アンジーは私が口元に笑みを浮かべているのを不思議そうな顔で見た。そして、私の肩越しに視線を向け、スーザンとジェフがいるのに気づいた。彼女、心臓発作を起こすんじゃないかしらと思った。私の元に駆け寄ってきて、腕を掴み、横の方に私を引っぱって行き、顔を私に近づけた。 「あなた、気でも狂ったの? 自分で何をしてるのか分かってるの?」 と小さな声で言う。 私は肩をすくめ、満足げに微笑んだ。 「損失評価よ。彼らがとても優れた役者なのか、私が誰か分からないでいるかのどちらか」 アンジーの顔が真ん前に来ていた。私に心のこもったキスをしてくれそう。でも彼女は急にとまり、私の息の匂いを嗅いだ。シャンパンは完全に匂いを消さなかったのだろう。アンジーは目を丸くして、信じられないとばかりに頭を振った。 「あなたには自殺願望があると分かったわ」 と呟き、そして顔を上げて私を見た。悲しそうな笑みを浮かべている。「お口を洗う時間ね。これからあなたと何をしたらいいの?」 「何でもお好きなことを…」と彼女の耳元で囁いた。「でも、もうちょっと後まで待つべきかも…この社交の集まりが終わるまで。ここの人たちおしゃべりが大好きなのは分かるでしょう? ところで、私にこんな危険な生き方をする道を選ばせたのが誰か、忘れないようにしましょうね」 その晩、スーザンは私を見ていた。私も視界の隅にいつも彼女の姿を捉えていた。彼女は、向こうから恐い眼で私を睨みつけていた。私がまざっていたグループのひとりが横にずれた時、スーザンは私の身体にロブの腕に抱かれる私の姿を見た。その瞬間、スーザンは目を飛び出さんばかりの顔になった。その後、彼女はグループの様々な人と会話を再開したが、何度も私の方にチラチラ視線を向けていた。それを見た男性が何人か、笑顔で何かスーザンに言い、それを聞いて、彼女は顔を赤らめた。私の推測では、私とアンジーがレズ・カップルとしてポルノ作品の出演者として選ばれたとか、かな? そのすぐ後に、スーザンはジェフの腕を引っ張るようにしてパーティ会場から出て行った。 その日の夜、アンジーと私は、ロブのマンションに行き、私たちを崇拝するふたりの男性のためだけの出演作でスター女優を演じた。セックスは、ダイアナとだけしていた頃も良かったけど、今はもっと良くなっている。ここも、私の態度が大きく変わったところ。私は、もはや、狭い精神空間でひとり膝を抱えて隠れることはなくなった。 ジェフが私に何かをするとして、その時間と場所について知ることができた。すべてを知るまでには至っていないけれど、とうとう、その全体の姿が見えてきたところだ。もっと言えば、ようやく、私が優位に立てる場所が見えてきたと言ってよい。 ジェフとスーザンに偶然鉢合わせした時のアンジーの反応。あれも、パズル全体にとって大きなピースだった。アンジーについてはずっと安心できるようになっている。片や…… サム・スペード( 参考)方式はダメ。シャーロック・ホームズ方式で行きなさい。 あり得ない人たちを排除していったら、たとえ誰が残っても、それがいかに考えられなくても、それが真実。 その考えは、全然、好きになれないものだったけれど。 つづく
片方が返事した。「私、どうしても分からないのは、どうしてあなた方メディアの人たちがこんなにアンドリューに興味あるのかということ。本題になってるのは子供たちの方よ。真っ先にアンドリューがそう言うでしょう。私たちのアンドリューは優しくて、ぼんやりしてて、マイウェイを行く人。ルックスもいいし、たぶん私たちにとっては世界で一番セックスが上手い人だろうけど、でも、それを除けば、ただの男。それに対して、私たちの子供はこの地球上でもっとも賢い人間だわ。なのに、本当に誰も興味を持たない」 私は驚いた。「どういうことです? 地球上でもっとも賢い人間って?」 右のブロンドが答えた。「その通りの意味だけど。アインシュタイン、エジソン、プラトン、レオナルド…。投票したら、この人たちはうちの子供たちの下にくるわね。子供たちは、ホモ・サピエンスとは違う種なの。別に作り話をしてるわけじゃないわよ。私たちの子供たちも、アンドリューに種を授かったすべてのIAMの子供たちも、全員、スーパー天才。政府がどうしてうちの子供たちを欲しがったのだと思う?」 「考えたこともなかったわ。確かにお子さんたちは賢いとは思うけど、どうして、そこまで賢いと言えるのかしら?」 左側が答えた。「子供たちがどれだけ賢いかとは言っていないわ。子供たちの賢さを私たちは知ることができないと言うこと。言えるのは、これまで生まれたどのホモ・サピエンスよりも賢いということだけ。モーツゥアルトは子供のころに交響曲を書いたから、たぶん、彼は近いとは思う。でも、うちの娘のひとりは、4歳のときに100万ドルを稼いだんです」 私は笑ってしまった。確かに、その馬鹿話は聞いたことがある。でも、この二人、冗談を言う点でも比類がないの? 「100万長者の娘さんがいらっしゃると。そのお金、娘さんがひとりで稼いだと。どうやってですか? パソコンで印刷して?」 あんたたち、もうよしてよ。私を馬鹿な人みたいに扱うのはやめて。そう言いってるつもりでこう言った。 右側が言った。「娘はデイ・トレードをしてるの。私たち、彼女が3歳のときに市場のことを勉強するよう、1万ドルを与えたの。さらに、4歳になった時に、もう10万ドル与えたわ。娘が5歳になった時には、そのお金を150万ドルに増やしてた。アンドリューは、その情報がIRSに警告を発し、驚いたIRSが司法長官に伝えたのだろうと考えているわ。私たちには分からないけど、彼はそういうふうに理論を立てている」 私はまだ疑っていた。「では、娘さんは株式市場で150万ドル稼いだと」 左が言った。「いいえ、娘は先物取引市場もやってるの。今では利益は1億ドルくらいになってるんじゃないかしら。ここの土地から200メートルほど先で建設工事が行われてるのに気づいた? あれは『新人類大学』の建設工事なの。その建設費は市場でエレが稼いだお金から出てるんですよ」
俺の手は依然としてバルの胸を押さえたままだ。バルは俺とまっすぐに視線をあわせていた。淫らっぽい表情が浮かんでいる。 「本当かなあ。トリスタのお母さんは世界中で一番善良なご婦人だと思うけど」 と最後にもう一回バルの柔らかな胸を握った後、手を上へずらした。 首にかけてオイルを塗り始めると、バルがさらに身体を起こし、俺に近づいてきた。ふたりの顔が近づく。彼女のセクシーなアーモンド形の目を見つめる。彼女の温かい息が俺の顔に当たる。 「彼女のお母さんは淫乱よ」 とバルは小さな声で言った。 それを聞いて、俺は手を止めた。突然、トリスタの母親のワインセラーで自慰をしてる姿が浮かんだ。 俺はそそくさとバルの首にオイルを塗り終え、彼女から離れ、仰向けになった。 「よしてくれよ」 「いいえ、本当よ」 バルは小さな声でそう言い、乳首を覆っている小さな三角布の位置を調節した。気づかぬうちに乳輪の端がはみ出ていたからだった。 「じゃあ、話せよ」 と期待してるのを伝えるような声で言った。 「どこまで知りたいの?」 とバルはニヤリとしながら、俺の手に手を重ねて言った。 「全部、教えてくれよ」 と彼女の手を握りながら頼んだ。 「あの人、確かに隠すのが巧いけど、でも私は見たの。ワインセラーでオナニーするところをしょっちゅう見てるわ。それに教会の秘書官と時々、外で会ってる」 とバルは顔を上げ俺を見た。 「ほんとによしてくれよ」 と俺は話しを聞いてビックリしているように演じた。 「真面目に言ってるのよ。あの人、マルチナと一緒にどこかのクラブに行って、一晩中、無茶苦茶にやりまくってるのよ」 と小さな声でくすくす笑った。 「でも、あの石頭の旦那に見つからずに、そんなことできるのかなあ?」 「旦那さんがぐっすり眠るまで待ってるのよ。それから教会の地下室に行って、そこから外に出るの」 とバルは俺の手に指を絡めながら言った。 「信じられないよ」 と半ば驚いてるふうに俺は返事した。 「じゃあ、信じなくてもいいわよ……でも、私には証明できるわ」と自信を持ってるふうにバルは言った。 「どうやって?」 と俺は身体を起こし、バルと対面した。 「今夜、遅くだけど、何か用事ある?」 とバルはビーチにいる他の人をちらっと見やった。 「寝てるよ」 と俺もあたりを見回した。 「真夜中の12時に、教会の地下室のところにいるから、会いに来て」 「どうやったら見つからずにそこに行けるんだ?」 と俺はまた仰向けになった。 「教会の裏に階段があるの。そこを降りて。私がカギを開けて、あなたのこと待ってるから。そうしたら証拠を見せてあげるわ。私が言ったことを信じるはず」 と彼女も仰向けになった。 ちょっと考えた。今日は何をしなければいけなかったのか。まず、ブラッドの家に行って、ステファニからカネを巻き上げなくてはならない。その後、6時半にはミセス・グラフに会う。 「ああ、分かった。行くよ」と返事した。トリスタの母親が本当に淫乱なのか確かめたい。
「ケイト! 早く来いよ!」 嫌悪してる人の声がして、一気に嫌な現実に戻された。フランクはあたしの手を引っぱって、メインステージの真ん前のテーブルへと連れて行った。 何だか、クラブにいる全員があたしのことを見ていた。テーブルに近づき椅子に座ったけど、ステージ上のストリッパーまでもあたしを見てる。あたしはすぐに脚を閉じた。みんなの飢えるような眼でパンティの奥を見てるような気がしたから。 クラブの中を見回すと、全体がひとつの大きな部屋になってて、そこにテーブルやら椅子やらがちりばめられている感じだった。カウンターバーは奥の壁際にあって、ほとんど裸同然の女の人たちが、お金を払うお客さんに飲み物を注いだり、出したりしていた。ウェイトレスはどの人も、小さなパンティと露出気味のブラジャーの姿。中にはセクシーなシースルーのランジェリ姿の人もいた。飲み物を運び歩くときに、お客さんたちにじっとり身体を見られるようになっている。 そのウェイトレスのひとりがあたしたちのところに来た。変態どもひとりひとりに注文を聞いている。若くて、ショートにした黒髪が可愛く、身体も素敵なプロポーションをしている娘さん。 この子、あたしに注文を聞く時、あたしの顔を見るより前に、あたしの胸に目を向けて、舌舐めずりをした。ほんの一瞬のことだったけど、その時の彼女の表情を見て、ちょっとドキッとしてしまった。注文を言うと、彼女はにっこり笑って、またあたしの身体に視線を向け、それからウインクをしてカウンターへと戻って行った。 フランクの方をチラリと見たら、この人、今の出来事をずっと見ていたみたい。ああ、もう! この変態男はそんなところ見てる必要ないのに! でももう遅い。 歩いていくあの子をちょっと盗み見したら、お尻が丸出しになっている。素敵な丸いお尻。それをみんなに見えるようにしていた。分かってる、分かってるわよ。あたしはそんなことしなくてもいいのは分かってるの。ちゃんと自分を抑えて、あの若い娘のお尻を眺めちゃいけないの。 「おお! 次はレイブンだぞ。もっと近くから見ようぜ!」 とフランクがあたしに手を差し出した。 いやいやながら彼の手を取って、一緒にステージに近寄った。フランクはステージの真ん前の椅子に座り、ここに座れよと言わんばかりの顔で隣の椅子を見た。ちゃんと椅子を引いて招くことすらしない。 仕方なく自分で椅子を引いて座った。その間、フランクはポケットから1ドル札の束を出していた。すぐにあたしたちの横に、他の変態仲間も集まってきて、レイブンという女性が出てくるのを待ち遠しそうにし始めた。 音楽がセクシーな電子音楽にかわり、ステージの後ろのカーテンが左右に開き始めた。 ひとりの女性が前に進んできた。そしてみんなの目がいっせいにステージに向けられた。あたしもそのひとり。彼女の美しさから目を逸らしたいとどんなに思っても、どうしても見ないわけにいかなかった。信じられないほど魅力的な身体をしてて、じっと見つめてしまっていた。 黒っぽい長い髪。それが肩から背中にかけて流れるように伸びている。セクシーなウェーブがかかっていて、ちょっとエキゾチックな印象を与えてる。と同時に、その身体。まるで磁石のようにみんなの視線を惹きつけていた。胸はすごく大きくて、すでに固くなってる乳首が薄地のレース・ブラを通して突き出てるのが見える。小さなパンティはバギナのところだけを覆っているようなもの。どこにも陰毛が見えないから、あそこはつるつるに剃ってるのは明らか。
ノボルは怒りを堪えることができなくなり、ゲンゾーを見た。「イクゾ[Ikkuzo]」 ゲンゾーは頷き、刀を抜いて隣の部屋の窓から音も立てずに忍び込んだ。彼の忍術の能力は、ノボルと出会ったときと少しも変わらず、鋭い。肉を切り裂く音、そして驚きの声と苦しそうな小さな悲鳴、そしてその後に床にどさりと倒れる身体の音がした。ノボルが部屋に入ると、ゲンゾーは刀から血を拭っているところだった。床には兵士たちの頭が転がっており、それぞれ首を失った自分の身体を見ていた。娘たちは部屋の奥の隅にたがいに寄り添い固まっていた。震えながらノボルが近づくのを見ている。 「コエン・チャン・ター[Koen chan ttah](大丈夫だよ)」 とノボルは優しく声をかけた。娘たちは驚いて彼を見つめた。 「私たちの言葉を知ってるの?」 娘たちの中の年上と思われる娘が訊いた。 「ああ。私たちと来た方がいいね。安全な場所に連れて行ってあげるから」 とノボルは、危害を加える意図はまったくないと示すように、両手を上げてみせた。「約束する。絶対に君たちには害を加えないから」 娘たちは黙って頷き、ノボルたちの後をついて、薄汚れた部屋を出た。 ゲンゾーは落ち着かなそうに振り返り、ただひとり部屋に残っている女の子を見た。強姦され、その跡も残ったままぐったりと横たわっている。その娘のところに行き、見降ろすと、娘は頭を振って、抵抗するような気配を見せた。ゲンゾーは、馬鹿なことをしないようにと顔の表情でメッセージを送り、両腕で娘を抱え上げ、ノボルたちがいるところへと彼女を運んだ。そして、ノボルが他の部下たちに出来事を説明している間、彼女を畳みの上にぶっきらぼうではあるが、優しく、寝かせた。その娘の妹が彼女にしがみついた。まだ震えが止まらないらしい。 「クニオ、誰か信頼できる人を探してくれ。この娘たちを韓国に送り返してもらうのだ。必要とあらば、日本人の娘のような服を着せてもいい。金が必要だったら私がいくらでも出す」 「はっ!」 クニオは早速、手配をしに去った。 振り向くと、ゲンゾーが姉妹たちを心配そうに見まもっていた。それを見てノボルは腕を組み、あのジウンが喉を掻き切って自害した時を思い出した。「少なくとも、この娘は生きている…。この子たちは明日の夜に連れて行こう」 その日の真夜中、ノボルたちは悲鳴を聞いて目を覚ました。悲鳴に続いて、絶望した泣き声が聞こえた。部屋へと駆けると、あの強姦された娘が首を吊っていた。寝台の掛け布を使ったのだった。幼い妹が彼女の脚を抱きながら啜り泣いていた。「ウニエ! [Unnie](お姉さん)」 「なんてことを!」 ノボルは叫んだ。 _________________________________
「いじめっ子」 The Bully by Nikki J. ジョージは地べたに倒れた。レオに押されたからだ。ジョージはレオを見上げた。レオは身体が大きいわけではない。もっと言えば、身長160センチで体重も60キロだから、小さい方とも言える。だが身体の大きさは実際は関係ない。ジョージは弱虫ウインプなのである。ほとんど誰とであっても、肉体的に喧嘩をするとなったら、必ず哀れなジョージがしこたま殴られる結果になる。 「見ろよ、このホモオンナ男をよ!」 レオが嘲った。周りにはジョージの辱めを見に他の生徒たちが集まっていた。「そろそろ泣きだすぞ?」 誰もが大笑いした。 ジョージは泣くのは嫌だったが、でも泣き出しそうになる。どうしてもこらえられない。ジョージは向こうから先生が来るのを見てほっとした。ハーディソン先生だ。「けんか」を止めにこっちに来る。レオや他の生徒はいっせいに散らばった。 ハーディソン先生は手を伸ばし、ジョージはその手を握った。 「ジョージ、君は自分で自分を守るようになれなきゃダメだぞ」 「分かってます、先生」 そうは答えたけど、ジョージには分かっていた。あと2週間ほどでこの高校から卒業する。その時までいじめは続くだろうと。 ジョージは背が高かったが、痩せてひょろひょろしていた。小さいころからいじめの対象となってきた。高校になる頃には、いじめにすっかり慣れていた。他の子供たちは彼に悪口やホモだと呼んで煽り、いじめた。実際、その点について言うと、彼はバイセクシュアルではあるのだが、そのことが重要ではないのである。どんな女の子も彼に話しかけなかったし、ましてやセックスするなど問題外だった。 その出来事のあとは、ジョージにとって幸いなことに、他の生徒は近づく卒業式の方が関心事になり、概して、ジョージを放っておくようになった。2週間が過ぎ、ジョージは卒業した。 * 夏の間、ジョージは家でビデオゲームばかりをして過ごしたが、その夏が終わり、彼は大学に進んだ。ジョージは期待に胸を膨らませていた。彼の専攻は生化学専攻。最初の数日は楽しく過ごした。実際、これから友だちになれるかもしれないと思える人たちとも出会えた。 だが、それも突然瓦解する。キャンパスをぶらぶら歩くレオの姿を見たからだ。ジョージは隠れようとしたが無駄だった。レオに見つかったからである。 その後の流れは、ジョージが予想したようになった。レオはジョージを嘲弄し、まだホモなのかとからかったりである。それに対してジョージは反論すらしなかった。学生たちの多くがそれを見ていた。 その日から後、大学も高校と大差なくなった。ジョージと話しをする学生はほとんどいなくなったし、ましてや彼を友人と思う者は皆無になった。ただひとつだけ明るいことがあり、それは彼が学業で優れていたことだった。そして、たった3年で生化学の学士号を取り卒業。その1年後、修士号を取り、さらにその1年後、博士号を取ったのである。 学生同士の付き合いがほとんどなかったことで時間が十分あり、自分の選んだ分野を探求する機会に恵まれたおかげだろうとジョージは思った。 大学院を出てたった2年が過ぎたころ、彼はほとんどの癌のタイプに効く薬品を開発し、その特許を売却した。その売却により大金を得るとともに、会社の株も与えられた。結果、数百万ドルにもなった。 大成功を収めたお祝いに、ジョージは2ヶ月ほど遊んで過ごした。大金を高価なものを買ったり、美しい女性たちとセックスをするのに使ったり、社交を学んだりである。ひとしきり遊ぶと、やがてジョージはそれに飽きてしまった。別の病気を治す薬の開発に精魂を傾けることも考えたが、たぶん壁にぶち当たるだろうと思った。いや違う。もっと自分のために何かをやりたい。 彼が自分の希望を悟るまで、じっくり考える時間は2週間しかかからなかった。復讐したいと思ったのである。あのレオを懲らしめたい。だが、単に身体的苦痛を与えるのは望まない。 ジョージはある復讐計画を思いついた。その計画は社会実験にもなるものだった(科学者としての彼の頭脳が、そういう部分を入れることを拒めなかったのである)。 早速ジョージは彼がもっとも得意とすることに取り掛かった。すなわち薬を作ることである。復讐を現実にするための化学合成物。 その薬剤を現実に作ってみると、実に簡単にできた。たった数週間で合成を終えたのである。遺伝学や生化学の新しい分野を調査しなければいけなかったが、彼にはしっかりしたモチベーションがあった。 この薬は作成と同様、効果も単純だった。これを取るとレオの身体にいくつかの変化をもたらす。第1に、レオのアヌスと乳首が性感帯になる(乳首自体も少し大きくなるし、興奮すると勃起するようになる)。アヌスは特に敏感になる(もっと言えば、ペニスのもたらす快感を上回るようになる)。第2に、レオの体形も少し変化する。腰回りが少し大きくなり、ウエストは細くなる。また尻も丸みを帯びるようになる。加えて、声質も少し高音になる。肌も柔らかくなり、体毛の大半がなくなるだろう。顔も丸みを帯びる。第3として、ジョージは、ある種のフェロモンに関して、その分泌とそれへの反応も調節した。男性のフェロモンより女性のフェロモンに似たものになる。 この変化は段階を追って生じる。月単位で少しずつ発生してくる。 ジョージは会社の特殊業務部員を雇い、レオの家に忍び込ませた。そしてこの薬物を仕込み、一連の小さなハイテクカメラとマイクをしかけた。ジョージはこの労作の結果がどうなるか、目と耳で確かめたかったからである。 * レオは驚いて目を覚ました。実に変な夢だった……。正確には思い出せないが…。彼は目をこすり、身体を起こし、投げるようにしてブランケットを剥いだ。ベッドから出て、仕事に行く準備を始める。シャワーを浴び、髭を剃り始めた。でも、途中でやめた。髭剃りの必要がないと気づいたからである。そもそも彼は髭剃りが嫌いだった。 職場につく。彼は投資会社の低レベルのアナリストである。秘書に挨拶もせず、オフィスに入り、デスクについた。彼は勤務時間の大半をインターネットをして過ごす。YouTubeで面白い動画を見たりである。概略的に言って、仕事らしい仕事は何もしない。これがレオにとっての典型的な一日である。 勤務時間が終わると、バーに飲みに出かけ、その後、酔ったまま車で家に帰った。幸い、事故には会わなかった。そして家に入り、カウチにごろりとなってそのまま意識を失った。 翌朝、レオは酷く体調が悪かった。吐き気が止まらず、やむなく職場に欠勤の電話を入れた。次の日になっても良くならなかったら医者に行こうと思った。 * 幸い、次の日は気分が爽快だった。もっと言えば、これほど爽快な気分になのは、ずいぶん久しぶりのことだった。元気に跳ねまわるようにしてシャワーに入った。そして、身体を洗いながら、アヌスの開口部を擦った時だった。なんか違う感じがする。嫌な感じではない。いつもと違う、前より敏感になっている感じだ。 レオは肩をすくめ、シャワーを終えた。職場での一日はほとんど何もなく過ぎた。ただ、乳首が疼き続けてた。多分、発疹か何かだろうとレオは思った。そして、その日もネットを見て勤務時間を過ごしたのだった。
31 性的魅力はパワーだ。その魅力を自分に都合が良いように使う方法を知るだけでよい。女性は太古の昔からそれを知っている。僕はその人生の根本真理を学び始めたばかりだ。 施設内に入るまでは問題がなかった。あのIDカードのおかげで、何の問題もなく数々のドアが開いた。だが、施設に入ったところで捕まってしまった。作り話をでっち上げたが、相手の方が僕の顔を知っているようだった。 「私のことを知ってるの?」 彼は頷いた。「君は被験者だから」 「でも私の名前も知ってるの?」 彼は頭を振った。 「私はアレックス。彼らが私に何をしたか知ってるでしょ? あんたの名前は?」 「グレッグ。グレッグ・アンドリューズ。監視担当。だから、君がここに来たのを知っている。君が毎日何をして、どこに行ったか、我々はすべて監視している」 彼が言ってることの含意を深く考えてる余裕はなかった。そんなことで僕のミッションを軌道修正させるわけにはいかなかった。あまりに多くのことがこのミッションにかかっていたので、監視されていたことに怒ってる暇はなかった。要するに、彼らは僕を監視してる必要があったと言うこと。そうね? 僕は研究対象だったということ。僕は、僕は…彼は何と呼んだっけ? ああ、被験者。名前すらない。人格すらない。単なる、いじって遊ぶための実験室のラット。僕がジェニーの夫だと知ってる人は何人いるのだろう? だが、そんなことはどうでもよかった。問題はワクチン。そういうわけで僕は唯一持っている武器を使った。 「あなた、私のことをずっと見てきたんでしょ? 何もかもすべて?」 と無邪気な声で訊いた。 彼はまた頷いた。 「私がオナニーしてるところも見たんでしょ? ねえ?」 彼のズボンの前が膨らむのが見えた。僕はシャツを脱いだ。今日はノーブラで来てる。 「これがあなたが見たいものなの?」 ズボンを脱いだ。 「人によって形とか大きさとか違うのよね? そうでしょ?」 パンティを脱いだ。 「私を見ながらオナニーすることある? いいのよ、オナニーしてても。男が私を欲しがってると思うと感じてくるから」 彼は私を見つめたままだった。 「ちょっと秘密を聞きたい?」 彼は頷いた。私は彼に近づき、彼の前に身体を傾けた。そして耳元に囁きかけた。 「あなたのズボンの中、大きなおちんちんがありそう。いま私が思ってること、何かと言うと、そのおちんちんをお口に入れること。それだけなの…」 そう言ってすぐに彼の前にひざまずき、僕の人生で2本目のペニスをしゃぶり始めた。これはアンリのとは違った味がした。違いはほんの少しだけだったけど。彼を逝かせるのに時間はかからなかったし、最後の一滴まで飲み込んであげた。最初にした時ほど、汚らしい感じはしなかった。 ことを終え、服を着ながら彼に言った。 「私が来たことはふたりの間だけのことにしましょうね。いい?」 彼は頷くだけだった。 「いい子」と、かれのお尻を軽く叩き、僕は部屋から出た。  32 自分が何を期待していたのか分からない。ことの全貌が突然分かるとか、そういうことだったのか、あるいは本来の自分に、少なくとも気持ちの点で、奇跡的に戻るとか、そういうことだったのかもしれない。ワクチンを手に入れた後は、すぐにそこから出ていくべきだったと思う。でも、ジェニーは正確にどんなことを僕にしていたのか、それをどうしても知りたくて、その場を離れられなかった。 だから、運よく関連情報を見つけたときにはちょっと驚いたと思う。それは軍のために用意されたプレゼン資料だった(この会社は資金等を引き続き得るため軍を納得させる必要があったのだろう)。僕は素早くそれをメモリにコピーし、できるだけ早くその場から離れた……。 家に帰り、早速、ジェニーが僕に何をしていたにせよ、その詳細を調べる仕事に取り掛かった。 どうやら、マインド・コントロールは可能のようだ。だが普通に考えられてるようなやり方ではないらしい。テレパシーのように何か思考がビームのようになって脳に送りこまれるなどはあり得ない。それは馬鹿げている。この方法は、脳の暗示への順応性を加速することと、そのような暗示を適切に行うことの組み合わせのようだった。同じ暗示を充分な回数繰り返すと、その暗示を脳が自分で生み出した考えであると思い始めるということ。音楽と一緒に暗示をかけると、サブリミナルなメッセージが被験者にまったく気づかれるに済むらしい。 そこまでは理解できた。政府は(それにおそらく多くの民間人も)このようなテクノロジーのためなら人殺しもするだろうと理解した。 プレゼンテーションの中では僕のことはずっと「被験者」と呼ばれ続けていた。基本的に、(例えば髪を長くするとかの)小さな変化では充分ではないらしい。連中はもっと変化を求めた。その結果、大幅な減量が加えられた。だが、それでも充分じゃなかったのだろう。連中はもっと証拠が欲しかったのだ。そういうわけで、僕の女性化が開始された。ジェニーが、平均的な筋肉質の男性である僕を、僕に気づかれずに、女性化させることに成功したら、このプログラムは確実な成功を収めたものとみなされる。そういうことらしい。 それこそ、ジェニーがこの2年間してきたことだった。この資料を読む前から、ジェニーに責任があることは知っていた。でも、僕は、それは何か間違いで起きたことなのではと期待していた。計算して行った実験ではないと。僕は完全に間違っていた。ジェニーは、この2年間、ずっと、自分が正確に何を行ってるか、知っていたのだった。 それに資料によると、1年を過ぎた後は、効果は永続的になるらしい。1年以内なら、精神的変化を逆回転できる。だが、それを過ぎると、被験者(つまり僕)はずっと変化したままになる。 そういうことだ。僕は、良かれ悪しかれ死ぬまでこのままでいることになるのだ。  33 ジェニーは僕が永遠にさよならすると知っていたように思う。僕はスーツケース1個しか持たなかったけれど、彼女には分かっていたはずだ。僕が300万ドル近くのお金を海外の銀行口座に振り込だのを知っていたはずだから。ジェニーほどの大富豪であっても、それだけのお金がなくなっていたら気がつくものだから。それに気づいていながら、何もしなかったのは、僕に対して行ったことに対する、彼女なりの謝罪だったのかもしれない。あるいは、単に僕に消え去ってほしいと思ったからかも。このお金で僕は解雇したと。 どっちにせよ、彼女はすべてを知っていたと思う。僕がいろいろ調べていたこととか、会社に侵入したこととか、僕が事実を知ったこととか。ジェニーは、もはや僕を操作することができないと知っていたが、それでも僕に留まってほしいと思っていた。そこまでは僕も理解できる。実際、いろんなことをされたけど、ジェニーが僕に留まってと頼んでくれたら、僕もそうしたかもしれない。彼女の口からすべてを明らかにしてくれて、どうしてあのようなことをしたのか、どうして夫である僕をテストの被験者として利用したのかを説明してくれたら、そうしたら僕も話しを聞いたかもしれない。そして、ひょっとすると、本当にひょっとするとだけど、彼女を許せたかもしれない。 でもジェニーはそういう人じゃない。彼女は自分が間違ったことを認めることができない人なんだ。…とても頑固な人。彼女が行ったありとあらゆることを目の前に突き出されても、彼女は、彼女によって人生を盗まれた男に対して謝ることすらできない。男? 僕はもはや男ではない。ずいぶん前から男ではなくなっている。 本当に不思議だ。この選択肢が与えられたとして、僕自身ではこの道を進むことを決して選ばなかっただろう。そもそも、身体的に可能だったとも思わない。……このような変化を自分自身に課すような意志の力なんか僕にはないから。誰もそんな力は持っていないと思う。でも、僕はこの数々の変化を強制されたにもかかわらず、僕は、今の姿になった僕を嫌ってはいない。これは不思議だ。 この変化、特に身体的変化をどうして受け入れているのか? それには根拠がないわけではない。もともと、僕は、背が低いせいで、自分の身体に不安を抱いていた。そのため、あれだけ筋肉を鍛えたのだった。筋肉は、僕の男性性を支えるための頼り綱になっていたのだった。ジェニーの影響がなければ、僕はこの事実すら認めなかっただろうと思う。あの頃のままで僕の人生を続けていただろうと思う。 いまの僕は幸せだ。そう思う。少なくとも、愛していた女性に裏切られたことを知ったばかりの人間で、僕ほど幸せであると思える人は他にいないだろう。裏切られたという状況については不快だけど、でも、今は、今の自分に満足している。あれだけ元の自分にしがみついていたにもかかわらず。僕は自分のことをどんな男と思っていたのか、それがどうであれ、その男は敗れ去ったのだ。その男性性にしがみついていた頃の僕は幸せではなかったのだ。 だから、今は、僕は今の自分に喜んでいると考えている。そう考えると裏切りにあった心の傷が少しだけ癒される。それでも、僕は去らなければならない。それ以外に道はないから。 あの、最後にジェニーを振り返った時の彼女の姿。ジェニーは泣いていた。あの時はつらかった。あの生活に別れを告げたところだった。これからどこに行くかも、何をするかも、考えていなかった。ただ、去らなければならない。それだけだった。あの時のジェニーの姿を思い出すと心が痛む。  34 ふと、この日誌をつけること自体、ひょっとしてジェニーの計画の一部だったのではないかと思った。だがもう、それはどうでもいいのは知っている。ただ、この日誌をつけることが、あの恐ろしい実験から逃れるための助けになったのは事実だ。でも、もう僕には書き続けることができない。ジェニーの元を去ってから、もうすぐ1年になる。あれ以来、彼女とは一切連絡を断っている。もっとも、今でも彼女の影響が残ってる感じはある。ほぼ、毎日。でも、次第に良くなっている実感はある。行動における僕の選択は、ジェニーが僕に対して行ったことに影響を受けているのは知っているけど、それでも、僕の行動は僕自身が選択して行っていることだ。あの、変態じみた、めちゃくちゃな状況においても。 ともあれ、僕はフランスに落ち着いた。フランスのどこかは言わない。それに今は別の名前で暮らしてる。でも、このフランスこそが僕がいるべき場所じゃないかと思っている。フランス語の会話すら、どんどん上達している。これは考えてみると不思議なことだ。というのも、高校時代、僕はフランス語の授業で落第したのだから。 ここでは、誰も僕の過去を知らない。たいていの人は、僕のことを、こちらではよくいる、父親のお金で遊び暮らしてるアメリカ娘と思っているようだ。そう言われても僕は訂正しない。 でも、僕が一緒に寝る男たちは…そう、僕は男としか寝ない…その男たちにはいくらか説明しなければならない。脚の間にアレがついてるわけだから。なので、そういう時には、僕はずっと自分は女の子だと思ってきていて、そのような生き方を選んできたと伝えることにしている。たいていの男たちは、僕の脚の間にあるものなど、全然気にしない。彼らにはペニスを突っ込める穴があればいいのだ。それに、本当のことを言えば、僕も彼らがどう思おうと構わない。僕としては、あの「お互いのことを知りあう」時間をすっ飛ばして、欲しい物を得られれば、それでいい。 心の通った親密さ。それが僕にとっての問題のようだ。その問題点に気づくことができるほど、自己判断はできるようになっている。でも、なぜその問題があるのか、その理由も分かっているような気がする。僕が経験してきたこと、僕が一生寄り添うと決めた女性であるジェニーが僕にしたこと、それを考えれば、この問題があるのも当然ではないかと思う。 とにかく、これが僕の最後の書き込みだ。この日誌には今後一切、書き込まない。耐え忍んだ様々な嫌なことにもがき苦しむのはやめて、今から僕は、自分の人生を歩んでいくのだ。  35 彼は、私の元を去った18ヶ月後、この日誌を送ってきた。私はこれを読み、そして何度も何度も読み返した。読み返すたびに、彼に経験させた様々なことを思い、何度も何度も悔やんだ。私は、何より、重視されたかったのだと思う。世界が私を認めてくれるような何かをしたかった。それだけだった。そういうわけで、あれを開始した。でも、その後は……その後は、私自身があの実験がもつパワーに飲み込まれてしまったのだ。私が彼にしてほしいと思うことを彼にさせる。その事実を楽しんでいる自分がいた。彼自身が何をしたいと思っても、どんな人間になりたいと思っても、彼には私が命じた人間にならざるを得ない。 思うに、私には、何か深く根付いたレズビアン妄想を持っていたのかもしれない。それに導かれて、彼をどう変えるかについて、私はあのような選択をしたのだろう。あるいは、私は、性的にも精神的にも感情面でも誰かを最終的に支配できるようになるという考えが気に入っていたのかもしれない。これを始める前は、私は本当の権力と呼べそうなものを経験したことが一度もなかった。何かを仕切るということが一度もなかった。自分自身で何かを決定するということが一度もなかった。私がすると決めたことは、他の誰かが求めたことへの対応であるのが常だった。だから、ようやく権力をふるうチャンスが巡ってきた時、私はそれに飛びついてしまった……。そして、その権力が逆に私を飲み込んでしまったのだった。 彼を探し出し、私のしたことの謝罪をし、私を元に戻してと彼にお願いする。そうしたい衝動に毎日のように駆られ、毎日のようにそれをこらえている。でも、そんなことは起こりはしない。私はいろんなことを決めた。そして、最後に、彼もひとつだけ決めた。私が彼が決めるのを止めなかった、最後の選択。私は彼が別れることに決めるのを止めなかった。 彼が何をしていたか、私は知っていた。彼がそれをしてるところを見つけたら、私は彼にやめさせただろう。でも、もし、知らないふりをしていたら…。もし、彼が嗅ぎまわっていたことや、フェラをして情報やキーカードを手に入れたことなどすべてが私のレーダーに入っていないふりをしていたら、ひょっとすると、彼はその機会をとらえて、自分で自由の身になるかもしれない。ひょっとして、彼は私も自由にしてくれるかもしれない。彼をコントロールしたいという気持ちから自由にしてくれるかも。そして、彼は実際、そうしてくれた。 それにしても、奇妙なことがある。日誌を読むと、彼のセクシュアリティが完全に変わったのは明らかだ。性的に男性に惹かれること。彼は、私が彼の心にその気持ちを植え付けたのだとみなしている。でも、これは違う。どうして私がそんなことをするだろう? 私は、私のための彼を求めていたのだから。彼を他の男と共有することなど求めていなかったのだから。私にだけ献身的になってくれるようにしたかったのだから。 あの時…あの、彼が「ヤッテ」とか「ちょうだい」とか叫んでるのを見たあの時、「味わいたい」と言ったあの時、ひょっとしてそうなっているのかもしれないと思った。でも、その時は、私はこれは一時的な変調であると考えた。混乱して深い意味のない妄想をしてるにすぎないと。だけど、あれははるかにそれを超えるものだったのだ。あの時点で、彼のセクシュアリティは不可逆的に変化したのだ。あの後も私とするときがあったけれど、あれはただの行為。彼が本当に求めていたものの代償行動だったのだ。 でも、何が原因で? 深く根付いた欲望が原因? あるいは、彼に起きていたことに対する、心の単なる反応? 頭の中、好奇心が渦巻く。でも、それを解明しようとすると、同じ道をたどることになるのが怖い。同じ間違いを繰り返すことになってしまう。でも、本当に知りたい。 それに、あの、人をコントロールする力も懐かしい……
26 今日、新しいディルドに乗っているときに、ジェニーが入ってきた。このディルド、とてもリアルで、底のところに吸引カップがついてる。だから、手で押さえなくても乗ることができるディルド。今まで、これをしてるところをジェニーに見つからないようにと、とても気を使ってきたのに……。僕の性的妄想が、ストレートな男のそれとは全然違うことがジェニーにバレたらと恐れてきたのに……。あんまり夢中になりすぎてて、彼女が入ってきた音すら聞こえなかった。 昔の僕は、アメフトの大ファンだった。アメフトのシーズンになると、毎週末、テレビの前に座って、全試合を観たものだった。でもドルフィンズが僕のお気に入りのチームだ。しばらく、あまり強くなかったけど、でも、まあ、本当のファンというのは、ひいきのチームにこだわるものだろ? 今も、僕は試合を観ている。でも、今は、試合の最終スコアには興味がなくなっていて、むしろ、あの大きくて逞しい男たちがフィールドを駆けまわる姿を見る方が中心。時々、観てるうちに、あまりに興奮してしまって、アレを……ディルドを持って来てしまうことがある。ジェニーは日曜日は普段いないから、いつもはうまくいったんだけど…… このとき僕が妄想していたのは、こんな状況。僕はチアリーダーのひとり。どうしてもロッカールームに行かなくちゃいけない(いろんな理由から―これは話しには重要じゃない)。そして僕がロッカールームに入ると、周りには裸の男たちがいっぱいいて、彼らに取り囲まれてしまう。これは僕の妄想だから、当然、男たちは僕の可愛い身体を欲しがっている。 ジェニーが入ってきた時、妄想の中の僕は、先発のラインバッカーの上にまたがっていて、ランニングバックのペニスが僕の唇の真ん前に来ているところだった。彼は僕の顔に噴射しようとしているところ。 「ぶっかけて! 味わいたいの! お願い!」 そう、こんな感じで、すべてがバレてしまった。ジェニーはものすごく驚いて、心を傷つけられたような振舞いをしたけど、どうしてなのか分からない。だって、僕をこんなふうに変えたのは彼女なんだから。  27 ジェニーに見つかった後、ふたりとも黙ったままだった。僕の叫ぶ声をジェニーが聞いたのは間違いないし、僕が叫んだ言葉から、僕がどんな状況を夢想していたかジェニーには分かったはず。でもジェニーは、ただ悲しそうな、落胆したような顔で僕を見るだけだった。…ああ、目に涙を浮かべているのは見えた。そして、彼女はドアを開けて、出て行った。その後しばらくして、ジェニーは戻って来たけど、その時はあの件の痕跡はまったく残っていなかった。僕としても、とても怖くて、あの件のことを話題にできなかった。話しをしたらジェニーがどうするかとても怖い…。僕と別れる? いま以上に僕を変える? もはやジェニーがどういう人か僕には分からなくなっている。 あの出来事の後、僕たちの性生活は大変化を遂げた。多分、あの出来事はジェニーにとってちょっと目を開かせる出来事だったのかも。最近、(家に連れ込んでくる男たちを優先して)僕をないがしろにしていたこととかを気づかせる出来事だったかも。僕も性的に飢えていて、それを満たすために男に抱かれることを妄想するほどになっていたことを知り、罪悪感を感じたのかも。ジェニーがそんなことを思ってるのが僕には分かった。彼女はそういうふうに思う人だから。事実はそうじゃない。どれだけジェニーに性的に満たされても、僕の妄想は太いペニスをもった逞しい男が中心になっている。飢えてたから、仕方なくというのではない。もっとも、僕はそのことをジェニーに話すつもりは、もちろんないけど。 この2週間ほど、僕たちは、それぞれが求めているものを得られるよう、ちょっと違ったことを始めていた。僕だって、女性がストラップオンで性的な満足を得られると考えるほどウブじゃない。女だったら、やっぱりペニスを入れてもらいたいものだもの。今の僕にはその気持ちが分かる。というわけで、ジェニーが双頭ディルドを買ってきた時、本当にこれは素晴らしい考えだと喝采した。ふたりとも四つん這いになって、互いにお尻を突き出しあって、ピタピタ鳴らす。そうやって、ふたりで同時に挿入し合って、渇望を満たす。これって信じられないほどエロティックだし、いやらしい。  28 もうこんな生活は続けられない。あまりに性的にも精神的にもフラストレーションが多いし、身体的にも消耗しすぎる。2年以上を経て、とうとう僕は、もうたくさんだという気持ちになった。自分の未来は自分で変えることにした。自分から動くことにした。 ジェニーに可愛いオンナ男として献身的に、無知を装って尽くす役割を演じ続けても、何も変わらない。もっとずっと前に何かことを起こすべきだったのだろうけど、たぶん、僕は怖がっていたんだろう。ひょっとすると、ジェニーはそういう恐怖心を僕に植え付けたのかもしれない。でも、もう僕はやり過ごすつもりはない。ジェニーの方がずっとずっと酷いことをしてきたのだから……。 僕は自分の生活を自分で仕切り始めた。少しずつ、少しずつ。ジェニーの影響は軽くなってきてるように思う。この日誌のおかげだ。僕がどんなことをしてきたか、僕がどんな人間に変化してきたかについて読み返すと、その行為や変化の当時より、ずっとリアルに物事が見えてくる。最初の頃を振り返っている。あの髪の毛を伸ばし始めたころだ。あの頃から一連の出来事が連鎖し、今の僕につながっている。そう想像するのは難しくない。 でも今の僕はこのとおり。これはコントロールできない。でも、自分の進む道はコントロールできると思う。そう信じなければならない。でなければ、気が狂ってしまうだろう。いや、もう狂ってるのかも……僕のあの強烈な妄想の数々。それが正常じゃないのは充分、承知している。それに、ジェニーが僕の精神に与えた影響から完全に離脱できないかもしれないことも分かってる。でも、僕は自分の未来を自分で決めることができるなら、それはそれで構わないと思ってる。 そういうわけで、その目的のため、僕は昨日グレーブズ博士に会った。僕の姿を観た時の彼の表情。恐怖と憐れみが混じった不思議な顔をしていた。僕に対して申し訳ないと感じている様子だったけど、同時に、僕を助け出そうとし、ジェニーの怒りを喚起してしまうことを非常に恐れている様子でもあった。僕には、ジェニーが、部下に恐怖心を植え付けることができるような人間には決して思えない。だけど、ひょっとするとジェニーは仕事のためなら、僕が思いこんでいること以上のことができるのかもしれない。 グレーブズが言ったことは、僕に家に帰って、全部忘れろと、それだけだった。僕と会ったことについてはジェニーに言わないとは言ってくれたけど、それ以上のことは僕が自分でしなければならない。 正直、グレーブズを責めることはできない。ジェニーが知ったら、彼に何をするか分からないから。彼にどんなことをさせるか分からないから。  29 とうとう突破口が現れた。何カ月にも渡る調査で、ようやく探していたものが見つかった。この3、4カ月の間に生化学についてこんなに学ぶことになるとは思っていなかった。ジェニーの会社について、その全体像を調査し、ジェニーが僕に与えた影響を克服するのに役立つ人物を探し、そしてとうとう、その人物を見つけたのだった。 彼の名はアンリ・トゥイサン。ジェニーの元で働いてるフランス人の生化学者だ。プロジェクトの全体像はあまりに謎に覆われていて、その研究所の誰が何を担当しているかについて正確に知るのは難しい。何百人もの従業員がいて、その仕事が明示されてるのは用務員だけときている。でも、運が良かったのか、とうとうアンリを見つけた。 調べて分かったことだけど、治療薬は存在している。あるいは少なくとも治療薬の原形と呼べるものは。いや、これも呼び方が間違ってるかもしれない。治療薬の原形と言うより、ワクチンと言った方が良いのかもしれない。簡単に言って、その薬を飲めば、今後の操作からは免れるというものである。ジェニーが僕に正確に言って何をしたか、依然はっきりとは分からないけど、その答えを見つけても、それは大部分関係なくなってる。重要なのは、治療薬があるということ。それさえ知れば僕はいい。希望が生まれるから。 自分がしたことを誇りに思ってるわけではない。でも、他に方法がなかった。自分の身体以外に手段がなかったから。だから、やった。それにやったことを振り返り、反省する余裕なんかないのだ。 それでも、これだけは言いたい。僕にとっての生れて初めての本物のフェラチオがこんなふうになるとは想像すらしてなかった。何百回も、千回近く想像してきたことなのに。……全然、魅力を感じない男の前にひざまずき、その男のペニスをしゃぶる。ただ単にIDカードを手に入れるために…。とても汚らしいことをしてる感じがした。しかも全然良くないことを。 でも、これはうまくいった。欲しい物を手に入れた。後は僕の情報が正しいことを祈るのみ。そうじゃないと……。 もし僕がジェニーの渾身の仕事を暴露しようとしてることをジェニーが知ったら…。彼女は僕に何をするだろう? 考えただけで身体が震えてくる。  30 今日は僕が人生を取り戻す日だ。今日はジェニーのサディスティックな精神操作の檻から解放され自由の身になる日だ。でも僕は彼女のことしか考えられない……。 ジェニーは邪悪な人間ではない。僕には分かる。彼女はただお金と権力に囚われてしまっただけだ。それに何より好奇心が勝ってしまった。それが本当だと今の僕には分かる。心から分かる。あるいは、そうであってほしいと僕が思ってるだけかもしれない。いずれにせよ、僕は、ジェニーはサディストに見えるかもしれないが、実際はそうじゃないと信ずることにした。 ともかく、家に帰り、ジェニーが帰ってくるのを待ちながら、僕はこんな格好になっていた。 「ねえ来いよ。前のようにやろうよ。前にしていたように。……僕が変わってしまう前にしてたように」 ジェニーは実際、大笑いした。「それを勃起させるために、いったいどれだけバイアグラを飲んだの?」 「僕は…」 「あなたのこと愛してるわ。でも、自分の格好、見てみたら? このちっちゃなモノを? これで感じれると思ってるの? それに、あなたのそのポーズ。私に見てもらおうとして、そんな格好してるんだろうけど……」 「で、でも……」 「脚を広げて、私ににアヌスをしてもらおうと誘っているようなものじゃない? 無意識的にそういう格好になってるのね? お尻に挿してもらうこと。それが今のあなたにとってのセックスになってるんでしょ? もう、男性だってフリすることすら無理よ」 ジェニーはまだくすくす笑ってた。 「意地悪で言ってるつもりはないの。ふにゃふにゃになって可愛らしいところ、私、大好きよ。何とかして男性的な役割を満たそうとがばってるあなたを愛してるわ。でも、端的に言って、もはやあなたにはその役割は果たせないの」 「ぼ、僕はただ……」 「言わなくても分かってるわ、あなた…。さあ、良い子になって服を着てちょうだい。そう言えば、ジュリオ…ジュリオのこと覚えてるでしょ? 彼が後で家に来るわ。ちょっと楽しいことしに。その時に私を怒らせるようなことしないでね!」 その言葉を最後に、ジェニーは部屋から出ていった。その言葉を最後に、僕は最終的な決心をした。僕は出ていく。振り返ることはしない。あのワクチンを手に入れたらすぐに……。
24 僕は露出好きなの? それとも、ジェニーの影響で、僕はこんなことをしてるの? 僕たちは再び湖畔の別荘へ来た。今日はその初日。でも、僕には、とてもとても恥ずかしい一日になった。僕は特に恥ずかしがり屋なわけではない。でも……ああ、あの人たちのあの視線。思い出すだけでもぞっとする。 僕たちはビーチにいた(湖にもビーチがある? 何であれ、僕にはビーチに見えた)。ジェニーとふたりでビーチでくつろいでいた。分かると思うけど、日光浴をしたり、ごろごろとして本を読んだり…。ごく普通のこと。ビーチの向こうに4、5人の若者たちのグループがいたけど、僕たちは無視していた。あるいは少なくとも僕は無視していた。そんな時、ジェニーが言ったんだ。 「あの人たち、あなたから眼が離せないみたいよ」 僕は彼女の言葉を無視した。するとジェニーは、こうも言った。「彼らに見せてあげたら?」 「見せてあげるって? どういう意味? 僕は別に……」 そう言いかけたけど、すぐにジェニーに遮られた。 「ほらほら、いいから…。私が言ってる意味、知ってるはずよ。それにあなたも注目を浴びることが好きなのも知ってるんだから。だからごまかさないで。ただ水着を脱いで、あの人たちにあなたの姿を見せてあげるだけでいいのよ」 そう言われた途端、急に興奮してしまった。どうして興奮したのか分からない。でも、彼らをそうやってからかうのもすごく面白そうに思えた。でも、僕はまだ抵抗した。 「違法行為だよ。わいせつ物陳列で牢屋に行くなんて、まっぴらだよ」 「ここには他に誰もいないわ。それにあの人たちも、誰にも言わないはず。約束してもいいわ」 どういうわけか、そう言われただけで僕は納得してしまった。ビキニを脱ぎ始めると、彼らが興奮して騒ぎ出す声が聞こえた。ある種、その騒ぎ声でいっそう僕も乗せられたように思う。自分でも気がつかないうちに、僕は全裸になっていた。タオルの上に座って、両脚を広げ、こっちを見てって誘うようにして……。ああ、何てことを! 脚の間にはアレがついてることすら忘れてしまうなんて。彼らが大笑いしてるのが聞こえた。明らかに嘲り笑ってるのを感じた。見ろよ、あのオンナ男! 僕は振り向いてジェニーを見た。不安、怒り、悲しみ、そして無力感が僕の顔に浮かんでいたと思う。でも、心の中では、高揚感もあった。あの人たち、僕をバカにしてはいたけど、僕を指差して大笑いはしていたけど、僕の姿から眼を離せずにいるようだったから。  25 ジェニーが他の男とセックスしている。僕は怒るべきなんだけど、でも、違った。……ただ、悲しかった。……それにちょっと興奮もしていた。本当は僕はしばらく前から知っていたし、ジェニーも僕が知ってることを知っていたと思う。だから、彼女が僕に何をしてるか分からないけど、その手を使って、僕に彼女の浮気をOKにするよう仕向けたんだと思う。浮気を知って僕が興奮するようにも仕向けたんだと思う。 この件には皮肉な点があって、僕はそれに引っかかるところを感じている。ジェニーが僕たち夫婦の信頼の一線を越えてしまったのは、僕がもはやなることができない存在を求めてのことだった。つまり、男性的なセックス相手。でも、そうなってしまったのは、ジェニー自身のせいだということ。ジェニーは僕がこうなってしまうのを知っていながら、行って、その結果、一線を越えてしまってる。 僕はふたりのところに乱入して、男にやめるように言い、ふたりにいるべきところに戻るように要求したかった。……普通の男なら誰でもそうするように。でも、僕にはそうする能力がない。もはや。 心の中、いろんな感情がせめぎ合っていた。自分が何者か知りたい。自分が何を求めているのか知りたい。でも、その時は、僕はただ、彼女の…いや僕たち夫婦の寝室の外に立って、ふたりがセックスしてる音を聞いてるだけだった。とても、シュールな感じだった。ジェニーも男も隠そうとすらしなかった。ジェニーは普通に彼を家に連れ込んできた…まるでごく日常的なことのように。彼女は彼に僕を紹介すらした(ルームメイトだと)。 ジェニーが何か僕に影響を与えてる。それが、もう今は、かすかに感じ取れるといったレベルを過ぎていた。ジェニーが僕に何かしている。それを僕が気づいてることにジェニーは気づいてると思う。そして、彼女は、僕がどう感じてるかなど、もはやどうでもよくなっている。僕が彼女の求めることをしてる限り、彼女にはどうでもいいんだ。 彼女の目の表情にしっかり現れてる。ジェニーは、もう以前のような眼で僕を見ようとすらしない。男として見てないのみならず、愛する女性としても見てない。ジェニーにとって、僕は単なる好奇の対象になってる。いじって遊ぶ、おもちゃのようなもの。 そんなことを何もかも知ってるのに、僕はここに立って、ふたりが愛しあう声を聞きながら、頭の中は、たったひとつのことに占領されていた。あの男に犯されてるのが僕だったらいいのに。もっと強く、激しく犯してと叫ぶのが僕だったらいいのに。もしジェニーが誘ってくれたら、喜んで、何も聞かずにふたりに加わるのに。 そうしたら、彼は僕の方を気に入ってくれるのに。 これが今の僕の世界。これが今の僕の姿。
22 時々、ペニスがあることを忘れてしまうことがある。何と言うか、いつものように、それがあってパンティに膨らみを作ってるのは確かなんだけど……だけど、それはもはやペニスとは言えないものになっている。今はすごく小さくて、ほとんど可愛いと言ってもいいほど。昔のように、大きくて、猛り狂ってて、男らしいモノではなくなってる。 前は勃起すれば18センチはあった。もちろん、18センチだからって世界で一番大きいわけじゃないのは知ってるけど、自慢できるものだったのは確かだと思う。少なくとも、ちゃんとしたペニスだったのは確かだ。でも今は、アレはただお腹の辺りにふにゃふにゃで寝ころんでいるだけ。よっぽど頑張っても5センチになるかどうか(普段はもっと小さいのは、言うまでもなく)。 ジェニーは、僕のソレをからかうのが好きだ。意地悪とか悪意をもってからかうというのじゃなくて、楽しそうにもてあそぶ感じでからかう。ジェニーはソレがこういう姿になってる方が好きなんだろうと思う。少なくとも僕にはそう思える。実際、今は、ジェニーは僕にたくさんフェラをしてくれている。1週間あたりにしてもらう数は、結婚してからの最初の3年間にしてもらった数よりも多いんじゃないかな。もちろん、それは本当の意味でのフェラチオとは違ってるけどね。だって、ぜんぜん勃起してないから。 僕もジェニーにフェラをする。ジェニーはストラップオン( 参考)がほんとうにお気に入りになっている(正直言えば、僕もだけど)。ジェニーは僕に正座させ、ストラップオンをしゃぶらせるのが大好きだ。そうさせてジェニーが本当に気持ちいいのか僕には分からないけど、僕は言われた通りにしている。さもないと、ジェニーはストラップオンで僕を犯してくれないから。 ジェニーが僕の後ろに回って、アヌスに出し入れしてくれる時、僕は誰か他の人のことを思い浮かべる。例えばあの人。僕の同僚だったルーのこと。彼は身長190センチ、体重110キロで、アメリカン・フットボールのラインバッカーのような体格をしていた。一度、彼のペニスを見たことがある。トイレで。覗き見するつもりはなかったんだけど、振り向いたら、そこにあったんだ。「ビッグ・ブラック・コック BBC」って言葉は彼の持っているようなモノを記述するために作られた言葉なのだろう。ジェニーのディルドよりずっと大きかったけど、大きさはあまり関係しない。 最近、あのトイレで、彼に押さえつけられる光景を思い浮かべることがある(もちろん、当時の僕ではなくて、今の僕だけど)。その夢想の中で、ルーは僕にこう言う。「お前、ちんぽ見るのが好きなのか?」 僕が何も答えないでいると、「ちゃんと答えろ!」 って怒鳴る。そして僕が頷くと、「じゃあ、やってくださいっておねだりしろ。しっかり懇願するんだぞ、淫乱!」 そして僕はその通りにする。 「私を犯してください。お願いです。私の可愛いお尻をそれで犯して」 そして彼はその通りにする。  23 もうジェニーにはディルドを使ってるところを見られたくない。時々、僕は誰かに「もっと強くやって」とか、「私にしてちょうだい」とか、そんな言葉を叫んでしまう。自慰をしている時に、そういう言葉を言うなんて変なことなのは分かってるけど、どうしてもそういう言葉を出してしまう。多分、僕は性的に抑圧感を感じてるからなのだと思う。そのため、自慰をしてると、いろんなことが頭に浮かんできて(その後、口から出してしまう)のだろう。 今日、バイブレータにまたがってる時、頭の中に高校時代のことが浮かんできた。高校の時、僕にはあのフットボールのコーチがいた。どういうタイプの人か、想像できると思う。大学を出たばかりの若いコーチで、しっかりした体格をしてて、ハンサムな人。当時は、僕は彼をこういうふうに思ったことは一度もなかった。僕がジェニーと知り合うずっと前の頃だから。 ともあれ、あの頃、僕はフットボールに関して限界を感じていて、次のレベルへと精度を高めることができずにいた。一生懸命、練習したし、僕の肉体もその練習量を反映して逞しくなっていたんだけど、そもそも僕は小さな身体をしていた。68キロくらいかな。でも、僕には敏捷性があって、なかなかタックルをされにくい存在だった。そのおかげで、一種、ランニング・バックのスター選手になっていたのだと思う。そして、あのトーマス・コーチは僕のポジションのコーチだった。 この夢想がいつもの夢想と違うのは、僕が積極的になっている点。彼の方が気乗りがしていない。彼は、心ではノーと言ってるけど、身体の方は目の前にいる可愛い女装娘を犯したがっている。とにかく、僕とコーチはロッカールームにいて、この夢想の中では、僕はスター選手でも何でもない。ただ、一度でいいから試合でプレーしたいと思ってる。もちろん、その僕は「今の僕」であって、高校時代の僕ではない。だから、僕が試合に出るなんて、ほとんど笑い話のようなもの。僕はコーチとふたりっきりになった時を見計らって、コーチに迫り、部屋の隅に追い詰めている。僕はシャワーを浴びたばかりで、身体じゅうびしょ濡れ。そして、素っ裸で彼の前に立っている…… コーチは僕にやりたがっている。勃起して盛り上がってるのが見えるから。でもコーチは目を背け、逃れようとしている。そして僕は前に進み、彼に迫って、彼の逞しい腕に手をかける……。彼をこっちに向かせるのにほとんど苦労はしなかった。コーチも僕を見たがっているから。 「いいのよ。誰にもばれないから」 と言って、彼の手を握り、コーチの部屋へと連れて行く。部屋に入るとすぐに彼の前にひざまずいて、ショートパンツを引き降ろす。すると、逞しいおちんちんが跳ねるようにして飛び出す。僕は一度も本物のペニスにフェラをしたことがないけど、でも、想像の中では、とてもエロティックで、とても性的に熱を帯びた行為。美味しそうに味わい、口の中での感触を楽しみ、熱っぽく愛してる。 ひとしきりおしゃぶりした後、コーチをデスクに押し倒し、その上にまたがる。これが求めているもの。ここがいたい場所。コーチのアレがお尻の中に滑り込んでくるのを感じる。そして僕は天国へ舞い上がる。彼の瞳を見つめながら、身体を上下に動かし始める……。 彼の身体が強張るのを感じ、彼がイキそうになってるのを知ると同時に、僕は叫び声を上げる。そして……現実にも、美しい使い慣れた紫色のディルドにまたがり、オーガズムに全身を揺さぶられながら、叫び声を上げている。 ジェニーはこれを求めているの? 彼女が求めているのは、僕がこうなること?
ハアハアと荒い息をしながら、シャーリーンはベッドに横たわっていた。至福のオーガズムからゆっくりと回復していく。新しく生えたペニスはお腹の上にだらりと横たわり、柔らかくなっていく。それを感じながら、身体じゅうに降りかかった精液が次第に流れ始めるのを感じた。 シャーリーンはその体液がどんなものか、どんな味がするのか興味を持ち、指でひとつすくった。薄い白で少し透明になっている。男性の精液ほど濃い感じではない。試しにその指を舐めてみた。予想以上に美味しかった。甘くて、ちょっとだけシナモンの香りがする。自分が出す愛液と男性の精液の両方に似たところがあるような気がした。シャーリーンは他の指も全部使って残っていた精液をすくい、指を舐めしゃぶった。そんなことをする自分がセクシーに感じたし、同時にとてもいやらしくも感じた。 ベッドから出た。前に比べてものすごく身体が軽いし、元気でビックリした。前までは、こんな簡単なことをするだけでも一苦労だったのに、今はぴょんぴょん跳ねるように身体が躍動する。 シャーリーンは今の自分がどんな姿になっているか見てみたいと思ったが、太って、自分の姿を見たくなくなったときに、鏡は全部片付けてしまっていた。 ともかく身体がベトベトしている感じがしたので、クローゼットから鏡を出す前に、シャワーに飛び込んだ。手に石鹸を塗って身体を撫でたら、途端に快感がよみがえってきた。またペニスをしごきだしたくなるほど。でも、ここは我慢して、自制した。 それよりも今は、外に出かけて、他の人に会い、そして新しい服を買いたかった。こんなに自分に自信を持った状態になったのは初めてだった。家にあるキングサイズの服は全部燃やしてしまい、新たにいちから始め、また作家に戻りたい。いや、それ以上のこともしたい。そんな気持ちだった。 身体を拭いた後、タオルを身体に巻きつけ、古い全身鏡を取り出すためにクローゼットに向かった。鏡を奥から引っ張り出し、ほこりを払った後、鏡の前に立った。初めて見る自分の姿! 以前の汚いブロンド髪はずっと量が多くなっていて、とても綺麗な金色に輝いていた。顔も、太る前と同じになっていたが、以前よりずっと可愛らしくなっていた。青い瞳は澄んで、大きくなっていたし、肌は染みひとつなく、鼻もまっすぐになっていた。唇はぷっくり膨らんで、キスしたくなるくらい。あごのラインまで変化していて、顔全体が前よりハート形になっている感じだった。 そしてボディの方はというと、こちらはもう完璧としか言いようがなかった。脚は長く、肌の色も完璧。ヒップは丸く膨らみ、たぶんEカップほどに巨大化した乳房とバランスが取れている。ウエストは細くなり、胴体は砂時計の形になっていた。お尻も丸く膨らみ、ツンと盛り上がっている。脚の間にぶら下がっている大きなペニスですら、この全身には自然なように見え、全体として以前よりずっと力強い印象を与えていた。 身長は前と同じく165センチだったけど、全体のプロポーションが変わったために、脚も腕も長く見え、背が高くなった印象を与えていた。 変身後の自分の姿にちょっと見惚れた後、シャーリーンはクローゼットに戻り、ショッピングに行くのに着ていける服がないか探した。見つけたのは古いサロン( 参考)。外は晴れてるし、気温も高そうなので、これなら大丈夫かなと思った。 下着の方は身体に合いそうなものはまったくなかったので、下着なし( 参考)でいくことにした。ただ、それには、なんか露出してる感じになってしまう点に加えて、もうひとつ問題があった。脚の間のオマケの問題。脚の間に挟んでみたけど、それだと歩きづらい。その時、シャーリーンは解決案を思いついた。これを自分に入れてしまえばいいんだわ! ちょっと興奮し勃起し始めていたので、少し難しかったけれど、完全に固くなる前に何とか自分のバギナにしまい込むことができた。歩いてみると、ペニスが気持ちいいし、また、バギナの方もいっぱいいっぱいになってる感じもし、さらに興奮してしまった。
20 アナルに挿した時のすごい快感。本当に理性が吹っ飛ぶ快感だ。今はマルチプル・オーガズムを感じられるようになっているばかりか、たとえオーガズムに達っさなくても、この行為自体がずっと気持ちいい。例えば、今日はお尻にディルドを挿すことにしようといったふうに、毎日決めてやってるというわけじゃない。計画してするってことじゃないんだ。でも、結局、やってしまってる。毎日、毎日。時には日に2回も。 ジェニーは帰宅するときに、僕がこれをしてるのを見るのが好き。僕の中に、意地悪になって、ひとりでいる時にしたいと思ってる部分がある。こういうのを求める姿を見られるのって恥ずかしいから。でも、なぜか、僕は望むこと、本当に心から望むことをしてしまう。それは何かというと、ジェニーを喜ばせること。どうしても意地悪になれない。でも、何のため? 僕はまだ自分の状況を変えることができないでいるし、ジェニーが僕が知ってることを知ってるかどうかも分からない。だから、今はジェニーにあわせて演じてる。こういうふうに条件付けされてる状態を放置してる。その条件付けって何のことか僕は知ってる。僕の行動を指図してるということだ。それこそジェニーが求めてること。彼女が期待していること。そして、結局は、その通りになってしまうこと。 だから僕はジェニーが帰宅してくる頃を狙って、リビングルームにいて準備を整え、プラグをお尻に入れたり出したりを始めるんだ。ジェニーはストラップオンで僕を犯したいと思うだろうから、そのための準備を整えておかなくちゃいけない。 グレーブ博士にコンタクトを取ろうかと思っている。彼なら助けてくれるかもしれない。少なくとも僕の身に何が起きてるか教えてくれるかもしれない。  21 生れて初めてのブラのことについて日記に書くことになるなんて思ってもいなかった。ブラをつける必要があるの? いいや、必要ない。僕の胸は押さえが必要なほど大きくはないから。でも、つけたいと思った。すごく女性的な、女の子っぽい気持ちになれそうだから。つけるといつも意識する。そして今の僕がどんな存在かいつも意識することになる。そして、そのことでいっそう悩ましいほどの快感を感じるようになるんだ。 本当に女の子っぽくなりたい。でも、そうなりたくないという気持ちも同じくらい強くある。時々、人格が分裂しているような気持ちになる。 ジェニーは最近、ますますイライラしている。多分、僕が抵抗を示してるからだと思う。僕が抵抗する理由を彼女は知らない。それが彼女をイライラさせてるんだろう。僕の中の一部は…とても大きくて影響力の強い部分だけど…僕に何が起きてるかジェニーに教えたいと思ってる。でも、僕は教えない。いつの日か自由を勝ち取りたいと思ってるから。再び男に戻ることができるとは思っていないけど、少なくとも、自分自身の行動は自分で決められるようになりたい。自分でどうするか選択したいんだ。 最近、男性のことが気になってきている。しかも、かなり深刻に。例えば、あの男。家の前の通りの先に住んでる人で、毎朝、僕の家の前をジョギングする。彼はシャツを着ない。そもそもシャツを持っていないんじゃないかとさえ思う。上半身裸で走ってるのに、僕は彼を毎日、見てしまうんだ。しかも口に涎れ溜めながら。 昨日の夜、彼の夢を見た。僕は窓ごしに彼の姿を見てる。そして彼も僕に気づく。そして彼は家に上がってきて、乱暴に僕のいる部屋に入ってくる…… 彼は僕を抱きかかえ、僕は両脚で彼の胴体を包む。僕はキスをして彼の汗を味わって、それから、大きくて固くなっているペニスに手を伸ばす…… 彼は僕をカウチに放り投げ、僕の履いてるパンティを破る。僕は座ったまま、脚を大きく広げ、彼を迎える姿勢を取る。彼は僕のふにゃふにゃのペニスなんか気にしない。欲しいのは僕のアヌスだけ。 そして、その時、ちょうど彼が僕に入ろうとするとき、まさに僕が欲しいすべてが叶うその瞬間に、僕は目覚めてしまう。 この夢、何を意味してるんだろう。僕には分からない……
ことを終え、ふたり腕を組みながらメインのフロアに戻った。歩きながら、通りかかったウェイターからシャンパンをもらった。その冷えたシャンパンを啜りながら、ジェフとおしゃべりを始めた。 「絶対にもう一度会いたいなあ。さっき始めたことを最後までやり遂げたいし」 とジェフは私の耳元に囁きかけた。 「もっとあるの?」 とわざと無邪気に問い返した。 「ああ、もちろん。ずっとたくさん。…今度の土曜日はどう?」 私は頭を横に振った。 「ごめんなさい。予定があって。何時までになるか分からないの」 ジェフはがっかりしつつ、頷いた。 「本当を言うと、僕もなんだ。うちのプロモーション関係の人に、ヒルトンで開かれる同性愛関係の催し物に顔を出すように言われてるんだ。そこのファッションショーにモデルと一緒に出ることになっている。そのモデルのひとりは知ってる人だけどね。ああ、他のモデルたちがイヌみたいな容貌のヤツじゃないといいんだが…」 私は顔を輝かせ、「ワン、ワン!」 とふざけて吠えてみせた。 彼は呆気にとられて私の顔を見つめた。 「冗談じゃ…君なの?」 私はにっこり笑って頷いた。そして、部屋の向こうにアンジーがいるのに気づいた。他の人たちとおしゃべりしている。私は素敵にマニキュアをした人差し指を伸ばし、彼女の方向を指差した。 「それにあそこにいる私の友だちも一緒。私と彼女、お似合いののペアに見えるでしょ?」 「スゴイ…」 とジェフはかすれ声で囁いた。「僕はもう死んで、天国に来てるのかも。この週末には、片づけなければならない別のもっと個人的なビジネスがあるんだ。その日が僕にとって今週の、今月の、いや今年のハイライトになると思っていたけど、今度は、君とあそこにいる君のお友達も加わるとは……」 ジェフは声を落として言いかけた言葉を止めた。そして、私を後ろ向きにさせた。 「その時にまた一緒に。いいね?」 瞬間、彼の肩越しに向こうを見ると、スーザンがものすごい勢いでやってくる。私はもちろん我慢できなかった。背を伸ばしてジェフの頬に優しくキスをした。 「もちろん、絶対よ」 スーザンはすうーっと絹のような滑らかさでジェフの脇の下に腕を指しこんだ。明るい笑顔を浮かべていたけど、眼は氷のように冷たい眼をしていた。 「私が忙しくしてた間、私の彼氏のお相手してくれてありがとう」 とスーザンは悪意のこめて皮肉っぽく言った。 私は目を輝かせて、頬を赤らめたジェフの顔を見上げ、「いいえ、こちらこそ」と笑顔を見せ、後ろを向いて立ち去った。わざと腰を振って歩いた。 「後で会うことになるかしら? えーっと…」 とスーザンは私の背中に声をかけた。 私は振り返ってウインクをして見せた。 「リサよ。うふふ、リサ・レイン。確実に会うことになると思うわ」 スーザンはジェフを睨みつけていた。その表情の意味はたったひとつ、家に戻るまで待ってなさいよ、と。
18 僕はハッピーだ。お気に入りのパンティを履いている時は特に。もうずいぶん前から、これをブリーフだとか下着だとか言うのをやめてしまった。これはパンティ。僕はパンティを履いている。 日を追うごとに、ますます明瞭に僕は自分自身のことを見られるようになってきている。この日誌が役に立っている。すごく変だし、説明しにくいのだけど、僕はこんな姿になってしまったことを憎みたいのだけど、どういうわけかそれができない。ジェニーが僕にしていることが何か分からないけど、そのせいかもしれない。あるいは、僕が何であれ、僕自身がこの姿を美しいと感じているせいかもしれない。 女性が僕を見ると、僕のようになれたらいいのにと思ってる。それを僕は知っている。男性が僕を見ると、僕とできたらいいのにと思っている。それも僕は知っている。でも、そのせいで気が変になりそうになる。僕自身について僕が知っていたと思っていたことがすべて、ものすごく遠い昔のことになってしまって、まるで別の人間のことのように思えてしまうということ。それを悟ると気が変になりそうになる。僕はもはや男ではない。でも、それで僕はどうなるというのだろう? 僕が何かおかしいと気づいてることをジェニーは知らない。あの日、ジェニーは泣いていて、僕は彼女を慰めた。確かに、僕は彼女を愛している。たとえ彼女が僕に何をしたにせよ、僕は愛している。彼女が傷つけば、僕も傷つく。それだけ単純なことなんだ。 探りを入れたい。もっと事実を知りたい。ものすごくそう思った。でも、できなかった。多分、僕自身、答えを知りたくないと思っていたからかも。あるいはそもそも問いを立てることすらできなかったからかも。もし、ジェニーが僕にこのようなことをできるとしたら、僕が問いを立てることも彼女には防げるはずだから。  19 ハイヒールを履くのが好き。でも、僕がハイヒールが好きなのは、ジェニーが僕を仕向けてハイヒール好きにしたいと思ったからなのだろうか? ヒールを履いた方が背が高くなるから? 僕としては後者のように思いたい。でも、どうしても前者のように感じられてしまう。彼女ならしそうなことだから。ハイヒールは、女性っぽさのアイコンそのものだ。 僕はヒールを履いて歩くのがすごく上手になっていた。変なことだけど。何と言うか、ヒールを履いて歩く練習を何時間もしてきたから変だと言ってるんじゃなくて、そんなことを僕がするなんてあり得ないことだったから、変だと。 所作についても、どんどん女性化している。他の人があなたをどう見るかについて、ほんのちょっとした手首の曲げ方とか、腰の振り方とかで大きく変わるのを知ってビックリしてる。これまで、とてもキュートな可愛い服を着て、今のような容姿(自分でも僕がものすごく女性的な姿になっていることを知っているけど、この姿)になっても、僕のことを女の子の服を着た男だと思う人が、まだいた。でも、今は違う。もうああいう目では見られることがなくなった。これは良いことだと思う。だって、人に見られて自意識が過剰になると、バレるのではないかと恐くなってしまうことがあるから。 家から外に出るといつも、みんなが僕のことを見てるように思った。あの女装っ子と指をさして。そんなことがあるたびに、いつの日か全然気にしなくてすむ日が来ないかなあとあこがれた。そして、とうとう、他人の目を気にしなくてすむ日が来たんだ。ひょっとすると、これはジェニーが僕にしたことの中のたった一つの良いことなのかもしれない。 それにしても、ジェニーがどうやってこんなことをできてるのか、いまだに分からない。もしかすると、もうすでに完了してるのかも。単に僕は彼女の計画に沿って自分からこういう生活をしてるだけなのかも……
そんなこと信じがたいと思ったけど、話しにあわせることにした。 「それで? ご主人がこの女性たちと一緒になってることについてはどうお感じなのですか? この『プレーボーイ』の記事のような情報については? 国中が、あなたのご主人が定期的に浮気をしてると知っているのですけど!」 双子のひとりが怒った顔を見せた。よしよし。 「アンドリューは一度も浮気はしてないわ。アンドリューほど心に誠実さを持っている男性は他にいません。彼は私たちが頼んだことをしてるだけ。それ以上はないの」 私はもう少し突っ込むことにした。「でも、これはあなたたちの夫婦生活に影響を与えないのですか? どうお思いなのでしょう? ご主人が激しくふしだらになれるように、ご自分の愛の生活を諦めるなんて」 もうひとりの、落ち着いてる方が、また大笑いした。「あなた、わざと私たちに噛みついているでしょう? そのやり方はうまくいかないと思うわよ。私たち、自分の愛の生活を諦めてなんかいないの。ギャモンさん? あなたどのくらいの頻度でアレをなさってるの? 私たちはふたりとも、毎日、してるわ。時には日に2回も。アンドリューは、私たちが対処できる限りの愛を私たちにしてくれてるの。なおかつ、あなたがふざけて言った『激しくふしだらなこと』ができるだけの力は残している。IAMのためのアンドリューの仕事は、ひとっかけらも私たちの愛の生活に影響を与えていないのよ」 私はジャーナリストとしての毅然とした姿勢を維持するのが難しく感じ始めていた。多分、口をあんぐりと開けていたと思う。「毎日、されてるの? おふたりとも? どうしてそんなことがありえるの?」 ひとりが笑顔になった。たぶん、そのような顔になれる根拠が充分にあるのか? 「アンドリューは私たちのことを見ると我慢できなくなるの。いつも私たちに触っているわ。私たちがそうさせてるのじゃないのよ。ついでに言うと、私たちも彼に対して同じように感じているの。これまで会った女性は、みんな、アンドリュー・アドキンズをベッドに連れ込むチャンスを狙って牙を剥いた。でも私たち、その女性がそういうふうに感じても気にしない。私たち自身もそんなふうに感じるから」 「ええ、まあ、確かに彼は魅力的です。でも、彼がおふたりに対して抵抗しきれないと感じてる? ええ、どうしてかは分かります。でも、これって、何と言うか、正直に言って私が思ってきたこととは違ってるんです。おふたりは、私が想像した人とは全然違う」 ひとりが笑顔になった。「請け合ってもいいけど、アンドリューも、あなたが想像してる人とは全然違うわよ。彼はこの世で一番優しくて気配りができる男性。もし、あなたが、女性を使い回してはポイっと捨てるような傲慢で攻撃的な男を想像してここに来たとしたら、あなたは間違ったところを探してることになるわ。ええ、アンドリューは本当にセクシー。セックスが大好きな男。セックスは彼の趣味。でも私たちの趣味でもあるの。誰にでも趣味が必要でしょ?」 「それに彼は男だけど、このビジネスをしているのは私たち、私とドニーなの。知ってると思うけど、私たちふたりともデューク大学のビジネス経営で博士号を持っている。アンドリューは財政的な決定をしなければいけないときは、いつも私たちにそれを任せてるわ」 「でも、それを別にしても、それに、彼が美しいことを別にしても、彼はとても愛に溢れていて、親切だし、心が温かで優しい人でもあるのよ。それにとても家族思いの夫であり、父親でもあるし」 私は言った。「ああ、そうだった。お子さんは6人おられるんですよね?」
16 今日、ジェニーが僕にバイブを買ってくれた。そんなこと言って変に聞こえるのは知ってるけど、でも、まあ最近、僕とジェニーの関係は変な感じになってるから。僕が問題を抱えるようになって以来ずっと。問題と言うのは、分かると思うけど、下の方の……ああ、言ってしまおう、しばらく前からぜんぜん勃起できなくなってるんだ。このマヌケな日誌でこの話題にこだわるつもりはないよ。ともかく、そうなってからずっと、僕とジェニーは、いろいろ他の手段を創造的に考えなければいけなくなった。指とかそういうものを。僕のお尻に。 最初、試したいとすら思わなかった。というか、たいていの男なら、その一線は越えたくないものだろ? でも、ある夜、ジェニーが僕にフェラをしながら、指を僕のあそこにちょっと突っ込んだんだ。その瞬間から、僕は負けてしまった。どうして前に試してみなかったんだろう? 単なる肉体的な快感ばかりじゃなかった。確かにそれもあるけど、でも、それは全体のパズルのひとつの小さなピースにすぎない。自分の妻に指を挿されながら、何か特殊な感じが出てきて、いろんな意味で僕は興奮したんだ。実際、ちょっと勃起もしたんだよ(数か月ぶりの勃起)。 最初は指1本、次に2本。もっと実のあるモノが欲しくなるまであっという間だった。でも、そのことは言えなかった。どこか恐い点もあったし。でもジェニーには分かっていた様子。彼女は僕が欲しいと思う前から、僕が欲しくなるものを知っている。いつでも。 というわけで、今日、僕がスーパーから帰ってくると、これが置いてあった。何気ない感じで、コーヒーテーブルの上に。すごく大きくて、リアルな形をしている。それに僕の好きな色でもある。 「気に入った?」 とジェニーの言う声が聞こえた。僕はトランス状態みたいになって、それに近づきながら、ただ頷くことしかできなかった。腰を降ろして、これを手にとった。……僕の小さな手でもつと、いっそう大きく見えた。「キスしたら? その頭のところに」 とジェニーの声。 言われた通りにした。それから2分もしなかったかな。ふたりとも裸になって、これを試し始めたのは……  17 今これを急いで書いている。というのも、これをいつまで記憶していられるのか分からないから。あの屋根裏の日、つまり僕が胸が大きくなってるのに気づいた日についてですら、あの日に書いたことを何度も何度も読み返している。そうしないと、すっかり忘れてしまうから。僕に何が起きてるのか分からないけど、僕はこの人物になるよう強いられているんだ。僕には抵抗できない。実際、そんなことはできない。それに現実的にも方法がない。でも、日を追うごとに、僕は意志の力が少しずつ強くなっているように思う。僕は僕だ。でも僕は僕ではない。この状態、理解するのがとても難しい。 そして、あの喧嘩。僕は寝室にいて、ベッド・メーキングをしていた。すごくキュートな可愛いトップを着て、他に何も着ない格好で(ジェニーはそれがとてもセクシーだと思ってるし!) あ、ダメ……また話しが逸れてる。とにかく、その時、玄関をノックする音が聞こえた。それにジェニーが迎えに出た音も。僕は立ち聞きするつもりはなかったけれど、階段を降りかけたところで、僕の名前を言うのが聞こえたんだ。 「ジェニー、これをアレックスにし続けるなんていけないよ」 ジェニーの同僚のグレーブズ博士の声だった。「彼は人間なんだよ。君のご主人なんだよ。それを無視して、君は彼を変えてしまった……彼の今の姿が何であれ、ああいうふうに変えてしまった」 「これは私の人生だわ」とジェニーが答えた。「それに私のプロジェクトなの。被験者を選ぶのは私よね。覚えているでしょう? 私がいなければ、あなたはこの仕事につくことすらできなかったわ。それを忘れないでちょうだい。加えて、私たちが政府と契約した時も、あなた、苦情を言ってなかったわよね? それに、そのおかげで何百万ドルも得たことについても文句を言っていないでしょ、あなたは」 「僕は……」 「自分がどれだけ偽善的になってるか、自分で見えてる? この実験があってこそ、私たちが百万長者になってるのよ。この実験があればこそ、さらに大富豪になれるのよ。突然、良心の呵責を感じたからって投げ出さないで」 ジェニーは金切り声を上げていた。「それに、付け加えれば、彼はいま幸せなの!」 かろうじてジェニーの声が聞こえた。「私も幸せなの。それのどこが悪いの? どうして私たちが幸せであることが、誰かを傷つけることになるのよ?」 「彼は実際は幸せじゃないよ。彼はもはやアレックスですらなくなってる」 グレーブズ博士の声。 そしてその後、玄関ドアをバタンと乱暴に閉じる音がした。その後に、小さく啜り泣く声も。
「わーお、話しを聞いてなかったら、レイチェルのこと、そんなふうに思わなかったろうな」 と俺は小さな声で言った。指をバルの太ももの内側に滑り込ませ、指先で脚の間の濡れた青い布地を軽く触れた。 その途端、バルはちょっと身体をビクッとさせたが、何も言わなかった。目を閉じたまま、横たわり、顔には笑みが浮かんでいた。 「トリスタについては? 何か知ってる?」 とバルの腰にオイルを擦り込みながら訊いた。 「それは値段が高いわよ」 とバルは眼を開け、笑って俺を見た。 「ということは、何か知ってるんだ」 と彼女のお腹にオイルをたらした。 ココナツの香りが辺りを包んでいる。俺はバルの平らで柔らかなお腹を擦り始めた。おへその周りを指で擦ると、くすぐったいのか、バルは笑い声を上げた。俺は、意味ありげに指をおへそに押し込んだ。 「もちろん、知ってることがあるわ」 と邪悪そうな笑みを浮かべて言う。 俺は身体をずらし、さっきバルが俺の下腹部に乗ったように、俺も彼女の下腹部あたりに座った。見下ろすと、見事な胸が見える。このバルという娘、なんて警戒心がないのだろう。 ゆっくりと両手で彼女の腹を前後に擦り、さらに脇腹へと手を動かした。太陽が照りつけているので、さーっと風が吹くと涼しくて気持ちいい。 「さあ、焦らさないでくれよ」 とさらにオイルをお腹にたらした。 両手を彼女の乳房のすぐ下まで這わせると、バルが言った。「トリスタはお宝よ」 「どういうこと?」 ローションを擦り込み、ときどき、乳房の丘のふもとを指先で引っ掻く。ちょっと大胆になって、バルの乳房の肌が露わになっているところにも、手を這わせた。 「彼女と付き合ってるあなたは運がいいということ。男なら誰でも夢に思うような可愛くて純粋無垢な女の子。トリスタには欠点はないわ。誰もが純粋に彼女のことを好きになる」 さらに大胆になって、両手をお椀の形にしてバルの乳房を覆った。その両手をゆっくりと前後に動かした。両手の親指がすごい乳房の谷間にきている。そんな状態になってもバルはまったく逃れようとしない。それにしても、このおっぱい、すごい感触だ。とろとろにオイルを塗ってるので、肌もキラキラ輝いている。 「トリスタのお父さんは、私のステイ先の親と同じ。ただずっと性格悪いけど」 片手は彼女の乳房に当てたまま、もう片手でココナツ・オイルをビキニに覆われた乳首に直に垂らした。温かいオイルが胸に落ちた瞬間、乳首がツンと固くなるのが見えた。俺は再び両手でバルの胸の丘を揉み始めた。するとバルは目を開き、俺を見た。 「トリスタのお母さんは、完全に、裏表のある人よ」 とバルは両ひじで身体を支えながら、上半身を起こした。
ようやく入場のための支払いをする順番が来た。押されるようにして前に進むと、あたしたちの前に男がふたり立ちはだかった。おそらくクラブの用心棒の様子。 ひとりは荒くれバイカーのような人で、黒い髭を長く伸ばしていて、ZZトップ( 参考)の人を思い出させた。大きな人で、たぶん185センチくらい。胸とお腹のあたりが出ていた。その乱暴そうな顔つきから、この人が持ってる、この店の平安を保つ能力が分かる。彼はあたしのことをじろじろ見ていた。頭からつま先まで。特にあたしの胸とミニスカートのところに視線を長く向けてる。しっかり目の保養をした後、彼はフランクからお金を受け取った。 「よう、フランク。お前の連れは誰だい?」 と彼はあたしを指差した。 フランクはニヤリと笑いながらあたしを振り返った。 「ただの淫乱さ。ちょっと今夜、一緒に楽しもうと思ってね」 フランクの口からこんな言葉が出てくるのを聞きながら、顔が真っ赤になるのを感じた。もう、この変態からこんなこと言われるなんて! 「いいぞ、そろそろ、お前がここにイイ女を連れてくるころだと思ってたぜ」 と用心棒は笑った。 それを聞いてフランクの変態仲間たちが笑っている間、フランクはもう一人の用心棒を指差した。 「あんた、まだ、あの知恵遅れと一緒にやってるようだね」 その用心棒をみて、あたしはハッと息を飲んだ。この人に比べたら最初の用心棒でも、ちっちゃいと言えるかも。少なくとも2メートルはある。身体のどこをとっても巨大だった。肩も胸板も、腕までも。シンプルなTシャツに包まれた筋肉は、ちょっと身体を動かすたびに鋼鉄のようにピクピク動いている。 この人は、もう一人の用心棒とは違って、肥満ではなかった。お腹は平らだし、服の上からも固い腹筋の山が連なっているのが見えるよう。でも、一番、注意を惹く特徴は、その人の顔だった。ブロンドの髪を短く刈って、横に流していて、髭も綺麗に剃ったハンサムな顔。それに彼の瞳……深い海のような青い瞳。まるで心がここにないような眼。ひとめ見ただけで、この人はまだ子供なのだと思った。……巨人の身体をした子供…。優しい心の巨人。 「ああ、あいつはまだここにいるんだ。どうしてか俺は知らんが。まったくの役立たずだぜ」 男たちは一斉に彼を見て大笑いした。最初、どうしてこの人はみんなにこんなこと言わせてるのか信じられなかった。どう見ても、彼の方が強くて、ここにいる人をみんな従わせることなど簡単なのに。でも、彼の瞳を見ると、この人はそういうことをする人でないと思った。…ハエ一匹、殺さない人。彼は無表情のまま、虚ろな眼をしながら、ただ突っ立っていた。 「多分、店は、こいつのデカイ身体だけで雇ってると思うぜ。こいつのことを知らないバカどもなら、ビビるだろうからな」 と最初の用心棒がまた笑った。 「でも俺はビビらねえぜ。こいつはただの知恵遅れ。みんな知ってるぜ」 こんな卑しいことを言うフランクにあたしは腹を立てた。でも、別にフランクがこんなことを言うのを驚いたわけではない。だって、フランクこそ、大馬鹿だから。 フランクは優しい巨人のところに近寄って平手で彼の顔を乱暴に叩いた。自分は怖がっていないと示してるつもりなのだろう。他の人だったら、そう言うことをされたらフランクのあごに一発お返しすると思うけど、この用心棒はただ立っているだけだった。フランクの方を見もしないで。 その後みんながメインフロアへと進み始めたけど、あたしはちょっと悲しくなってあの大きな用心棒を振り返った。すると彼の方もあたしを見てるのを見た…他の人のようにあたしの身体を見てるのじゃない……あたしの目を見ている! ビックリしてしまった。というのも、突然、ほんの一瞬だったけど、彼の瞳に知性が見えたから。その知性の輝きはすぐに消えてしまったけど、消える前にちょっとだけ彼の口元が歪んで笑みを浮かべていた。親しみのある笑みで、彼の清楚な表情と相まって、あたしはちょっと暖かい気持ちに包まれた。
14 どうしてこれをやったんだろう。鏡で自分の姿を見るたび後悔する。すごく下品。何て言うか、僕自身はこんなのしたいと思っていなかったんだけど、ジェニーがあんまり勧めるものだから。ふたりで外出してた時だった。夏に湖畔の別荘に行って、そこからマイアミに戻ってきた最初の晩のこと。僕はちょっと酔っていたんだけど、ジェニーがタトゥを彫ってみたらって言ったんだ。僕は、最初は拒んだよ。そんなことするほど酔ってはいないって。ひとつで充分だよって…… いや、正確にいえば、この腕のタトゥはふたつ。ふたつが重なったもの。ちょっと前に…僕が体重を大きく減らした頃だったかに…すでに彫っていた棘のついたツタのデザインのタトゥを見て、ちょっと思っていたのと違うなと感じたんだ。そこでタトゥの店に行って、そこに花をいくつか彫ってもらった。今は、このタトゥがよくあるバカっぽいタトゥだったなんて誰にも分からない。すごくユニークになっている。 多分、決心するのに、あと数杯飲むだけで良かったんだろうと思う。それから程なくして、気がついたら別のタトゥの店に来て、うつ伏せになっていた。そして、このトランプ・スタンプ( 参考)を彫られていたわけ。どうして他のにしなかったのかって? 僕も分からない。まるでこれに引き寄せられたような感じ。あのタトゥの店に行く前から、どんなのを彫ってもらうか知っていたような…。 でも、そんなの全然意味が分からない。というか、これを彫って僕が楽しいなら、意味が分かるけど、僕はこんなのを彫らなきゃ良かったって思っているんだから。そうだったら、僕はこれを望んでいたはずがないということになるよね? ジェニーはこれが好きだと言っている。確かにそうだろう……ジェニーは僕のことを「私の可愛い淫乱ちゃん」って呼んでいるから。ああ、確かに。それこそ、男が妻に呼んでほしい名前なんだろう。  15 僕は頭がおかしくなっているんだと思う。もちろん、人はよくそう言うのは知ってるし、そういう時はほとんどいつも誇張して言ってるのは知っている。でも僕は本当に頭がおかしくなっていると本気で思っているんだ。昨日もまた出来事があった。でも、この時だけはジェニーが僕のそばにいなくて、僕には助けがなかった。僕だけ。ずっとひとりで。 僕が衣類を入れた箱を屋根裏に片づけている時だった。何か、頭の中でパチンと弾ける感じがした。そして僕がしてきたことのすべてに鮮明に気がついたんだ。自分がどんな人間になってきたか、そのすべてに。着る服とか、髪型とか、化粧とか…そうお化粧。それに身体も…そのすべてを認識したんだ。僕は叫びたかった。パニックになりたかった。でも…なぜか、僕は叫びもしなかったし、パニックにもならなかった。 まるで頭の中を覆っていた霧が晴れたような感覚だった。ようやくすべてが明瞭になったような。そして、思った…どうしてそう思ったかは分からないけど…つまり、もしパニックになったら、本当にすべてが大波のように戻ってきてしまうだろうと。だから、僕はじっと我慢して強いて平静さを保った。自分はどのような人生を選択したのかを検討するために。 いったん平静さを保とうと決めたら、後は簡単だった。このパニック状態は長く続くものじゃないと分かった。でも、ちょうどその時、あれに気づいたんだ……。 大きくはない。あえて言えば、手の中にかろうじて収まるくらい。でも、確かに存在している。トップを降ろして、躊躇いがちに乳房に触った。僕の乳房に…。男なら自分の胸をこういう言葉で表現はしないんだけど…。大きくはないけど、確かに乳房と呼べるものだった。女性の乳房。そして乳首を見て確信した。すごく…突出している。「突出」、まさにこれがそのとき頭に浮かんだ言葉だった。まさに突出と言うにふさわしい。だって、30センチも突き出ている感じだったから(もちろん、これは誇張だけど)。 すぐに、どうして最近の僕の気分にムラが生じてるのか理解した。どうして肌がどんどん柔らかくなってきているのか分かった。どうして、最後に勃起した時のことを思い出せなくなっているのか分かった。ジェニーが、ほぼ8か月前から僕にビタミン剤だと言って飲ませている薬は女性ホルモンなのだ。 そう悟った、その瞬間、パニックが襲ってきた。そして僕は何も気にしなくなった。まるで夢を見た後、その夢を急速に忘れてしまうような感じで、さっきの考えが消えていく。明日になったら、僕はこのことを何も覚えていないだろう。だから今ここに書き留めている。 頭がおかしくなっているのではないといいんだけど。ジェニーは僕にこんなことをしているなんて、そんなの間違いだといいんだけど。
「ノボル殿、スミマセン[sumimaseng]」 ノボルは書から顔を上げた。「イサム? どうした?」 丸岡イサムはノボルの前にひざまずいていた。 「政府に潜入させている我々の内通者が、アメリカと日本で条約が締結されたことを発見しました。桂太郎総理は、フィリピンに対する日本の権益と朝鮮に対するアメリカの権益を交換することに成功した様子です」 ノボルは筆を置きながら、3世紀前にユ・ソン・リョンが語ったことを思い出した。まさに彼が予想した通りだった。朝鮮政府における政治的腐敗と内部抗争のせいで、あの国は外国政府に侵略されやすい状態になってしまった。そしてノボルの国である日本が、再びあの半島に手を伸ばそうとしている。 「総督、すみません」とノボルは溜息をついた。 イサムは、主人であるノボルがどうして朝鮮の人々の事柄に興味を持つのか決して理解していなかったが、そのことを尋ねるようなまねはしない分別は持ち合わせていた。 「何か必要な情報はありますでしょうか、ノボル殿?」 「イヤ[Iyah]。立ち去ってよい」 「ある種のことは決して変わらないものだ」と彼は独りごとを言った。日本政府が最近、日増しに軍国主義的態度を取るように変わり、ノボルはこの国の運命について心配し始めていた。ガイジン[gaijin]のペリーが来航して以来、日本は西洋の拡張主義的的傾向に駆られている。ノボルは、明治維新により武士階級が駆逐された数年間に従者たちを集め、彼らとともに世間から身を隠す生活をしていた。もはや神聖視されるものは何もない。これからどんな世の中になっていくのだろう。ノボルには分からなかった。 ____________________________ ノボルは、東京帝国大学の著名な科学者数名と会食を終え、信頼のおける部下たちと共に東京の街を歩いていた時、くぐもった悲鳴を聞き、立ち止った。 部下たちはノボルが急に立ち止ったのを見て、彼の気分が急に変わったのを感じた。 「どうした[Doshta]?」 とゲンゾーは小さな声で尋ねた。 「通りの向こうで何かが起きている」 ノボルはその悲鳴に意識を集中し、女性の声であることを知った。そして、その声が韓国語であることを知り驚いた。 「ゲンゾー、ついてきてくれ」 ノボルとゲンゾーは暗い横道に入り、その声の源に近づいた。家の窓から覗くと、中には兵士がふたりいて、ハンボク[hanbok](韓国の伝統衣装)を着た女たちを手荒に扱っているのが見えた。女たちは離してくれと懇願していた。 女のひとりが啜り泣きしながら叫んでいた。「お願いです! 家に帰らせて! オムニ[Uhmuhni](お母さん)!」 兵士たちは、女たちの悲鳴はまったく気にせず、笑いながら続けた。「こいつら何て言ってるか分からん。お前は?」 と兵士のひとりが別の兵士に訊いた。 「いや。だが、どうでもいいだろう?」 兵士たちは全員、下品に笑った。 「慰安婦をつけてくれるようになってから、陸軍での軍隊生活はずっと楽になったのは確かだからな」 とまた別の兵士が嬉しそうに叫んだ。「しかも、この女は新品ときてる!」 ノボルは、ひとりの男が娘の脚を強引に開かせるのを見た。その娘が抵抗しようとすると、男は彼女に平手打ちをした。男は強引に娘に挿入した。娘がおびただしい出血をするのを見て、ノボルは恐怖を感じた。この娘は処女だったのだ。男はことを終えると、ペニスについた血を拭い、ズボンを上げた。 「よし、仕事だ」 犯された娘はベッドの隅へと這い、スカートを降ろした。だが彼女には泣く暇すらなく、さらなる恐怖に両目を剥いたのだった。別の兵士が彼女の隣にいるさらに年若の娘に手をかけるのを見たからである。 「ウニエ[Unnie](お姉さん)!」 とその小さな娘が泣き声をあげた。 「その子を離して!」 と娘は金切り声を上げ、両手をこぶしにして男の背中を叩いた。「まだ14歳なのよ、このけだもの!」 男は手の甲で娘の顔を鋭く殴った。娘は身体を転がすようにして倒れた。「馬鹿な朝鮮女め」 と怒鳴りながら男はズボンを降ろした。そして前を向き、泣きじゃくる少女に「ウルサイ[Urusai!]」と怒鳴った。
12 どうしてか分からないけれど、ソング・パンティを履くと、とても淫らな気持ちになる! ジェニーには言ってないし、これを履いた姿を彼女に見られないように注意している。でも、できるなら、毎日でも、履いていたい。この何週間かで、とてもたくさんこういうパンティを買ってきたので、ビクトリアズ・シークレット( 参考)の女店員さんたちは、もう僕の名前を知っているほど。それにしても、最近、洗濯は全部僕がすることになっていて、良かった。でなければ、ジェニーに絶対に見つかってしまうから。 あ、確か、このことをまだ言っていなかった。先日、僕は会社をクビになってしまった。ケインさんから、僕のポジションを縮小することになってねと言われた。でも…、ああ、これ言うの恥ずかしいなあ…でも、言ってしまおう。だって、他の人がこれを読むことなんてなさそうだから…。ともかく、退職に関する面接をしていた時の出来事。僕は、その面接のときに、仕事を続けられるためなら、どんなことでもしますと言った。そうしたらケインさんが「どんなことでも?」と訊き返した。それで僕は頷いた。すると、ケインさんはいきなりズボンのチャックを降ろしたんだ。まさにその面接の場で。僕は何て言ったらよいか、どうしたらよいかも分からなかった。ただ、黙って座っていた。彼がチャックを元に戻すまで。僕はすぐに退職届にサインして、会社を出たよ。 後から分かったけど、僕は解雇にあたってかなり高額のお金をもらえるようだ。やったー! 何もしないでお金が入った。僕がしたことは、退職届にサインして、会社に対していかなる訴訟行動も起こしませんと宣言しただけ。でも、何のための訴訟? クビになったことに? それだったら訴えたいなあとは思うけど。 話しは変わって、そのクビになった日に、ジェニーにこの可愛い服を買ってもらった。ただのジーンズのショートパンツと青いトップだけど、これが僕には似合うと思っている。  13 ジェニーが仕事で何かしら昇進したらしい。正確なことは教えてくれない(政府関係のトップ・シークレット事項だから)。でも、その昇進のおかげで、コネチカットの湖畔に夏の間の別荘を借りる余裕ができた。それだけで充分。ここはジェニーの実家がある場所。なので、ジェニーはこの土地の別荘関係のマーケットに詳しく、かなり好条件の物件を見つけることができた。それは良い知らせ。悪い知らせはと言うと、ここにいると、日常的にジェニーの父親と顔をあわせてしまうリスクがあるということ。 ジェニーの父親のフランクとは、うまくいったことが全然ない。いや、それは控えめな言い方だな。大きく控えめすぎる言い方。フランクはあのことをケンカだと表現している。僕は、あのことを、僕の結婚式の夜にフランクがバカなことをやったので一発殴ってやったのだと表現している。確かに僕は後悔してるけれど、やらざるを得なかったことだ。出席してくれた女性たちの身体を触りまくったり、大酒を飲んで酔っぱらったりしてたからね。誰かがフランクを抑えこまなければいけなかった。しかも僕の結婚式だ。僕がやったということだ。もちろんジェニーは理解してくれた。ジェニーはいつも僕を理解してくれる。 でも言うまでもなく、あの時が、フランクに会った最後。なんかフランクに悪いことしたかなと思ってる。時々、同じ夢を見ることがある。その夢は、僕が裸になって、フランクの膝の上にうつ伏せになっていて、スパンキングされているところから始まるんだ。 「お前は悪い娘か?」 とフランクが訊いて、僕は答える。「お父さん、私は悪い子です。叩いてください。もっと強く叩いてください」って。これを誰かに読まれるかもと思ったら、こんなこと書いたりしない。でも、こうやって書きだすと、なんかほっとする。精神浄化? どういう意味だか分からないけど。 時々、ジェニーとそういうプレーをしている。彼女がスパンキングする方で、僕はされる方。でも、それと僕が思ってるのとはちょっと違うんだ。いや全然違う。
***** 陽の光がシャーリーンの目をチラチラ照らし、彼女は目覚め、ベッドの中、背伸びをした。これまでの人生でこんなに気持ちよくぐっすり眠ったことは初めてだった。 だが、目を開ける前から、シャーリーンは何か以前とはまったく違った感じを味わっていた。両腕が軽くなったように感じる。動かしても、脂肪の塊が動く感じがしない。それにベッドの凹み具合。以前だと、この凹みに身体がしっかり嵌まっていたのだが、今はものすごく大きく感じる。 目を開けてシャーリーンが最初に気づいたことは、木製の天井板のふし穴や木目がはっきり見えることだった。メガネがいらなくなったのである! それとともに、彼女はあれが夢ではなかったことに気づいた。あの怪物もその後の自分の変化も、現実だったのだ、と! シャーリーンはシーツを腰まで捲って、初めて自分の新しい身体を見た。張りがある大きな乳房。つるつるの染みひとつない白い肌。平らなお腹、細い腕。 シャーリーンはシーツの残りを投げるようにして捲り取った。そして自分の脚の間にあるものを見て、思わず悲鳴を上げそうになった。ペニスがついているのである。大きく、太い肉棒がだらりと太ももに横たわっている。バギナがあるところのちょっと上のところから生えていた。 ちょっと待って! 私のアレは? ああ、良かった。まだある。それにペニスの根元のところには小さなクリトリスも残っていた。 クリトリスに触れた刺激で、彼女の新しいペニスはむくむくと起き上がり始めた。シャーリーンは試しにそれを握り、上下に擦ってみた。気持ちいい…。 引き続き擦り続けていると、みるみるそれは大きくなり、最後には30センチもの怪物になった。あまりに太くて指で握りきることができない。固くなった肉の円柱を覆っている柔らかい皮膚を動かすと、不思議な快感を感じた。先走りで濡れている大きな紫色の頭部を指先でなぞっても、包皮を剥いたり戻したりしても、同じように不思議な快感が湧いてくる。 シャーリーンは片手でペニスをしごきながら、もう片手で最初に乳房を、次に乳首をいじった。乳房は信じられないほど柔らかく、しかも張りがあったし、乳首も以前よりずっと敏感になっていた。 シャーリーンは、乳首をつまみ、引っぱった。それから頭を下に傾け、つまんだ乳首を口に含み、ちゅうちゅう吸ったり、甘噛みした。ああ、びんびん感じる…。 ペニスをゆっくり擦りながら、もう一方の手を乳房からお腹へと這わせた。滑らかな肌をさわさわ触り、やがて、濡れた割れ目へと手を伸ばした。そこは、あの触手のせいで、ちょっと緩くなっていて、ヒリヒリした感じも残っていたけれど、驚くほど濡れていて、指は簡単に中へ入っていった。 シャーリーンはペニスをしごくペースを速めた。それにあわせて、みるみる絶頂に近づいていった。一方の手でペニスを握りながら、もう一方の手の指を2本、バギナに入れてGスポットを擦り、手のひらでクリトリスも撫でる。 それだけで、彼女をエクスタシーの彼方へと送り込むのに充分だった。シャーリーンは強烈にオーガズムに達した。巨大なペニスが次から次へとジェット噴出を繰り返し、彼女のお腹、乳房、さらには顔や髪の毛にまで白濁を振りかけた。 これまで味わったことがある絶頂感とは違った感じだった。ずっと気持ちいい。まるで、一度にふたつのオーガズムを同時に味わったような感じだった。ひとつは普通の女性のオーガズムで、もうひとつは、ペニスと下腹部のどこかを中心にしたオーガズムだった。本当にスゴイ!
ちょっと、ダメよ! 何してるのよ、この変態! 私を好きなようにして、その後で、シカゴ中に私のことをバラすなんて、そんなことさせないわ! もうちょっとでも私の方に身体を寄せてきたら、速攻でお返しをするから。絶対に、確実に、間違いなく…… ジェフは私の胸を揉んでいた。私の急速に固くなってきてる乳首を、親指と人差し指でつまんでいた。そのせいで、すべてに淡いモヤがかかったようになっていた。抵抗力が、風に吹かれた塵のように、雲散霧消していった。私の心は、この究極の裏切りに金切り声を上げていた。誰の裏切り? 私の身体の裏切り。私の身体が私の心を裏切っている時に、この危険なゲームでジェフを打ち負かすチャンスなんて、ない。 彼のもう一方の手は彼の股間あたりをさまよっていた。何かしてる…。何をしてるかは分からない。そうしたら、その手が私の手を掴んだ。そして前に引っぱった。あっ……何?……す、素敵……すごいわ! ゴジラって本当だった。この人、モンスターだわ! 全然、説明できそうもないけど、その瞬間、私の自動操縦機構が作動した。床に膝をつき、彼のチャックを降ろした。そして中から引っ張り出した。大きかったので、出すのがちょっと難しかったけど。実際、彼に半歩うしろにさがってもらわなければ、ちゃんとそれと向き合えなかった。 右手で柔らかにジェフのアレを握り、これ以上ないほど優しく先から根元まで擦った。握りながら、私情を抜きにその大きさに感動していた。私の小さな手では、全長の4分の1ほどしか握れていない! いったい私の心に何が起きて、私がそのむっくり膨らんだ紫がかった亀頭を口に含んだのか…。そんなことを問わないでほしい。その時点では、私の思考回路は、アルファベット・スープ( 参考)の中を泳いでいたから。そうでなければ、あのヌルヌルした蛇を喉の奥まで飲み込めたはずがない。 それでも、彼にフェラをしながら、一つだけ明瞭な考えがゆっくりと前面に浮かんできた。 つまり、なんだかんだ言っても、公正で慈悲深い神様が存在するということ! 笑みを浮かべて、うっとりと目を閉じ、この大きなごちそうを楽しむだけ。それだけでいいの。ウインナ・ソーセージとウイーン少年合唱団、それがひとつに! ええ、その通り。その時、次の明瞭な考えが浮かんだ。今の私は、犯罪行為の固い証拠を残さずに、何万人ものシカゴ人にとってのヒーローを傷つけることができるということ(口に残る証拠は別としてだけど)。メディアが私のことを嗅ぎつけたりしないとしたら、その時は……。そんなある種の苦悶の気持ちはあったけれど、その時の私はジェフに特殊な好悪の気持ちはなかった。ただ私の唇と舌だけは彼のことを大好きになっていたみたいだけど。 神様は私を憎んでるんだ。本当に、本当に。 私の口唇奉仕のスピードが増すにあわせて、私の思考も速く回転するようになっていた。ジェフは、これが私への復讐であるとか、復讐の前奏であるとかも、そのようなことをまったくほのめかしすらしていない。私を知ってるのかすら、まったくほのめかしていない。ジェフはそんなに演技が上手かったのか? 彼は、私のことを、いつものファンの女の子にすぎないように扱っている。そもそも、彼が私のことを知らないなどということが、あり得るのだろうか? それはともかく、巨大なフーバーダムが水門を開き、荒れ狂う奔流が私の喉奥へと流れ込んだ。自分でも気づかなかったけれど、いつの間にか私は空いてる手で自分のクリトリスをいじっていたようだった。上下の唇で彼の分身をしっかり咥えたまま、私はもう一方の手も股間にもっていき、淫らな声を上げながら私も射精を迎え、身体を震わせた。やっぱり神様は慈悲に溢れてる…。 その夜、ひょっとしてロブかアンジーか、あるいはふたりそろって私を遊ぶ気持ちでいるかもしれないと予想して、私はダイアナの大昔の忠告に従って、クリトリスをラテックスの小袋に包んで、子羊の革製のソング・パンティの中、しっかりと後ろにしまっていた。そこが濡れてるのを感じる。でも、この小さな問題は後で時間ができたときに何とかできるだろう。
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