あなた、この休暇はずっと女の子のふりをして過ごしてきたのよ? それにあなたがそれを気に入ってるのは分かってるわ。何を言いたいかっていうと、あなた、自分のことをもっとよく見てみるべきだと思うの。あたし、あなたのこと、この種のことのために生まれてきたような人だと思ったわ」 「どういう意味?」 「とても女性的な体つきをしているということ。それって悪いことじゃないわよ。だから怒らないでね。それに、あなたのアレも女の子っぽく見えるわ。ちょっと思っていることがあるんだけど、もし、家に戻った後も、これを続けるのって、そんなに変なことかなって思ってるの。あなたがあたしのボーイフレンドに戻らなかったらどうなるかしら? もしあなたがあたしのガールフレンドになってくれたら、どうなるかしら? そういうの嫌かしら?」 「そ、それが君が望んでいること?」 「あたしが望んでいることは関係ないわ。あなたが望んでいることが大切なの。あたしには見て取れる。でも、あたしに見えてることも、どうでもよいこと。あなたも認識すべきよ。その考え、真面目に考えてみるべきだわ」 「そんなことできるのか分からない。僕たちの友達はどうなる? 仕事は? それに……」 「あなたの人生なの。他の人がどう思うかを心配するのは時間の無駄だわ。ねえ、あたし、今すぐ決心してとは言ってないの。それについて考えてみてとお願いしているだけ。考えている間、家に戻った後も、練習してもいいし。普段の場所に戻った後もうまくいくか、試してみるのよ」 「そ、それは良だそうだね。これってゲームのようなものだよね?」 「そういうふうに考えたいなら、そう考えてもいいわ。これはゲーム」
ifap_63_unbelievable 「すごくきれいだ」 とクラークはあたしの腰に手を添えて言った。「君みたいな娘がいたなんて知らなかったよ」 僕は返事をしなかった。返事したら、自分が思ってもいないことを言ってしまいそうで怖かった。だから、四つん這いになったまま、待っていた。期待で震えていた。心臓がドキドキ高鳴っていた。アレが欲しくてたまらなかった。本当に切望していた。そして、まさにそのことが僕を怖がらせていた。というのも、まさにこの前日まで、僕は自分のことを完全にストレートな普通の男だと思っていたから。 では、どんな変化があったのか? どうして、僕は、見ず知らずの男のいるベッドで、素っ裸で四つん這いになっている状態になってしまったのか? どうして、そんな格好でその男に分身を突き入れてほしいと待つことになってしまったのか? あまりにも極端にすっ飛んだ結果のように思えるかもしれない。ほとんど、信じられないと。でも、これは実際に起きたことなのだ。そして、僕は、こういうことになると予想すべきだったのである。 友達のデビンは、昔から嫉妬深い人だった。彼はどんな娘と一緒であっても、その娘がどんだけ信用できる人であっても、その娘が浮気をしているのではと疑う男だった。過剰防衛する人間の中でも最悪のタイプと言えた。以前は、それも彼の良い部分に由来しているのではないかと僕は思っていた。愛情からそうなっているのであると。その後、僕は少し違ったふうに見るようになった。そして、これはデビンが自分の所有物を失うことを恐れることに由来すると考え直している。これは、実際、悲しいことだった。 デビンが僕にガールフレンドの見張りをしてほしいと言ってきた時、僕はすぐに食って掛かった。そんなの、彼女のプライバシーを侵害することになると。それは悪いことだと。だけど、最後には、これはただの予防措置なんだと説得されてしまった。もし彼女が浮気をしていたら、それについては知る権利があるはずだ。もし浮気してなかったら、何も問題がないから、それはそれでいいと。彼の論理に同意すべきじゃなかったし、その理由も数多くあったけれど、僕は同意してしまった。 「でも、ひとつだけ問題があるんだ」と彼が言った。「君は嫌がるだろうと思うけど」 そして彼は説明し始めた。彼のガールフレンドは独身女性のパーティに行くことになっている。女性だけで男性ストリップのクラブに行くと言う。その中にバレずに混ざるには、それなりの格好にならなければならないということだった。つまり、女の子のふりをしなければならないと。 反論すると、彼は言った。「いや、君なら通ると思うんだ。去年のハロウィーンをことを覚えているだろ? 大半の男たちが、君のことを本物の女の子と思っていたじゃないか」 ほぼ1時間にわたる議論の末、僕は折れてしまい、女装してスパイするという頼みを受けてしまったのだった。 その夜、僕はあのストリップ・クラブにいた。隅から隅まで女の子のように見える格好になっていた。女の子たちの中で、僕のことを二度見するひとは誰もいなかった。だが男たちはというと……ともかく、その夜、僕は男性ストリッパーたちの注目を集めたとだけ言っておこう。そして、それが気持ちよかったのだった。本当に。ちやほやされて気持ちよさのあまり、僕は自分の任務をすっかり忘れてしまったほどだった。途中で、デビンの彼女のことは見失ってしまった。そして、さらに何杯かお酒を飲むうちに、自分自身のことも見失ってしまったのだった。 ある時点から、その店のバーテンダーが僕に接近し始めているのに気が付いた。僕は控えめな態度を取り続けていたけど、彼は執拗に僕に言い寄り続けた。それに彼はなかなか魅力的な人だとも思った。ハンサムだったし、セクシーだったし、僕も積極的に拒んだりはしなかった。そして、そういうふうにして、僕は気が付いたら、彼のアパートで四つん這いになり、バージンを奪われるのを待っていたのだった。 前にも言ったように、信じられないことだと思うだろう? でも信じてほしい。本当に起きたことなのだから。
ifap_63_two_choices 「それを脱いでって言ったんだよ、チャド。それに、もうこれ以上、あたしは言い訳は聞きたくないわ」 「で、でも……」 「でも、何? チャドは自分は女の子じゃないって言い続けているけど、パンティを履くのは女だけじゃないの? もし自分は女じゃないと言うなら、そんなの履くのおかしいわよ」 「でも、だからって脱ぐのは理屈に合わないわ! 女の子はドレスを着て、お化粧をするでしょ? それにパンティだって……」 「その通りだわ。だから、女じゃないなら、そんな服を着るべきじゃないんじゃない?」 「ありがとう! だったら、もう家に帰って、今日のことは忘れましょう? ママやパパにはこのことは絶対に内緒ね。あたしは、ただ……」 「家に帰るなんて誰が言ったの? きれいなドレスを着てモールの中を見て歩くためだけに、ここに来たんじゃないんのよ。他にもすることがあるんだから」 「でも、あんた、言ったじゃない……」 「あたしの見方だと、チャドには選択肢はふたつだけだわ。ひとつは、文句を言うのはやめて、その可愛い服を着たままでいること。ただし、もちろん、パンティは脱ぐこと。もうひとつは、その服は女物の服だから、そしてチャドが女の子じゃないのは確実だから、その服を全部脱いでパンティだけになること。そのどっちかだわね」 「で、でも……できないわ……こ、こんなのフェアじゃない!」 「フェアなんて関係ないよ。チャドがこの賭けをしたんだからね? そしてあたしが勝った。実際、3回勝負で最初の2回ともあたしが勝ったんだから。チャドはまだ1勝もしてないんだよ」 「でも、やっぱりフェアじゃないわ、ニコール! あんたは実際にバスケの選手でしょ。でも私は……」 「可愛い女の子じゃない? それでいいのよ。あたし、前からお姉さんがほしかったから」 「で、でも……」 「ほら、いいから。チャドがこれから何をしなくちゃいけないか、もうはっきりしているじゃない? だから、そのパンティを脱いで、先に行きましょう? このモールにいる間に、プロム用のドレスを何着か試着してもらうつもりなんだから」 「プ、プロム?」 「もちろん。言ってなかったかしら? チャドはマークの友達のジェフとプロムに出ることになってるのよ? 彼はすごくきれいな格好をしてきてほしいと思ってるの。だからちゃんと優雅に歩く練習もしておいた方がいいわ。だらだら歩くのはやめて」 「い、いいわよ……これでどう? 脱いだわよ。これで嬉しい?」 「もう一息ね、お兄さん。もう一息」
ifap_63_taking_control 思い出せる限り昔から、僕はコントロール狂だった。子供のころは、それを否定しようとした。僕はただ物事がちゃんとなっていることを望んでいるだけだと。でも、それは、物事を僕の思った通りにするということを意味していた。成長するにつれて、僕は、ことの正しい・正しくないは、このこととはほとんど関係ないことを悟っていった。ちゃんとコントロールできているかどうかが僕にとって重要なのだと。そして、僕はその考え方を大事に思うことにした。というのも、僕がかじ取りをすると物事がうまくいくことが少なからずあったからだった。 しかし、僕のそういう態度は男女関係になると最悪な結果にもなった。数えきれないほどのガールフレンドが僕の元を去っていった。そのすべて、僕が彼女たちの人生を仕切りたがるという単純な理由によるものだった。彼女たちの服装や、いくらお金を使うかや、どんな友達と付き合うかなど。知る限りすべて僕が管理した。当然予想できるように、たいていの女性はそんな男とは付き合っていられない。そんな僕だったけれど、ハンナだけは、何とか僕と結婚するように説得できたのだった。 思うに、ハンナは、ふたりが正式なパートナーになれば、僕は変わると思ったのだろう。それに、僕自身も変わりたいと思っていた部分があった。でも、あの時点までは僕はやっぱり僕だったわけで、急に、何か違った存在へと魔法のように変身するわけにはいかなかった。ほとんど、結婚直後から、僕たちふたりとも、これは負け試合だと悟ったのだった。とはいえ、ふたりとも頑張り続けた。いずれ夫婦関係は破滅するだろうとは思っていても、ふたりとも、何とか上手くいくよう努力を続けたのだった。 そんな時、僕たちはセイドに出会った。うーん、セイドについてはどこから話をしたらいいだろう? 彼は僕がなりたいと思うすべてを具現化したような男だった。100%の理想形の男だった。すべてをコントロールし仕切る男。男らしい男。ハンサムで、逞しい男。ハンナは、たぶん、僕をうまく制御したら、こんな男になるんではないかと想像していたのではないかと思う。そんなタイプの男だった。そして、それゆえに、彼女がセイドと一緒に寝るようになった時も、僕はそんなに驚かなかったのだと思う。 ふたりがそうなることを、ほぼ最初に会った時から分かっていたように思う。ハンナもセイドもふたりの関係を隠そうともしなかった。そして僕がハンナに問い詰めると、彼女はただ肩をすくめるだけだった。「あなたに私を責めることができるの?」と。 僕は大声を上げたかった。怒りのあまり、家具を部屋中に投げ飛ばしたかった。でも、そんなことはしなかった。どうしてかわからないけど、ふたりの関係を一種容認したのだった。その代わり、もし彼女が他の男と寝るのだったら、僕も同じことをすると言った。ハンナは同意し、僕は言った通りのことをした。だけど、いくらいろんな女たちと寝ても、僕は楽しくなかった。その代わり、僕は怒りっぽくなっていった。怒ってばかりいた。どうしてもハンナを取り戻したいと思った。 振り返ると、バカげた考えだったと思うし、ハンナとはほとんど関係のないことだったと思う。明らかに、それまで僕はかなり抑制していたのだろう。それが本当の理由だと思う。ともかく、理由が何であれ、僕はハンナに仕返しするため、彼女を侮辱しようと思ったのだった。僕は、まともな女性なら誰も夫としては求めたがらないような男になってやろうと思ったのだった。僕は女性的なナヨナヨした男になることにしたのである。 本当に慣れるまではちょっと時間がかかったけれども、変身が終了した時には、僕は生まれつきそうであったかのように、女性的に振る舞うようになっていた。すべてを変えた。着る服装から、話し方、振る舞い方などすべて。その間、僕は、ハンナを居心地悪い気分にするために、こうしているのだとずっと思っていた。でも、彼女は逆の反応を示した。むしろ僕に女性化をもっと進めるよう励まし、ようやく男っぽい振る舞いを捨て去るように決めてくれて心から喜んでいると言うようになったのだった。 一線を越えたのがいつのことだったか分からない。あまりに急速に進んだから。でも、そのすぐ後に、僕は女性になる道を進み始めていた。パンティ。スカート。そしてホルモン。名前も元の名前の女性版の名前を使うようになっていた。その間も、依然として僕は、女性にとって、男とは言えない男を夫に持つこと以上に恥ずかしいことはないという考えにしがみついたままだった。 その間、セイドはいつの間にか僕たちの家に居座るようになっていた。好きな時にやって来ては、好きな時に出ていく。彼がハンナと寝るときは、僕が予備の寝室に移って眠った。そういう夜、壁を通してふたりの声が聞こえるのだった。ふたりは自分たちの行為をまったく隠さなかった。 僕の計画において、次に必然的に進むべき次のステップについて認識したのは、彼が僕のことをじっと見つめているのに気付いた時だった。それに気づいたとき、どうしてもっと早く気が付かなかったのだろうと僕は自分を責めた。それほどあからさまな視線だった。 その日、僕とセイドしか家にいなかった。ハンナは夜遅くなるまで帰ってこない日だった。僕は浴室の外に立っていた。永遠とも思えるほど立っていたような気がする。シャワーの音を聞きながら、どういうふうに進めるかを考え、失敗した場合どうなるだろうと想像しながら立っていた。そして、とうとう、僕は深呼吸をして、浴室のドアを開け、中に入ったのだった。すでに裸になっていた僕は、そのままシャワーのお湯の雨の中に入っていった。 彼はほとんど僕の存在に気づいていなかったと思う。少なくとも、僕が後ろから手を伸ばし、彼の一物を握るまでは。それがみるみる固くなるのを感じ、僕は彼を自分のものにしたと分かった。もっと進んでも彼は拒まないだろうと。そして、僕の計画がようやく完成に近づいたと分かったのだった。 僕にはハンナに僕を愛するようにさせることはできない。ハンナがセイドと寝るのを防ぐこともできない。それに、彼女を辱め、従属的な態度を取らせることもできない。でも、僕はセイドを盗むことはできたのである。ようやく、僕はコントロールを掌握することができたのである。
ifap_63_stupid_beautiful_love 時々、その価値があったのかと考えてしまうことがある。その疑問を頭に浮かべてしまう自分自身が嫌いだけど、どうしても考えてしまう。彼女の病気がぶり返してしまったのを知っている。あたしが決断をした時ですら、彼女は再発してしまうだろうと思っていた。僕がサポートしても、彼女は足掻き苦しんでいたし、まして僕がいなかったら、彼女は立ち直るチャンスすらなかった。でも、僕には他に道がなかった。あんなにたくさんのことが並んでいたので、拒絶することなどできなかった。それは知っている。心の奥底では知っている。だけど、それを知っていても、この事態に我慢することが楽になるわけではない。僕の人生が生きやすくなるわけではない。 こんな事実を知らなかったら、どんなに良かっただろうと思う。彼女をあの依存症から逃れることを助けることができていたら、どんなに良かっただろうと思う。ずっと長い間、僕は彼女を助け出せていたと思っていた。だけど、今は、僕は知っている。彼女は単に僕から依存状態を隠すことが上手になっていただけなのだと。あるいは、僕の方が彼女の依存状態から目を背けることが上手になっていただけなのかもしれない。結局、否認するということが最悪なのだ。特に、それが愛する人にかかわることであると、そうなのだ。 そして、僕は彼女を愛していた。心から愛していた。他の何よりも、彼女のことを。彼女は僕が求めるすべてだった。聡明で、美しく、楽しい人。そして彼女と僕は完璧なカップルだった。真の意味でふたりは結びついていた。ほとんど霊的とすら呼べるレベルで結びついていた。こんなことを言うと、うさん臭く聞こえるのは分かっているけど、ふたりは魂の友どうしだった。そうなるように運命づけられていたとのだと。それはしっかりと分かっている。この世界についての事実について知っているのと同じくらい、しっかりと。本当に。そして、それゆえに、いっそう彼女の問題に耐えることが難しくさせていた。いや、ほとんど不可能と言ってよい。 薬物に依存する人もいれば、アルコールに依存する人もいる。ヘザーの場合は? 彼女はギャンブルが好きだった。いや、もっと正確に言えば、彼女はギャンブルをしないといてもたってもいられなくなる、しかも奥深い心理的なレベルでそうなってしまうのだった。一度、彼女はその心理状態を僕に説明しようとしたことがある。それは、精神的なエネルギーで、絶えることのなく蓄積し続けるもの。正しいカードを引きさえすれば、正しい数を当てさえすれば、正しい馬に賭けさえすれば現実のものとなる希望や夢や願いが、波のように引いては打ち寄せてくる心理。勝てば勝ったで、それも悪いのだけど、負けると、いっそう厳しい現実が襲い掛かってくる。ヘザーは、いくらお金をつぎ込んだか自覚していた。そして、それゆえ、最後には、取り戻すための唯一の方法は、なお一層深みにハマることだと自分を納得させてしまうのだった。 彼女はそれから逃れようとはした。彼女とふたりで、ギャンブルのことを忘れさせようと実に多くの時間を費やした。しかし、依存というのは簡単に逃れさせてはくれないものなのである。思うに、ふたりとも、この問題は永遠に続くだろうと思っていた。ヘザーも僕も、心の奥では、彼女はギャンブルから逃れることは決してできないだろうと思っていた。あれだけ努力していても、彼女はすぐにポーカーやカジノに戻ってしまうだろうと確信していた。端的に言って、ヘザーはやめられないのだった。 彼らがやってきた時、びっくりしたと言えたら良かったのにと思っている。実際は、驚いてはいなかった。避けられない結末だと思っていた。ヘザーは、狂気じみた額の金銭を、あの種の人間たちから借金していたのだった。連中に乱暴に引き連れられながら、ヘザーは懇願していた。必死に懇願していた。僕も声を上げ、彼らと戦おうとした。だが、彼らはいとも簡単に僕を跳ね飛ばした。 「何でもするから!」と僕は叫んだ。声がかすれていた。男がふたりヘザーを部屋から引きずり出すのを見ながら、頬を涙が伝うのを感じた。「どんなことでも! 何をしてほしいか言ってくれ!」 あの時、あの男たちが僕のことを無視していたら、僕はどうしただろうと思うことがある。警察に行ったかもしれないが、この街では、警察はあてにならないのが常識だった。だが、あの時、男たちは僕の訴えを無視しなかったのだった。多分、借金を取り戻す可能性を見つけたのだろうと思う。その点に関して、ヘザーでは役に立たないが、僕だったら役に立つかもしれないと。 ふたりの乱入者のうちのひとりが、唸り声をあげ、何かよく分からない反応を示し、僕の方を振り返り、そして僕の腕をつかんだのだった。ひっぱりあげるようにして僕を立たせ、そして外に待っていたバンに僕を引きずり込んだのだった。僕とヘザーを乗せ、バンが動き出す。ヘザーは僕から目を背けていた。僕は彼女をなだめようとした。すべてがうまくいくよと伝えようとした。でも彼女は恥や悔しさからか、何も聞いてくれなかった。数分後、バンが止まり、僕たちはある大邸宅へと案内された。そこに入ると、男たちは僕とヘザーを床にひざまずかせた。 さらに数分、その姿勢のままでいると、あの男が入ってきた。この男がすべてを仕切っている人物だとすぐに分かった。振る舞い方に独特の雰囲気があった。従わざるを得ない気持ちにさせる男だった。ハンサムではなかったが、その魅力は否定できなかった。パワフルな男と言えた。そして、彼は僕のことをじっと見つめ続けたのだった。その眼差しは、あまりにドキドキさせる眼差しだった。何かある種、称賛するような目つきだった。その時は、僕はそれをどう理解してよいか分からなかった。でも今は完全に理解している。 それから間もなくして、僕は、僕が10年かかっても稼げそうもない多額の借金をヘザーが抱えていたことを知った。ヘザーは、そのカネを捻出できなければ、完全に返済し終えるまで、売春宿で働かなければならないだろうと。ヘザーは泣き叫んで懇願したし、僕も同じことをしたが、男たちは無表情のまま、冷たい目で僕たちを見るだけだった。ただ、ボスと思われる例の男が僕にある提案をしたのだった。僕にヘザーの身代わりになることも可能だと言ったのだった。僕に彼の女になれと。プライベートな女に。そうなると、僕は自分の生活と男性性を失うことになるが、すべては許されることになると。ヘザーも自由になると。 僕はためらいすらしなかった。僕は立ち上がり、胸を張り、顎を突き出して誇らしげな姿勢になって言った。「それで彼女が安全になるなら、どんなことでもする」と。 そして、その通りになった。彼女も自由になった。2年間、女性化が進んだ。手術からホルモン摂取に至るまですべてが行われた。そして今は僕は彼の個人的な愛人となっている。そうする価値があったのだろうか? 理性的に考えたら、たぶん、答えは否定的だろう。だけど、論理は僕の決心とは何の関係もない。関係があるのは愛情だった。そして、愛というのは、時に、人に愚かなことをさせるものなのだと思う。
ifap_63_improvement 「ああ、ジャネット。何なの? あたしの部屋に突然入ってくるなんて、何か、そんなに大事なことがあったとでも言うの?」 とアーロンはヘッドフォンを降ろしながら言った。 「えーと……ちょっと何か着たらいいと思わないの?」 と彼の姉が目を逸らしながら言った。 アーロンは両手を腰に当てた。「イヤよ! ここはあたしの部屋。あたしは、裸のままでいたいと思ったら、そうするの。それが気に入らないなら、出ていけばいいじゃない? さあ、どうしたいの?」 「姉さんは、ただ……ただ、あんたに起きてることについて話をしたいだけ。ここのところ、あんたがすごく変わってしまったことについて……」 「神様に誓ってもいいわ、あたしには何の問題もないわ。何回、同じことを言わなきゃいけないの? あたしはあたし。完全に。もう、部屋から出て行ってよ!」 「でも、あんたは違うわ! 自分をよく見てみてよ、アーロン! あんたが、あれを聞くようになってから、どんどん……」 「ああ、また、その話? あたしが誰かに催眠術を掛けられているって話でしょ? あたしが何かに変えられようとしているって。何かって何? 女の子? 本気で言ってるの? もうちょっとマシなこと考えられないの?」 「でも、鏡を見てごらんなさいよ! あ、あんたの胸、大きくなっているじゃない。それに髪の毛も伸ばしちゃって。こともあろうに、この前なんか、ドレスを着て学校に行ったでしょ。どうして自分が変わってきているのが分からないの? どうして自分に起きていることが見えていないの?」 「まず第一に、ジャネット!」 とアーロンは咎める口調で言い始めた。「第一に、胸が膨らんできているのはホルモンのバランスが崩れているせいなの。お医者さんは、これはすぐに元に戻るって言ってるわ。それに髪の毛のこと? ねえ、今は何時代なのよ? 50年代? 男も時々髪の毛を伸ばした時代があるじゃない。それにドレスのことも。あれはボーイズ・ドレスって言うの、ジャネット! ファッションの一つなのよ」 「でも……」 「姉さんは、あたしがあの自助音声を聞くようになってからずっとあたしに突っかかってばかり。もう、うんざりしているわ。姉さん自身が何の目的も持たないからと言って、あたしまで持っていないと思うのはやめて。最近、あまり一緒になることがないから、姉さんがイラついているのは分かるけど、もう、姉さんに縛り付けられることは嫌なの。あたしは自分の人生を考えているところ。姉さんもそうすべきよ。だからもういいでしょ? あたしをひとりにしてよ、お願いだから」 「い、いいわ。分かった。姉さんには、あんたに分からせることはできないみたいね。姉さんの言ってることが分からない。でも、あんたは幸せそうだし。だから……」 「そうよ、あたしは幸せ。姉さんも幸せ。だから部屋から出て行って!」
ifap_63_probation 「ほら、やれよ。前にも俺に見せただろ?」とジョンが言った。 タイラーはうんざりした声で言った。「やりたくないって言ったろ? どうして、お前は、この件になるとそんなに頑固になってしまうんだ?」 「アダムがお前は男だって信じないからだよ」とジョンが答えた。「それって頭に来るだろ? あいつに見せてやればいいんだよ。自分は男だって証拠を見せてやればいいんだよ」 タイラーはため息をついた。彼は母親に無理やりスカートを履くようにさせられてから、ずっと、一種の余興であるかのように友達に振る舞われてきた。彼が現実の人間でないかのように扱われてきた。 「いいよ、分かったよ!」 とタイラーは紫色のドレスの裾をめくった。彼は下着を履くことを許されていない。したがって、彼の性別を示す証拠が丸見えになった。「これで嬉しい?」 「ああ、本当かよ!」 とそれを見つめながらアダムが言った。「本当に男だったんだ。何てことだよ。でも、お前……お前にはおっぱいがあるだろ。それにどう見てもお前は……」 「女の子みたいだ、って?」 とタイラーは続けた。「そこがポイントなんだと思う。これは母親が考えたことなんだ。最後に僕が逮捕された時、僕の母親は断固とした態度に出たんだ。こういう姿になるか、家から追い出されるか、どっちかにしろって。家から追い出されたら、僕は刑務所に行かなくちゃいけない。母親と一緒に暮らすというのが、執行猶予の条件だから」 「でも、お前の胸には……」 「ああ、おっぱいがある」 とタイラーは続けた。「そんなに大きくはないけど、確かにある。これも母親からのプレゼントさ。本物なんかじゃない。母親は、すごく値引きしてくれる医者と知り合いなんだ。執行猶予期間が明けたら、僕が望むなら、取り除くこともできるんだって」 「それにしても……」 「俺が言った通り、男だったろう?」 とジョンが割り込んだ。 「でも、それにしても、……これってすごく変だよ」とアダムは言った。「どうして、母親にこんなことをさせたんだ……どうしてこんな格好に……?」 「こうなるか刑務所かのどっちかだったから」とタイラーは答えた。「僕を見てくれ。この格好で刑務所に入ったら、生きて帰れないだろう? 絶対無理だ。ひどい状況だけど、この格好になるのがベストの選択だったんだ。それに、付け加えれば、これはそんなに悪いわけじゃないんだ。大半の時はね。実際、ちょっと気に入っている部分もあるんだ」 「気に入ってる?」 とアダムが訊いた。 「ああ、確かにお前、気に入ってるよな?」とジョンも言った。「でも、いつまでも、その姿のままでいるつもりはないんだろ?」 タイラーは肩をすくめた。「たぶん、このままでいるかと思う。でも、今はどうでもいい。何か決断をしなくちゃいけない時まで、まだ半年もあるから」
ifap_63_outside_looking_in 最初から知っていたと言えればどんなに良いだろうと思っている。これは全部間違いだったと。あたしは夫婦生活の破滅に至る道を進んでいたのだと。それを知っていたと言えたらいいのに。でも、あたしは、そんなことは言わなかったし、言えなかった。あたしは、能天気に、前方に待ち構えている最悪の事態に気づかないふりをしていた。 確かに最初はとてもワクワクすることのように思えた。特にあたしたちの性生活の状態を考えると興奮できることのように思えた。夫とあたしは愛し合っていた。高校時代からずっと一緒だったし、一緒になって後悔したことはまったくない。でも、多くの夫婦がそうであるように、あたしたちの性生活は薄味な感じになってきていた。想像力を掻き立てないというか、つまらないというか。 あたしたちが幸せでなかったと言っているのではない。その逆だ。セックスは良かった。すごくはなかったというだけ。冒険的なところがなかったというだけ。ただ、無難で、普通に良かったとということ。そして、あたしたちの性生活以外の生活も似たような感じになっていた。欲しいものはすべて手に入れていた。白い杭垣で囲まれた郊外の家。飼い犬。新車。良い職業。完璧な生活だった。 示唆はどこからともなく現れた。あるいは、少なくともそう思えた。今から考えると、実際は違っていたのだろうと思う。彼はずっと、ずっと前から計画していたのだ。多分、何年も前から。でも、当時は、あたしも、ちょっと変わっているけど面白そうに思ったのだった。あたしたちのエロティックなことについてのレパートリーを限界まで拡大する方法になると。あたしは警戒はしていたけれど、興奮もしていた。あたしたちのベッドに他の人間を招き入れるなんて、性的にとても危険なように思えた。でも、彼は強く求めたし、結局、あたしも同意したのだった。 最初の驚きは、その招き入れる人間として彼が選んだ人を見たときだった。あたしは、たいていの男の人と同じように、彼は女性を招き入れたいと思っているんだろうと思い込んでいた。そうなるだろうと心づもりはできていたし、あたしとしても、むしろ好ましいと思っていた。あたし自身は、性的な立ち位置を広げるために女性とするなんて試したことがなかったので、それは良い機会になるのではないかと思った。しかし、夫は違ったことを考えていたのだった。いや、彼の観点からすれば、あたしと同じ考え方をしていたと言うべきか。分からないけど。ともかく、彼があたしたちの性生活に加えようと連れてきた人は、強靭そうな大きな体をした逞しい男性だったのだ。 あの最初の時、夫はその男性の肌を触れることすらしなかった。とてもおどおどしているように見えた。ほとんど、可愛いと形容できるほどの様子だった。その日のことがすべて終わったとき、これで、この話はおしまいになるだろうとあたしは思った。でも、そうはならなかった。再び、同じことが起き、そして、また再び。結局、毎週のように繰り返されることになった。そして、それを繰り返すたびに、夫は大胆になっていった。 あたしは、夫と男性が初めてキスをするところを見たとき、何か様子が変だと気づいていたと思う。互いに唇をくっつけ、舌を絡ませあうのを見ながら、ふたりともどれだけ興奮しているか、容易に見て取れた。その間、あたしはというと、そばで椅子に座って、ふたりの様子を見ているだけ。ふたりからは忘れられた存在になっていた。夫が初めて他の男性にフェラチオをするのを見たときも、あたしは同じ状況だった。それに、彼があたしたちのパートナーのひとりにセックスされるのを見たときも。さらには、もうひとり新たな男性が加わって、夫がふたりの男性の間になって行為を受けているのを見たときも。後から考えると、あたしは単なる観察者になっていた。 そして、その頃から夫は変わり始めたのだった。最初は、はっきりと分かったわけではなかった。あたしのランジェリーがどこかにいってしまって見当たらないことがよくあった。その後、それは、しばらくすると元の場所に戻っているのだけど、かなり伸びて緩くなっているのだった。お化粧品も、普通より早くなくなるようになっていた。でも、あたしが、そういう断片的な情報をつなぎ合わせるようになったのは、夫が脚の体毛を剃り始めた時になってからだった。そして、その時、あたしは夫はすでにどこかに行ってしまい、元の夫ではなくなっていると知ったのだった。 それが2年前のこと。それ以来、夫はどんどん大胆になってきている。何も恐れなくなってきている。彼は自分の女性的な側面を隠そうとすることすらなくなっている。夫は、これは単にセックスの問題、妄想の一部にすぎないと言っている。だけど、あたしは真実を知っている。彼が何を本当に欲しているかを知っている。夫が男性の人格でいる時ですら、その歩き方、話し方からそれが分かる。夫があたしと別れるのは時間の問題だと思っている。あたしの中には、それを歓迎している部分がある。そうなった方が彼のためだろうと思うから。その方が彼は幸せだろうと思うから。彼がいない人生が恐ろしいものでないなら、あたし自分から断ち切るだろう。でも、あたしにはそれができない。しようとも思わない。 そういうわけで、夫が本当の自分自身になりたいと思い、自分が望む人生を生きる勇気を奮い起こすまでは、あたしは、自分の夫婦生活であるのに部外者であり傍観するだけという今の状態で満足しなければならないのだろう。
ifap_63_out_of_the_bag 「一体、どういうことだ?」 と馴染みのある声がした。兄のトーマスの声だった。僕は顔を上げ、兄が純粋に恐怖を感じてる顔をしてドアのところに立っているのを見た。「お、俺は……いったいこれは?」 僕は何を言ってよいか分からなかった。兄が僕の部屋に突然入ってきて、僕が彼女と一緒にベッドにいるところを見るなんて、一番予想していなかったことだから。もちろん、それはそれで充分恥ずかしいことだけど、最悪なのはその点じゃない。それくらいなら、笑い飛ばせていたかもしれない。兄が言葉に詰まるほど驚いたのは、その点じゃなかった。 「せ、説明するよ!」 と呼吸を乱しながら言った。とりあえず、その言葉が口をついて出ていた。僕は毛布をつかんで、ある程度の上品さだけは守ろうとした。でも、上品さにについて言えば、すでに、かなりダメージを与えてしまっていた。兄は僕が隠し続けていたものを見てしまっていた。「これは、見た通りの物とは違うんだ!」 それは嘘だった。実際は、まったく見た通りの物だった。ほぼこの2年間、僕はひそかにホルモンを摂取していて、それに応じて僕のカラダは変化していた。もちろん僕は隠し続けてきた。ジャネットを除くと、僕がトランスジェンダーであることは誰も知らなかった。 「じゃ、じゃあ、何なんだ……」 兄は目を離すことができず、ずっと見つめたままだった。僕はそんな兄をとがめることはしなかった。兄の心の中でギアが変わるのが見て取れた。僕の長い髪の毛、滑らかな肌、だぶだぶのスウェット・スーツを着ていても完全には隠しきれていなかった僕の体の線。それらすべてが突然、兄の認識の中でこれまでとは異なった意味を持った瞬間だった。 「ちょっと、トミー?」とジャネットが口をはさんだ。彼女は裸体を隠そうともしなかった。「レズリーは女の子なの。あなたはこの子を自分の弟だと思っているでしょうけど、彼女はずっとずっと前から女の子になっているの。こんなふうに事実を知るとは思っていなかったでしょうけど、あなたが知ってよかったと思うわ。バンドエイドで傷口をふさぐように取り繕っても意味がないわ。これが彼女の本当の姿なの。それが嫌なら、とっとと地獄に落ちちゃいなさいよ」 「ジャネット……」 「いいのよ、レズリー。あたし、もう、あなたがコソコソしているのにうんざりしているの。あなたが隠さなくちゃいけないと思っていることにうんざりしている。そんな必要ないのよ。あなたは、自分自身のあるがままの姿でいることに謝る必要なんてないのよ」 「俺は……ああ……俺、い、行かなくちゃ」 とトーマスは言い、言うと同時に走るようにして立ち去った。 「予想していたよりずっと良い結果になったわ」とジャネットが言った。 「本当? ジャネットは、どんなふうになると予想していたの?」 「もっと大声で怒鳴りあうかと。ひどいことを言いあったり。分かるでしょ? よくあることよ。こうなったことは良かったと思う。お兄さんも知ってるべきだもの」 僕は彼女ほど確信はしていなかったけれど、でも、それはどうしようもない。とにかく、とうとう隠れていた猫がバッグから飛び出した(事実が明るみにでた)のだ。
セクシーにはジェンダーは関係ない。
ifap_63_my_world おカネのためにやってるけど、これは嫌いなのって言えたらいいんだよねえ。売春婦が善良な人間だなんてありえない。そうでしょ? 少なくとも、そういうふうに教わってきているし。善と悪の意味を定義しなおそうってこと、知ってはいるけど、あたしは、どっちと言われたら、がっつり悪の方に分類されるって感じがぬぐい切れないの。こういうの気にしない人もいるけど、あたしは気にする。本当に。恥の気持ちを忘れたくないもの。それに社会の許しの気持ちって言うか寛容さも経験したいと思っているもの。でも、そんな寛容ないのよ。少なくとも今までは。ただ、彼があたしの一番のファンになってくれてからは違うかな。 彼があたしが誰か分かっていないのは知っている。ありえないわよね? あたしは前とは本当に、本当に変わっているから。でも、変貌したあたしを知っても、彼、そんなに驚かないと思う。そもそも、あたしが10歳のころから、彼はあたしのことをちゃんと見ていなかったし。あたしのこと、実際、知らないんじゃないかしら。知りたいとも思っていなかったんじゃないかと。 でも、あたしは彼のことを知っている。この10年でも、彼はそんなに変わっていなかった。お母さんを置き去りにして家を出て行った男。今でも、あの風貌が残っている。あたしのお父さん。 あのホテルの一室で、関係を終わらせるべきだったのかもしれない。そうすることもできた。でも、すごくたくさんおカネを出すって言うし、それにあたしにも、この関係どこまで行くのかなって、ちょっと病的に好奇心が勝るところもあった。最後には、彼はあたしのこと認識するかな? フェラをすると分かるかな? もっと強く突いてって叫び声をあげているときに分かるかな? そんな好奇心もあったんだけど、彼は分かってくれなかった。まあ、彼にとっては、あたしはただのシーメールの娼婦のひとりに過ぎなかったんだろうって。 そして、あれから1週間後の今、あたしはまだ彼に写真を送っている。彼もすでにもう一度あたしに会いたいって予約を入れているし、あたしも同意する気持ちを伝えていた。なんか、後ろめたい気持ちがある。本当に。でも、そういう一種のモラルに引っかかる部分は、すでにあたしの心の中では死んでいる。そういうのを捨てたのはずいぶん前。あたしが生きてる世界では、そんな種類の道徳心は長生きできないものなの。
ifap_63_my_fault プリシラがあたしたちの横に立っていた。両手を腰に当てて、あたしたちを見下ろしている。猫なで声であたしたちを励ましている。「そうよ、そう! どれだけ気持ちいいのか、ちゃんと私に見せるのよ!」 あたしはヨガリ声をあげた。快感から出した部分はあるけど、大半は、プリシラに聞かせるため。プリシラは、あたしが自分の役割に十分に心から安住していることをちゃんと聞こえる形で知らせることを求めていた。そうしないと、彼女はあたしが本気になっていないのではないかと疑うかもしれなかった。あたしは、プリシラが不機嫌になるのは耐えられない。だから、あたしは、腰を動かし、その動きで双頭ディルドがあたしの奥深くに来るようにさせながら、たった一つの単純なメッセージを伝えるためにありとあらゆることをする。そのメッセージとは、いまのあたしが、あたしがなりたかった存在そのものになっているということであり、今あたしがしていることは、まさにあたしがしたいことだということなのである。 それは嘘だった。あたしは今の自分を憎んでいる。そして、その憎しみの度合いは、あたしが愛する女性である妻のレイチェルがこの憎むべき女にあたしと同じように罠にかけられてしまったという事実をあたしが憎んでいる、その憎しみの度合いと同じだった。あたしもレイチェルも、プリシラのおもちゃになってしまっている。呆れかえるほどの慰み物、好きなように操って楽しむ玩具。 こうなったのはあたしのせいだった。この状況すべて、あたしの数多くの過ちの結果だった。当時、どんな結果になるかを知っていたら、もっと注意を払っていたことだろう。プリシラとの関係で、こんな状況になるまで付き合うこともなかったことだろう。だけど、それは後から考えたこと。今の事実からすれば明白だけど、それを知ったからと言って、状況が改善することはほとんどない。もう、壊されたものは直らない。あたしが間違いを犯した。そして今、あたしはその結果を甘んじて受けなければならない。 始まりは、プリシラと最初に寝たときに始まったのだと思う。その時ですら、あたしは過ちを犯していると思っていた。なんだかんだ言っても、プリシラはストリッパーだったし、最後は良い結末になるなんてありえないと知っていた。だけど、彼女には抗えないというのも知っていた。プリシラはセクシーで行為に積極的な人だったし、あたしも、自制心がある人と思われたことは一度もなかった。当時、あたしは最悪の事態になったときのシナリオを頭に思い浮かべていた。それは、妻のレイチェルにバレること。ふたりは口論になる。そしてレイチェルが家を出ていき、それであたし自身は落ち込んでおしまいになると。それが恐ろしい結果であるのは確かだけど、理解できるケースだった。そして、そういうリスクを知りつつ、あたしは喜んでプリシラと付き合ったのだった。だけど、あたしは、人の心に巧みに入り込むプリシラの能力のことを計算に入れていなかった。自分自身が考えもしなかったことを人にさせる、あの能力。妙な魅力がある人なのだった。あたしならあり得ないと思うようなレベルのコントロールを実行できる人なのだった。 プリシラと付き合い始めてすぐに、彼女の強い求めで、あたしは体毛を剃るようになった。髪の毛も伸ばし始めた。次にお化粧。そしてダイエット。ホルモン。何が起きてるかちゃんと見えていた。自分がどんな姿に変わっていくのかちゃんと理解していた。だけど、やめられなかった。プリシラはあたしに指示を与えるだけなのに、あたしは、文句を言うことすらできなかった。というか、自分から、そうしたかった。そうしたい気持ちで切実だった。髪を染めたとき、仕事から解雇された。あたしが急に、しかもこんなに過激に変化し始めたことが理解できないと、友達もあたしから離れていった。あたしの家族もあたしが女性の服装を着始めたら、あたしと疎遠になっていった。 でも、それらすべて、特に問題とは思っていなかった。妻のレイチェルがいる限りは何でもなかった。彼女はあたしにとってすべてと言える存在。そのレイチェルが涙まじりに、もう我慢できないのと言ってきた時、離婚したいと言ってきた時、あたしはプリシラのもとに相談に行った。あたしたち夫婦の間に入って仲裁してほしいと頼んだ。プリシラの不思議な能力の源は分からないけど、レイチェルを元の気持ちに戻すことができる人と言えば、プリシラだろうと思ったのだった。プリシラがしぶしぶ同意してくれた時、あたしは嬉しさに死ぬかもと思ったほどだった。これでレイチェルとの夫婦生活は救われると。 そうはならなかった。むしろ、妻をあたしがいた地獄のような状況に引きずり込んだだけだった。それに、レイチェルもあたしと同じように、ほとんど、抵抗らしい抵抗を示さなかった。程なくして、あたしもレイチェルも、プリシラの事実上の奴隷になっていた。レイチェルもあたしも抵抗できなかった。プリシラに豊胸手術を受けるよう強く説得された時も、反論しようとする気も起きなかった。名前を変えるように言われた時も、同じだった。所有するすべての財産を彼女に委託するときも、あたしもレイチェルも、喜んでサインしていた。プリシラを喜ばそうと、互いに競い合っていたところもあった。 それがおおよそ1年前。その時から今まで、あたしは、そもそも男であるということはどういうことなのかを、ほぼ、忘れている。たいていは、それで問題ないし、思い出したいとも思っていない。むしろ、思い出せないといいのにと思っている。でも、なぜか、いつも、心の奥底にひとつの簡潔な思いが浮かんでる。それは、「すべてあたしのせい」という思い。「すべてあたしのせいで、それをあたしには決して変えることができない」という思い。
ifap_63_an_example マーカスは元の上司からどうしても目が離せなかった。彼の元上司はこの街で最も権力のある人物のひとりだった。「し、信じられない。どう見ても、まるで……」と彼はつぶやいた。 「自分がどう見えているかは知ってるわよ」 と元地方検察官のルーカス・グレースは言った。「自分がどんな人間になっているかも」 「で、でも……」 「そして、それはあんたのせい」とルーカスは続けた。「あんたが自分自身にどう言ってるのかは知らない。毎晩、自分自身にどう言い含めて納得し眠りについているのかも知らない。だけど、私はあんたが何をしたかは知っている。あんた自身の行いが理由で私はここに来た。そのことも知っている」 「分からない」とマーカスは声を震わせた。「どうしても、分からない。あいつらが……」 「あんたは、あいつらが私を殺したものだと思っているんでしょ。それが都合がよかったものね? 違う? それで、夜も安心して眠れると、そう思ったんでしょ? はっ! だけど、これは……」 とルーカスは自分の左右の乳房を握って見せた。「これは一線を越えてる。そう思わない?」 「あ、あいつらは、あ、あなたに手を引いてもらいたかっただけかと……」とマーカスは言った。「あなたを脅かしたかっただけだと。事情を察してもらおうとしていたと……」 ルーカスは笑い出した。かすれた笑い声だった。「ふん、事情ねえ。それって笑える。もっと言えば、あんたが犯罪者どもに寝返るのが理にかなっていると思ったこと自体、悲しいわ。罪人どもに寝返って、わいろを受け取って、脅迫に屈服する。それが事情ってやつなの? マーカス、あんたはこの世界を悪くしている存在よ。あんたはそれを自覚してるのよね? 本当は?」 「でも、ルーカス、俺は……」 「私はもはやルーカスではないわ。クラブでは、私は今はラティーシャとかダイアモンドだわ」 「あ、知らなかったから……」 「連中が私をこんな姿にして、見せしめにしたことを知らなかったかもしれないわね。あいつらが私に手術を受けさせたことも、ホルモンを取らせたことも、ありとあらゆることをさせたことも。全部、知らなかったかもしれない。そもそも、知りたくなかったことでしょ、マーカス? だけど、あんたは、私に何か起きるだろうとは知っていた。あんたは、あいつらにカイラの居場所を教えたその瞬間、私の運命を決定づけたのよ。私はカイラのことを連中に知られたくはなかった。それは許せなかった。私はカイラの本当の生活は知らなかったかもしれない。だけどカイラは私の娘なの。娘を安全に保つためなら、私は何でもする」 「ど、どうすればいい? 俺に何かできることがないか? どうすれば、この償いができる?」 「償い?」 ラティーシャが訊き返した。「それは無理。だけど、あんたがいま気にしていることのうち、一番、楽そうなのが、その償いってやつなんでしょ。いい? マーカス。あんたはあの昇進を受諾するべきじゃなかったのよ。いま、あんた、ギャングたちに強硬な姿勢をとってるわね? あんた、罪の意識から、あんな強硬な姿勢をとってるんじゃないの? 連中への追求の激しさと言ったら、殊勝なことと言いたくなるほど。だが、私と同様、あんたにも弱点がある。コネチカットに住んでるお前の母親とか。LAにいる妹とか。いとことか。連中にはそいつらの居場所を突き止められる。そして、散々いたぶって、殺すことになるでしょうね。あんたが見せしめになるのに同意したら話は別だけど。あんたが私のようになるなら、話は別だけど」
ifap_63_a_man_from_the_past 「いやぁ、君、かわいいねぇ」 男の声には、あたしが彼を無視できないのを自覚しているような自信にあふれていた。「こっちに来て、おじさんの膝の上に座ってみないかな?」 彼は、あたしが誰か認識していない。彼には認識しようがないだろう。最後に会った時から何年も経て、あたしがどれだけ変わったことか。彼には、自分が呼び出したシーメールの娼婦と昔のあたしとを結び付けることはありえないだろう。あたし自身も、これは偶然なのだと自分に言い聞かせていた。 あたしは彼に近づいた。自分が素っ裸だということを嫌というほど感じる。彼が、元のあたしのことを知って、今のあたしを見る。それだけは絶対いやだ。あたしは、あの昔の自分を忘れるため、以前の自分から離れるため、できることをすべてやってきた。すべてを捨ててきたし、すべての人とも断絶してきた。すべて、過去の自分と直面せずにすむよう願って。なのに、今、あたしの過去そのものが目の前にいる。椅子に座って、あたしのカラダをいやらしい目で舐めまわすように見ている。ここから逃げることもできない。 彼の膝の上に座った。猫なで声で言った。「おじさん? あたしに何をしてほしいの? あたし、とっても悪い娘だった?」 「そうだな、おじさんに話してくれないかな。どうしてお前は私を殺そうとしたのか? リック?」 冷たく感情のない声だった。 「な、なに?」 あたしはつぶやき、腰を上げようとした。でも、彼はツタで絡みつくようにあたしの腰を抱き押さえた。丸々とした肉付きの両手があたしの柔肌に食い込んでいた。「り、リックって誰のこと?」 「無駄な話はやめろ。お前が誰か、知ってるんだよ。5年前、お前は死にかかっていた俺を放置して逃げた。そのわけを知りたいんだよ」 「あ、あたしは……」 よい言い訳を考えようと、口ごもった。「別に…何と言うか…」 あたしを抱く彼の腕にさらに力が入った。その強さに、思わず、あたしは悲鳴を上げた。「ご、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい、マック。ああするつもりはなかったの……」 「どうしてだ?」 マックは怒鳴り声をあげた。 「あ、あなたが死んだと思って」 あの日のことを思い出していた。あたしとマックは仲間だった。親友だった。そして、あの銀行には人は誰もいないはずだった。だけど、実際は、そうではなく、急速に悪い展開になっていき、マックは複数、銃弾を撃ち込まれ、血を流して歩道に倒れてしまう結果になったのだった。「あたしは逃げたわ。全部持って、走り続けた」 単純化しすぎた話だったけれど、嘘ではなかった。あたしは逃げ続けた。しかも、単に逃げる以上のことをたくさん行った。自分の背後には裏切りの道の跡が続いてると感じていたし、何十人もの非常に危険な人間たちがあたしのことを追っていると感じていたので、あたしは、身体を変えたのだった。何か他の存在になったのだった。自分のアイデンティティも、男であるということ自体も捨て去った。すべて自分の過去を消すためだった。そして、しばらくの間は、それはうまくいっていたのである。あの、マックがコールガールとしてあたしを呼ぶまでは。 「お前は逃げるべきじゃなかったのだよ」 マックは低い声で言った。その感情は読み取れなかった。「俺を助けるべきだったんだ」 「わ、わかってるわ。本当にごめんなさい、マック。本当に、本当に……」 マックが返事しないので、訊いてみた。「それで、これから、どうすれば?」 「今夜、これから、お前が俺に償わなければならないことをしっかりやってもらう」と彼は言った。「そのあと、残ってるカネがあるところに俺を連れていけ。娼婦として働いてるところを見ると、あまり残ってねえんだろう。だが、俺は全部いただく。その後は、目にした限りのウイスキーを買い込んで、それに溺れることにするつもりだ。そして、お前を見つけたことを忘れるつもりだよ」
ifap_63_a_father's_mistake 「あ、あたし、よくわからないの……」 彼の前に立ったまま、私はつぶやいた。裸になっているあたし。体をさらけ出している。後ずさりし、後ろの鉄格子に背中が当たる。かつらの長い髪の毛が敏感な乳首をくすぐっている。「心の準備ができてるのか、分からないの……」 「お前が分かってようが、分からないだろうが、関係ないんだよ」 と彼は言った。口角を歪め、いやらしい笑みを浮かべている。「これは夢でも何でもないんだよ。俺はカネを払って、お前をここに呼んだ。そのカネ、無駄にするつもりはねえんんだ」 「だ、だから、あなたのせいで、あたしはあそこから移された……」 彼はあたしの言葉を遮った。「俺がお前を呼んだんだ。もっと正確に言えば、お前の親父が呼んだようなもんだな。お前の親父は俺の邪魔ばかりした。俺をバカにしやがった。だから、あいつのひとり息子が逮捕されたと知って、俺はお前がここに来るよう仕向けたわけさ。ほら、さっさとひざまずけ、メス豚!」 突然、すべてが分かった。あの裁判。不当に僕をとがめたあの裁判。裁判官も、あんなに厳しい判決をした。そして、最大限に安全な刑務所から、この刑務所への移送。そのすべてが、僕の目の前にいる男が仕組んだことだったのだ。そして、それはすべて、僕の父が何か知らないけど彼に良からぬことをしたことによると。 驚くことではなかった。父は良い人間ではなかったし、数多くの危険な人々の邪魔をしてきた。そういう人たちの誰かが、僕を使って父に復讐をするのは、十分に予想できていたことだった。新しく同室となったこの男が、こんなに延々と復讐について語ってることからすると、この男はその世界ではよっぽど権力を持っていた男なのだろうと思った。 「あ、あたしは、トラブルはいやなんです。ただ、……保護してほしいだけ」 「保護だと?」 男はズボンのベルトを緩めながら、かすれた笑い声を立てた。「お前は、このムショの全室を次々に渡り歩くことになるだろうな。2年もすれば、尻にちんぽを入れられてなければ、何をしていいかすら分からなくなるだろうぜ。しかも、お前にはそれを防ぐ方法が何一つないんだよ」
ifap_63_a_big_day 「ほら、勇気を出して!」 とナンシーは叫んだ。フットボール・チームのキャプテンである。彼女は、女の子にしても背が低い方だが、筋肉がついた逞しい腕で袖の生地がパンパンにはちきれそうだ。「やればいいのよ。それだけ。子供みたいにならないで」 いつものタンクトップ(この時は紫色)とぴちぴちのジーンズとブーツ姿のレズリーはためらった。彼は、いつも、いま彼に向けられているようなこの種の注目を浴びることを避けてきた。どう反応してよいか分からなかった。 「やろうよ」とカイルが囁いた。レズリーは親友であるカイルをちらりと見た。彼は今トラックにもたれかかっている。カイルも十分可愛い顔をしていた。ブロンドで、女の子たちが大騒ぎするようなタイプの体つきをしている。でも彼の顔には必死の表情が読み取れた。「僕たちには、これはチャンスなんだよ!」との表情。 何のチャンスなのだろうか? レズリーは、どうしても、ナンシーのせっかちな要求に従ったらどんな結果になるのだろうと考えてしまうのだった。もちろん、カイルは、それに従えば人気者になる切符を手に入れることになると期待している。チアリーダーたちと仲良く遊びまわったり、フットボールの選手たちとデートしたり、参加することなど夢にも思っていなかったタイプのパーティに出たりといった楽しい日々が待っていると。でも、レズリーは彼ほどは納得していなかった。色きちがいとレッテルを張られるのがオチじゃないかと。淫乱とか。お手軽な人とか。 レズリーは、必死に懇願する目で見つめるカイルから目をそむけた。でも、そんなにひどいことになるだろうか? 他のたいていの男の子たち同様、彼も、女の子とデートしたり、彼女のストラップオンをしゃぶったり、それを体の中に入れられ、その感触を味わったりするのはどんな感じなんだろうと思ったものだった。それを夢見てきたと言ってもよい。いつでも犯してもらうためにいるという評判が立つのは、そんなに恐ろしいことだろうか? ひょっとすると、それで、今の陰鬱とした状況から脱することができるかもしれない。ひょっとすると、ようやく、バージンの状態から脱出できるかもしれない。 レズリーは決心した。それをしたら何か利点があるかもしれない。そのような良いことが理想化され、彼の心の中、どんどん膨らんでいった。彼はうなづいた。「よし、やってみよう。人生は一度だけなんだろ?」 カイルはパッと顔を明るくさせた。そしてふたり一緒になって、前を向いた。レズリーはオーバーオールのボタンを外していると、隣から、カイルがジッパーを下す音が聞こえた。サスペンダーを肩から降ろし、前の生地がめくれ落ちる。心臓がどきどき鳴っていた。両手を腰バンドにひっかけ、引き下げた。ぶら下がる性器の根元の部分が露出する。 ナンシー、それに彼女と同じ心根の女友達の一群が、一斉に喝采をあげ、大笑いした。ずんぐり太ったフットボール選手が言った。「お前、とんでもねえスケベなんだな!」 レズリーは頬が火照るのを感じた。でも、自分がその選手に気があることを知らせて、彼をいい気にさせる選択は取らなかった。代わりに、作り笑いをして、「ほんと?」と返事した。その声には興奮と恥ずかしさのふたつが混じった声で、少し震えていた。「そ、そうなの?」 ナンシーは、小首をかしげ、口元を歪めてニヤリと笑った。そして、両手でレズリーの平らな腹部のつるつるした肌を撫でまわした。荒々しく、ざらざらした手で撫でまわる。レズリーはナンシーに触られ、背筋にゾクゾクと妙な感覚が走るのを感じた。ナンシーはレズリーに顔を寄せ、切羽詰まった感じで囁いた。「授業の後、観客席の裏にあたしに会いに来て。あんたがどれだけエッチなのか私に見せてよ」 レズリーは反応しようとしたけど、タイミングよくチャイムが鳴り、思いが中断されてしまった。取り囲んでいたみんなは、いまだに笑いながらも、教室へと戻っていった。後に続いて歩くレズリーは気もそぞろで、信じられないほど興奮していたのだった。
ifap_63_male_wife 股間にストラップで装着したゴム製のペニスを握りながら彼の後ろに立ち、彼のアヌスを見つめる。小さなペニスがぶら下がっている。ふにゃふにゃで役には立たず、どこをどう見ても男らしさのかけらもない。どこを見ても睾丸は見つからない。概して言えば、この人には私が結婚した男性の面影がひとかけらもない。もちろん、それこそ、重要な点。 私が彼を選んだのは、まさに、彼なら私に操作できると思ったから。愛情はあったと思う。どこかに確かにあった。それに、彼のことが好きだったのは確かだ。でも、「好き」ということが、人間として彼に純粋な愛情を持っていることから指示される感情なのか、彼なら私は好きなように変えることができると分かった興奮から出てきた感情なのか、私には区別ができていない。 彼と出会ったとき、彼は恥ずかしがり屋で内向的で、驚くほど、うぶな人だった。それゆえ、いっそう、彼をコントロールすることが簡単になった。そういうことをするには、セックスはとても便利なツールであり、私は容赦なくセックスを利用した。私とのセックスは、獲得すべきご褒美とした。逆に、セックスを拒絶することで、懲罰とした。ほどなくして、私が望むところに彼を誘導することができるようになった。彼には自分の意思がない。ただ単にご褒美のセックスをさせてもらうことだけを欲している人だった。 でも、私は結婚するまで、本格的な行動は起こさなかった。彼を、私が構築した社会システムに囚われた存在にすること。それが私の望みだった。彼を私の意思に縛られた状態にするのが私の望み。私以外の人に顔を向けることは許したくなかった。私が言うことに従う他に選択肢がない、そういう状態にしたい。そして、私の作戦は実に完璧に成功したのだった。 彼を縛り付けた最初は、結婚式の夜。彼は初夜の営みを待ち望み、すっかり興奮していた。私が股間につけていたストラップオンを見て彼が文字通り口をあんぐり開けたのを覚えている。「寝室では、あなたは私の妻になるのよ」と言ったが、彼はほとんど文句らしい文句を言わなかった。彼はおどおどと従順に役割に従ったのだった。まさに私が計画した通り。 それがおおよそ1年前のこと。それ以来、私は彼に抗男性ホルモンを取るようにさせてきている。また、標準的な女性の服装を着るよう、強制した。家にいるときは、ハイヒールを履き、ランジェリーを身に着け、化粧もするようにさせている。 私の計画は完璧に達成されている。そして私は以前から欲していたものを手にしているのだ。完璧な男性妻である。
ifap_63_learning_to_live_with_it 「ねえ? えーっと、あたし思うんだけど……あたしの…あたしの問題について、病院に行くべきかなって思うの」 「そう? フェリス先生に予約入れる? 彼女ならあなたのためになるよう何でも解決してくれると思うわ」 「あたし……なんて言うか……別のお医者さんのところに行くのはどうかなあ? フェリス先生が嫌いというわけじゃないの。ただ、あの先生、精神科医でしょ? だとすると、あたしの……あたしのこの種の問題は扱えないと思うの」 「まず第一は、その問題の呼び方からね。それ勃起不全というの。でも、たいした問題じゃないわよ。第二に、フェリス先生はあなたにとって完璧に適切な先生よ。あなたの年だと、それはたぶん、精神的な原因。そして最後に、もうそろそろ彼女を信頼してもよい頃だと思わない? あなたのために、そして私たち夫婦のために、フェリス先生がどれだけのことをしてくれたことか」 「あ、あたし、別に……」 「それとも何なの? 先生があなたの両性具有状態についてどれだけ助けになっていただいたことか、忘れちゃったとか? 衣類の点で殻に閉じこもっていたあなたを先生が救い出してくれたことを忘れちゃっとか?」 「で、でも、あたし……あたし、女の子みたいになっているじゃない! それに、もう、全然、勃起できなくなっている! さらには、職場の男の人たちったら……もう、みんな、あたしが昔はどんな容姿をしていたか覚えていないのよ……。何と言うか、あの人たち、あたしに色目を使い始めているの! このあたしによ、カレン。それに加えて、あたしたちの性生活がどれだけ変わってしまったかを考えると……」 「何もかも、良い方向に向かっているわ、あなた。だったら、むしろ自分から進んで女の子ようになったらどう? 私はあるがままのあなたが好きなの。今のあなたが好きなの。それに、職場のバカ男があなたのことを好きになったからといって、誰が気にするのよ。それを言うなら、私にも、私に言い寄ってくる男たちが職場にいるわよ。でも、あなた、私がそのことで愚痴を言うところ聞いたことないでしょう? 聞かれてもいないけど、あえて言えば、時々、あなたもそんな男たちにお返しのお色気を振りまいてみるといいと思うわ。仕事が円滑になるわよ。 で、でも、あたしは…… それに性生活についていえば、今朝のあなたは不満を漏らしていなかったと思うけど? 昨日の夜も。いや、おとといの夜も。事実に直面して、あなた。あなた、私がストラップオンでするのを喜んでいたじゃない。それ、いいのよ。私も大好きだから」 「でも……」 「でも、何なの? フェリス先生に予約を取るわね。多分、先生はあなたの些細な問題を解決する手伝いをしてくれるでしょう。そうなったら、それはそれで万歳。そうならなかったら、その時は、その問題は、これから私たちふたりともずっと付き合っていかなければならない問題がもうひとつ増えただけだと思うのは、どう?」
ifap_63_labels 「分かってると思うけど、これ別に意味があるわけじゃないからね。いい?」 とライリーは言った。「あたしは…あなたも知ってるように…あたしはゲイとかそういうのじゃないから」 「確かに、違うよな」 とケビンはニヤニヤしながら答えた。 ライリーは彼の足を踏みつけた。「違うんだから!」 だが、ライリー自身、心の中では、この発言はバカっぽいように思えた。この1年、彼は二重生活を送ってきた。一方では、彼はちょっとなよなよしているがごく普通の若い会計士。だが彼の生活にかかわる誰一人として、彼がもう一方の顔を持っていることを疑う人はいなかった。彼は、ホルモンを取り始め、自分の時間の大半を女の子の格好をして過ごしていたのだ。 だが、彼はトランスジェンダーではない。正確には異なるのだ。トランスジェンダーなら、むしろ心の救いになっていたことだろう。彼は、自分が間違った肉体のもとに生まれてしまったと思いつつ大きくなったわけではなかった。彼は自分は女だとは思っていない。ホルモンや衣類や身のこなし方。それらすべてたった一つの目的のために行われてきた。その目的とは男を得るという目的である。 論理は極めて単純だった。男は女が好きなのである。ライリーは男性とのセックスが好きだった。それゆえ、もし自分が女性のような外見を持てば、好きな相手と一緒に寝るチャンスがはるかに増えると思ったわけである。 それはまったく理屈が通っていた。ただ一つ、彼が自分自身をゲイと思っていないという事実を除いては。彼は男性にセックスされる感覚が大好きなだけであった。愛とか親密さとかとは関係がなかったし、セックス以外の点では男と付き合いたいという気持ちはまったくないのは確かだった。純粋に単純な快楽だけ。そして彼の心の中では、この区別こそが、自分のセクシュアリティは「ストレート」側にあると強く主張するのに十分な根拠のように彼には思えていたのである。 「でも、ちょっといいかな? 俺は君と議論する気はないんだけどさ」とケビンが言った。「だけど、君みたいな人がだよ、俺みたいな人とセックスをするってわけだろ? 人はそれをゲイと呼ぶかもしれないし、そうは呼ばないかもしれない。でも、そんなこと誰が気にするかって思うよ。そんなのただのレッテルだろ。そんな区別、誰が必要としてるのかって」 「レッテルねえ」 ライリーはつぶやき、顔に小さく笑みを浮かべた。「そうよね。誰がレッテルを必要としてるのかってことだよね。その考え方、あたし好きよ」
ifap_63_IT'S_OK あたしのこと欲しいなら、いいわよ。
ifap_63_if_you_loved_me
メリッサ、これ、うまくいかないよ。誰も僕のことを君だなんて信じないと思う。僕は全然……
あなた、別に私のように見える必要はないわ。女の子のように見えればいいの。私があげた学生証、ちゃんと持ってるわよね?
でも、僕は完全じゃないし。3秒以上僕のことを見たら、それでおしまいだよ。僕らふたりとも退学になってしまうよ。
あなたが私の代わりにテストを受けてくれなかったら、私は落第するのよ。ケイデン、そうなっちゃ困るの。ほんとに困るんだから。
そんなにひどいことにはならないよ。君のご両親に会ったけれど、……
そんなにひどいことなのよ。いいから、私のことを信じて。いい? これしか道がないんだから。
どうなのかなあ……
もし私のことを愛しているなら、言うことを聞いてちょうだい。大丈夫、うまくいくって約束するから。完璧にうまくいくわ。あなたは着飾って、テストを受けて、そして、いつものあなたのように1番を取る。そうすれば、私たちは一緒にいられるわ。私と一緒にいたいんでしょ? 違うの?
でも……
でも、私が落第して退学になったら、地元に帰らなくちゃいけないくなるわ。そうしたら一緒にいられなくなるのよ? 私のこと好きなんでしょ? 私の彼氏でいたいんでしょ?
もちろんだけど……
だったら、やってよ。やってくれるわよね? あなたなら、どんなことでもしてくれると思ってるんだから。
ぼ、僕は……いいよ、分かった。やるよ。
ifap_63_hazing
僕は女の子じゃない、女の子じゃない、本当に女の子じゃない
僕は何度も呪文を唱え続けた。今の状況は一時的なものだと自分を納得させようとしていた。もうすぐ、僕は男子学生社交部のメンバーになれる。呪文を唱えれば、この新入生いじめは気にせずに済むと。
「スカートをめくれ、淫乱」とハリソンが言った。社交クラブの部長だ。彼はスマホを掲げた。すでに何十枚も写真を撮っている。今後ももっと撮るだろう。「お前がちんぽと呼んでる小さいヤツをこっちに見せろよ。それに、笑顔も絶やさないようにな。こうなることを望んでいたんだろ、違うか? メンバーになることをよ? こうなるように、お前はお願いしたんだろ」
それは本当だった。僕はお願いした。第一次選考で通らなかった僕は、彼らに、メンバーにしてくれるなら何でもしますと言った。僕は何より社交クラブに入ることを望んでいた。そして、驚いたことに、僕の嘆願が通ったのだった。彼らは妥協して、入会誓約者にしてくれると言ったのだった。ただ、ひとつ条件があった。ひとセメスターの間、女の子として過ごすことという条件である。
拒否すべきだったとは分かっている。実際、拒否しそうになったほど。でも、それは選択肢にはないということを分かってほしい。僕はどうしてもあの社交クラブのメンバーにならなければならなかったのだ。父の昔の社交クラブに引っかかることができなかったら、父は決して僕に話を最後までさえなかっただろう。結局、僕は了解したのだった。
最初、それは何かジョークのようなものだろうと思っていた。ありがちの侮辱だろうと。普通の新入生いじめだろうと。でも、彼らが女子学生社交クラブの女の子たちを呼んできて、僕の身支度をさせ、その結果を見たとき、これはジョークでも何でもないと理解し始めた。なかなかの見栄えだったのだ。もっと言えば、普通の女子よりずっと可愛かった。僕は飛び切りのセクシー女子学生になっていたのだ。
時々、もし僕が女物のドレスを着た奇怪な小人のように見えていたら、彼らは全部あきらめていたのじゃないかと思うことがある。多分そうだろう。でも、結局それは考えても仕方ない。そうだろう? というのも、僕はそんなふうに見えなかったから。まったく逆だったから。さらに悪いことに、連中は僕に変な薬を取り続けるよう強いた。あの薬は女性ホルモンだと僕は確信している。
そして、これがセメスターの終わりになった今の僕。本当の性別を示すものを股間にぶら下げた格好で写真のためににっこり微笑んでいる。今や、連中は僕を社交クラブに入れることはないだろうと分かっている。そもそも、それに十分なほどの男らしさを僕は失っている。ぜんぜん男じゃなくなっているのだ。
ifap_63_happiness
生まれて初めて、今、自分は幸せだと思っている。自分でも、そう思っているのが不思議。というのも、これまでも自分に満足していた時期を経験してきているから。喜びを感じた時期もあるから。自分は幸せだと思った時期もあったから。でも、振り返って、そういう時期を今の本当の幸せと対比させてみると、本当は違っていたんだなあって見ているの。薄ぼんやりしてて、とらえどころがなくって、本物を真似た偽物だったんだなって。
時々、どうやって自分があの生活を耐えてきたのか不思議に思うことがあるわ。毎朝、毎朝、ベッドから起きて、完全に間違った生活をこなす。よくやっていたなって。自分とは無縁で、認めることができない価値観に、よく我慢していたなって。周りからは男らしくあれと期待されるけど、自分はそんな人間じゃないし、そんな人間にならないと分かっている。そんな屈辱感でよく生きていられたなって思う。屈辱というか、恥ずかしさというか、失望させてるなあって気持ち。
多分、あたしはそういうことを無視するように学習したんだと思う。人間には立ち直る力があるし、適応する力もある。あたしもその点はまったく同じなんだと。周りを変えることは無理と思ったから、あたしは、周りの反応は関係ないと思い込むことにした。でもね、関係がないわけはないの。がっちり、関係してきた。そうならないわけないでしょ?
何が変わったのか本当のところ分からない。「ユーリカ!」の瞬間なんかなかった。単に、ある日の朝、「自分が変わる! 自分に嘘をつくのはやめにする!」って言いながら目を覚ましたわけ。多分、徐々に態度での変化が積み重なっていて、自分は、他の人のようになってるフリをしてるけれど、本当は違うということをゆっくりと自覚していたんだと思う。そういう思いは、否認が何層にも積み重なって心の奥底にずっと前から埋められていたんだろうけど、それが蓄積していて、ゆっくりと圧力が高くなっていってて、信じられないほど過度に上昇してしまい、とうとう、耐えがたいレベルまで来てしまったと。そして、自分が変わらなければと思ったと。もう、自分を誤魔化すのは止めなくちゃと思ったと。そういうことだと思うの。
そしてあたしは開始した。少しずつ、少しずつ、自分の人生を変えていった。髪の毛を伸ばした。女性の服を試しに着てみるようになった。遊び半分でお化粧をしてみるようになった。そういう時、自分の家だから他から見られていないというプライバシーもあって、あたしは幸せだった。そういうことをすればするほど、自分の進む道が見えてきたと思ったの。
でも、そういうふうに確実な充実感で自分の意識を叩き壊し続けいたけど、それでも、まだ自分の中に抵抗感があったわ。1000個くらい理由が浮かんできて、しかも、そのひとつひとつに論理性もあって、あたしの決心に食って掛かってくるのよ。自分は女の子じゃない。なろうと思ってもなれないのだ。自分は精神的な障害をもった変人なのだ。「罪深き人」なのだって。100個もの様々なレッテルを自分自身に張り付けた。そのどれもが「罪深き人」と同じくらいネガティブなレッテルばっかり。
でも、自分の本当の気持ちを抑えることができなかった。人は誰も、本当の自分を否定しつつ、何らかの幸せを得ることなどできないものなのよ。そのたった一つの単純な事実を認めたことが、ブレークした瞬間だった。それを悟った後は、もう引き返せないと分かったの。自分自身に抵抗し、社会的偏見から身を守るよう洞窟に潜め、自分自身の否定を通して、暗黙のうちに承諾してしまうことは良くないことなのだって。そういうわけで、あたしはやめた。自分自身の幸福に身を委ねることにしたの。あたしは、自分がならなくては気が済まないと思っている人間へと変わったの。
そして今、あたしは幸せだ。満足している。長かったけれど、とうとう、この世界に居場所を見つけたと思っているのよ。
ifap_63_exceeding_expectations
「はい。彼ですよ。お約束通り」
「何という! 嘘じゃなかったのか。本当にできたとは」
「私ども、正確にお約束したとおりのことをしました」
「だ、だが……」
「だけど、本当に可能だとはお思いでなかったと。いや、いいんです。私ども、いつも同じことを言われていますから。男性を完璧で従順な美女に変えることができるなんて、誰も信じてくれないですよ。少なくとも結果を見るまでは誰も信じない」
「でも、どうやって? どんな方法でやったのですか? 何と言うか、ここにいるのは確かにジーンで、ジーン本人だと分かるのだが、それにしても……」
「今は彼の名前はジェンナです。名前というのは、新しいアイデンティティを確立する際に重要な部分なんです。で、ご質問に答えると、たくさんの手術、ホルモン、条件付け、食事制限、懲罰、催眠術ですかね。チェース医師は、方法をひとつだけに限定しない方ですから。」
「そういえば、彼は従順だといいましたよね? 彼、抵抗しないのか?」
「彼は、今の自分こそ、ずっと以前から自分がなりたいと思っていた姿だと思っています。あの別の人生、つまり、彼の以前の人生ですが、何でしたっけ? ……あなたのビジネス上のライバルだったとか?」
「私と彼は、うちの法律会社で、あるポジションをめぐって競い合っていたんです。そして彼が獲得しそうになっていた」
「今の彼にとっては、それは夢でも見てるように感じているでしょう。彼は過去のことを覚えていますよ。でも、良い思い出とは思っていないんです。彼にとっては、忘れたい悪い記憶になっています。今の彼はジェンナでいることが大好きになっているのです」
「それに、彼は私が言うことを何でもすると?」
「ええ、何でもします。どうです、いいでしょう? ちゃんと自分の意思を持っていて、好きなことをさせるセクシーで頭の軽い美女」
「驚きだ。本当に驚きだ!」
「ということは、結果にご満足いただけたと理解してよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。想像していたよりもずっと満足している」
「ありがとうございます。で、お支払いの件については?」
「ああ、もちろん。すぐに電信で送金するよ」
ifap_63_confirmation あたしは廊下に立っていた。ほとんど過呼吸の状態になっている。心臓が激しく鼓動し、いろんな気持ちが頭の中を駆け巡る。あのドアの向こう、あたしがどんな光景を目にすることになるか、見る前から知っていた。この1ヶ月、断片的情報を集めてきたけど、それをしなくても、あの部屋から聞こえてくる声がどんな声か、間違えようもない。砂の中に頭を埋めて、何も知らない、自分は間違っていると思い込もうとしたけど、どうしても見なくてはいけないという気持ちだった。反論できない証拠が必要だった。
そして、あたしは、少なからざる努力をして、ゆっくりで安定した呼吸を行い、葛藤を鎮め、これまでのあたしの行動の目的を達成するに十分なほどの落ち着きを取り戻した。ドアノブを回し、ドアを押した。そのドアは重いドアだったけれど、音を立てることもなく簡単に開いた。カウチにいたふたりは、あたしがドアを押し閉め、それが重々しい音を立てるまで、気づきもしなかった。
「な、なに!」 馴染みがあったはずの声の主の叫び声。「な、何てこと…ああ…ナタリー? ど、どうして……こ、これは違うの……ああっ……」
あたしが探し続けた彼がそこにいた。行方不明になっていた夫。1年前、「調査」旅行に行くと言って出て行った夫。その夫が、ほとんど全裸で、逞しい男の上に乗り、大きなペニスをアヌスに埋め込まれていた。
「事実じゃないと期待していたのに」 あたしは言った。声に悲しみがにじんでいる。怒りもあったけれど、むしろ、失望感の方が上回っていて、それに打ち消されていたと言える。「1年前、あなたが仕事を首になったのを知ったとき、あたし、わけが分からなくて混乱したわ。特に、おカネは振り込まれ続けていたから。もっと言えば、以前よりもずっと多額のおカネ。あなたが別の仕事をしていると悟るまで、あまり時間はかからなかった」
「ぜ、全部、説明するよ。それに…」
あたしは手を振って、説明を断った。「いらないわ」 自分でも驚くほどに平然とした口調の声になっていた。「分かってるから。確かに、断片的な情報を集めてつなぎ合わせるのに、時間がかかったけれど。でも、あなたが解雇された理由を知ったら、そんなに難しいことじゃなかった。女子高生の格好をして、上司とセックスしているところを見つかったんだってね? それって変態的だわ、チャーリー。あなたみたいな人にしても、かなり変態的」
「そんなことしてない」
「黙りなさいよ!」 次第に怒りが勝ってくるのを感じた。「もし、あたしに女装を試してみたいと言ってくれてたら、あたしも心配せずにすんだのに! 楽しいことかもしれなかったのに。自分はゲイだとか、女の子になりたいとか、そう言ってくれてたら、理解を示すこともできたのに。あたしに正直に言うべきだったのよ、あなたは!」
あたしは顔をそむけた。「でも、あなたはそうしなかった。そしてあなたは別の道を選んだわけよね? 隠すことに決め、1年間の調査プロジェクトで旅行に行くとバカバカしい話をでっち上げたのよね?」 あたしは彼の方へ振り返り、明らかに女性的になった体を指さした。「その間、あなたは変身していた。そうでしょ? そのカラダへと自分を変えていた」
あたしは声に出して笑いだした。かすれた笑い声になっていた。「あなたがカラダを売るようになったのって、当然のように思うわ。あなた、製薬会社での仕事、一度も気に入っているように見えなかったもの。そうだったんじゃない? いつも勤務時間が長すぎると文句を言っていた。でも、報酬がすごく良かったので、職を変える選択肢がなかったのよね? でも、娼婦の方がずっとペイが良いってことなのね? そのことであなたを責めることはしないわ。あたし自身は賛成していないにしても。だって、あなたの人生だものね」
「でも、ナタリー。僕は……」
「やめて。あたしは、別にここに話し合いをしに来たわけじゃないの。あなたの言い分なんか聞きたくないわ。そんなのどうでもいいのよ、チャーリー。今はどんな名前で通っているのか知らないけど。あたしがここに来たのは、あたしたち離婚をするということを言うため。あなたは自由に自分がなりたい人になればいいと言いに来ただけ。もう、嘘をつく必要はない。自分を誤魔化す必要もないと」
そう言って、あたしは背中を向け、部屋を出た。後ろで彼が何か文句を言ってる声が聞こえたけれど、気にしなかった。あたしは、確かめに来ただけだ。それをやりきったのだ。
ifap_63_close_enough 「後ろからだと、本当に彼女にそっくりだ」とダミアンは言った。「つまり、カツラとかいろいろつけたら、彼女との違いが全然分からないということだけど。違いはというと……何と言うか……」 「それは無視して」と、背中を反らせてケイシーは言った。「それはないかのように思って、すればいいの。お望みなら、あたしのことを彼女と思ってくれていいのよ。あなたのために、あたしに彼女の代わりをさせて?」 ダミアンはためらった。そして、それは初めてのことではない。ケイシーが途方もない提案をしてきた時からずっとダミアンは居心地が悪い気分だった。これまで彼がケイシーとのこの関係を断たなかったことは、彼がどれほど元のガールフレンドであるアマンダを恋しく思っているのかを証言しているようなものだ。アマンダはケイシーの双子の姉である。彼はアマンダを純粋に心から愛していたのだが、アマンダはほとんど言い訳もせずに彼の元を去ったのだった。ある日、突然、彼女は姿を消してしまったのだった。ダミアンに残されたのは、急いで書きなぐった「ダメだったわ」との伝言だけ。 その後、ダミアンは深い鬱状態に陥った。食事もとらない。ほとんど眠らない。大学の授業も休みはじめ、その後、成績不振で退学してしまった。そんな状態だったので、ケイシーが提案してきた時、ダミアンは、その提案を真面目に考えるほど気持ちが弱くなっていたのだった。 ダミアンはケイシーと初めて会った時から、ケイシーが自分に気があるのを知っていた。自分を見つめるケイシーの眼差しや、一緒にいるときに自分の言葉に反応するケイシーの様子。それはもう明らかだった。それに、ダミアンの方も、そんなケイシーの態度は問題ないと思っていた。人はだれでも誰かを好きになってしまうものだ。そんな大ごとではない。そうダミアンは思っていた。 ダミアンは視線をケイシーの女性的なお尻に落とした。それは、ひとつだけ明瞭な違いがあるものの、アマンダのそれとそっくりに見える。それに、ケイシーは化粧をすると、ほぼ完全にアマンダそっくりに見える。ダミアンとケイシーのふたりにとって、ケイシーがアマンダに似ていることを言わば利用しても、それは一種、理にかなっているとも思えた。ダミアンはアマンダを求め、ケイシーはダミアンを求めているというように、ふたりが求める対象はズレてはいても、満たされることになる欲求は、ふたり共通しているのだ。むしろ、それをしない方が愚かなことだとすら言えるだろう。それに、ともかく、いったい誰が傷つくことになるというのか? 結局、ダミアンは欲していたものを手に入れ、ケイシーも同じく欲していたものを手に入れた。いろんなことを話しあい、いろんなことを行ってきたが、これは完璧な一致といえた。ケイシーが男であることは、何の影響もない些末なことに思えた。 ケイシーの中に自身を押し込みながら、ダミアンは囁いた。「ああ、アマンダ。本当に会いたかったよ」
ifap_63_be_you あなたの本当の姿を恐れてはだめ。 それを楽しむの。誇りを持つの。 ずっと前からその姿になる運命だった。 そんな自分の姿になるの。
ifap_63_can_a_lie_set_you_free 妻が訊いた。「あなた、幸せ? いろんなことがあったのに、それでも幸せ? って意味だけど。あたし、あなたが望むことをするのを手伝うのに夢中だったでしょ? だから、それが本当にあなたの求めていることなのかなって、いつも気になっていたのよ」 僕は自分の胸元に目を落とした。胸が豊かに膨らんでいるのは見まがいようがない。胸の膨らみに気づいてからどれだけ経っただろう? 数か月? 1年? この胸、あまりに急速に自分の体に馴染んできたので、こんな胸が自分の体にあったらと夢見ていた日々がいつだったかも覚えていない。ずいぶん前からこんな胸をしていたようにすら思う。それは分かってるつもりだ。でも、胸だけが特別なわけではない。この胸は僕の一部なのだ。かつて、あまりに過激すぎると思った他のカラダの変化と同じく。 僕には他の道はなかった。実質、他はなかった。思い出せる限り、女性になることは、僕にとって、ずっと前からの夢の中心にあったことだったけれど、その夢が僕の変身を促した駆動力であったわけではない。その駆動力の名が値するのは、妻のジュリアンの方だった。彼女は、僕の変身のすべての段階で僕を後押ししてくれたし、僕の決心が揺らいだりした時ですら、僕がくじけた時ですら、ジュリアンはそばにいて僕を支えてくれた。 僕は、そんなジュリアンに、これはすべて嘘から出たことだと言う勇気がなかった。もし、そんなことを言ったら、妻の心を叩き壊していたことだろう。正直言えば、僕自身も打ちのめされていたかもしれない。僕はジュリアンなしでは生きていけなかった。彼女を失いたくなかった。なので、あのパンティを……あの、昔の同僚女性との愚かな密会の結果の物を……ジュリアンに見つけられてしまったとき、僕は嘘をついたのだった。それは僕の物だと。僕は思い出せる昔からずっと女装をしてきたのだと。その嘘は、核の部分に真実が含まれていたので邪悪な嘘ではなかった。確かに、女性の服を着るところまでは行ったことはなかったけれど、それを夢見ていたことは事実だった。でも、それは単なるフェチのひとつにすぎなかった。 理解できないことではないが、彼女はそれは嘘じゃないかと疑った。当然だった。僕は正直に言うべきだったのだ。真実を告白すべきだったのだ。だけど、僕はできなかった。ジュリアンが僕の元を去ってしまうだろうと思ったから。僕たち夫婦の関係は、僕の浮気を持ち堪えられないだろうと思っていた。そこで僕は嘘に嘘を重ねた。自分は男性の肉体に閉じ込められた女性なのだと。そして数時間の話し合いの後、彼女は僕の言うことを本当に信じたのだった。僕は助かったと思った。これで、この話は終わったと思った。でも、ジュリアンは僕のことをあまりに愛しすぎていた。僕が男性としての人生を嫌っているのなら、僕にそんな人生で苦しめることはできないと思ったのだった。僕が男性でありたいと思ったことがないのなら、そんな男性のままでいさせることはできないと彼女は考えたのだった。 思うに、どの時点でも、僕は彼女に真実を話せたと思う。女装の世界に手を伸ばし始めた時期、いつでもすべてを説明しようと思えばできたと思う。それによって僕たちの夫婦関係が終わりを迎えることになるのは間違いなかった。でも、少なくとも、僕は男性性を保ち続けることができていただろう。でも、僕は真実を話さなかった。話せなかった。 そういうわけで、僕は女性に至る様々な段階を進み続けた。女性ホルモン。お化粧。公共の場所への外出。ひとつひとつの行為をクリアしていくたびに、僕は彷徨うように、少しずつ男らしさから離れていった。友人たちを失った。僕と口をきかなくなった家族もいる。それに、どんな人であれ忍耐しきれないほど、何度も会社の噂話の話題にされた。でも、僕はやめることができなかった。妻と別れたくないと思う以上、やめられなかった。 ほぼ、2年が過ぎたころの僕がこの姿だ。ベッドに横たわり、女性的な肢体を露出して、妻の質問について考えている。僕は幸せなのだろうか? 妻が聞きたがっている答えは知っている。そしてそれと同じくらい確かに、僕自身、どう答えるか知っている。でも、本当のところ、僕はどう感じているのだろう? これが、最初から僕が本当に望んでいたことなのだろうか? 僕の心の奥の潜在意識が、この姿になるよう駆り立ててきたのだろうか? それとも、僕は、自分のついた嘘にしがみついている嘘つきにすぎないのだろうか? 「そう思うわ」 と僕は顔を上げた。心の中から真実を追い出しながら、にっこり微笑み、返事した。「幸せだと思う」
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